第9話 大天使様
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トイレで少女に殴られ、気絶した日の夜。ユーマは昼間と同じベッドの上で目を覚ました。
最初は電気が消えていてよく分からなかったが、足元の不自然な感じに気づき下半身を確認すると、ユーマはズボンを変えられていた。
ーあ、まさか俺、あの時漏らした?
「ああああああああああ!!俺、何やってんだ!これじゃもうこの屋敷の連中に顔向けできねぇじゃん!ああ、どこ行こう…。いっそ最果てで野垂れ死ぬか」
「やっと目を覚ましたかい、ユーマ君」
「あ、ローデンス…。俺、漏らしてないんだよな?頼む、漏らしたのはウソだって言ってくれ!」
「残念ながら、キミは確かに漏らしたのだよ。けど、それはキミにとって予想外の事態だったのであろう?」
「ローデンス、俺は別に慰めてほしいわけじゃないんだが」
「まあ、今度からどれだけ急いでいてもトイレに入る前だけは必ずノックをすることだよ」
「はいはい」
ユーマはローデンスから目を背けるように、反対側に寝返りを打った。だが、会話は続けた。
「それと、あの娘を呼んでくれないか?事故とはいえ、謝っておくのがスジってもんだから」
「分かったのだよ。フロール、フォールティスを連れてきてくれたまえ。どうせ、また書庫にいると思うのだよ」
「分かりました」
ローデンスがフローレアにあの娘を連れてくるよう命令したことに、ユーマはまたも自分の考えていることを見透かされたように思った。
「それで、何でローデンス自身が呼びに行かなかった?それほど親しい関係じゃないのか?」
「まるで、私がいない方がいいとでも言うような言い方だが、キミは私に訊きたいことがあるのだろう?」
「そうだよ。で、あの娘は誰なんだ?お前やこの屋敷にとってどのような存在なんだ?」
「彼女の名はフォールティス・デジディット・カエルム。私、いや、私たちの義理の娘なのだよ」
「私たち?それどういうことだ?」
「彼女は実は、数千年前から私たち一族の義理の娘として居候していたのだよ。ただ、700年ほど前に自分を封印し、つい1か月に復活したのだよ」
「そん時にその、フォールティスが自分を封印した理由って分かってんのか?」
「それは本人が話したがらないから分からないのだよ」
ユーマは、気絶する数秒前に見た彼女の目元を思い出した。
ー数千年前…。冠那の生まれ変わりなんかじゃないか…。
「なあ、アイツって誰かに似てるって言われたりしないか?」
「よくそんなことが分かるのだよ。そう、フォールティスは大天使コロヌ・アンジェルス様に似ていると様々な人に言われるのだよ」
「コロヌ・アンジェルス様…?その大天使様の絵、あるか?壁画のでも伝承の本の挿絵でもいいから…」
「それなら、そこに置いてある本の表紙を見るのだよ」
「お、おう」
言われた通り、ユーマはその本の表紙を見た。
そして、ユーマは絶句した。
そこに描かれていたのは、紛れもなくユーマの前世の彼女、御門冠那その人だった。
ユーマは、泣き声の一つも上げずに涙を流した。
「どうかしたのかね?」
「なぁ、ローデンス…。この本の話って…、どれくらい前からあるって、言われてんだ…?」
「そうだねぇ、確か4、5万年くらい前の壁画にも描かれてたって話があるのだよ」
「…俺は、そんな、5万年も寝坊したってのか…」
「どういうことなのだい?」
「この大天使様は、俺の前世の彼女だ」
それを聞いて反応に困ったかのように、ローデンスはあらぬ方向に目線をやった。
「しかし、その絵も大天使様たちが実在した証拠にはならないのだよ。あくまで伝承を引き立たせる為だけのもの…」
「それでもだ、ただの偶然じゃねぇんだよ、きっとこれは…」
そのままユーマはすすり泣き始め、布団に潜って出てこなかった。