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リンの言葉

31-35

作者: リン

31探偵


街の隅で青い雨が降りしきる

赤い蜂が一匹

不正確な八の字に飛び回っている

その脇で探偵が

地べたに転がった死体から

まだ動いている心臓を取り出していた

目ざとい野良犬が心臓を欲しがって

探偵の近くをぐるぐる走り回って吠えたてている

犬を追い払いながら探偵は現場近くに黄色い足跡を見つけ

可愛らしい靴底と小さな歩幅から

まだ大人になってない少女のものだとすぐに理解した


発見した少女は淡く壊れかけていた

探偵が触れようとすると

少女は少し抵抗するように遠ざかったが

無気力なまま柔らかい腕を捕まれた

少女はそれでも逃げようとしていたが

力がか細すぎて何もできなかった

探偵の大きな身体が少女に覆いかぶさると

少女はその中でどんどん小さくなっていく

少女の幽かな存在感は更に薄れていき

ついには身体は消えて少女の洋服だけが残った

探偵は雨に濡れた服を取り上げると

死体の心臓を包んで

郊外の湖に投げ捨てた

水底で服に包まれた心臓は激しく燃えるように光っていた


事件は解決したが

探偵の心は晴れなかった

死体は少女の父親だった

父親は少女にとって大事だったが

少女は父親にとって道具でしかなかった

少女は道具としての務めを果たしながら大事にされたかった

しかし父親はそうではなかった

父親は少女を粗雑に扱い、

何をするにも不器用な少女をいつしか憎むようになり

遂には少女を殺そうとした

首を絞められながら少女は父親の止まない憎悪を悲しんだ

息ができなくなり、

気が遠くなりそうになったころ

父親は親友の探偵に殴り殺された

少女はまだ生きたいと乞い願い

トボトボとその場を離れていったのだった


探偵の周りを赤い蜂が纏わりつくように飛んでいる

罪を贖うようにと

青い雨が叩きつけるように探偵の背中に降り注ぐ

罰をまだ受けていないからと




32妖怪


首が長いと

医者に相談したら

どれくらいかと聞くから

ろくろ首くらいと

答えると

そりゃ大変だ、手術が必要だと

医者が催促する

けど、ろくろ首だし、

アイデンティティがなくなるのも嫌だったので

丁重に断った


目が足りてないんじゃない?

