トップクラン 28
ブリッジの二重扉が破壊され、吹き飛ばされたジークがブリッジの床に転がる。ジークはすぐさま立ち上がるが、もうボロボロだ。ヴェロニカが目を見開く。
「ジーク!」
「すまん、止められなかった! だがまだ使うな!」
ジークは叫んだ。ジークが剣を構えて睨む先、煙の中から、第4師団団長、クリームヒルトが姿を現す。ヴェロニカは思わず身構える。
ヴェロニカの姿を見たクリームヒルトが喚き出す。
「ヴェロニカ……ヴェロニカ、ヴェロニカああああああッ! この泥棒猫があああああッ!」
クリームヒルトは拳を振りかぶって、ヴェロニカに向かって突進する。ジークは間に割って入り、拳を剣で受け止める。火花が飛び散り、衝撃波でブリッジのガラスにヒビが入る。
「ヴェロニカ下がれ……!」
「くっ……操縦に集中しろ!」
ヴェロニカは数歩下がり、ブリッジのプレイヤー達に指示を出す。
その様子を見たクリームヒルトは絶望の表情でよろよろと後ずさり、髪を掻き毟る。
「あぁ、ジーク……なんでその女を守るの……なんで私に剣を向けるの……!」
ジークは黙って剣を構え直す。
「あぁ、許せない、許せない……私は、こんなに貴方を愛しているのに……!」
(クソ……せめてライデンが居てくれたら……! まさか艦に乗り込まれることになるなんて……)
クリームヒルトは、帝国軍の4人の師団長の中で最強と言われるプレイヤーで、SOO最強プレイヤーの候補の1人でもある。自身の攻撃力を防御力に変換するスタースキル『鋼の乙女』の力で、攻守共に15万を超える強大なステータスを持っており、しかも、リアルで格闘技の経験があるため戦闘技術にも秀でている。
クリームヒルトが拳を掲げる。
「許せないわ、ジーク……お仕置きよ……その女諸共に潰してあげる」
「くっ……」
ジークが反乱軍の敗北を覚悟した、その時だった。
「報告! 艦長! 援軍が到着しました! 『鉄靴の魔女』の、カティサーク号と、ノアさんのアーク号です!」
反乱軍のプレイヤーが喜びの声を上げる。それを聞いたクリームヒルトは目を見開いた。
◆◇◆
リベリオンに群がる敵機に向けて、ノワールの高速巡洋艦カティサーク号は砲撃を放つ。
カティサーク号の漆黒のブリッジで、ノワールは紅茶を片手にメイド達に指示を出した。
「リベリオンに接近してください、『代行』の方を甲板にお送り致します」
「はい、ノワール様」
カティサークの周りに群がってくる敵機を、対空砲の弾幕が撃ち落とす。巡洋艦であるカティサークは、確かに総合的な出力の面で宇宙戦艦に大きく劣る。しかし、高級武器商人のノワールがその有り余る財力を活かして、宇宙戦艦を3隻建造出来るほどのクレジットを投入して建造したカティサークは、そんじゃそこらの軍艦とは『質』が違う。いや、『格』が違う。
装甲の強度は、重装艦のバルムンクと比較しても5倍以上。レーダーの索敵範囲・速度・精度、射撃管制システムの完成度、エンジン・艦砲・エネルギーバリアのエネルギー効率、何もかもがまさに桁違いなのだ。そして極めつけは────
「ロックオン完了、対空ミサイル、撃ちます!」
カティサークの装甲が開き、中からミサイルランチャーが顔を出す。白煙を噴きながら、カティサークに群がる敵機に襲いかかる無数のミサイル。1発およそ9000万クレジット。そのあまりのコスパの悪さから、帝国すら見捨てた最強の兵装、『ミサイル』。これを気軽に使えるクランはSOO中を探してもそう簡単には見つからないだろう。
カティサークの周りに再び群がっていた20機程の敵機が一斉に撃墜される。
敵を殲滅しながら、カティサークはリベリオンに向かって一直線に飛んでいく。
ノワールがカップとソーサーを小さなテーブルに置いて、マイクを取る。
「お待たせ致しました、間もなく到着でございます。反乱軍のプレイヤー以外は皆殺しにして頂いて構いません……では、よろしくお願い致します。クロウ様」
◆◇◆
カティサークの船底の、大型ハッチが音を立てて開いていく。逆光の白い照明に照らされる、ペストマスクのシルエット。右手に握られた黒塗りのM19は、フリードのぼったくり商店街の粗悪品とは異なる高級品だ。もちろん、『代行』のための貸出制度によって貸し出されたものだが。
帝国の船に群がられるリベリオンを見て、クロウはM19の撃鉄を起こす。
「────仕事の時間だ」




