トップクラン 32
────数分前、特別客室にて。
激しい銃声が鳴り響き、廊下の至る所に銃弾の痕が黒く焦げ付き、傷ついている。
「クソ! コイツら一体何人いるんだ! キリがない! ぐあっ!?」
帝国兵の放った光線が命中し、HPを削られたカガミはアンプルでHPを回復する。そんなカガミを盾にして、キララはラストトリガーで帝国兵達を倒していく。
その時、じっと目を閉じて座っていたステラが目を見開いた。
「まずいことになりました。ブリッジでジーク様とクリームヒルトが交戦しています」
ナナホシとカガミが目を見開く。
「クリームヒルトって、あの!?」
「ブリッジで? それはヤバいっスね!」
ステラはスタースキル『星を見る者』の力で、どんなに遠くの場所をも透視することができる。ステラはすでに疲労困憊だったがスキルの力で宙域一帯に目を配っていたのだ。
「クラレントとジャバウォックを監視していた隙に艦内に潜入されたようです……ずっとクリームヒルトを見張っておくべきでした」
キララが対戦艦狙撃銃ヤトノカミで撃退したクラレントとジャバウォックは、レーダーなどの大半が故障しているものの主砲はまだ生きており、レーダーによるロックオンが不要な超接近戦は行うことができる。まだ油断はできないのだ。その為、ステラがそれらに目を光らせていたのだが、クリームヒルトはその間にブリッジまで攻め上がっていた。
「どういうこと!? 何が起こってるの!?」
激しい銃声の中でキララは声を張り上げた。
ナナホシは、ステラが千里眼の能力を持っていること、クリームヒルトという恐ろしいプレイヤーがブリッジに攻め込んでいることを説明した。
「クリームヒルトを倒さないとブリッジが! もっと言えば艦が乗っ取られるっス!」
「クリームヒルトは防御力が恐ろしく高いから、並大抵の攻撃は通用しない、ジーク達には、恐らく奴を倒す手立てがないはずだ! キララのヤトノカミはもう弾切れなんだったか!?」
カガミも光線銃を乱射しながら声を張り上げる。
「ごめん、弾切れ! ナナホシさんも、もう在庫ないんだっけ!?」
「はい、店にあった分は全部持って来たんスけど!」
「強力なグレネード系アイテムを至近距離で爆発させれば倒せるかも知れません。ナナホシ様、陽電子爆弾か電子励起爆弾をお持ちではありませんか?」
「すいません! ポジグレも電グレも人気商品なんで、ウチみたいな零細でもすぐ売り切れてしまうんスよ! プラスチック爆弾の類は一応持ってきてあるんスけど!」
「量にもよるが、プラスチック爆弾じゃ厳しいだろうな! 第一! ポジグレなんて使ったらクリームヒルトどころかブリッジが丸々吹き飛ぶぞ!」
カガミが恐ろしいことを言うので、猫又はステラの膝の上でおろおろと慌てて怯えた。
「さっきみたいに、ステラさんからバフを貰えばラストトリガーでも倒せたりしない!?」
「無制限光子増幅回路無しだとバフの付与のためのフォトンの供給が追い付きません……少し厳しいでしょうね」
ステラが法外な量のバフを付与できるのは、無制限光子増幅回路の力でフォトンというリソースを無制限に使用できるからだ。限られたリソースでは、バフの数もそれなりのものに制限されてしまう。もちろん、それでも並大抵のトッププレイヤーより優れた支援ができるが、最近レベル6になったばかりのキララの貧弱なステータスを、クリームヒルトに通用する程に補強することはできない。
「一つ、考えがある!」
そう言って、カガミは光線銃をリロードした。
「キララ! あんた! 敵の背後にこっそり近づくの、得意だろ!」
「SOOで1番上手いと思うよ!」
「だろうな! じゃあ俺の光線銃を貸すから! こっそり近づいて麻痺させて、ワイヤーで絞め殺せ!」
