トップクラン 4
「ちなみに、ハート・オブ・スターって何に使われるの?」
ただ希少なだけのアイテムには『無限クレジット』なんて冗談みたいな値段はつかない。ハート・オブ・スターには何かしら重要な使い道があるはずだ。キララはそう考えた。
「ハート・オブ・スターは、宇宙戦艦の建造に必須の素材なんスよ。宇宙戦艦の心臓である重力炉のコアパーツとして使用されます」
「例外的にハート・オブ・スター無しでも宇宙戦艦を建造した例があるが、それを含めても、今のSOOに宇宙戦艦と呼べる船は12隻しか存在しない。無論、宇宙戦艦はSOOで最強の乗り物だ。1隻あれば、操縦者1人でプレイヤー1000人を同時に相手取れる。操縦者が、例えレベル1の初心者だとしてもな」
レベル1の初心者が一騎当千の戦士になれる最強の乗り物『宇宙戦艦』。その建造に必須のハート・オブ・スターに値段がつけられないのは当たり前のことだった。
「宇宙戦艦……まさか戦艦が空を飛ぶのか!?」
カガミとナナホシは、銀華に頷いた。銀華は目を輝かせる。
「それは凄いな! きっと壮観だろうな! しかし……」
銀華は自分のアイテムボックスの中に鎮座するハート・オブ・スターを見つめた。
「……こなたは戦艦を作るつもりは無い、はっきり言って無用の長物だ。ナナホシ殿、買い取ってくれぬか?」
ナナホシは首をぶんぶんと横に振った。
「無茶言わないでくださいよ、私じゃこんなの扱いきれないっス。どこかのトップクランに売るしかないっスよ」
「とっぷくらん?」
トップクランとは文字通り、SOOの中でトップクラスの実力と知名度を誇るクランの通称だ。
「今のクラン同士のパワーバランスを考えるなら、『ターミナルオーダー』か『反乱軍』だろうな」
「っスね。他のところに売ったら多分『失われし帝国』に強奪されます。帝国にハート・オブ・スターが渡るのだけは防がないといけません」
キララが口を開く。
「帝国って?」
カガミとナナホシはキララを見つめた。
「……『失われし帝国』通称『帝国』は今のSOOで最大にして最強、そして最悪のクランだ」
キララは首を傾げた。
「最大と最強はともかく、最悪ってどういうこと?」
「初心者狩りが初心者から奪ったドロアンプルの大半が、帝国に流れている……と言えばお分かりっスかね」
キララの瞼がピクつく。それがどれほどの悪行なのか分からないキララではなかった。
「それだけじゃない。フリードのぼったくり商店街だって、帝国の息が掛かっている連中が大半だ。他にも、クランぐるみでの暴言・煽り行為はもちろん、惑星レベルでの狩場の占領、気に入らないクランに対する数ヶ月にも及ぶ執拗な集団粘着PK、特定のアイテムの買い占め、そして極めつけが、終末任務中のトロール行為だ」
普段無表情なキララの口角が釣り上がる。可愛らしいが、どこかに狂気を孕んだ満面の笑みであった。
「……すごいね、諸悪の根源じゃん。ところで、質問攻めで申し訳ないんだけど、終末任務って何?」
「……一番最初の開拓クエスト中に説明されるはずだが? SOOのメインストーリーの根幹になる概念だぞ?」
「いや、だって私開拓クエスト興味無いし……」
SOOはMMORPGだ。プレイヤーの自由な遊びを邪魔しない程度の、ふんわりとしたストーリーはちゃんと存在する。SOOでは開拓クエストがそのストーリーにあたる。プレイヤーは宇宙の開拓者として、開拓局という組織の元で働くのだ。なお、開拓クエストを全く遊んでいないキララは、SOOのストーリーの一切を知らない。
キララと同様に終末任務について何も分かっていなさそうな顔をしている銀華を見て、カガミはため息をつき、説明を始めた。
「終末任務っていうのは、周年イベントの時なんかに発生する、全プレイヤー強制同時参加の超高難易度クエストだ。無理ゲーレベルの強敵と、皆で戦うことになる。この、終末任務をクリアすることがSOOプレイヤーの唯一の義務とも言える。……ちなみにクリアに失敗するとSOOがサ終する」
宇宙の平和を守るために、世界中のプレイヤーが一丸となって強敵に立ち向かう超絶激アツイベントクエスト。それが終末任務なのだ。アニメの最終回のような盛り上がりを、当事者として体験出来る最高のイベント。SOOを神ゲーと言わしめる理由の3分の1は、この終末任務にある。
「へぇー、みんなで協力する激アツイベントクエストってわけだね。…………ごめん、最後の方聞き取れなかったんだけど」
「終末任務のクリアに失敗するとそのままSOOがサ終する。一昨年の生放送で、SOOのプロデューサーがはっきりそう明言した」
「……は?」