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トップクラン 35

 その翌日。キララは、苦労人を労うため、あるいは真実を追求するために……アイリのバイク屋、ラバーキャットを訪れていた。


「いらっしゃーい! カガミ達から聞いたよー、昨日は大活躍だったらしいじゃん?」


「くすくす、アイリさん程じゃないよ」


 そう言って、キララはバーカウンターの椅子に腰掛けた。キララとアイリ以外誰も居ない店の中で、2人はカウンター越しに見つめ合う。


 2人は1分ほどそうしていたが、アイリはどっと溜息をつき、両手を挙げた。


「降参! はぁ〜、たまたま大通りで2人を見かけたからさ、ちょっとからかうだけのつもりだったんだけどなぁ〜。まさか直後に店に来るとは思わないじゃん」


 先日、大通りで連れ立って歩くキララと銀華を見つけたアルセーニャことアイリは、2人をからかってやろうと目の前で盗みを働いたのだ。


「くすくす、確かに、決め手になったのはアレだったね。もっとも、アイリさんが降参するまで確信は無かったんだけど」


 キララはアイリが99%アルセーニャだと考えていたが、100%アルセーニャだと確信するには些か証拠不足だったのだ。


「決め手……ってことは何? やっぱり、この前私がキャラクターリメイクカードを落とした時から怪しいと思ってたの?」


「ううん、その時はアルセーニャのこと知らなかったから。変な人だなって思っただけ。でも今にして考えればアレは、アルセーニャからアイリに戻った後に、偽銀華(エリカ)に襲われたんだよね?」


 アイリは目を見開いてニマニマとキララに詰め寄る。


「ホントに? アルセーニャになろうとした瞬間を襲われたんじゃなくて?」


「普通に考えればそうなるけど……あんな目立つところで変身する訳ないでしょ?」


 アイリが偽銀華に襲われてキャラクターリメイクカードを落としたのは、白砂の砂漠のド真ん中だ。そんな場所でキャラクターリメイクカードを使うのは、『私アイリはアルセーニャです!』と言いふらすことと同じだ。


「君は、アルセーニャからアイリに戻る時、キャラクターリメイクカードを必ず2枚購入する。1枚はその場で使ってアイリに戻るため、そしてもう1枚は、今回みたいな緊急出動に備えるため。本当に急いでる時は、課金画面を開く時間すら惜しいだろうからね。今回もそうだったんじゃない?」


 キララはニマニマ顔のアイリと見つめあっていたが、アイリはまた大きなため息をついて、アイテムボックスからキャラクターリメイクカードを取り出した。


「はぁ……その通り。"早着替え"しなきゃいけない時は1分1秒が惜しい時だから、そういう時のためにキャラクターリメイクカードは必ず事前に購入するようにしてるの。10枚とかまとめて買ってた時期もあったんだけど、それはアイテムボックスが圧迫されるからやめちゃった。まぁ、今回もおかげで"早着替え"出来たけどね」


「……昨日、私と銀華さんが店を出て、アイリさんが私達の尾行を始めるまで1分もなかった。早着替えって、具体的に何秒くらいで終わるの?」


「最速タイムは18秒です! ま、気づいてるだろうけど、弄ってるのは顔と声だけだからそんなに時間かからないんだよね。どこをどう弄るかはもう身体が覚えてるし」


 そう言ってアイリはドヤ顔をして見せた。


 アイリとアルセーニャは顔と声以外、つまり、身長体重スリーサイズから爪の形まで全く同じだ。ちなみに、アイリの声はアイリ本人の声、アルセーニャの声は、大手声優事務所が販売しているプラグインを利用して、人気声優の声を借りている。


