第5話 体質
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ユーマとドルトメッサーは、寒空の下で対峙していた。
ありもしない疑いからただ巻き込まれたユーマと、恋人を盗られまいとやる気に満ち溢れているドルトメッサーとでは、明らかに態度が違った。
「リーリアの言う通り、俺は堕天使なんかじゃない。どっかの津島さんじゃないんだぞ!」
「何を言ってるかは知らないが、疑いがある以上は逃がすわけにいかない。容疑者を裁くのも聖騎士の務めだからな」
「はいはい、お手柔らかにお願いしますよ」
「容疑者に手加減などする必要性はない。全力で行かせてもらう」
ーマジかよ…。
ドルトメッサーの言うことを冗談半分だと考えて勝負を承諾したユーマは、かなり焦っていた。またもや死んでしまうのではないかと。
ユーマは剣道経験者だが得物は教会にあったボロボロの剣しか持たず、対するドルトメッサーは、恐らく聖剣である。
ーさて、ここからが俺の英雄伝説の始まりだと信じようじゃぁないか。
「それじゃあ、行くぞ!」
「お、おう」
途端、ユーマは身の危険を察知して身を翻した。
ユーマの予想は的中し、あと一秒でも遅かったら突き殺されているところだった。ユーマはその隙に剣を振り上げた。
しかし、ドルトメッサーはその攻撃を聖剣の柄で受け止めた。
「さすがは聖騎士様、俺の生半可な技術じゃ通用しないか」
「しかし、俺とて聖騎士の最強ではない。俺はただ領家の聖騎士団の団長ってだけだからな。俺が『剣聖神話』を持っていたらここにはいなかったかもしれない」
「何だよ、その『剣聖神話』って?」
「白を切るな。貴様も堕天使とはいえこの程度知っているだろう、いや、堕天使なら尚更知っているはずだ」
「だから、俺は違うっつってんの!で、その『剣聖神話』って何だよ?教えろって!俺まだこっち来て半日も経ってないんだからさぁ」
「これ以上の会話は無用、もう終わらせる」
「…は?」
ーえ?俺、刺されたの?一日に二回も?
ドルトメッサーは、ユーマの目の前にいた。そして、その手に握った聖剣はユーマの腹に突き刺さっていた。
「これでお前が白か黒か分かるはずだ。まあ、白だったとして20秒も刺されていれば死ぬが」
「だったらさっさと引き抜けよ!早くしろ、俺また転生するのか!?嫌だぞ、それでこの世界より更に酷いところに転生したくないし」
しかし、20秒経ってもユーマは死ぬ様子がなかった。
「おい、死ぬどころかなんか元気沸いてきたんだけど!?」
「…そうか、俺と同じく『聖剣を刺すことで身体強化できる』体質…、つまり、神聖力が相当高いようだな。白か。すまない、先ほどまでの無礼は詫びさせてくれ」
「って、納得できるかーい!相応の対価を払ってもらわねば困るなぁ。俺、殺されかけたんだぞ。お前と同じだか何だか知らないけど、特別な体質じゃなきゃ死んでたんだろ!?責任取れ!」
「ならば、領主様の屋敷へお連れします。そちらで要望を申してください」
「騙そうったって、そうはいきませんよ。…いや、冗談はさておき、だったら…」
何かを言おうとして、ユーマは急に倒れ込んだ。リーリアが駆け寄って額にその手を当てると、熱が出ていた。
「熱があります。ただでさえ体の熱が奪われていたというのに、こんな寒空の下にいるから…。あなたの所為ですからね?」
「すまない、リーリア。俺としたことが…」
「回復魔法で発熱は治められないですし、薬は子供たちの為に配ってしまいましたし、どうしましょう?」
「だったら、俺が責任を持って領主様の屋敷まで運ぶ。今日はアスターから借りたヒッポグリフの荷台に何も荷物がないからそこに寝かせる」
「もしかして、この少年を聖騎士団に入団させるおつもりですか?」
「ま、本人の希望があればだがな」
そう言うとドルトメッサーはユーマを荷台に乗せ、ヒッポグリフを走らせてその町を去ったのであった。