3通目
やっと主人公の名前出せました笑
3通目
放課後、さっそくその人のいるところへ向かった。
学内の図書館のドアとあけるとその人はいた。
「やぁ、少年〜。今日も何かお探しかい?」と軽い調子で挨拶された。
この人はいつもそうだ。週に数回来る僕が物珍しいのかいつも声をかけてくれる。
「こんにちは、八神さん。またカウンターの上に足乗せてるんですか?他の先生方に怒られますよ。」
そのおかげで内向的な自分がかなり同じように軽口を言える大人の1人でもある。
八神薫さんは学校司書でセミロングの茶色みがかった髪を後ろでひとつで結んでいる。美人の類であるはずの彼女は裾の長いロングカーディガンに片手をポケットにいれ、もう片手で本を持ってカウンターの上に足を組んでダラっと座ってる。放課後に人がなかなか来ないこと知った上に基本的にはあまり人に見える構造にはなっていないのでいつもこの調子でいるのだ。
つい先ほどまで読んでいたのだろう本に栞だけ入れ、カウンターから足を下ろした。
「今日はどんな本をお探しだい?」と僕の小言を無視してもう一度同じことを繰り返しながら、
自分ほうへ手招きした。
彼女に気づかれない程度の小さなため息をつき、近くにある椅子を引っ張ってきて、座ってから改めて今日の目的である手紙についての相談をはじめた。
「女性に対してどんな手紙を送ればいいかぁ?なんじゃそら」
僕が話終わると第一声がそれだった。
実物があるとわかりやすいかと思い、東雲さんの手紙を両方持ってきた。
僕が書いた物はざっくりとどんなことを書いたかだけは伝えたが、八神さんがずっとニヤニヤしているので途中で説明を止めた。
それをみてからかってくる。そのせいで中々話が進まない、とイラついたがアレみたいだ、と八神さんは呟いた。そのままスッと立ち上がり外国語ベースの本棚へ向かった。
彼女の唯一尊敬するのはそこそこマンモス校なうちの学校の唯一の自慢である図書館の約七十万冊近くある蔵書のそのほとんどをどこにあるかどんな本かまで覚えていることだ。普段はぐうだらして動きもノロノロしていてそんな素振りは全く見せないのに、本を探すときだけは何分も待つことなく探し当ててくるのだ。
しばらくすると一冊の本を持って戻ってきた。
表紙は外国語になっていて全く読めなかったがシュテファン・ツヴァイクという作者のドイツの短編小説だと教えてくれた。
その本をパラパラとめくり、ここだ。と言って僕に見せてきたが読めない。
「日本語だと“未知の女の手紙”ってタイトルなんだ。お前のその手紙の話聞いて似てるなって思ってさ。「私のことを知らないあなたへ」から始まる手紙をもらった男の話なんだけどさ。」と目を細めて小さく笑った。
すぐいつもの調子に戻ってこの話がさー、こうでー、あぁでー。とひとりで盛り上がり始めたので途中で止めた。
本の話になるとすごく長くなるのだ。長所であり短所でもあるとおもう。
そうしてあらすじを短く教えてくれた。
ある男の家に知らない手紙が届いた。それ以降相手のやりとりをしていくうちに相手の女に恋に落ちていく…というものらしい。
お前もそうじゃない?とニヤッとされたが違うと反射的に返したがしまった、反射で返すんじゃなかった。そうなのだ、と言っているようにも捉えられただろう。
そうして話が脱線しつつようやく本題に入れた。
八神さんはあまり深く考えなくていいんじゃないか?と言った。
なぜかと言うと
「この手紙の主はさ、家を出れなくて目新しいことのない自分に外でしか見れない風景や話を聞きたいんじゃないか?」
とのことだ。
確かに以前の手紙には体が弱く友人も少ないと書いていた。それなら。
「ねぇ、八神さん。例えばさ僕が風景画みたいの送ったらこの人は喜ぶと思う?僕はたぶん文章書くの苦手だし、その方が伝わるかなって思うんだけど」
そういうと八神さんは喜んでくれた。
いいじゃないか、それ。綺麗な風景画送ってやれよと背中をバシバシ叩いてきた。
力が強いんだから…とぼそっと呟いた時に話は変わるがと切り出された。
「最後に書いてあるさ、名前のことについては触れないでいいのか?みーおちゃん」
…そう、本来ならフルネームで書かなきゃいけないと思った。思ったけど。
僕は自分の名前が嫌いだった。
小西実央、それが僕の名前だった。
昔から女の子のような名前で揶揄われたので人に名乗るのが嫌いでどうしても、という場面以外では苗字しか書かなかった。
そのことで唯一助かったのは同じ苗字の子が同じ学年に今までいなかったことだ。
ひとりでも同じ苗字の子がいれば区別されるために下の名前を呼ばれたことだろう。
嫌な思い出が一気に振り返してきたが、
すぐ忘れるように努めた。そして八神さんは睨んでおいた。おーこわいこわい、とおどけて言うのも憎らしい。
「名前は書きませんよ。またなんか思われそうだし。しかも会った事のない相手なんだから女と勘違いされそうで尚更嫌だ。」
とかなりはっきり、冷たく言った。
八神さんは流石に悪いと思ったのか、茶化す感じゃなくごめん、と言ってくれた。
そのまま少しムッとしたまま話をしていたら、
いつの間にか退館時間になっていた。
出しっぱなしにしていた手紙をしまっている時に、あんまり怒るなよー?悲しいぞ。と言われた。
次言ったら図書館内の本を全部順番変えてやる。と脅した。ゲっと嫌な顔をしたので今後はしない…はずだ(といいつつ、またやられるが。)
さよなら、と声をかけて図書館を出た。
学校の中にはまだ残ってる生徒がいるのか、
遠くから笑い声がまだ残っていた。
登場人物が少しづつ増えてきて賑やかになりました。
ご愛読ありがとうございます。
ゆっくりペースですがまだつづきます。