トップクラン 33
一方その頃、弾切れで無力になったクロウは、一人の反乱軍のプレイヤーと共に帝国兵達から必死に逃げていた。
「おいゴルァ!」
「待てやタコ!」
「ああくそ! おい! お前弾持ってないか! .357マグナム!」
「はぁ! はぁ! 実弾なんて持ってねぇよ!」
迷路のような廊下を走るクロウ達は、いつの間にか行き止まりに迷い込んでいた。
「げ! 行き止まりじゃねぇか! おいお前! お前乗組員なんだろ! 行き止まりの場所くらい覚えとけよ!」
「無茶言うな! このクソ広いリベリオンのマップなんて覚えられるわけないだろ!? 改修でしょっちゅう道も変わるし!」
「おい居たぞ! あそこだ!」
「殺せ────ッ!」
「散々馬鹿にしやがってこの中二病男が────ッ!」
帝国兵達に追いつめられるクロウ達。クロウは帽子を脱ぎ捨てて拳を構える。
「くそ! こうなったらステゴロだ!」
「やるしかないのか……!」
クロウ達が覚悟を決めた、その時だった。
風を斬る音と共に、斬撃の暴風が放たれ、帝国兵達に無数のダメージエフェクトが刻まれる。
「ぐああああああっ!?」
「ぎゃああああっ!?」
バタバタと倒れる帝国兵達。呆気にとられるクロウ達に歩み寄る、凛々しく美しい袴姿の少女。
クロウは拳を下ろす。
「お前は────!」
◆◇◆
「がっ……あああああああああッ!?」
クリームヒルトの細い首にワイヤーが深く食い込む。麻痺で動けなくなっているクリームヒルトの華奢な腰に、キララは背後から脚を絡めて、両手でワイヤーを締め上げる。
時を同じくして、星を見る者でその様子を確認したステラが、特別客室からクリームヒルトに向けてスキルを放つ。本来ならば、壁と床を何枚も隔てた特別客室からブリッジに向けてスキルを放つことなど不可能だが、それは『相手を視認できないから』という単純な理由からだ。
星を見る者の力で超遠距離透視ができるステラなら、たとえ何光年離れていようと、惑星の反対側に隠れていようと、相手を視認してスキルの使用対象にすることができる。星を見る者はただの覗き見スキルではない、スキルの射程距離を無限遠に引き伸ばすことができるチートスキルなのだ。
「『ゼロ・シグナル』!」
あらゆるバフを強制解除するクールタイム120秒の大技が発動し、クリームヒルトのバフが全て打ち消される。疲労困憊のステラだが、音声起動でスキルを一つ使う程度であれば、当然なんの問題もない。
「銃拾って撃って!」
キララはジークを睨んで叫ぶ。一瞬あっけに取られていたジークだったが、クリームヒルトの足元に落ちていたFA-4LTフォトンスタナーをすぐさま拾って、クリームヒルトに撃ち込む。
「4秒に1発! 無駄撃ちしないで!」
「っ! あぁ!」
カガミに曰く麻痺の効果時間は5秒だが、ミスをしないようにするためには早め早めに麻痺をかけ直す必要がある。
バランスを崩したクリームヒルトが前に倒れる、キララは馬乗りになる形でさらにワイヤーをきつく締め上げる。ワイヤーを握るキララの手にワイヤーが食い込み、赤いダメージエフェクトが飛び散る。
「くっ……ああっ! ルミナがログインしたというのは……! 私の気を逸らすっ……嘘! 円卓の……魔女め……っ!」
ステラの気の利いた噓によりキララの奇襲は完璧に成功した。30万以上あるクリームヒルトのHPがじわじわと減っていく。ジークは弾を絶対に外さないよう、クリームヒルトの頭に銃口を突き付けて、麻痺を上書きしていく。
「ジー……ク……! なん……で! 助……けて!」
「……悪いとは思っているよ。クリームヒルト……」
緊張が走るブリッジには、クリームヒルトのうめき声と、ブリッジの外の激しい砲声だけが響く。ブリッジの全員が固唾を飲んでキララ達の様子を見守った。
「くっ……誰か……! 私の兵は……まさかもう全滅したの……!?」
「そうだ! 観念しやがれこの悪党め!」
クロウと、そして銀華を先頭に、二重扉からぞろぞろと反乱軍のプレイヤー達が現れる。カガミやステラ、猫又を抱いたナナホシも一緒だ。
ジークはクロウ達に目線を向けたが、キララは真顔のまま、クリームヒルトから一切目線を離さない。
クロウ達の足音を聞いたクリームヒルトは、静かに零した。
「そう……帝国は、負けたのね……」
その言葉を聞いて、キララはさらにいっそうワイヤーをきつく絞めあげる。
「ぐっ……ふふふ……油断、しないのね……あなた、名前は?」
「キララ」
「そう……覚えておくわ……絶対に、許さない……!」
その言葉を最後に、クリームヒルトは事切れた。クリームヒルトのデス通知を確認したキララはゆっくりとワイヤーを手放した。