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暴走列車 43

 ポリゴンの破片となって霧散する機動衛兵(ギアドール)。放り出されたアリスの死体が、溶岩の海に投げ落とされる。


「そん……な……」


 ここに来て、初心者であるアリスのステータスの低さが露呈してしまったのだ。機動衛兵という鎧を貫く膨大な『熱』に、パイロットであるアリスの身体が耐えられなかったのだ。それでも死体が残っているのは、機動衛兵の防御性能の高さ故だろう。本来であれば、死体も残らない。……周りのプレイヤー達がそうなったように。


 解き放たれた熱によって生まれた凄まじい上昇気流が雷雲を呼び、フリードの上空を覆いつくす。


 雄叫びを上げる無限捕食機関のHPは、バー12本分全回復している。それどころか、銀華が確かに破壊したはずの翼までもが2本新たに生えそろっていた。


 都市防衛障壁の力でなんとか生き延び、城壁の上で一部始終を見ていたカガミは、目を見開いたまま言葉を失っていた。


(酷すぎる……こんな初見殺し……! ゲームでやっちゃダメだろ……! いくらなんでもアンフェアすぎる……!)


 轟く雷鳴の下、溶岩に焼かれながらアリスは小さく呟いた。


「クソゲー……」



「くすくす、ホントだね」



「え?」


 アリスは耳を疑った。


「アレの名前が『()()捕食機関』である以上、後半のゲージ技で何かしら、HPを大幅に回復してくるだろうとは思っていた。けどまさか、周辺一帯のプレイヤーを皆殺しにすることでHPを回復するとはね。ほんと、酷い初見殺しだ」


 聞き覚えのある、可愛らしい声。


「うそ……なんで……」


 キララはアリスにほほ笑みかけると、船外活動用複合アンプルを取り出した。


「ふふ、SOOには、ログイン後10秒間の無敵時間があるんだよ」


「違う、そうじゃなくて……!」


 使い終えたアンプルを投げ捨てたキララは、破壊された城壁へと向かう無限捕食機関を追って、煮えたぎった砂の海を歩き出す。


「……ごめんね、見殺しにするような真似をして。私達はあくまで保険だし、それにどうしても、11ゲージ目のゲージ技を使わせておきたかったんだ。もしかすると、HPを削りきれないかも知れないからね」


「キララちゃん……何を言って……」

 

 キララは歩く。


「アリスさんにはまだ言ってなかったね。……皆は私の想定通り、十分な時間を稼いでくれた。おかげで、最後の切り札の準備が出来た。大丈夫、ゲームエンドまで、あと少しだよ」


 そう言ってキララは雲に閉ざされた夜空を指さした。


 アリスは地面に倒れたまま、横目で空を見る。


「ああ……あの光は─────」


◆◇◆


 同刻、自由都市フリード上空。高度450km地点。


「"重力アンカー起動。軌道上へ相対座標を固定。星系番号091、照準補正開始"」


 太陽の明るさにも負けない、右眼の鋭い輝き。


「ナナホシ様のお店に一通りの修理用パーツが揃っていたのが幸いしましたわね。私、完全復活ですわ!」


 衛星軌道上で腕を組み、雲に包まれた地上を見下ろすのは、ターミナルオーダーが誇る最高戦力、戦艦のレイ。その隣、レイの傍に漂うのは、船外活動用のネコミミ付きヘルメットを被ったアルセーニャだ。


(頼んだよ……キララちゃん……!)


◆◇◆


 同刻、自由都市フリードの城壁の上。


 カガミは、分厚い雷雲と夜の闇を貫いて地上に届くほどの強い光を空に見た。そんな光を放つものを、太陽の他にカガミは一つしか知らない。


(やっぱりそうだ! キララは、アルセーニャの『不確定性原理(シュレディンガー)』でレイの『輝きの星(クエーサー)』を増幅するつもりなんだ!)


 不確定性原理による瞬間的な攻撃力の増幅効果、その倍率は数十倍から数百倍にも及ぶと言われている。ただでさえ、SOOで最高の攻撃能力があると言われている輝きの星を増幅すれば、途方も無い威力の攻撃が放てるだろう。確かにそれなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。カガミはそう確信した。しかしそれと同時に─────


「けどダメだキララ! お前は『輝きの星』の起動に必要な時間を計算に入れていない! これじゃ『輝きの星』の準備が整う前に無限捕食機関がフリードに侵入してしまう! 『輝きの星』を何万倍に増幅したって絶対に貫けない、都市防衛障壁の陰に逃げられてしまう!」


 都市防衛障壁はシステムの壁だ。あらゆる干渉を受け付けない。どんな攻撃を以ってしても都市防衛障壁を貫くことは出来ないのだ。また、都市防衛障壁はフリードの地下にある発生装置から生成されているため、城壁の物理的な損傷とは無関係にその機能を発揮する。城壁の一部が壊れていてもその防御性能は健在なのだ。


 あっという間に城壁の割れ目にたどり着いた無限捕食機関が、咆哮を上げながらフリードへと侵入する。それまで都市防衛障壁によって防がれていた、無限捕食機関が放つ猛烈な熱が街区に容赦なく襲いかかり、あちこちから火の手が上がる。


(都市防衛障壁の中に侵入された……! もう無限捕食機関を引き戻せない! 『輝きの星』は届かない……!)


「クソ……! あと少しだったのに……!」


 カガミが絶望に膝を折りかけた、その時だった。


 カガミは『輝きの星』に負けないほどの強い光を地上に見た。


◆◇◆


 同刻。焼け爛れた砂の海で。


 空に掲げられたキララの手が、眩い輝きを放つ。キララの白銀の髪に、虹色を纏った白い煌めきが映える。


 突如として地上に現れた、7色の白。その輝きを放つものを、カガミは知っている。しかし、それを今この場に調達してこれるプレイヤーを、カガミは1人しか知らない!


「キララ……ログアウトしていたはずじゃ……! うわっ!?」


 無限捕食機関が絶叫する。巨体を翻し、轟音を立て、溶岩を巻き上げながら光へ向かって突進を始める。


 たった今、無限捕食機関の攻撃対象が切り替わったのだ。自由都市フリードから、突如として背後に現れた、()()()()()()()()()()()


 地上に漂う猛烈な熱エネルギーは、ハート・オブ・スターを励起させてその特性を十全に発揮する。次元の裏側から汲み出される無尽蔵のエネルギー、その全てが行き場を失い、光として溢れ出している。レイの右眼に格納されていたものとも、スレイプニルの炉心に組み込まれていたものとも異なる、手を伸ばせばそのまま触れられる、剝き出しの輝き。


 誘蛾灯に釣られた羽虫のように、キララ目掛けて一直線に進む無限捕食機関。キララは深呼吸をして、真っ直ぐ無限捕食機関を見据える。


(今回は観測手(スポッター)になってあげる。外さないでよ? レイちゃん)

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