暴走列車 17
「きゃあああっ!?」
凄まじい轟音。爆炎をもろに受け、あかり達のHPは一瞬にして消し飛──────ばなかった。
恐る恐る目を開くあかり、そこには、銀華とあかりを庇い、身体の前面がボロボロになったクロウが居た。
「クロウ殿!」
「……エネルギーバリアボムと防御力瞬間増強アンプル。ついでにダメージカット系スキルを重ね掛けすれば、機銃の攻撃だって生身で受けれないこともねぇ」
そう言って左手を掲げ、HP全快アイテムである、オールヒールアンプルを握り潰すクロウ。快音と緑色のエフェクトが舞い、クロウのHPが全快する。
クロウはあの一瞬で、何種類ものアイテム・スキルを同時使用し、銀華とあかりを庇ったのだ。クロウは基本的に自己中心的なソロプレイを好むが、こういったマルチプレイで味方を援護することだって、人並み以上にこなすことが出来る。プロゲーマーの肩書きは伊達では無い。
「アイテムの残数には限りがある、同じことができるのは後せいぜい3回だ。飛んで避けれる攻撃は全部避けたとしても……このままじゃいつか詰まされる!」
そう言ってクロウが空を睨んだ、その時だった。
1機の戦闘機が、あかり達に向かって飛んでくる。刃を構える銀華。アイテムボックスからアイテムを取り出すクロウ。しかし、その戦闘機から光線が放たれることは無かった。
「うおっ!?」
「きゃあっ!?」
砂煙を吹き飛ばす暴風が吹き荒れ、クロウのコートがバタバタと靡く。爆発音のような飛翔音────ソニックブームだ。衝撃波を撒き散らしながら超音速で飛ぶ、小さなその影は─────
「らああああっ!」
飛び蹴りで戦闘機の横っ腹を貫いた。
◆◇◆
(私が端の方でモンスターの殲滅を始めた途端に、小型機を出して討伐隊を攻撃だなんて! 全く鬱陶しい! 私以外に航空戦力が存在しないのをいいことに!)
レイの殲滅能力がいかに優れていたとしても、バリアのせいで全力を発揮できないこの状況では、討伐隊の足止め能力には及ばない。つまり、殲滅の手を止めてでも討伐隊を援護しなくてはならないのだ。
炎を上げながら討伐隊の上に墜落しようとする戦闘機を空中でキャッチしたレイは、戦闘機を掴んだまま別の戦闘機に向かって突進する。
全身をサイバーフレームで強化しているサイボーグであるレイの膂力は、並大抵のプレイヤーとは比べ物にならない。
レイが抱えた戦闘機と別の戦闘機が空中で衝突し、火花を上げて潰れたスクラップになる。火を噴くスクラップを、モンスタートレインの方へ投げ飛ばしたレイは、次の標的に向かって拳を引き絞りながら突撃していく。
「はああああっ!」
レイの右ストレートが、戦闘機の下から上までを一撃で貫く。爆発と共に炎を上げて墜落する戦闘機を、レイはまた掴んでモンスタートレインの方へ投げ飛ばした。
今度は戦闘機が、レイに向かって突進しながら機銃を放ってくる。飛んでくる光線を目視したレイは、エネルギーバリアを展開し、その攻撃を霧散させた。光線が効かないと判断すると、更にスピードを上げてレイに突進していく戦闘機。
「おや、私と心中する気ですの?」
戦闘機の突進を、なんと身体で受け止めたレイは、あろう事かその突進をそのまま押し返し始める。コックピットの中で、窓越しにレイと見つめ合うパイロットは思わず笑ってしまった。
「ふざけるなよ、この戦闘機のロケットエンジンは30万馬力相当の推力があるんだぞ……!」
「墜ちるのは其方だけですわ、低性能」
戦闘機を掴んだまま、モンスタートレイン目掛けてタックルをかますレイ。戦闘機が地面に衝突すると、凄まじい轟音と共に爆炎が立ち上り、モンスター達がまとめて吹き飛ぶ。しかしレイは、そんな爆炎を涼しい顔で突っ切ると、再び空へ舞い上がった。
右眼の砲撃を使えば、戦闘機を木っ端微塵にしてしまい、討伐隊の上空に燃える破片の雨を降らせることになってしまうため、そうならないようにレイは格闘戦に徹した。
日が落ち始め、暗くなりかけた空を飛び回るレイの視界の端で、どんどん近づいてくるフリードがちらつく。
(先頭集団がフリードに到着するまでもう1時間もありませんわ! キララは何をしてますの!)
◆◇◆
バルムンクのブリッジで、レイが帝国の戦闘機を落として回る様子を見ながら、スピカは微笑んだ。
(二つ目の仕掛けは上手く機能しているようですね、しかし─────)
スピカの視界の端。討伐隊の中に内通者として忍び込ませていた、第0師団のプレイヤー達の死亡通知が止まらない。
(帝国で最精鋭である第0師団が『殲滅』されている……討伐隊の中に、化け物が混じっているようですね……一つ目の仕掛けは不発、と。まぁいいでしょう。想定外だって想定内。その為にわざわざ切り札を用意したのですから)
スピカがほくそ笑んだその時、ブリッジに警報が鳴り響いた。
「前方より、敵艦が第1甲板に接近中! 鉄靴のカティーサークです!」
「ふむ、攻撃にしては少し様子がおかしいですね。一旦様子を────」
すると、艦長の椅子で脚を組み、目を閉じていたクリームヒルトが目を開く。
「……私が甲板に出て直接対応をするわ。命令するまで攻撃は厳禁」
「おや、よろしいのですか? キララへの対応に集中されるとのことでは?」
「こればかりは私が対応しなければならないのよ」
そう言ってクリームヒルトは立ち上がり、モニターに映るカティーサークを見つめた。
バルムンクの第1甲板に横付けしたカティーサークの甲板に、3人のプレイヤーが姿を現す。1人は、黒いドレスと鋼鉄の脚鎧を身にまとったノワール。もう1人は、安全第一と書かれたヘルメットと巨大肉球ハンマーで完全武装したナナホシ。最後の1人は、斜陽に照らされる黄金の髪を靡かせる─────
「アリス様……本当にSOOにお越しになられていたのですね」
「何か仕掛けてくるとしたらこのタイミングよ。最大警戒」