第10話 膝枕と決断
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次の日の朝。ユーマは先日同様視界に差し込む日光によって目覚めた。ただ、ユーマは不思議な感覚を覚えた。先日、冠那に2度と会えないという確信と、自分が転生するのがあまりにも遅すぎたことに対する悔しさから、溢れる感情に身を震わせながら寝ていた。
ユーマが今感じている感覚は、底なしの安心感だった。まるで、愛する人のいないその世界に生きる運命を背負ったユーマに無限大のエールを送るような、優しい感覚。
ユーマは撫でられていた、何者かに。それは、母親、或いは聖母。
ユーマの目から滴る雫は昨夜の悲しみの涙ではなく、感謝の涙。
その温かさは、確実にユーマの心を動かしていた。
上を向き、その主を確認する。
ー冠那、なのか…?
しかし、それは昨日同様の勘違い。そこにはあの少女、フォールティスがいた。
ーそうか。俺、膝枕されてるのか…。
やっと自分の今の状況に気づいたユーマは、心を落ち着かせ、フォールティスと話す準備をしていた。冠那を思い出し、また泣いてしまわぬように。
「どうして、俺に膝枕なんか…?」
「お父さんから聞いたの。あなたが、私に謝りたいって言ってたって。フローレアが私を連れてこの部屋に戻った時、あなたはそれどころじゃなさそうだった」
その優しく、甘い声にユーマは戸惑った。トイレを覗いてしまったのに、どうして自分を嫌っていないのか、と。
「それで、俺を慰める為に…?」
「そういうことなのかな…?朝一でこの部屋に来たけどあなた、物凄く怯えてたの。悪夢にうなされてる感じで…。私、もう自分でも覚えてないくらい長く生きてるから何となく分かった。寂しかったんだよね?」
「悪いな、カッコ悪いヤツで」
「そんな、カッコ悪いなんて思わないし、むしろカッコイイと思うよ」
「おい、からかってるのか…?」
ついカッとなりそうになったユーマを、フォールティスは抱きしめた。
「私、人が泣くときってこういう状況だと思うの。必死で困難に立ち向かうけど、自分の力不足でうまく立ち向かえない状況、自分の不甲斐なさで胸がいっぱいな状況。でも、そういう時に泣くのって、強くなりたい証拠なんだよ。強くなりたいって思うのは、カッコイイことだと私は思うよ?少なくとも、変わりたいってことだから…」
「ちょっと、俺のことについて色々聞いてもらっていいか?」
「うん」
「君は、前世の俺の彼女に似てる」
「へぇ。その娘とどこが似てるの?」
「目元、喋り方。それと、膝枕の仕方。冠那も、膝枕する時は俺のことを左手で撫でてくれた」
「そうなんだ。でも、私のことは好きじゃないでしょ?あなたは私に謝りたいって言ってくれたけど、謝るのは私の方。あの時、反射的にパンチしちゃった所為で気絶してお漏らししちゃったから」
「あれは事故だったから仕方ない。俺が君を好きかどうかは分かんない。けど冠那に似てるから、あの子の代わりに愛することはできる」
すると、フォールティスは分かりやすくふくれっ面になった。
「もし私を愛するんだったら、そんな別の娘の代わりとかじゃなくて私として愛してほしいな」
「分かった。もし俺がお前を本気で好きになったらそうするよ」
事実、ユーマは自分の気持ちにウソを吐いている。前世の彼女によく似たフォールティスのことを、ユーマは既に好きになっていた。
「けど、あと一週間もしたら私は誰かのモノになっちゃうんだよ?」
「…どういうことだ、それ?」
「ちょうど一週間後、お父さんが開催する『聖騎士団最強決定戦』があって、私は優勝者のお嫁さんになるの」
「…!?」
ユーマは思い出した。初めて目覚めた町に貼ってあった紙に書かれた『領家ウェルモンド主催 聖騎士団最強決定戦 開催』の字を。
「それに出場するには、お父さんの創った聖騎士団に入らないといけないよ」
それを聞いて、ユーマは決めた。その聖騎士団に入ることを。