そう言ってカガミは再び光線銃を乱射する。カガミの提案に、ナナホシとステラは驚きの表情を見せる。キララも懐疑的な表情を隠せなかった。
「そんなことできるの!? SOOのキャラクターって窒息するの!?」
「首を閉めれば問答無用で窒息する! しかも窒息ダメージはHPの割合ダメージだから、防御力や最大HP量は関係なく、必ず1分で死亡する!」
一見するとデタラメな仕様だが、そもそもプレイヤー同士の戦闘で首を絞め合う状況なんてまず発生しない。1分間も相手の首を締め続けられる程の有利な状況なら、拳で相手を殴った方が早いからだ。クリームヒルトのような例外はあるが。
「キララさんアレです! 宇宙空間に居る時に食らうスリップダメージが窒息ダメージなんスよ!」
「じゃあ、クリームヒルトが船外活動アンプルみたいなアイテムを使ってたら効かないんじゃないの!?」
「ご安心ください、キララ様。キララ様が首を絞め始めたタイミングで、私がバフを全解除するスキルを使います。アンプルや、自動回復スキルを使っていたとしてもそれで無効化できます」
「窒息ダメージを根本から無効化する手段はアンプル以外に存在しないから、その点は気にするな! そんなのがあったら、リベリオンのエアロックにヒールミスト噴射機なんて必要ないからな!」
ナナホシが巨大肉球ハンマーを実体化させて立ち上がる。
「キララさん、ここは私とカガミさんに任せてブリッジへ急いでください」
カガミは麻痺属性の拳銃をキララに手渡し、別のサブマシンガンを懐から取り出す。
「大抵の上級プレイヤーは麻痺耐性を上げるスキルをカンストさせている! 弾1発で動きを止められるのは5秒までだ! ジークか誰かに銃を渡して、絶えず弾を撃ってもらえ!」
SOOの状態異常『麻痺』は極めて強力だ。麻痺中は動けないどころかスキルやアイテムも一切使用出来ないため、完全に無防備になってしまう。そのため、麻痺耐性を上げるスキルをカンストさせるのは全プレイヤーの義務と言われている程だ。SOOのリリース初期の頃には猛威を振るっていた麻痺だが、麻痺耐性スキルをカンストさせるのが常識になってからは、並大抵の麻痺属性武器では、プレイヤーの動きをほんの一瞬止めることすらできなくなっている。麻痺は、強すぎるが故に対策がされ過ぎていて、結果として『弱い』扱いを受けている状態異常なのだ。
しかし、カガミの光線銃『FA-4LTフォトンスタナー』は、あのヤトノカミ・マガツと互角の育成がしてあり、SOOに存在する全ての麻痺属性武器の中でも屈指の麻痺属性効果量を持つ。もしこの銃が鉄靴の魔女で売られていたら、60億クレジットはくだらないだろう。だが、そんなチート武器を使っても、動きを5秒止めるのが限界なのだ。
「キララ様、クリームヒルトは、黒い軍服に黒いツインテールの女性プレイヤーで、両腕にガントレットを装備しています。彼女は格闘術の心得がありますので、万が一麻痺が途切れた時には覚悟をなさってください」
「わかった」
そう言って、キララは太もものガンホルダーにFA-4LTフォトンスタナーを装備すると、突然服を脱ぎ始めた。
「なっ!?」
「ええ!?」
「キ、キララ様!?」
カガミは慌てて顔を背ける。ナナホシとステラも思わず赤面してしまう。キララは恥じらう素振りもなく、大胆に服を脱ぎ散らかしていく。みるみるうちに、キララの白い柔肌が露わになる。
「失敗できない、衣擦れの音を消すためには服を脱ぐしかない」
あっという間にインナーと靴下だけになったキララは、大真面目な顔でそんなことを言った。服を着た状態で歩けば、布が擦れて必ず音が鳴ってしまう。その微かな音すらも完璧に消し切るには、こうして服を脱ぐしかない。
そんな様子のキララを見て3人は、キララなら本当にクリームヒルトを倒せるかもしれない、と、期待に胸を膨らませた。