と友人に言われて

そうかなと

とぼけたように答えると

周りのみんなが目が足りないと同調する

一ツ目小僧は困ってしまった

じぶんは十分足りていると思ってても

他の人からするとそうではない

じゃあ二つにするかと目を二つにしたら

ただの小僧さんになってしまった

そうしたら

誰も見向きもしなくなった

言う通りにしなきゃよかったと

小僧は後悔する


人が一人孤独でいると

誰かが欲しくなる

できれば波長の合う素敵な人がいい

と思ったりもする

自分に何も無い個性がないという人は

ちょっと遠慮願いたいかな

と思ったりもする


そうやって人は人を区別していく

妖怪も人も根っこは変わらない

人は区別されて区別していく

どこまでもどこまででも際限ない

しかも

区別してほしいとすら思っている




33NO天気


雨の日

天気予報も雨だらけ

傘をさすのが面倒だから

ぼくは濡れていく

ぼくの身体に叩きつけるように

雨の雫がよく当たる

風が吹いて

斜めに降り掛かってくる

ぼくも対抗して

姿勢を斜めにするが

ことごとく当たっている

もういい加減いいだろ

とこちらが思っても

止む気配がない

目的地に着く頃には

びしょ濡れになって

結局コンビニで傘を買って

家に帰った


天気は容赦がないと

脳天気なぼくにでもわかる一日だった




34馬の骨


馬の骨

どこの骨かと聞かれれば

馬に決まってるだろう

という愚か者もいるが

じつはこの骨どこの骨でもない

何者かもわかっていない

実証研究では不明だらけ

という結論に至った

本当に希少な骨なのである


いや骨ではない




35平和と戦争


中世の騎士が転校してきた

なのでクラスに全身甲冑姿の騎士がいる

背丈はみなの1.4倍くらいあるから

大人のように見えるが

正真正銘の中二である

中世の騎士なんかに憧れる人のことを

中二病とはよく言ったものだが

本物を前にはちょっと失礼な感じもする


先生が廊下を走るなと

声を荒げたとき

生徒といっしょに走っていた騎士は

自重が重すぎてまるで歩いているようだった


騎士はどんくさかった

最初のうちはみんな珍しがって

騎士と話していたが

あまりに口下手なので

すぐに離れていった

騎士はよく一人で黙ったまま

席に座っていた


あるとき騎士がクラスの一人に

話しかけようとしたら無視された

用事があったんだけどと

他の人に声をかけたが

返事はなく

まるでそこにじぶんが存在していないかのような

扱いを受けた

クラスでは騎士へのシカトがはじまっていた

かつて騎士はいつも孤独だったので

別にシカトされたくらいで

気持ちがどうこう揺らぐようなことはなかったが

何をするにもやりづらくはなっていた




騎士は今、戦場にいる

戦争が始まり大人だった騎士は徴兵されたのだった

中二だったが免罪符にはならなかったようだ

騎士が送られた地域は最前線だった

敵部隊がすぐそこにいて

互いに塹壕をめぐらして対峙していた

騎士は甲冑が邪魔すぎて銃を扱えなかったため

塹壕堀に専念する役割になっていた


敵との対峙が続く中

敵の上官を名乗る者から通信が入った

お互いよく闘っているため

その健闘を称えて一日停戦しようとの提案だった

自部隊の上官はそれを呑むことにし

その日の昼に互いに代表者を立てて握手を交わす

儀式を行うことになった


こちら側の代表は騎士が選ばれた

理由は一番目立つからだった

こういうときにしか使いようのない存在ではあった

停戦の日の昼は風もなく晴天だった

いい停戦日和だとみな喜んでいた

互いの前線の中間地点に向かって

一人の敵兵士が歩いてきた

そろそろだと上官が命令して

騎士もそちらに向かう

二人の間はだんだんと縮まっていき

とうとう手が届くまでの距離にまでなった

敵兵士が手を差し伸べる

騎士も手を出そうとしたその瞬間

騎士は腕をぐいっと握られ

急に引っ張り込まれた

それは

抱擁だった

敵兵士が手を騎士の甲冑の肩にかける

つられるように騎士も敵兵士の腰に手を回した

両軍の塹壕から一斉に歓声と祝砲があげられた




両軍兵士の抱擁は世界を駆け巡った

その時の写真や画像はどこでも見かけることができるくらい

コピーされていた

そのおかげもあってか

戦争は意外に早く和解終結したのだった

騎士は学校へと戻ってきた

いつの間にやらクラスで一番の人気者となっていた

騎士の周りにはいつも人だかりができ

面白い話やとりとめもない話をする友人たちで溢れていた


騎士はあるとき一人でいる生徒を見かけた

声をかけようとしたら

友人の一人が止めてきた

あいつとは話さないほうがいいという忠告だった

その生徒は気が弱く大人しかったため

新たなシカトのターゲットになっていたのだった

騎士は気になってなおも彼と話そうとしたが

友人たちが割って入ってきて叶わなかった

やがてその生徒は不登校になった



時が経ち

騎士は無事卒業を迎えることができた

卒業写真には制服姿のみなに混じって

全身甲冑姿のじぶんがいる

そして

右上には楕円に切り取られた枠の中に

不登校になった生徒の写真が貼られていた


騎士はそのアルバムを見るたびに思うことがある

しかしそれを誰かに話すことはない

思いは大事なところへしまってある


平和なシカトは

敵兵士との抱擁の思い出の

すぐ隣に

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