部室のなかの、私。
いつかの、どこかのお話のプロローグ。
私はよく、誤解をする。
男子恐怖症(れっきとした自称)だからか、男子に優しくされると、どんな年代でもすぐ「この人私の事好きなんじゃね怖」と思ってしまう。
そんな私は文藝部の部長。
かっこいい藝の字をつかっているわりには、活動少なめ。だが、なぜかよく部室には部員たちが集い、だらける。もちろんその中には、男子もいる。
だったら普通行かないだろ、と思ったそこの貴方。
男子恐怖症と言いながら今日も部室のドアを開けれるのには、もちろん理由があるのだ。
ガラララ
「しっ失礼します」
「あー部長、おつかれー」
「おつー」
「お、疲れ様です」
へこ、と首だけお辞儀をし、さりげなく部室の中を見渡す。
狭い部室。
6人いたらまさに密。
そんな空間の中に、男子がぽつぽつ1.2.3人。
恐怖症の起こらない慣れ親しんだメンツの中に、その『理由』である人はいなかった。
あれ?
「ねぇ、今日ってモト……」
「わか部長」
スゥ
素敵な感情が、その声を聞いただけで体を駆け巡った。
ぱ、と振り向く。
ヒョロリと背の高い、どこか幼さも感じる声を持つ青年が、私を見下ろしていた。
ドキ
「おっ…あっ」
「あれ、キューリくん来たの?」
「キューリ言うな。後輩にまた変な名前で覚えられたらお前のせいだからな、バカメガネ」
「バカは余計だな、なぁ愛可」
「僕は分かんないや。あ、ツカくん、そのアイテムどこで得たの?」
「……あと1戦すれば貰えるよ」
私がマスクの下でアワアワしている間に、どんどん話が巡っていく。
全く……という声が後ろからする。
「どう思いますか部長。みんな俺の事野菜扱いするんですよ?」
ぎゃあ話しかけられた。
「うっ…えっ…あっ…そっ…それはどうしよっか…」
「ほんと、どうしようかですよねぇ」
中入ります、と言い、私は左に避けて彼は部室の中へと入っていった。
ふんわり彼の香りがして、戸惑うくらい温かい感情に包まれる。
なんて素敵な人なんだろう。
他の人から見れば、ただのサボり部の方々の雑談にしか見えないが、私にとっては、とびっきりの愛しい日常だ。
彼と話せば、恐怖症も治るかもしれない。
私はそう思っている。
温かくて素敵な感情とともに、そんな未来を感じている。
───申し遅れました。
私は今西新。
今目の前にいる4人の男子のうち、キューリくんと呼ばれている私の大切な人は、宮立 基くんです。
start……?