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初心者狩り 4

「あの、キララさん……人の話聞いてました?」


「こ れ が い い の!」


 キララはそう言って、まるでおもちゃ屋さんにきた子供のようにヤトノカミを抱きしめて見せた。相変わらずの無表情だが、心做しか不機嫌そうに見える。


 女店主は大きなため息をついて、降参だと言わんばかりに両手を上げた。


「はぁー、まぁいいでしょう。お客さんが欲しいものを提供してこその商人っスからね。ただしその場合、買い取るドロアンプルは1本だけっス」


 そう言って、女店主は4本のドロアンプルをキララの方へ押し返した。


「理由は単純。そのヤトノカミの値段がきっかり100万クレジットだからっス。……なんだかんだ言ってネタ武器なんで、結構安いんスよ。そして、ヤトノカミ専用弾の値段が1発4万クレジットなんで、これを─────」


「10発でいい」


「……たったの10発っスか?」


「銃の調整用に5発。標的の数が5人だから、1人1発で計5発。合わせて10発。銃と弾を合わせて、これで140万クレジットだよね? 後、他にも欲しいものがあって────」


「ちょっと待て! 標的が5人ってどういうことだ? まさか、話に出てた初心者狩りパーティに仕返しするつもりじゃないだろうな!」


 カガミは叫んだ。女店主は目を丸くする。キララは首を横に振った。



「ちがうよ。どうせPKするなら、悪い奴をやっつけた方がいいでしょ? 私はただPKがしたいだけだから」



 当たり前だと言わんばかりにそう言いきったキララに、二人は愕然とした。そんな2人をよそに、キララはさっきのチラ裏に欲しいものを書き出した。


「お姉さん、ここに書いてある品物を最低1個ずつ、銃と弾と手数料も合わせて合計160万クレジットになるように見繕ってくれないかな。お釣りは要らない。それで、証明書付きドロアンプル1本と交換。どう?」


 女店主は、今日何度目かも分からないため息をついて笑った。


「はぁ……私の負けっス。了解しました」


◆◇◆


「まいどー」


 女店主の気の抜ける挨拶に見送られて、キララは店を後にした。カガミはキララの後を追う。


「あんた正気か? やめておけ、パーティ組んで初心者狩りなんかしてる奴らに関わるとロクなことがないぞ! まして、そんなネタ武器で何をする気だ! 試し撃ちをしてみればいい! 50m先の止まってる的にすら当たらないさ!」


「それはお兄さんの実体験の話でしょ? 一緒にしないでよ」


「ぐっ……」


 図星であったためカガミは言い返すことが出来なかった。そう、50m先の的にすら満足に当てられなかったのだ。当然である、プレイヤーは銃を撃つ訓練など受けたことがない一般人だ、弾が狙ったように飛ぶわけがない。


「だが、だがな……ナナホシ、さっきの店の店主のことだが、ナナホシは話のわかる奴だ。初心者相手なら、とくに優しく対応してくれるだろう。だからもしも、もしも万が一ヤトノカミを返品したくなったら─────」


「お兄さん」


 キララは歩みを止めて振り返り、カガミの前で腕を組んだ。


「SOOはゲームなんだから、人のやりたいことに干渉するのは避けるべき」


 キララの圧倒的正論パンチはカガミを一撃でノックアウトした。


「ぐっ……全くもってその通りだ。返す言葉もない」


 キララは『分かればよろしい』と言いかけたが、カガミが自分の善意に基づいてキララのためを思って言ってくれているのは分かっていたし、さすがのキララとて鬼ではなかった。


「……ねぇ、お兄さん。じゃあフレンド登録してよ」


「え?」


 キララは、ホログラムウィンドウを操作し、目の前のカガミにフレンド申請を送った。


「困ったことがあったら相談させてよ、世話焼きのカガミのお兄さん」


 キララは相変わらずの無表情だったが、ほんの少しだけ微笑んでいるように見えた。カガミの目に光が戻る。


「あ、あぁいいだろう! あんたはちょっとおかしなところがあるが、色々と見込みがあるしな!」


 そう言ってカガミはキララのフレンド申請を受諾した。フレンド一覧に、キララの名前が追加される。


「そ。……じゃあ、またね。カガミのお兄さん」


 そう言ってキララは手をひらひらと振ると、大通りの人混みに紛れて行った。

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