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暴走列車 29

「機械化しているのに軽いんですね。レイピアが全然たわんでいない」


「くっ……この……!」


 弱々しくもがくレイを、スピカは嘲笑った。


(まずい……ハート・オブ・スターを奪われますわ……!)


 レイの右眼に埋め込まれているのは他でもないハート・オブ・スターである。宇宙の支配領域を拡大するために宇宙戦艦を建造しようと躍起になっている帝国が、その建造に必須であるハート・オブ・スターを強奪できる機会を見逃すはずもなく。


「くすくす、ターミナルオーダーの最高戦力が形無しですね。やはり貴女は所詮、ハート・オブ・スターを持っているだけの三流プレイヤー……貴女のシフトの時に作戦を決行したのは正しい判断でした。これがステラやルミナ相手だったら、()()()も通用しなかったでしょうからね」


「どういう意味ですの……!」


「おや、まさか我々が貴女達ターミナルオーダーのシフトを把握していないとでも? ステラが次にログインするのは4時間後、ルミナがログインするのはその更に8時間後。この時間帯にログインしているのは、ターミナルオーダーで一番マヌケな貴女だけ」


 そう言ってスピカはレイピアをゆらゆらと揺らした。身体が揺さぶられる度に傷口が拡がり、レイのHPが擦り減っていく。


「普通に考えれば、この作戦の最大の障害になるのは広範囲殲滅能力に優れた貴女ですが、プレイヤースキルを加味すればルミナやステラの方が数倍は危険というもの……御しやすいんですよ、貴女は」


「御しやすいですって? ならこれも想定通りでしたの?」


 そう言ってレイは右手で拳銃のハンドジェスチャーを作り、こめかみに銃口を押しあてた。


「”緊急自爆システム起動”」


「私が撃鉄(親指)を倒すのと、貴女が私の残りHPを削りきるの、どっちが早いか────」


 スピカはそれを見るともう堪えきれないといった様子で肩を揺らして笑い出した。


「ぷっ……くくく……あはははは! だから貴女は御しやすいのです。自爆してくれるならどうぞご自由に、()()()()()()()()()()()()()()、彼らに貴女の死体からハート・オブ・スターを回収させるだけのことです」


「くっ……」


「私が単身で姿を晒すとでも? 宇宙船団を伴ったレギオンパーティーが間もなくここへ到着しますとも。貴女はとっくの昔に詰んでいるんですよ」


 スピカはそう言って、既に電源が入ったビーコンをポケットから取り出し、レイに見せた。


「今回は想定外のトラブルが多かったので、想定通りに動いてくれる貴女には癒されます。まぁもっとも、想定外だって最初から作戦に織り込み済みですから、どう下振れたところで我々の勝利は揺るぎませんが……おや」


 スピカはビーコンを仕舞うと、ホログラムウィンドウを起動し、チャットを開く。


「船団が星に到着したようです。なまじ硬い貴女をキルするのも面倒ですので、そのまま自爆してくれていいですよ」


(まずい……!)


 レイが敗北を覚悟したその時だった。突然、耳を劈く銃声と共にスピカの胸に大穴が開き、ポリゴンの破片が飛び散った。貫通した銃弾がレイの脇腹を掠める。


「は────?」


 糸の切れた人形のように倒れるスピカ。レイも雪の上に放り出される。


「この銃声は────!」



「この想定外も想定通りだった?」



 気づけば、スピカの背後に何者かが立っていた。白いボロ布を纏うその少女は、口に含んでいた雪を吐き捨てると、寒冷地仕様迷彩が施された対戦艦狙撃銃ヤトノカミをそっと下した。死体になったスピカは地面に倒れたまま横目で少女を睨む。


「キララ……! どうしてここが……!」


「私の名前、知ってるんだ、ふーん……レイちゃんがここに身を隠していることは、少し考えれば分かる。君みたいな小賢しい奴が、弱っている彼女の右眼を奪おうとすることだってわかる」


「っ! だとしても、初心者のお前が、こんなマイナーな惑星を知っているわけが……!」


「SOOをほんの始めたての頃に、惑星の特徴を覚えておく重要性を知る機会があったからね。だから、SOOで存在が分かっている全ての惑星の、場所、特徴、風景を覚えたよ」


 それを聞いてスピカとレイは言葉を失った。キララはレイを抱き上げると吹雪の中へ消えて行った。


「じゃあね『処女宮』のスピカ」


「っ!? 待ちなさい!」


 吹雪の中に取り残されたスピカは、呆然として呟いた。


「どうしてそれを……」


◆◇◆


 しばらく歩き、レイと共に数回のワープを繰り返したキララは、雪が降り積もった別の星にやって来た。


 雪を纏った森の中を、ワープポータルから離れるように数百メートル程歩いたキララは、自分の足跡を踏みながら数十メートル後ろ歩きし、レイを抱えたまま別方向へ思い切りジャンプした。ウサギなどの野生動物が、敵の追跡を撒くために行う『止め足』とか『バックトラック』とか呼ばれる行動だ。これを繰り返すこと三度。


「……痕跡消去のスキルを使わないと。追跡(トレース)系のスキルを使われたら、バックトラックなんて意味ありませんわよ」


 キララにお姫様抱っこされたまま、レイは憎まれ口を叩いた。


追跡(トレース)系のスキルに反応するのは、出来てから5分程度の新品の足跡だけ。スキルに頼ってるような素人は、5分経てば撒けるけど、そうじゃないプレイヤー相手には痕跡消去なんて通じないからね」


「そんな、貴女みたいなプレイヤーが他に居るとでも?」


 キララは柊の樹の根本にレイを降ろすと、自分も隣に座り、ホログラムウィンドウを起動しブラウザを開いた。


「……君を狙撃した()()……多分だけど、私がHELLZONE時代に仕込んだプレイヤーだ。彼らには追跡のやり方も、撒き方も教えてるからね。油断できない」


 それを聞いて、レイは目を見開いた。


「その台詞が出てくるということは……やはり貴女でしたのね、銃弾を撃ち落とすなんて芸当をやってのけたのは」

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HELLZONEでの因縁まであるのか…
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