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暴走列車 25

 夕焼けの赤が混じる夜空を、2つの巨大な夜光雲が妖しく照らす。地鳴りのような咆哮を上げた無限捕食機関が焼けた大地を進み始める。


 表示されているHPバーは12本。だが、その内3本と半分はすでに消失しているようだ。


 誰が最初の一発を撃ったのだろう。戦場を覆っていたエネルギーバリアが消えたことにより、遠距離攻撃が解禁された討伐隊のプレイヤー達が、一斉攻撃を始める。夜闇を切り裂く色とりどりの光線が無限捕食機関に降り注ぐ。


「撃て────ッ! 撃ちまくれ────ッ!」

「乗り物持ってる奴は乗り物出せ────ッ!」


「ヤマモトさん! 撃ってください! ヤマモトさん!」


 砲声の雨の中、あかりは砲塔に張り付いて叫んだ。


「あかり殿、下がられよ」


 銀華がそう言って刃を振るうと、装甲ハッチがバラバラに切り裂かれる。斬られた断面はまるで鏡のようだ、その腕前に感心するクロウ。


「大したもんだな」


「ふふん」


「ヤマモトさん! 撃ってください!」


 ドヤ顔をしている銀華をよそに、あかりは砲塔の中に頭を突っ込んで叫んだ。


「了解です! 耳! 気をつけてください!」


 狭い戦車の中で操縦桿を握っていたヤマモトが答えると、モーターの回転音と共に砲塔が旋回し、無限捕食機関に狙いが定められる。そして次の瞬間、耳を劈く爆発音と共に大砲の先から巨大な炎が噴かれ、砲弾が撃ちだされた。


「ひゃあっ!? 熱っ!?」


「SOOの戦車は全部一人で操縦できるのか、便利だな」


「現実のものは無理なのか?」


「できるのもあるかもしれねぇが、珍しいだろうな────と!」


 クロウが突然身を翻したかと思うと、何もない空間をリボルバーで撃ち抜く。すると、光学迷彩が解けた初期装備のプレイヤーがどさりと倒れこみ、戦車の下へ転げ落ちていった。


「銃が使えるならこんな三下、敵じゃないぜ」


 大砲が再び火を噴き、ペストマスクの黒い眼差しに炎が照り返す。砲声の余韻が引ききる頃に、今度は上空からロケットエンジンの轟音が降ってくる。超音速飛行による衝撃波が暴風となって討伐隊のプレイヤー達に吹き付けられる。


「わっ!? また敵でしょうか!?」


「いや、俺たちに対する攻撃にしちゃ変だ。多分味方だ!」


 自由都市フリードの発着場から発進した無数の宇宙船があかり達の上空を飛び去っていく。討伐隊の眩い砲火によって船底が照らされる。宇宙船団による攻撃は凄まじく、爆撃が行われる度に戦場に轟音と衝撃が木霊し、閃光が討伐隊のプレイヤー達を照らす。しかし、無限捕食機関は微動だにしない。


 クロウは、あかり達に襲い掛かってくる初期装備のプレイヤー達を撃ちながら叫んだ。


「おいどうなってやがる! アイツ硬すぎだろ! なんでこれだけの攻撃を食らってHPが削れてないんだ!」


「あ! クロウさん! 今ちょっとHP減りましたよ!」


「何ィ!?」


 クロウは、遠くの12本のHPバーに目を凝らす。


「全然わからんぞ!」


 クロウの額に冷や汗が滲む。地上に居るクロウは討伐隊の全貌を把握できないため、2万人ものプレイヤーが一斉攻撃を行っているとは知らなかったが、それでも、途轍もない数のプレイヤーが無限捕食機関を攻撃しているのは察しがついていた。


(訳が分からねぇぜ、隕石が降ってモンスタートレインが全滅したと思いきや、ヤバい女がバカみたいなビーム撃って、そしたらバケモンの親玉みてぇなのが突然湧いてくるんだからよ……それに、さっきのアナウンスは何だ? まぁそんなことはどうでもいい、今はとにかくあの化け物を倒さねぇといけない……が、いくら何でも硬すぎる! 仮に、討伐隊のプレイヤーが1万人居たとして、1万人の一斉攻撃+航空爆撃を食らって涼しい顔してるなんて、とんだデタラメだぜ!)


 クロウはリボルバーをリロードしながら北を睨んだ。夜のせいで分かりにくいが、もうフリードの城壁が見え始めている。


(このペースじゃ絶対に削り切れない! それにあの図体だ! フリードの城壁なんて紙みたいにブチ破れるに決まってる! アレがフリードにたどり着いた時点でゲームオーバーだ!)


 クロウの動きにつられて北を見たあかりも、切迫した状況に気づいたようだった。


「そんな……もうフリードが……!」


「クソ、まずいな」


 無限捕食機関の方へキッと向き直るクロウ。するとクロウは、銀華が何か思いつめたような顔で無限捕食機関を見つめているのに気づいた。


「銀華、どうした」


「……実はこなたは、アレと似たような化け物を斬ったことがある」


「何ィ!?」


 クロウは銀華に詰め寄る。


「似たようなのって……HPバーの数を見る限り、アレはレギオンボスっていうモンスターの親玉だぞ!? まさか一人で倒したんじゃないだろうな!?」


「一人で倒した」


「な、何ィイイイイ!?」


 大声をあげるクロウ。それを聞いて、あかりも銀華の方へ振り向いた。


「倒したって……お前! 一体どうやって……」


「斬った」


「キッタアアアアアア!?!?」


 驚きのあまり戦車から転げ落ちそうになるクロウ、しかし何とか踏みとどまると、ハッとして顎に手を当てた。


(待てよ……もしかすると……あの無限捕食機関とかいう化け物、遠距離攻撃への耐性が強い代わりに、近距離攻撃への耐性が弱いんじゃねぇか? そう考えれば、あの硬さにも銀華の話にも筋が通る……)


「よしわかった! 行け銀華! アイツを叩き斬ってこい!」


「し、しかし!」


 銀華はあかりを見つめた。あかりは、穏やかに微笑んで首を横に振った。


「行ってください銀華さん。クロウさんもヤマモトさんもいます、私なら大丈夫です。キララさんには、私の方から説明しますから」


「そうだ。ここは任せて早く行け!」


 銀華は俯いてしばらく考えていたが、やがて顔を上げると、強く微笑んだ。


「かたじけない。行ってくる」

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