トップクラン 31
リベリオンのブリッジでは、ジークの他、数名の腕利きがクリームヒルトを必死に足止めしていた。レベル90のプレイヤーの平均防御力が4000と言われている中、クリームヒルトの防御力は15万を超える。しかもそこからさらに防御バフなどを付与されるのだから、余程の大技を使わない限り一切ダメージは発生しない。
「ほ、報告! 艦内の敵性プレイヤー反応、減少して行ってます! 信じられないスピードです!」
「謎の拳銃使いが帝国兵を倒して回っているそうです!」
「敵航空戦力! 減少しています! 恐らくノアさんです!」
「なんて殲滅速度だ……もうあの人一人でいいんじゃないかな……」
「4番艦バルムンク、ブリッジが爆発炎上! 電子励起爆薬特有の電磁パルスを検知!」
「いいぞ! 戦況が好転してる!」
ジーク達の戦いの影で、ブリッジに良いニュースが飛び交う。しかし、ヴェロニカの表情は曇っていた。
「艦長! 絶対速度が既定値の95%に到達しました! まもなく跳躍可能になります!」
「速度が既定値に到達し次第ハイパーブリッジを起動する。カティサーク号及びアーク号に連絡しろ」
「はい!」
ヴェロニカは指示を出して、クリームヒルトを睨む。例えハイパーブリッジでこの宙域を脱出出来たとしても、クリームヒルトを倒せなければ意味がない。現状、反乱軍にはクリームヒルトを倒せる手立てがないからだ。今は何とかジーク達が耐えてはいるが、いずれはクリームヒルトに全滅させられてしまうだろう、そうなれば、艦の制御権を奪われてしまう。
(ライデンとなんとか合流して、武器を用意してもう一度破壊雷槌を使って貰うか、ステラの回復まで何とか持ちこたえるか……最悪の場合は、私がアレを使うしか……!)
「おい! いいのか! バルムンクが大変みたいだぞ!」
「今ここで、そんな理由で撤退するわけないでしょ。馬鹿にしないで」
ジークは何とかクリームヒルトを引かせようと手を尽くすが、クリームヒルトは動じなかった。クリームヒルトはSOOで指折りの超一流プレイヤーだ。その程度のことで動じはしない。反乱軍が今『されて一番嫌なこと』はリベリオンにいる全員をクリームヒルトが倒してしまうことなのだ。相手がされて嫌なことを押し付けるのは対人戦の基本中の基本、クリームヒルトは絶対に引き下がらない。
焦った反乱軍のプレイヤーがクリームヒルトの拳をもろに受けてしまい、吹き飛ばされる。激突した窓に大きなヒビが入る。
「ぐあああっ!」
「下がれ! ヒール!」
「させない」
「今だ! 早くっ!」
ジーク達だってトップクラン『反乱軍』に所属する超一流プレイヤーだ、決して弱くはない、しかしクリームヒルトがあまりにも強すぎるのだ。並のプレイヤーでは100人が束になってもジーク達5人には敵わないだろう、だが、そんなジーク達ですらSOO最強候補のクリームヒルトを相手にすると、防戦一方になってしまう。クリームヒルトになんとかかすり傷を負わせても、クールタイム10秒の最も基本的なヒールスキル『ヒール』一つでたちどころに傷が塞がる。
「4番艦バルムンク! 撤退していきます! ブリッジを破壊され、制御能力の大半を喪失したものと思われます!」
「敵機、さらに減少! バリアと主砲に回していたエネルギーをハイパーブリッジシステムに回します!」
「艦内の敵性プレイヤー数! 大幅に減少! もうまもなく殲滅が完了すると思われます!」
ブリッジのプレイヤー達も、クリームヒルトを引かせようと、わざとらしく大声を張り上げる。しかしクリームヒルトは眉一つ動かさなかった。
「無駄よ」
その時、ブリッジにステラからの通信が入る。
「"ブリッジ、こちらステラです。ルミナがログインしました、すぐにこちらへ来るそうです"」
その通信に、ブリッジが大歓声に包まれる。黎明のルミナ。『ターミナルオーダー』のリーダーにして、SOOで目下最強と言われるプレイヤーだ。さすがのクリームヒルトも無視できない。
クリームヒルトの気が、ほんの、ほんの一瞬だけ逸れた、その時だった。
クリームヒルトの後ろ、破壊されたブリッジの二重扉の前にキララが姿を現す。────トリガーを引いたせいで光学迷彩が切れたのだ。靴下と、システム的に脱げないインナー以外の一切の服を身につけていないのは、足音と衣擦れの音を消すためだ。
キララがトリガーを引いたのはヤトノカミでもラストトリガーでもなかった、カガミが持っていた、あの麻痺特化型の光線銃だ。
光線がクリームヒルトの後頭部に命中し、麻痺の状態異常が付与される。
「かはっ!?」
麻痺で動きが硬直したその隙をキララは見逃さない。ワイヤーを実体化させ、目にも止まらぬ速さでクリームヒルトに組み付いて、その首をワイヤーで締め上げた!