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暴走列車 30

 レイは怪訝な視線をキララに向けた。


「くす……チートじゃないよ」


「信じ難いですわね」


「……君の北西側、約3km先の森林エリアに、ギリースーツを着た3人組のスナイパーチームが居た。君ほどのプレイヤーを狙うなら攻撃力は高いに越したことはないから、使う狙撃銃はヤトノカミ一択。これで弾速が分かる。そして、狙う場所は────」


 キララは左手でブラウジングを続けながら右手で頭を指さす。


「頭の中でも特に、『脳幹』と呼ばれる最大の弱点部分。SOOに脳幹の判定があるのか知らないけど、HELLZONEにはあったから、彼らには脳幹を狙うように仕込んでいる。発砲地点と着弾地点、弾速はこれで分かった。後は発砲のタイミングさえ分かれば弾丸を撃ち落とせる……ふーん、SOOの標準ガンオイルはSF的超素材だからマイナス120度までは凍結しない……か」


 ブラウジングをやめて、ヤトノカミを実体化させるキララ。キララの発言の違和感に気づいたレイはキララを見つめる。


「……それはおかしいですわ、そこまで敵の情報が分かっていたなら、どうして弾丸を撃ち落とすなんてハイリスクなことを? 敵を直接撃てば良かったじゃありませんの!」


 それを聞いてキララはクスと笑った。


「レイちゃん、さすがの私も大気中で6km先の的を撃つことは出来ないよ」


 それを聞いてレイは思わず身を起こした。


「どういうことですの!? 貴方まさか、森林エリアとは反対側の廃墟エリアから狙撃を!? でも廃墟エリアは私から4km近く離れていましたわよ!?」


「そうだね」


「そうだねじゃありませんわ! 貴女、自分が何を言っているかお分かりですの!?」


 敵スナイパーとレイとの間の距離は3km。キララとレイとの間の距離は4km。同じタイミングで、レイの居場所に弾丸を届けるには、キララの方が先に引き金を引かなければならない、つまり、敵スナイパーの発砲タイミングを完璧に予測しなければならないのだ。


「敵が引き金を引くタイミングを読み切って先に引き金を引くなんて……出来る……訳が……」


 白いボロ布の陰から覗くキララの顔には不敵な笑みが浮かんでいた。


「……理詰めで何とかなる部分は理詰めをするけど、最後のひと押しをするのは常に霊感(インスピレーション)だよ」


「かっこつけたつもりですの!? 一番肝心なところが何の説明も出来てないじゃありませんの!」


「くすくす……でもまぁ、君が元気そうで良かった」


 レイはそれを聞くと、顔を真っ赤にして雪に倒れこんだ。キララに背を向けて、右眼を雪に埋めるようにして縮こまるレイ。


(うるさいですわね。わかってますわよ……今回私が帝国に踊らされてただけだってことくらい……)


 レイが今回したことは討伐隊に対する航空支援と、バルムンクの完全焼却。が、しかし、そのどちらも帝国にそう仕向けられた、あるいは予測されていたことだった。無論、レイは油断して輝きの星(クエーサー)を使った訳ではない。むしろ、油断とは真逆で、勝利を確実にするために、敵の息の根を止め切るために必殺技を使ったのだ。しかしそれは帝国に予測されていたことだった。並のプレイヤーでは束になっても敵わない、無限捕食機関という化け物を、数少ない対抗戦力である『戦艦』のレイと入れ替わる形で戦場に登場させるために、輝きの星(クエーサー)を使わなければ破壊できない(バルムンク)の中に無限捕食機関を潜ませていたのだ。


(モンスタートレインを止められなければそのまま敗北、モンスタートレインを止める、つまりバルムンクを無力化できるような状況であれば私が輝きの星(クエーサー)でバルムンクにトドメを刺すので、入れ替わりで無限捕食機関が登場。敗北。してやられましたわね……)


 ターミナルオーダーの最高戦力、『戦艦』のレイの名に恥じぬ戦果を挙げられたのかと問われれば、レイはNOだと答えざるを得なかった。


(狙撃手が私を狙っていたのは、バルムンクを破壊されるのはできれば避けたいということでしょうね……私との入れ替えという条件を達成するだけなら、私を殺して、そのタイミングで無限捕食機関を開放すれば良いだけですもの。つまり、無限捕食機関は私の通常攻撃が通用しない程のステータスを有している可能性がある)


 あの狙撃が成功していればレイは死んでいたが、その場合は5分のペナルティタイムの後に蘇生し、戦線に復帰することができる。これでは無限捕食機関がレイに攻撃されてしまうことになるが、5分もあれば、大勢の帝国兵を戦場に配備することが可能だ。帝国兵の妨害をかいくぐって輝きの星(クエーサー)のような隙の大きい技を使うのは困難を極めるため、レイは通常攻撃主体で無限捕食機関と戦わなければならないが、帝国がそれを容認している以上、無限捕食機関のステータスはレイの通常攻撃をものともしない程に強大なのだろう。


(狙撃が成功しているルートでは、私が無限捕食機関を倒してしまう可能性があるが、仮に無限捕食機関が倒されてもバルムンクが残っているため痛み分け。私が無限捕食機関を倒し切れなけば帝国の勝利。狙撃が失敗し、バルムンクが跡形も残らず破壊されてしまうルートでは、私はオーバーヒートにより戦闘不能、無限捕食機関を倒すのは困難を極める上に、戦闘不能の私からハート・オブ・スターを強奪できる。作戦の成功率は高く、ついでに私からハート・オブ・スターをせしめることができるかもしれないが、万が一失敗したときにはその損害は途方もない。……まぁもっとも、私からハート・オブ・スターを強奪するのは失敗したわけですが)


 レイは寝返りを打って、キララを横目に見た。キララは雪うさぎを作って遊んでいるようだ。ステラの話によれば、別ゲーで絶対女王の地位を確立していたとはいえほんの初心者らしいキララに、2度も命を救われたという事実。


(嫌な奴ですわね、私は……)


 レイは高い寒空を睨んだ。

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