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暴走列車 41

 翼を部位破壊されたことでダウン状態になった無限捕食機関の周りで、プレイヤー達の歓声が上がる。


 その上空、カティサークのブリッジでノワールはほっと胸をなでおろした。


(これで一先ずは安心ですね。あとはアリス様が追い付けば……)


「今の、見えた?」


 ノワールは隣に立つキララの方へ振り向いた。


「と、いいますと?」


「銀華さんの攻撃、()()()()()()。速すぎて……描画が間に合ってないんだよ」


「そんな……SOO世界は240fpsで描画されているのですよ?」


 キララは腕を組んで頷いた。


「そう、240fpsじゃ足りないんだよ。……アレは化け物だ。世が世なら英雄になっていただろうね」


 ノワールはキララの横顔を見て固唾を飲んだ。


(キララ様をして『化け物』と言わしめますか……)


 キララはノワールの方へ振り向いて微笑む。


「くすくす……敵対されないように仲良くしないとね」


 ノワールは呆れて肩を竦めた。


「ともかく、助かったよ。ノワールさんが居なければこの作戦は成り立たなかった」


「光栄です。しかしそれは、カガミ様に言うべきことでは?」


 キララが主導し、ノワールがサポートし、銀華が実行した、この無限捕食機関撃墜作戦は、結局カガミの連絡網がなければ成り立たなかったのだ。そうでなければ、キララは銀華の『真空切断』の存在や悲惨な装備の状況をあかりから聞くことも無かったのだ。カティサークで銀華をスムーズにピックアップ出来たのも、カガミがランデブーポイントを調整してくれたからなのだ。カガミが情報屋として超一流だと認めざるを得ないだろう。


「そうだね、今日のログインが遅かったことは今回の働きで許してあげようかな」


 そんなことを言って、キララはまたくすくすと笑った。


「じゃあ私はそろそろ行くよ」


「おや、どちらへ?」


 キララはノワールに背を向けると手をひらひら振りながらブリッジを出て行った。


「……ちょっと、ね」


◆◇◆


 ダウンした無限捕食機関を、銀華は他のプレイヤーと一緒になってひたすらに攻撃した。みるみる目減りしていく無限捕食機関のHP、あっという間に50%を切り、さらに7本目のHPバーも空になる。HPバーは残り5本。


「手応えが弱くなってきたな……そう言えばノワール殿が『ばふ』には制限時間があると言っていた……ばふが終わってしまったのだろうか」


 すっかりバフが切れてしまった銀華が刀を見つめて首を傾げていると、突然、無限捕食機関がその巨体を起こした。


「気をつけろ! 起きるぞ!」

「まずいな……アイツが壁を壊すのと、俺たちがアイツを倒すの……どっちが早いかなんて考えるまでもないぜ」

「みんな急げ! 削り切るんだ!」


 数万人ものプレイヤーによる一斉攻撃が無限捕食機関に降り注ぐ。一人一人が与えられるダメージは大したことは無いが、塵も積もれば何とやら。これだけの人数が集まると、合計ダメージは凄まじいもので、無限捕食機関のHPは目に見えてじわじわと削れていく。このペースなら15分も攻撃し続ければ倒し切れるだろう。しかし────


