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暴走列車 27

(1本削ると1本と半分回復……これでは倒しようがないでは無いか!)


 簡単な算数だった。あまりの分の悪さに銀華は眉をひそめる。そんな銀華をさらに追い詰めるように、今度はフリードの方向から現れた無数のプレイヤーが、銀華に向けて光線銃を乱射し始めた。銀華は刃を振るい、降り注ぐ集中砲火を片っ端から叩き斬る。


(赤い光線……! 帝国か!)


 列をなす帝国兵の数は、ざっと1000人。レイの『輝きの星(クエーサー)』で死んだプレイヤー達が、近くのワープポータルで蘇生したのだ。討伐隊のプレイヤー達と帝国兵達との戦闘が至る所で始まっており、無数の光線が激しく戦場を飛び交う。その上空では討伐隊の攻撃機と帝国の戦闘機との戦いが始まっており、時折、被弾して炎に巻かれた戦闘機が戦場に墜落してくる。


 防御に徹するしかない銀華の背後で、無限捕食機関が咆哮を上げ、再び侵攻を開始する。


(一か八か、飛んで逃げるか? しかし、それでは誰があの化け物を止めるというのだ!)


 その時突然、重い砲声が聞こえたかと思うと、帝国兵の戦列の中央で爆発が起こり、帝国兵達が吹き飛ばされる。迫り来るエンジンの轟音に紛って声が聞こえてくる。


「銀華さーん!」


 壊れた装甲ハッチから上半身を出したあかりが、銀華に向けて手を振る。砲塔が旋回し火を噴くと、帝国兵達の戦列で再び大爆発が起こる。帝国兵達からの射線を切るように、銀華の目の前で戦車が止まると、あかりが身を乗り出して銀華に手を伸ばす。


「乗ってください銀華さん! って熱っ!?」


 銀華が振り返れば、熱波を纏った無限捕食機関がすぐそこまで迫って来ていた。


「銀華! 早く!」


 砲塔の陰に隠れながら、リボルバーを撃つクロウが叫ぶ。銀華が戦車に飛び乗ると、あかりは叫んだ。


「ヤマモトさん! 出してください!」


 再びエンジンが唸り、無限捕食機関に追いつかれる寸前のところで戦車が走り出す。翼の攻撃範囲には何とかギリギリ入っていないようだ。


 帝国兵に突撃しながら何度も砲撃を行う戦車。揺れる砲塔の上で、片膝をついた銀華が口を開く。


「すまない、止められなかった」


 肩を落とす銀華の隣で、あかりは無限捕食機関を見上げる。


「遠目に銀華さんのことを見ていましたが、銀華さんの攻撃は効いているように見えました。やっぱり、近接攻撃ならダメージが通るんだと思います」


「……うむ、微かだが確かに手応えはあった。しかし、回復をされては……」


「それについてだが!」


 クロウが声を張る。


「アレの名前は『無限()()機関』だ! アレに倒されると、『捕食された』という扱いになって、それでHPが回復してるんじゃないのか!」


 銀華ははっとした。


「確かに、回復が起こったのはあの光線で討伐隊の皆が倒された時だった……」


「やっぱりあのインチキビームで大勢乙ってたか……つまりだ銀華! 一対一ならお前はアレに勝てるかもしれねぇ! だが────!」


 クロウはリボルバーをリロードし、回転弾倉を回した。


「ここには帝国の連中が居る……」


 あかりの頬に冷や汗が滲む。銀華も思わず固唾を飲んだ。


「腐っても連中はトッププレイヤーの集団。このギミックに気付くのも時間の問題だ。無限捕食機関の餌になるために連中が自爆を始めたら、全員を止めるのはまず無理だろう」


「つまりこなたがいくらアレを斬っても無駄ということか?」


「いや、そういう訳でもねぇ」


 そう言ってクロウは、無限捕食機関の巨大な翼を睨んだ。


「作戦がある」


◆◇◆


 自由都市フリードから3光年程。鉄靴の魔女の館を取り囲む湖に一隻の黒い軍艦が停泊していた。


「うわ、SOOにもあるんだ。蝶の館……相変わらず全部造花だし、ホント、自己陶酔ここに極まれりだね。気持ち悪い。最悪だよ」


 ノワールの洋館を見てあからさまに嫌そうな顔をするアリス。ナナホシは首を傾げた。


「蝶の館?」


「ロスサガ時代のこの洋館の名前です。くすくす、懐かしいですね。……と、おしゃべりをしている場合ではありませんね、急ぎましょう」


 急ぎ足で、けれども優雅に歩くノワールの脚鎧がガチャリ、ガチャリと鳴る。ナナホシとアリスはノワールに続いた。


 館の一番奥には、ノワールの個人的な書斎があった。基本的にノワール以外の立ち入りが許されないこの場所は、ノワールと仲のいいナナホシでさえ一度しか入ったことがなかった。


(ノワールさんの書斎……久しぶりに入ったっスね)


 凝り性のノワールが厳選した一流の家具や茶器が並び、壁には意匠が施された盾が飾られている。高級武器専門店『鉄靴の魔女』のブーツの意匠とは異なる、蜘蛛の巣に掛かった蝶の意匠。ノワールがロスサガ時代に使っていた意匠だ。アリスはそれを見て、心底嫌でたまらないといった顔をしてみせた。


「くすくす、今回は私が味方で良かったですね、アリス様」


 そう言って、ノワールはフローリングの寄木細工の一つをヒールで押し込んだ。ガタン、という大きな音が鳴る。そして、ノワールが家具とカーペットをどけると、カーペットの下から、地下に続く隠し階段が姿を現した。


 アイテムボックスからランタンを取り出したノワールは、ランタンに火を点し、アリスとナナホシへ向き直る。


「さて、これからご覧いただくのは、あのハート・オブ・スターよりも希少な品です……覚悟はよろしいですね?」

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