トップクラン 36
一方その頃、ナナホシの何でも屋、まねきねこには大勢のプレイヤーが集まっていた。反乱軍を代表して、ジークとライデンが改めて礼を言いに来たのだ。
「改めて、今回は君たちのお陰で本当に助かった。反乱軍を代表して感謝を。……しかし、キララ君は居ないようだね」
カガミはホログラムウィンドウを開いてフレンド欄を確認する。
「オンラインにはなっているが……またどこかで初心者狩り殺しでもしてるのかも知れないな」
「そうか、では彼女にはまた改めて」
そんなことを言うジークに対して、クロウはブンブンと嘴を横に振る。
「キララにそんなことはしなくていい、どうせアイツは、やりたいことをやってるだけだからな」
「クロウ殿! それはキララ殿にあんまりではないか!」
「そうっスよ、それに、今回はキララさんの功績があまりにも大きいんスから」
多方面からのサポートがあったとはいえ、戦艦2隻を撃退し、SOO最強プレイヤー候補の1人であるクリームヒルトを倒したのだ。途方もない戦果を挙げていると言えるだろう。
「うるせぇ! キララ相手に下手に出れば、利用されるぞ! あの女はなぁ─────」
「私がなぁに?」
「うおわあああっ!?」
気づいた時には、キララが店の入り口に立っていた。アイリの店での用事を終えたキララは、ヤトノカミの弾丸を補充するためにまねきねこを訪れていたのだ。もっとも、先日ナナホシは『弾の在庫を全て持ってきた』と言っていたのでダメ元ではあったが。
カガミはクロウを横目に見てやれやれと首を振る。
「クロウ君。私がどうかしたの?」
「っ! ふん! 黙れこの悪魔め! お前のことだ、どうせまた何か企んでいるんだろう!」
そんなことを言って腕を組むクロウ。キララは目を細めて、おもむろに口を開いた。
「……銀華さん、クロウ君の仮面の嘴には、厄除けの為に花とか薬草とかが詰めてあるから凄くいい香りがするんだよ」
「そうなのか? クロウ殿」
銀華はそう言ってクロウの嘴の香りを嗅ごうと近づく。クロウは慌ててじたばたと後ずさる。
「なっ!? なんだそれはっ! そんなの知らんぞ俺は! おい! やめろ! 近づくな!」
「なぜ逃げるのだクロウ殿! 気になるではないか!」
「や、やめろーっ! キララ貴様! 貴様アアアアアアア!」
大騒ぎしているクロウと銀華をよそに、ジークはキララの方へ向き直った。
「ちょうど良かった、キララ君。今日は改めてお礼を言いに来ていたんだ。先日は本当に助かった、ありがとう」
「くすくす、いいんだよ、私も安全圏からフリーショットできて楽しかったし」
「我々反乱軍はいつでも君たちを歓迎する。艦に遊びに来るのはもちろん、もし反乱軍に入りたくなったら遠慮なく声をかけて欲しい」
「それは光栄だね」
キララはそう言った後、ジークの後ろで腕を組んで立っているライデンを見つめた。
「話しかけなくていいの? 彼、本物だよ?」
「……い、いい」
クロウは何だかんだで有名プロゲーマーであり、ファンも多い。クロウのファンであるライデンは、実物のクロウを目の前にしてガチガチに緊張していた。
そんなライデンを見て、カガミがゲラゲラと腹を抱えて笑い出す。
「ぶっ……ぎゃはははははは! 妙に動きが硬いと思ったらそういうことか! はー! 戦神ライデンもこれじゃ形無しだな!」
「ぷーくすくす、借りてきた猫みたい」
「っ! テメェら……覚えてろよ……」
怒りでぷるぷると震えるライデンを見て、カガミはやれやれと肩を竦め、わざとらしく声を張り上げた。
「そういやライデン、どのくらいレベルが下がったんだ? 確か破壊雷槌を使ったんだろう? なぁ、銀華さん」
クロウを壁際に追い詰めていた銀華が声に振り向く。
「とーるはんまー……あぁ! 聞いたぞ! あれは代償の大きな技らしいな、ライデン殿、あの後大丈夫だったのか?」
「……別に問題ねぇ。武器は作り直せるし、レベルだってレイドボスを周回してればスグだ。船を直すために、どうせ散々周回しなきゃ行けないからな」
「ん、なんだなんだ、何の話だ?」
話に食いついてきたクロウに、カガミは一部始終を説明した。ライデンがリベリオンを守るために、犠牲を覚悟で、大きな代償を伴う大技を使った辺りを特に重点的に。
クロウは強く感銘を受けたようだった。
「おお! 仮面なんざ被りやがって不気味な奴だ、と思っていたが見直したぞ! 仲間を護るその覚悟! お前! 漢だな!」
「……ウ、ウス。あざっす……」
顔を赤らめて仮面を弄るライデンを見て、キララとカガミは顔を見合せ、そして、『フッ』と笑いあった。そんな二人を見て、ナナホシは呆れ笑いとともにため息をついた。