第二話
それからも僕達、兄弟の関係が変わる事はなかった。兄は気が向けば、僕と友達の間に加わり、一緒に遊んだりもしたが、友達が帰り、二人きりになると会話も消えた…
正月になればお年玉もくれた…車の免許を取った時にはドライブにも連れて行ってくれた…他人から見れば「良い兄」に見えるのだろう。
僕が中学校3年生になる頃には、兄は全くの他人という感覚になっていた…僕は世間で言う所の「不良」ではなかったが、学校も休みがちで勉強も得意ではなかった。人並みに「悪い友達」も「良い友達」もいた。
学校での成績は酷い物だった…当然、進学は諦めていたが、母親と兄から説教を受け、進学を強要された、担任の先生とも相談したが、受験に成功出来そうな学校が見つからなかった。
結局は地元でも有名なレベルの低い私立高校を受験する事になった…
ちなみにこの私立高校は…「名前が書ければ誰でも合格出来る」という噂があった程のレベルの低さだ。
そんな事よりも僕は私立高校の高額な学費の方が心配だった…
母親は受験の合否を相当心配していが、落ちる筈の無い、私立高校だ…あっさりと合格した。
僕の高校受験合格が兄にも告げられると、突然兄は、一人暮らしを宣言した…
理由は何となく解っていた…入学金、毎月の授業料、通学費などの負担が自分に来る事を恐れたからだ。
そんな事に気付きもしない母親は、相変わらず兄を溺愛し、兄の新しい生活の為に笑顔で手助けをしていた。
僕が入学式を迎える頃には兄の姿はなく、母親は酷く落胆している様に見えた…母親にとって兄は大事な存在だったと思う。一度は父親を選び、自分の元を去っていった兄が、立派な大人になり、自分を頼って帰ってきたのだ…もう一度、失う辛さは堪え難い物があっただろう…
そんな生活の中で僕の存在は消えていった…
高校に入学してからはバイト主体の生活になった…何故なら、母親から言われたからだ、授業料、通学費、食費は全て自分で稼ぎなさいと。
その一方で母親は兄に車を買い与えたりしていた…母親と僕の二人で助け合い、差さえあって来た生活に、兄が加わった事で何かが変わってしまった…少しづつ何かが壊れ始めてしまった…そして僕の存在はさらに消えていった。