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トップクラン 37

 クラン『失われし帝国』の拠点、ロストスター。鋼の摩天楼の中にそびえ立つ要塞の中、黒と赤を基調とした豪奢な部屋で、幹部達が話し合いをしていた。


 立派なテーブルを囲うのは、第1から第4までの師団長。そして、クランのリーダーである帝王にして帝国軍元帥のレグルスであった。


 黒く長いざんばら髪に無精髭を生やした長身の男で、右眼には黒い眼帯を嵌めている。左眼の黒い眼差しは鋭く、全てを見透かしているようであった。師団長達が着ているものと同じ黒い軍服に身を包んでおり、その胸には幾つもの勲章が飾られている。


 レグルスの後ろでは、第0師団団長のスピカが立って控えている。


 師団長達は、揉めに揉めていた。


「おいハートハート、お前、噂じゃ低レベルの雑魚にやられて経験値ロストでレベルが下がったそうじゃねぇか」


 第1師団団長のモルドレッドはハートハートを責めた。ハートハートは半泣きで反論する。


「うるさいわね! あんた達第1師団が突然撤退したからでしょ! レグルス様! はーたんは悪くありません!」


「うるせぇ! そんなこと言い出したら、真っ先に撤退した第2師団は何してたんだよ!」


 第2師団団長のロキは、忌々しげにため息をついた。


破壊雷槌(トール・ハンマー)を食らったんだ、船を引かせるしかないだろう。それもこれも、お前達が敷いていた包囲網がザルだったせいだがな」


「皆、言い訳ばっかりで無様ね。私達第4師団はリベリオンのブリッジまで攻め上がったけど」


 第4師団団長クリームヒルトは、目を閉じてそんなことを言った。


「黙れヒステリーメンヘラ女! お前も初心者に殺されて経験値ロストを食らったそうだな! クソダセェ!」


「レーダーをやられたくらいで引き下がった腰抜けに言われたくないわ」


「なんだとぉ!? レーダーは艦の目だ! 修理のために一時後退するのは冷静な判断だろうがよ!」


「レグルス様! ハートハート達第3師団が一番槍でリベリオンを足止めしました! 第2は高速戦艦持ってるくせに後ろでモタモタしてたけどね!」


「第2は跳躍の痕跡を解析して、怪盗アルセーニャを発見するという戦果を上げた。ハート・オブ・スターはアルセーニャに逃がされていたんだよ。お前達馬鹿共はもぬけの殻のリベリオンを追いかけ回して、あげく撃退された訳だ」


「で、アルセーニャを追っかけたグングニル隊は輸送船ごときにあっさり撃退されたんだろ? 何にもしてねぇのと一緒じゃねぇかよ、俺たち第1はリベリオンのシールドを破壊してステラのババアにシンクロトロンを吐かせたけどな」


「そして、ステラのシンクロトロンの効果が切れた時には撤退していたと。くだらないわね。あんた達が援護をしていれば第4はリベリオンを攻め落とせたのに」



「もういいやめろ」



 レグルスは師団長達の諍いを止めた。


「ハートハート、お前をキルしたプレイヤーの名前は?」


「……キララって奴です!」


「クリームヒルト、お前をワイヤーで絞め殺したプレイヤーは?」


「……キララという女です」


 それを聞いてモルドレッドがゲラゲラと笑い出す。


「ワイヤーで絞め殺されただぁ!? 情けねぇ!」


「攻撃されるまで全く気配がしなかった、アレは手練よ。紙装甲のあんたならデコピンで殺されるかもね」


「なんだとぉ!?」


 レグルスが二人を睨む。


「……モルドレッド、お前の戦艦の破壊されたレーダーには全て同じ弾痕が着いていたそうだな」


 モルドレッドは目を逸らした。


「っ……ああ。対戦艦狙撃銃、ヤトノカミの弾痕だ」


 師団長達がざわめく。レグルスは目を閉じる。


「ハートハート。お前のジャバウォックのレーダーにも同様の弾痕が着いていたそうだ。お前も恐らく、ヤトノカミで撃ち殺されている。……スピカ」


「はい、レグルス様」


 スピカがホログラムウィンドウを操作すると、巨大なホログラムのモニターかレグルスの背後に現れる。モニターには、先日の戦いでの、各戦艦同士の位置関を表すマップが表示されていた。


「リベリオンの右舷後方側に居た1番艦は左舷側を、左舷後方側にいた3番艦は右弦側を。つまり、ヤトノカミで1番艦と3番艦のレーダーを破壊し、挙句ハートハートを殺したプレイヤーが居たのはここ。リベリオンの甲板上だ」


 ロキが首を横に振る。


「ありえない。1番艦も3番艦もリベリオンから4km近く離れている。光線銃扱いの艦砲ですら、ロックオンによるアシストが無ければ標的に命中しない距離だ。実弾銃のヤトノカミで4km先の標的を狙撃できる訳が無い」


 スピカはそれに答えるようにホログラムウィンドウを操作した。モニターに1枚のスクリーンショットが表示される。


 そのスクリーンショットは、リベリオンの甲板上で杖を構えるステラを写したものだった。しかし、よく見ると、ステラの足元に何かが寝そべっている。


 師団長達は目を見開いた。


「にわかには信じられない話だが、このキララというプレイヤーは、4km先のレーダーを狙撃して戦艦2隻を無力化した挙句、ハートハートを撃ち殺し、さらに、リベリオンのブリッジでクリームヒルトを背後から絞め殺した。しかも─────」


 今度はモニターに、初心者狩りプレイヤーから購入したドロアンプルの量の推移を表すグラフが出現する。ここ数週間で、ドロアンプルの収量は激減していた。


「ここ数週間、ドロアンプルの集まりがかなり悪くなっている。その背景にいるのも、『キララ』というプレイヤーだ。初心者狩りを殺して、ドロアンプルを横取りして回っているらしい」


「なっ!?」


 師団長達の間にどよめきが走る。


「……このキララも対戦艦狙撃銃ヤトノカミを使っていることから、同一人物だと推測される。そして、この謎のプレイヤーの正体だと考えられるのが─────」


 モニターには、第6回HELLZONE世界大会で、表彰台に立つキララの姿が映し出される。


「硬派VRFPS『HELLZONE』の絶対王者、『悪魔』のkillerlaだ」


 師団長達は唖然として、口をぽかんと開けた。その意味を理解したロキが青ざめる。


「なるほど……我々と"同類"ということか……」


 レグルスは眉をひそめた。


「わかるか? 帝国は今、このキララとかいうたった一人の化け物によって窮地に立たされようとしている……!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 同類かな…同類かも…
[一言] 続きまだー(ノシ 'ω')ノシ バンバン
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