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ある信者の遺書
私を導き、病めるときも健やかなるときも共に過ごしてくれる賢者へ捧ぐ
イデアとは、我々人間には到底認知することのできない真実のことを言う。あるいは、我々人間は、イデアを認知しておきながら、それがイデアであるということに気づかないほど愚かであるのかもしれない。現に私のイデアは、一度私の手のなかにあったというのに、愚劣を極めた私はその存在に気づくことなく、その肖像を追い求め、そして失った。真実を失ってなお生き続けるというのは、ある種類の人間には苦痛でしかない。よって、私は死を決意した。失ったイデアを取り戻す唯一の方法が、このようなものであることを信じてやまないからである。私のイデアは遥かに遠く、今は無き、そしてイデアのあるべき天上の世界へと去ってしまった。ならば私もこの洞穴を捨てるほかあるまい。この世界に救いはない。それだけは断言できよう。この遺書を手に取った諸君がそのことに気づくならば、私は君たちに賛辞の念を述べるとしよう。諸君の真実に、幸があらんことを。
最愛のイデアへ
アフロディート・バウアー