 無限捕食機関が咆哮し、フリードの巨大な城壁に体当たりをする。金属と金属がぶつかり合う轟音と、滝のような火花。凄まじい衝撃はまるで地震だ。


 城壁の上で、自前のヤトノカミで無限捕食機関を攻撃するアルセーニャが悲鳴をあげる。


「城壁の耐久値は!?」


 黄金のホログラムウィンドウを見つめるカガミが焦りの声を上げる。


「まずいな、あと10回も耐えられない!」


「そんにゃあ! せっかく銀華ちゃんが翼を破壊してくれたのに!」


「ダウン中に7ゲージ目を削り切れただけラッキーだ。さもなければ、7ゲージ目のゲージ技が発動して壁が壊されていたかもしれない」


 アルセーニャはヤトノカミをしまうと、カプセルを投げて小型宇宙船を呼び出した。


「どこへ行く気だ」


「銀華ちゃんのとこ! 私の不確定性原理と銀華ちゃんの真空切断を掛け合わせるのが1番DPS出るはずにゃ! キララちゃんに一応私の行く先伝えておいて!」


「その必要は無いよ」


 気がつけば、城壁の上にキララが立っていた。


「キララちゃん!」


「キララ……!」


「2人ともご苦労ご苦労」


 そんなことを言うキララにアルセーニャは詰め寄った。


「ご苦労ご苦労じゃないにゃ! キミはいくらなんでも人遣いが荒すぎるにゃ! おかげでボクの宇宙船は大破、今使ってるのは予備の宇─────」


 キララは人差し指でアルセーニャの唇を抑える。


「むぐ……!」


「くすくす、君以外にあんな大仕事任せられないからね。珍しいんだよ? 私が自分以外のプレイヤーを信頼、するの」


 それを聞くと、アルセーニャは顔を赤らめてそっぽを向いた。


 無限捕食機関が再び城壁に激突し、キララ達の足元が激しく揺れる。激しい揺れにも微動だにしないキララが、よろめくアルセーニャを支える一方で、支えのないカガミは激しく転倒して頭を打った。


「いってぇ……」


「死なないでよ? アレが回復しちゃうから」


「死ぬかこの程度で!」


 アルセーニャはハッとしたようにキララの手を振りほどくと、宇宙船に飛び乗った。


「こんなことしてる場合じゃない! 早く銀華さんのとこに─────」


「それはダメ。君は私と来て」


「ええ? でも機動衛兵がまだ到着しないし……」


 渋るアルセーニャを見て、キララはアイテムボックスから大きなジュラルミンケースを取り出すと、中に入っていた陽電子爆弾の起爆タイマーのスイッチを押した。


「ぽち」


「"10、9、8─────"」


 カウントダウンを始める陽電子爆弾。カガミとアルセーニャは真っ青になって慌てふためく。


「何やってんだお前ええええ!」

「何するにゃああああああ!」


 二人の動揺など何処吹く風。キララは陽電子爆弾をアルセーニャ目掛けて放り投げる。


「"7、6─────"」


「ぎにゃああああああ!」


 間一髪で爆弾をキャッチするアルセーニャ。


「"5、4────"」


「無限捕食機関に投げて、増幅も忘れずにね」


不確定性原理(シュレディンガー)─────ッ!」


 威力を増幅した陽電子爆弾を、眼下の無限捕食機関に向けて放り投げたアルセーニャは、慌ててうつ伏せになり、耳を塞ぎ、口を開ける。


「"2、1─────"」


 無限捕食機関と城壁の間で陽電子爆弾が炸裂し、眩い閃光が夜空を明るく照らす。解き放たれたデタラメなエネルギーにより、大気は膨張するプラズマとなって無限捕食機関を焼き、吹き飛ばす。


 夜空に轟く残響に紛れて無限捕食機関の悲鳴が木霊する。ダメージそのものはHPバーの1割にも満たないが、爆発の衝撃により無限捕食機関を城壁から遠ざけ、転倒させることに成功した。


 城壁は遠距離攻撃を事実上無効化する都市防衛障壁に守られているため遠距離攻撃判定のある陽電子爆弾のダメージは城壁に一切通らない。無限捕食機関にだけダメージを与える上手い手だと言えるだろう。


「キララ─────ッ!」


 殴りかかってくるアルセーニャの拳をひょいひょい躱しながらキララはけらけらと笑った。その時ふと、アルセーニャの動きが固まる。


「あれ……なんで……」


「くすくす、時間稼ぎはこれでいいでしょ? 私と来て、君には役目がある」


「……うん」


 キララは、転倒したままキララとアルセーニャを見つめるカガミを見据えた。


「……カガミのお兄さんはここに。異常があったらすぐに教えて」


「……あぁ」


 歩き去るキララとアルセーニャを見送ると、カガミは立ち上がった。城壁の上から戦場を見渡したカガミは、顎に手を当てた。


「……なるほどな」

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