第四話
それから数日後に理由は判明した、兄から結婚の報告があったからだ。
兄の仕事は土木の現場監督だ、母親を頼って帰って来た頃には普通の平社員だったが、ある会社に引き抜かれてからは状況が大きく変わった。兄はその会社の社長に大変、気に入られており、将来を有望されていた。しかも社長には一人娘しかおらず、跡取りがいなかった…
兄が時期社長の座を狙っていたかは解らないが、その位置に一番近い場所にいたのは間違ない。
結婚を進めて行く上で僕達「家族」の中にいる「同居人」は邪魔者でしかなかった筈だ…父親とも紹介出来ず、この奇妙な関係を説明するのには、あまりにも時間がなかったからだ。
やがて兄の結納を迎えた…兄、僕、母、「同居人」、社長、社長夫人、一人娘の7人は小さな料亭で顔を合わせた。
事情を聞かされていた社長夫婦から、「同居人」について触れられる事はなかった。兄の婿養子は決まっていた…僕の知らない所で話は進んでいた様だが、あまり感心もなかった…
僕にとっては全く関係のない、結納は何の問題もなく終わったが、その後に兄から言われた…
「俺は母親も父親もお前も…そしてあの「同居人」も…何もかもを捨てる!この先、何があってもお前達とは関係を持ちたくない。
俺は立派な家庭を築きたいだけだ、両親の様な失敗はしたくない、俺の結婚式が終わる時がこの「家族」の終わりの時でもある…お前は母親と好きな様に生きてくれ…」
兄は実の父親から結婚式の列席を断られていた、口では強がっていたが、動揺を隠し切れなかった…この出来事を境に僕達「家族」を捨てる覚悟が出来たようだ…僕にとっては存在しないはずだった兄だ、それほど気にはならないが…兄の婿入りは母親にとっては相当な痛手になるだろう…