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恋心

 マキシム盗賊団の首領の部屋では、異様な酒気が充満していた。巨漢の男と小柄な黄色い髪の娘が並んで座り、手にした大盃を口に運んで行く。


「お、おい。これでもう何十杯目だ?」


「二十から数えてねぇよ。あの黄色い髪の小娘。マキシム親分と互角に張ってるぜ?」


「親分は大丈夫か?さっきから随分顔色が悪いぜ?」


 マキシムの手下の荒くれ者達が、ロシーラの飲みっぷりに驚嘆していた。アーズスとロッサムもそれは同様であり、ロシーラの大盃を飲む姿に、ただ呆然としていた。


「······おい。小娘。余り無理をすると身体が保たんぞ?」


 大盃を苦しそうに飲み干したマキシムは、酔いの回りきった両目でロシーラを睨む。


「······それは自分自身に言っているの?盗賊の親分さん?いちいち大盃で飲むなんて拉致があかないわ。直接大樽を飲んで勝負を決めましょう」


 ロシーラは据わった両目でマキシムを睨むと、脇に置いてあった酒樽を持ち上げた。


「お、お前。正気か?小娘!?その酒樽には大盃の何十倍の量が入っているのだぞ!?」


 一瞬酔いが醒めた様に、マキシムは両目を見開きロシーラの暴挙を非難する。


「あら?怖気づいたの?勝負を受けないなら貴方の負けよ。さあ。どうするの?するの?しないの!?さっさと決めなさい!!」


 ロシーラに一喝され、マキシムは歯ぎしりをしながら立ち上がる。そして酒樽を持ち、ロシーラと同時に飲み始めた。


 勝負は直ぐに決せられた。マキシムは酒樽を半分程飲んだ所で、意識を失い背中から倒れた。


 その光景を、この部屋に居合わせた者達は絶句して凝視する。そして尚飲み続けるロシーラは、とうとう空になった酒樽の底を片目で覗いた。


「······無くなっちゃった。お替りある?」


 ロシーラのその言葉は、勝利宣言となった。アーズスは全身から酒気の匂いを漂わせるロシーラを抱き締めた。


「ロシーラ!君は最高だ!!これでこの国の歴史が変わるぞ!」


 絶叫するアーズスの凛々しい顔を至近に見ながら、ロシーラは酔った頭で幸せな気分に浸っていた。


 

 ······夕暮れ時、あかねはベットの上で目を覚ました。薄目で机の上の時計を見ると、昼寝にしては大分寝てしまった事に気づく。


 夢の中の自分。あかねはロシーラの幸せな気分とは真逆だった。


「······一人でドキドキして。盛り上がって。へこんで。私馬鹿みたい」


 窓から見える夕焼けを眺めながら、あかねは今日の出来事を反芻していた。店の前で岡山翔平に帰られ泣いていた所を、クラスメイトの荒島亮太に声をかけられた。


 あかねと亮太は近くのベンチに座り、亮太は無言であかねが泣き止むまで側にいた。あかねが落ち着きを見せると、亮太はポケットティッシュをあかねに手渡し去って行った。


 亮太のその不器用とも見える行為に、あかねは少し救われた思いだった。話しかけられたくない。


 だが、一人でいるのは寂しい。あの時のあかねは、正にそんな気分だった。


「······部活。辞めようかな」


 あかねはポツリと部屋の中で呟く。これから岡山翔平とどんな顔をして会えばいいのか、あかねにはまるで分からなかった。


 週が明けた月曜日。あかねは部活を辞める事を決意していた。それを告げる為に、緊張しながら農業研究会の部室に入る。


 すると、席には桃塚ひよみ。荒島亮太。そして岡山翔平が既に座っていた。


「麻丘さん!ごめんなさい!」


 開口一番、桃塚ひよみが両手を合わせてあかねに謝罪して来た。要領を得ないあかねは、目を丸くして荒島亮太を見る。


「······ごめんね。麻丘さん。土曜日。俺と桃塚先輩は麻丘さんと岡山君の後をつけていたんだ」


 亮太の告白にあかねは更に混乱する。何故。何の為にそんな事をするのか、あかねにはまるで理解出来なかった。


「麻丘さんと岡山君。二人の事が心配だったの」


 超絶美女が落ち込んだ様に俯く。同じ部活内での恋愛は、破局した時に複数の部員を同時に失う危険がある。


「だがら私は部長として、麻丘さんと岡山君の仲が悪くならないか見守る必要があったの。決して興味本位で後をつけた訳じゃないの」


 荒島亮太は、あの時のひよみの生き生きとした様子を思い出していた。興味本位が本当に無かったのか疑問だったが、その事については部内の平和の為に、亮太は自分の心に留める事にした。


 ひよみの謝罪を聞きながら、あかねは超絶美女の心配していた事が的を得ていた事に怯んでいた。


 翔平との事が原因で、あかねは正にこれから部活を辞めようとしていたのだ。あかねが困惑していると、岡山翔平が席を立った。


「······その。麻丘先輩。僕も言い方が悪かったです。別に先輩を嫌っている訳ではありません。その。これからも同じ部員としてよろしくお願いします」


 翔平はバツが悪そうな表情であかねを見つめる。翔平のその謝罪とも受け取れる言葉に、あかねの頭の中から退部と言う二文字が一瞬にして消えた。


「こ、こちらこそ。よろしくお願いします」


 あかねは慌てて頭を下げる。その時、複雑そうな顔をしていた荒島亮太に、あかねは気づかなかった。


「よし!カップル成立!じゃ、無かった。仲直り成立よ!これからも四人で仲良く革命を起こしましょう!」


 桃塚ひよみが両手を叩き、この一件についての幕引きを宣言した。翔太の言葉を聞いた時のあかねの安心した表情。


 そのあかねの顔を見た時、荒島亮太は胸に確かな痛みを感じていた。



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