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粘着PK 1

Yamomoto5464:初めまして。株式会社ゴジロクジ ネットストリーミング プロダクションのヤマモトと申します。本日はご相談して頂きたいことがあって、メッセージを送らせて頂きました。お忙しい中とは存じますが、どうか、お話だけでも聞いて頂けませんでしょうか。


Noir:初めまして。ヤマモト様。鉄靴の魔女 会長のノワールと申します。おおよその事情は存じ上げているつもりです。御プロダクション所属の配信者、星ノあかり様が粘着PKの被害を受けている件についてですね?


Yamamoto5464:はい。おっしゃる通り、先月からとあるプレイヤーが、星ノあかりに対する粘着PKを行っており、配信活動に支障をきたしております。SOOの運営に問い合わせもしたのですが、対応は難しいと言われてしまいました。鉄靴の魔女では、一流のプレイヤーの方々を傭兵として派遣する活動を行っていると伺いました。我々は、粘着PKから星ノあかりを守る、言わばボディーガードが出来る方を探しております。どうか、凄腕の方をご紹介頂けませんでしょうか。


Noir:お任せ下さい。1人、心当たりがございます



◆◇◆


 キララは、何でも屋『まねきねこ』を訪れていた。


「ヤトノカミの弾丸って、アレしかないの?」


「ヤトノカミは口径が特殊なので、基本的にあの専用弾しか使えないんスよ。ヤトノカミ本体とその弾丸はとある敵ボスからのドロップアイテムなんスけど、最近じゃもうその敵ボスを周回する人もすっかり居なくなってしまって、市場に出回っているヤトノカミの弾丸は減る一方って感じっス。1発4万クレジットもするのはそのせいっスね」


「高いのは別にいい、けど、あの弾の仕様が気に入らない」


 ヤトノカミ専用弾は曳光弾であり、青黒い禍々しいエフェクトを放ちながら飛翔する。見た目には確かにかっこいいが、あまりにも目立ち過ぎるのでキララはそれが気に入らなかった。


「弾のカスタマイズっスか、なるほど。一度、専門店に相談してみてもいいかもしんないっスね。信頼できる店を紹介できるっスよ」


「いいね、流石は店長」


「─────それなら、俺もいい店を知っている」


 キララが声に振り向くと、そこには店に入ってくるカガミが居た。ナナホシはいつもの気の抜けた挨拶でカガミを出迎える。


「らっしゃっせー」


「『鉄靴の魔女』という、高級武器専門店がある。武器の品質、店員の知識、その他のサービス、何を取ってもまさに一流だ。きっとあんたも気に入るだろう」


 カガミが口にした鉄靴の魔女、という言葉にナナホシが反応する。


「確かに鉄靴の魔女は、SOOの武器専門店の中で間違いなく3本の指に入る名店……でも、あのお店は会員制っスよ?」


「それなら問題ない」


 カガミはそう言って、カウンターの上に一通の黒い手紙を置いた。ナナホシは思わず目を見開く。


「招待状が届いてる」


◆◇◆


 自由都市フリードが位置する惑星から3光年程の場所に位置する水の惑星。広大な海洋の中にポツリと浮ぶ小島に、SF調のSOOには似つかわしくない黒い洋館が建っていた。洋館の壁にかけられた旗に施されたブーツの意匠。高級武器専門店『鉄靴の魔女』のシンボルマークだ。


 空の上から飛来した小型の宇宙船が、徐々に減速し水しぶきを上げて着水する。宇宙船がそのまま小島の小さな港に泊まると、船の搭乗ハッチが開き、キララが降りてきた。


「くすくす、楽しかったよおじさん。ありがとね」


 キララは"運び屋"の男に手を振ると、桟橋を歩いて行った。


「ふん……妙な女だ……」


 運び屋の男は船の搭乗ハッチを閉じると、再び船を飛ばして空の向こうへ消えていった。


◆◇◆


 桟橋を渡り、洋館へと続く石畳をキララは歩く。


「全部造花だ……」


 洋館を囲う見事な薔薇の庭園には、造花の薔薇しか咲いていなかった。まるで本物の薔薇のようだが、全く香りがしないのだ。


「皮肉が効いてる。自虐的」


「自虐的……ですか」


 キララが振り向くと、そこには一人の美しい少女が立っていた。真っ黒の髪と瞳。真っ黒のドレス。整った顔立ちと小柄な体格が相まって、正に人形のようだ。しかしその華奢な脚は、可愛らしい人形のイメージとは程遠い、無骨で刺々しい鋼の鎧に覆われている。


「うん。"本物"の薔薇だって、所詮はゲームのデータにすぎない。つまり造花だ。それをわざわざ言い聞かせるように敢えて造花で庭を作るなんて、ゲームのプレイヤーがやることにしては自虐的すぎる。『自分たちがやってることは、所詮は遊びなんだ』って皮肉を感じる。でも─────」


「でも?」


「この庭は綺麗だ。君は、SOOが好きなんだね」


「はい。ご慧眼恐れ入ります。ようこそ鉄靴の魔女へ。私は会長のノワールと申します。以後、お見知り置きを」


 そう言って、ノワールはドレスの裾を持ち上げて優雅にお辞儀をした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 文体から某13の味を感じる…好みです
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