「早いね。……聞いていい? キャラクターリメイクカードだけで今までどれくらい課金したの?」


「3桁万超えてからもう数えるのやめた」


 そう言ってアイリは遠くを見つめた。キャラクターリメイクカードは1枚3000円だ。変身の度に2枚ずつ購入していれば、当然、恐ろしい額の課金が必要になる。


「うわー、グロい」


「お金は掛かるけど、正体隠して泥棒するの超楽しいんだよ?」


「確かに楽しそうだね、こういう泥棒ガジェット作るのも楽しそうだし」


 キララはそう言って、ラバーキャットのポイントカードをカウンターに置いた。アイリはダラダラと冷や汗を流して目を背ける。


「ポイントカードが、どうかしたの?」


「しらばっくれないでよ、銀華さんをリベリオンに連れ帰ってくれたの、アイリさんでしょ?」


「げ」


 そう言ってアイリはまたまたため息をついた。


 2番艦スレイプニルの残骸から銀華を助けてリベリオンまで送り届けてくれたのは、他でもない、アルセーニャなのだ。


「もー! 銀華ちゃん、約束破ったなー! ナイショって言ったのにー!」


「銀華さんは何も喋ってないよ。単に、それができるのがアイリさんしかいなかったってだけの話」


「ええ!?」


 キララはポイントカードを指先でつついた。


「GPS……って表現は不適切だね、宇宙規模だから。このやたらと分厚いポイントカード、所有者の位置をアイリさんに送信し続ける機能があるんでしょ?」


 アイリはしくしくと涙を流した。


「はい、そうです、ごめんなさい。……でもなんで分かったの!? カガミにもバレてないのに!」


 キララは首を横に振った。


「アイリさんが、店を出た私達の追跡を始めるまで1分しか無かったけど、逆に言えば1分もあったんだよ? どうやって1分の遅れを埋めたの? 超能力? 私達は店を出た直後に、宇宙船発着場の最寄りのワープポイントにワープしたんだよ? 何らかの手段で位置を特定しなきゃ追跡なんて出来ないでしょ?」


「うう、確かに……」


「あぁでも、私達が出ていった後で、カガミのお兄さんから『フリードの宇宙船発着場に来るように』って連絡を受けていれば道中で私達に会うか……まぁでも、仮にそうだったとしてもあのカードにビーコンとしての能力がないと、銀華さんを救出できないからね」


 アイリはやれやれといった様子で頭の後ろで腕を組んだ。


「うへー、全部お見通しって訳ですか」


「全部じゃないよ。ハート・オブ・スターを盗むに至った経緯はわからなかった、カガミのお兄さんの反応を見るに、指示されて盗んだわけじゃないんでしょう?」


「そうだね、カガミには『銀華ちゃんがハート・オブ・スターを持ってるから追跡・護衛してくれ』って頼まれてたの。最初はそのつもりだったんだけど、追跡してる最中に、帝国に潜入してる味方のスパイから『帝国の大艦隊が来る』って報告を受けてね。後はキララさんも知っての通り」


 キララは顎に手を当てた。


「『盗む』んじゃなくて、もっと穏便に済ませる訳にはいかなかったの?」


 キララのその問いに対して、アイリは少し考えてからこう答えた。


「反乱軍の中には帝国のスパイがいるからね。もたもたしてるとそのスパイから帝国に連絡が行っちゃうから、一旦強引にハート・オブ・スターを避難させることにしたの」


「ふーん……本当にそれだけ?」


 そう言ってキララは頬杖をつく。アイリは穏やかに微笑んだ。


「それだけ」


 アイリはおもむろにいちごミルクを作って、キララの前に差し出した。


「これは口止め料ってことで。……ねぇ、なんであの時私のこと見逃してくれたの? キララさん目線だと、かなり危ない賭けだったんじゃない?」


 キララはいちごミルクを一口飲んで、窓の外を見つめた。


「……本当に危ない賭けだった。あの時点では、アルセーニャの正体をアイリさんだと断定するには証拠不足だったし、もし仮にそうだったとして、そもそもアイリさんをどこまで信用していいのかって問題もあった。でも……」


 キララはアイリの方へ目線を戻した。


「あんな大真面目な顔で『見逃して』って言われたらね。私、可愛い子には甘いから」


 そう言ってキララはくすくすと笑った。アイリは少し目を見開いて、笑った。


「命乞い、してみるもんだね」

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