子猫の3兄妹 お魚事件
とら:
雑草に覆われた畑の中。目の前には、母さんの体より大きな魚が横たわっていた。どこから、やってきたのだろう。前足で魚を突つき回しているミケの横を通り抜けながら、僕は考えていた。
足元に魚を見たとき、僕は、新たな思索にふけることを決意した。猫なのだから、どこから来たなんてどうでもよいのだ。どうやれば、3匹で平等に分けることができるかを考えよう。頭、胴、尻尾で分けるのはどうだろう。どう考えても、胴を取ったものが得だ。それなら、魚の右と左は。2匹なら平等だけど、3匹じゃ無理。そうだ。僕は、天才猫として有名なニャートン博士にも負けないアイデアを思いついた。魚を綺麗に3分割するなんて無理なこと。3匹で喧嘩しない分け方をすればいいんだ。僕の考えた方法は、こうだ。
・まず、魚を6つに分ける。
・ひとつめの切り身について、しろが切り、ミケが好きな方を取る。こうすれば、しろは、自分の分が小さくならないように、二つに分けるはずだ。不満はでない。(さぁ、皆さん、ここは、じっくり考えよう)
・ふたつめの切り身は、ミケと僕。みっつめの切り身は、僕としろというようにすればいい。そうして、四つめ、五つめ、六つめを、二つずつに分けて、食べればいい。
僕は、自らの会心のアイデアに酔い、思わず、ガッツポーズをしていた。だが、幸福な時間は長くは続かなかった。ガッツポーズの前足を降ろすとき、何かが触れる感触が、僕の脳に稲妻のような衝撃を与え、心地よい酔いを覚ました。完璧じゃない。ひとつの切り身を分けるのは問題ないけど、6つに分けるところが、まだ、甘いのだ。僕は、更に、深く考え込んだ。そして、ニャートン博士が発見したニャートンの第一法則によって答えを導き出した。ニャートンの第一法則。それは、猫は、細かいことに、こだわらない。だから、食べているうちに忘れるさ。
しろ:
ミケちゃんが、魚を仕留めたみたい。さすが、わたしの妹。となりで、兄さんが何か考え込んでいる。魚を独り占めする方法でも考えているのかな。
お魚さん、いただきます。わたしは、背びれの後ろに噛み付いた。コツン。痛い。兄さん、何するの。殴ることないじゃない。食べてはいけないの? 恐る恐る頭を上げると、兄さんは、悲しげな表情をしている。そんなにいけないことをした? ごめんなさい。でも、何が悪かったの?
兄さんの目が輝いた。許してくれるのかな。食べていいみたい。
兄さんは、何やら難しいことを言い出した。
でも、どうやって切るの? わたしたちの爪じゃ綺麗に切れないよ。
ミケ:
こちら、ミケ。ただいま、畑の中を探索中です。あっ、目の前に、空から何かが降ってきました。大きなお魚です。お腹が大きく分かれています。生きているのでしょうか。ちょっと突っついてみます。反応がありません。今度は、引掻いてみます。反応はありません。なんだか体が硬いです。どうやら、死亡しているもようです。
ん、大変です。これは、殺魚事件です。お魚さんが何者かに殺害されました。犯人は一体誰でしょう。ここは、迷探偵ミケの出番です。被害者は、お魚さん。殺害の方法、犯人は?
キラリ。ミケの目が光ります。死体損壊の犯人は、きっと、ミケたちになるでしょう。
とらちゃんが、お魚を喧嘩しないように分けて食べようと言っています。しろちゃんは、どうやって切るのと文句を言っています。ミケは、言います。
「ミケたちじゃ、満足するまで食べたって、食べきれないんじゃないかな」
近くの家では、小学生くらいの男の子がお母さんに怒られていた。
「新巻鮭で、ハンマー投げするんじゃありません。魚はどこにいったの」