第16話 そうはならんやろ
久しぶりに訪れた教会の中には、リーリアと、その他見たことない修道士や修道女、そして一人の聖騎士らしき男がいた。
その後ろ姿にユーマは見覚えがあったが、髪は赤と金がところどころで混ざっていて、まず知り合いではないことを直感した。
ーもしかして、メッサーの親戚か?
そう考えつつ、ユーマはリーリアに向けて声をかけた。
「久しぶりだな、リーリア」
「あ、ユーマさん。お元気ですか?」
「ああ、あの時助けてもらったおかげで次期ウェルモンド領領主になることも決まったし、ホント感謝してもしきれない感じだ」
「次期領主、ですか!?おめでとうございます!」
「今夜、ウェルモンド邸で宴があるんだが来ないか?・きっとメッサーも待ってるぞ?」
「その件でしたら、もう既に本人様から聞いてますので大丈夫です」
「そ、そうか…。メッサーは用意周到だな…」
俺が呆れていると、そこに居た聖騎士らしき男がユーマのことを睨むような目つきで見てきた。
ーやっぱり、メッサーにどことなく似てるんだよな…。
「ったく、あの男は…。女に現を抜かしているから強くなれないんだ」
「ちょっと待ってください、シャーマ様。あのお方は決してそんな方ではありません!」
「それは証明できるのか?」
「そ、それは…。証明できないかもしれないですが、あのお方はいつも私に善意でお助けしてくれるんですよ。だから、せめてそんな言い方はしないでください」
「…今のところは引いてやる。だが、もしもあの男がお前を優先して仕事に支障が出るようであればどちらかを殺す。そのことだけは覚悟しておくことだ」
ーなんか感じ悪いヤツだな。さて、俺はここでお暇させていただきますか。
「それじゃ、また…」
「ちょっと待て、お前。ローデンス卿の言っていたことが合っているなら、貴様が1週間ほど前にこの地へ降り立った転生者だな?」
ー俺、主人公じゃないはずだぞ?面倒事に巻き込まれるはずは…。
「そ、それがどうした?」
「ローデンス卿、こんなことも忘れてたのか…」
「何か、まずかったか?」
「いや、何も聞かされていないならお前が悪いわけではないのだろうな。分かった、今から説明する。この国パックスの掟なのだが、各領地の領主は転生者を保護した場合、王都オリジニスへ強制送還する必要があるんだ」
「それで、俺たち転生者をどうする気だ?」
「異世界人たちが持つ特殊なスキル、彼らがチートと呼ぶようなスキルを所持していた場合は王都で国の為に働いてもらうことになる。王が要らないと判断なさった者は送ってきた領主のもとへ返される」
「そうか。だが、あいにく俺はチート持ちじゃねぇ。それどころか、スキルを一個も持ってないんだぞ?」
自慢気味にそう言ったユーマに対し、シャーマと呼ばれたその男は微妙な反応をする。
「そういえば、シャーマって言ったよな、お前?もしかして、シャーマ・ルルヌ・カールだよな?<オーディン>って呼ばれてる」
「ご名答。あと、突っ立っていてはここの者たちの邪魔になる。他の話は王都に着いてからだ」
「ちょっと待って!?今からテレポートでもするのか?」
「テレポート?聞き覚えのない単語だな。ほら、行くぞ。『<剣聖神話>、デウス・トニート』!」
その時、ユーマが連れていかれることを察したフォールティスが二人の方へ駆け出した。
「もう2秒後はここを去った後だ。今更干渉できないぞ」
ただ、フォールティスは物理法則を無視したかのような、まるでゲームのバグのように一定間隔でコマ送りのように距離を詰めてきて、ユーマの手を握った。
次の瞬間、三人の姿は無かった。
*
「ごめんね。話してなかったけど、私って種族が分かんないから結構何でもアリなの。今回よりも物理法則から外れたこともあるんだよ。例えば…、空中を歩くとか」
「よ、よかった…。下手したら二度とフォールちゃんに会えないと思ったから…。え?種族が分かんない?」
ーそれでも、そうはならんやろ。
何でもアリ、な彼女に呆れるユーマだった