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暴走列車 21

 キララがアルセーニャを脅して言いつけたこととはつまり、フリードが存在する惑星から5光年程の場所にある小惑星帯から小惑星を引っ張ってきて、モンスタートレインの上に落とすというものだった。


 最大船速で隕石から距離を取るカティサーク号のブリッジに、エンジンの轟音が木霊する。


「いつエアバーストが起きてもおかしくありません。エネルギーバリアを展開。最大出力」


「了解!」


 ノワールはメイド達に指示を出しながら紅茶のカップに口をつけた。ブリッジの中が明るく照らされる程の光を放つ隕石に、ノワールは目を細める。


(1908年のロシアで起こったツングースカ大爆発では、直径50~100m程度の隕石が空中で爆発────エアバーストを起こし、その爆発の威力は周辺2000㎢にも及んだ……。これだけの破壊力があるものなら、たかが1000万体のモンスターなど敵ではありませんね。まぁそれもこれも、キララ様がバルムンクの無力化に成功したからこそできることではありますが)


 宇宙戦艦が理論上展開できる最大出力のバリアは、この程度の隕石の衝撃なら完封できる程の防御力があるとされている。さすがは、SOO世界最強の乗り物といったところだろう。だが、そんな宇宙戦艦でさえ、心臓である重力炉を破壊されてしまえばただの鉄の塊。


(ふふ、さすがは私の決戦兵器。戦艦を沈めるくらいならどうということはありませんね)


 艦長の椅子の後ろで同じく目を細めていたアリスが、轟音に負けじと声を張る。


「ちょっと疑問があるんだけどさ! こんなにお手軽に隕石を落とせるなら、帝国はなんで隕石でフリードを攻撃しなかったの? モンスタートレインなんて、妨害を受けるリスクが大きいだけで回りくどいと思うんだけど!」


「仮に、あの隕石が直径50mの球体だったとして、密度が2.5g/㎤だとすると、その重量は概算で約16万4000トン。反乱軍の戦艦リベリオン号の総排水量が、確か8万トン程度でしたから、単純計算でその2倍もの重量があることになります。……あぁいえ、宇宙空間の話ですから重量の話は不適切ですね、アレです。慣性質量とかいうヤツです。これほどの大質量を運ぶには、それこそ戦艦クラスの出力がある宇宙船で牽引するか、アルセーニャ様の『不確定性原理(シュレディンガー)』の力で強引にハイパーブリッジを起動し、跳躍させるしかありません。しかし、戦艦での牽引は時間がかかる上に、妨害を受けるリスクが極めて大きい。つまり、事実上、アルセーニャ様の力を借りなければ隕石は落とせないのです」


 アリスの隣に立つナナホシも口を開く。


「それに、仮にフリードの真上に隕石を落とせたとしても、恐らく効果がないっス。フリードは都市防衛障壁という特殊なバリアで守られているんで、都市の外側からの遠距離攻撃はほぼ無効。モンスタートレインみたいな地上戦力で攻めるのが一番有効なんスよ」


「へぇー、やっぱりちゃんと理由があるんだね!」


 アリスが感心していると、突然ノワールが立ち上がって二人の方へ振り向き。手で両耳を塞いだ。アリスとナナホシも慌てて耳を塞ぐ。すると直後に、大爆発が起こった。


◆◇◆


 10秒ほど前。自由都市フリード近郊。


 どんどん明るくなっていく空に、地上のプレイヤー達は慌てふためいて逃げ惑った。


 戦車の中に避難しようとしたあかり達だが、機銃の攻撃でハッチの一部が変形しており、開閉不能になってしまっていた。


「ぐおおおっ! ハッチが変形して! 開かねえ!」


「クロウ殿! ここはこなたが!」


 刀で戦車の砲塔のハッチを破壊しようとする銀華を、クロウが慌てて止める。


「やめろポンコツ! 装甲ハッチをぶっ壊したら元も子もねぇだろうが!」


「ぽ、ぽんこつぅ!? こ、こなたはぽんこつなどではないぞ!」


「ええい黙れ! ああクソこうなったら戦車の下に潜り……あ! そうだ! モノにもよるだろうが、戦車には底の部分にもハッチがあるはずだ! お前ら急げ!」


「ヤマモトさん! 戦車一回止めてください! ヤマモトさん!」


 止まるどころか、ますますスピードを上げてとにかく隕石から距離を取ろうとする戦車。戦車の上のあかり達ですら、酷い騒音で意思疎通に支障をきたしているのに、戦車の中で運転をするヤマモトと意思疎通が取れるはずもなかった。


「クソ! 銀華やれ! ハッチをぶっ壊せ!」


「な!? やっぱり最初からそうしておけばよかったではないか!」


「悪かった! 悪かったから! 俺が悪かったからいいから早────」


 地平線と接触するその寸前に、一際強く輝く隕石。それを見たクロウはありったけのエネルギーバリアボムを足元に投げると、慌てて2人に覆い被さった。


「伏せろ────ッ!」


◆◇◆


 10秒ほど前。隕石付近。


(対地速度秒速6kmか……加速足りてるのかな?)


 隕石の輝きに眩く照らされる速度計の針を睨みながら、アルセーニャは操縦桿を握りしめた。


「”機首を上げよ。機首を上げよ。機首を────”」


「"警告、エンジンがオーバーヒートしています。警告、エンジンが──────"」


 炎に包まれるアルセーニャの宇宙船の中で無数の警報が鳴り響く。自由落下の何倍もの速さで地上がみるみるうちに近づいてくる。後ろから迫りくる隕石はいつ爆発してもおかしくない。隕石の落下予想地点は、モンスタートレインの直上……とは行かなかったが、この距離なら十分モンスタートレインを破壊できるだろう。


(誘導はもう十分でしょ! アルセーニャはここで退散しますにゃーっと!)


 アルセーニャが操作盤のボタンを押すと、SF的特殊素材で出来た牽引用ワイヤーが切り離され、アルセーニャの宇宙船は自由になる。


(いきなり機首を上げたら隕石に追突される! スピードを上げないと!)


 迫り来る地上を睨みながらの、更なる加速の判断。


「"機首を上げよ。機首を上げよ。機首を上げ────"」


 秒速6kmで落ちていく隕石をあっという間に引き離す程の高速飛行。速度計の針が秒速13kmを指し、地上にアルセーニャの宇宙船の影がくっきりと映る程の距離になったところで、アルセーニャは叫んだ。


「機体が空中分解しませんように機体が空中分解しませんように機体が空中分解しませんように────ッ! 不確定性原理(シュレディンガー)────ッ!」


 宇宙船が地面に激突するその寸前。アルセーニャは機首を持ち上げながらエンジンをさらに酷使した。『不確定性原理(シュレディンガー)』の力で性能の限界の何十倍もの出力を手に入れたロケットエンジンが隕石の輝きに負けない程に輝く。強烈なGに、アルセーニャのHPがみるみるうちに目減りしていく、機体の耐久能力ギリギリの負荷に、宇宙船のあちこちが軋み、悲鳴をあげる。地面スレスレの高速飛行。炎を纏う宇宙船の船底に、巻き上げられた砂が当たり、燃えて輝く火花になる。


(3────2────1────)


 『不確定性原理(シュレディンガー)』のクールタイムは、3秒。


 アルセーニャの背後で、隕石が爆発すると同時に、アルセーニャは叫んだ。


「ハイパーブリッジ! 起動────ッ!」

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