指示厨 1
地面の裂け目から紅色に輝く溶岩が噴き出している。赤黒い雲に覆われた暗い空に、小さな黄金の輝きが浮かんでいる。
裂け目の溶岩が波打ったかと思うと、天に届くほどの大きさの龍が姿を現す。古の高度文明世界を滅ぼした厄災の龍だ。空を覆い尽くして有り余る巨大な翼を広げ、口からは紅の溶岩を撒き散らしている。
空に浮かぶ黄金の輝きは、龍目掛けて飛んでいく。怒り狂い、咆哮する龍。
「おりゃー!」
突然、小さな黄金の輝きから、空を焼き尽くす程の、莫大な量の光が放たれる。黄金の煌めきの濁流だ、その濁流は龍の巨体を焼き付くし、たったの一撃でポリゴンの破片へと変えてしまった。龍の断末魔が響き渡る。
クエストクリア、の表示が空中に現れ、空が晴れ渡り、荒れ果てていた大地が若い緑に覆われていく。
その真新しい緑の大地に華麗に着地した少女は、輝く剣を鞘に収めた。
「あーあ、ついにラスボスも通常攻撃ワンパンかー、いい加減このゲームもやることなくなっちゃったなー」
少女はフレンド欄を起動する。100人近いフレンドの中で、オンラインなのは彼女を含めてわずか3人だ。
少女はぎこちなく微笑んで、フレンド欄を閉じた。
「はぁ、私もそろそろ引退かな。噂の神ゲーでもまったり遊ぶかー!」
そう言って、少女は慣れ親しんだゲームをログアウトした。後には、緑の大地だけが残されていた。
◆◇◆
ハート・オブ・スターの一件から数日がたったある日。キララは『まねきねこ』を訪れていた。ナナホシの気だるげな挨拶がキララを出迎える。
「らっしゃっせー」
「ナナホシさん、弾が安い銃を探してるんだけど。何かいいのはない? 雑魚モンスター用だから威力とかは最低限でいい」
「弾が安い……っスか。何種類か心当たりはあるっスけど、キララさんが雑魚モブ狩りだなんて、どうしたんスか?」
ナナホシは首を傾げた。無理もない、『私、PK以外に興味無いから(キメ顔)』……というスタンスを貫いてきたキララが雑魚モンスターを狩りたいだなんて言い出したら、不思議がられるのは当然である。
「最近、自分のステータス不足を感じる。だから不本意ながらステータスを上げるためにスキル集めをしようと思ってる」
リベリオン号の中に帝国軍のプレイヤー達がなだれ込んできたあの時、キララは自身のステータス不足を感じていたのだ。それだけではない、粘着PK『UNKNOWN』を狙撃した時だって、キララのステータスが高ければ2発も弾を撃つ必要はなかったかもしれないのだ。
もちろん、多少ステータスを上げたところで、帝国軍のプレイヤーのような超上級プレイヤー達をラストトリガーのヘッドショット1発で倒せるようにはならないだろう。だが、キララがステータスを上げれば上げるほど、ヘッドショット1発で倒せる敵の数が増えることは言うまでもない。
所謂『職業』がないSOOでは、特定の条件さえ達成すればどんなスキルも習得することが出来る。例えば、モンスターを合計100体討伐すれば『STR上昇:極小』のスキルが手に入り、『鬼教官の剣術指導:1』という訓練クエストをクリアすれば『ラッシュエッジ』のスキルが手に入る、と言った具合だ。
既に3年の歴史があるSOOでは、こうしたスキルを効率よく集めるための様々なフローチャートが考案されており、初心者はそれに沿って基本的なスキルを集める『スキル集め』を行うのが常識だ。
だが、スキル集めのためのモブ狩りに、1発4万クレジットもするヤトノカミ専用弾であったり、10発4000クレジットもするラストトリガー用の.50AE弾を購入していたら、あっという間にクレジットが無くなってしまう。スキル集めを効率よく行うためには弾丸の安い銃があった方がいいのは言うまでもない。
「なるほど、それはいい事っスね。そういう事でしたら─────」
そう言ってナナホシは店の奥から、一丁の銃を取り出してきた。
ナナホシは銃をキララに手渡す。
「ウィンチェスターM1873カービン……使用弾薬は.44-40センターファイアっス、10発で50クレジットの激安弾薬っスね」
「『西部を征服した銃』か、いいね」
M1873は、西部劇などに登場する大昔のライフルだ。木製のストック、金属製の機構部、長く美しい銃身のトリガー付近にはトリガーガードと一体になったレバーが付いており、このレバーを操作することで給弾と排莢を行う。このような機構を『レバーアクション』と言う。
レバーアクションの利点として、ボルトアクションの銃などに比べて連射がしやすいことなどが挙げられるが、所謂セミオートの銃と比べるとやはり連射は遅く、しかもレバーアクションの機構が複雑な為に強度に劣り、強力な弾薬を使えないといった弱点がある。そのため、このM1873もライフルでありながら使用する弾薬は低威力の拳銃弾だ。
しかし、レバーアクションはその魅力的なデザインから一定の根強い人気がある。
「攻撃力は8400、会心ダメージ倍率は220%、初心者向けエリアで雑魚狩りするには十分な性能っスね。ただ、銃身が長いので、迷路系の狭いダンジョンだと取り回しが悪いかもっス。ソードオフモデルも用意があるっスけど、どうしますか?」
「いや、ソードオフよりむしろ、相方の銃の方はある?」
「フロンティアシックスシューターっスね、もちろんあるっスよ」
ストックが底をついたので更新頻度が落ちます




