表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PARTNER  作者: 風雅ありす
1/1

序幕

嵐の夜のことだった。

一人の女が暗い神殿の中へと入って行く。

頭から被っているローブはずぶ濡れで、女の歩いた後には水の跡が残った。

女は、腕に赤子を抱いていた。

ボロ布に包まれた赤子は、女と同様ずぶ濡れだったが、泣き声一つ上げてはいない。

赤子は、死にかけていた。

それでも女はしっかりと腕に赤子を抱きかかえ、神殿の奥へと進んで行く。

女の顔には、疲労と悲愴の色が浮かんでいたが、その両の眼には、怒りと憎悪の炎が宿っていた。


石造りの神殿には、灯り一つなく、湿気とカビの臭いが充満していた。

所々壁が崩れて、外から雨風が入り込み、水溜りを作っている。

訪れる者もいないように見えるほど廃れているが、壁際にできた暗がりに蠢く何かがいた。

それも一つではない。

よく見ると、そこかしこに人の形をしたものが幾つも身を潜めている。

中には、動かぬ骸となっているものも多くあるようだったが、

死臭は、雨風によって一時的にでも掻き消されているようだった。

それは、この国で生きる場所を失った者たちの末路でもあった。


しかし、女は、それらの存在には目もくれず、真っすぐ神殿の奥を目指す。

そこに自分の求める最後の希望があると信じて……。


ここは、世界の最西端にある見捨てられた<闇の神殿>。

邪神の中でも最高位の存在<イーヴァル>を祭った神殿だ。

<イーヴァル>は、世界中のありとあらゆる負の感情や厄災を一心に受ける器とされ、闇の神となった。


そして、<邪眼>(イビルアイ)と呼ばれる目を持っており、その眼に映ったもの全てを破壊したり、思いのままに操る事が出来るため、壁画や書物などには、常にその両眼を包帯で巻かれた姿で描かれる。

そのあまりにも危険な力は、世界を破滅に導くとされ、他の神々の手によって封印されている。

しかし、その封印の力が解けた時、世界は、暗黒の時代を迎えると言い伝えられている。


女が神殿の最奥に辿り着いた。

そこには、両眼を包帯で巻かれ、背中に黒いコウモリのような翼と、頭に牡牛のような角を持つ<イーヴァル>神の巨像が置かれていた。


女は、抱いていた赤子を祭壇の上に置くと、膝をつき、一心に祈りを捧げた。

我が子を生かす為、母親である女は、邪神の力を我が子に分け与えてくれるように頼んだ。

それは、<反魂の術>。

この世で最も禁忌とされる、魂の輪廻を乱す術だ。


しかし、女の心は、〝復讐〟という名の炎が燃えていた。


外で雷鳴が響いた。

まるで女の祈りに邪神<イーヴァル>が答えたかのように、

崩れた天井の隙間から雷光が差し込み、祭壇に寝かされていた赤子の左目に落ちた。


女が顔を上げた時、赤子は、息を吹き返した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