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暴走列車 37

「え、ごめん、普通に無理」


 クリームヒルトの心臓が跳ねる。目が見開かれ、毛が逆立つ。慌てて声の主の方へ振り向いたクリームヒルトはガントレットで頭を防御した。


「キララ……! いつからそこに……!」


「おや、キララ様、おいでになっていたのですね」


 気づけば、キララが腕を組んで壁にもたれかかって立っていた。メイド達は思わず固唾を飲む。


 クリームヒルトの額に汗が滲む。


(索敵スキルはクールタイムが上がり次第使っていたのに……! 全く気付かなかった……!)


「くす……索敵スキルなんて意味ないよ。最終的にチェックをするのは人間だからね。人間が関わる以上、必ずミスが起こる。私は普通に索敵スキルに引っかかっていたけど、君はそれを見逃していたんだよ」


「くっ……!」


 ノワールは悲しげにキララを見つめた。


「流石のキララ様も打つ手がありませんか……」


「ごめん、期待してもらってるとこ悪いけど無理だね。レイちゃんと一緒にアレの推定ステータスを計算したんだ。理論上、私のステータスではアレに一切のダメージを与えられない。アルセーニャさんの不確定性原理の力でステータスを大幅に増幅してもらったとしても、ね」


 そう言って、キララは組んだ腕を指でせわしなく叩いた。



「残念だけど。詰みだよ。無限捕食機関はもう止められない。フリードは地図から消える」



 それを聞くとノワールは微かに目を見開き、震える指で髪をそっと耳にかけた。隠しきれない動揺が激しい瞬きに変わる。


 そんな2人の様子にクリームヒルトは納得がいかなかった。喉に引っかかる強烈な違和感が嫌な汗になって溢れ落ちる。


(何……この違和感は。何かがおかしい。コイツらには、いや、それどころかスレイプニルがある私達にすらもうアレを止める術がない、ないはずだ。それをコイツらだって認めている、なのに、何かが引っかかる! 何かがおかしい!)


 顔を引きつらせるクリームヒルトを見て、キララは三文芝居をやめた。


「くすくす……正解」


 返答の代わりにクリームヒルトの拳が振りぬかれる。神速の拳をキララは半歩歩いて躱す。


 クリームヒルトが感じた強烈な違和感の正体。『ゲーム』なんていう、生きていくのに不要な暇つぶしに人生を捧げ、無数のプレイヤーの中の頂点、絶対王者の座にまで上り詰めた、筋金入りのゲーマー、筋金入りの負けず嫌いが『普通に無理』なんて台詞を吐くはずがないのだ。全ては────


「ありえない! お前に! アレを止められる訳がない!」


「まぁ落ち着きなよ、実際、私ではアレに一切のダメージを与えられない。けどね────」


 全てはクリームヒルトの動揺、油断を誘うための三文芝居。気づけば、クリームヒルトの脚、太ももの部分に銃口が突き付けられていた。クリームヒルトがそれに気づいて飛びのく前にキララは引き金を引く。


「がっ!?」


 クリームヒルトの視界の端、ステータスバーの上に表示される状態異常:麻痺のアイコン。


(FA-4LTフォトンスタナー!?)


 キララの手に握られていたそれは、かつてリベリオン号のブリッジでクリームヒルトに膝をつかせたあの銃であった。だが、麻痺耐性スキルをカンストさせているクリームヒルトを麻痺させることができるFA-4LTフォトンスタナーはこのSOO世界に数丁も存在しないだろう。つまりこの銃は、この銃をキララに貸した持ち主とはつまり────


「けどね、SOOはMMOだ。私以外にもプレイヤーはいる。何も、私とノワールさんがアレを倒す必要は無いんだよ」


 足元に倒れたクリームヒルトに狙いを定め、4.5秒に1回引き金を引き、麻痺を更新するキララ。


「ふざけたことを……! アレを止められるようなトッププレイヤーが、初心者の街であるフリードにそう都合よく居るわけがない!」


「それがいるんだよ。今この戦場に、無限捕食機関の翼を斬って落とせる、"無名"のプレイヤーが」


「っ!?」


 キララはFA-4LTフォトンスタナーをしまうと、代わりにヤトノカミを取り出し、クリームヒルトのこめかみに銃口を突きつけた。


「私にできるのは、邪魔者を殺して『彼女』の道を作ることだけ」


 ブリッジに轟く2発の銃声。キルログを確認したキララはヤトノカミをしまうと、近くにいた数名のメイドに死体を船の外に捨てるように指示した。


「させない……! お前にはもう何もさせない! ロキに連絡して、この船ごとスレイプニルで────!」


「悪あがきするといい。私にはもうゲームエンドが見えている。私たちの勝ちだ」


「キララ────ッ!!」


 メイド達に引きずられていくクリームヒルトを一瞥すると、キララはノワールの方へ向き直った。


「キララ様……」


「急ごう、もう数秒の猶予もない。『彼女』を、迎えに行こう」

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