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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第六章 それぞれの過去に
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TSヒロイン・対価

2019/04/24・25に投稿した『黒幕』『分け与えた』を結合し表現を中心に改稿しました。

 力を使い果たした身体は、まるで自分のものじゃ無いみたいに違和感の塊だった。

 首から下はもっさりとしたぎこちない動作でしか動かせない。

 いや、首から上、思考回路さえもがまるで霞がかかったみたいに上手く巡らない。


 それでも、辛うじて意識を保てたのは、オレよりも大怪我をしているはずのアル君が支えてくれているから。


「最後の魔法……いや、法術、か。凄かったよ。他力本願な力だなんて馬鹿にしてたけど、凄いもんだね」

「う、うん。アル君助けたくて無我夢中だった。良かった、アル君生きてた……」


 痛々しい傷を残してしまった。

 だけど、生きて再会することは出来た。


「リョウ……ありがとう。君が止めてくれた、君が頑張ってくれた。だから、またこうして抱き合うことが出来た」

「うん、うん……オレも……オレもアル君と会いたかった。やっと取り戻せたのに、あのままお別れなんてしなくて良かった」

「リョウ……」

「アル君……って、再開喜ぶ前に、まずアル君の傷を見るのが先!」


 ベルトを無理矢理に巻き付けただけの応急処置。

 正直、意識を失わないで居るのが奇跡以上の何物でも無い。

 どうする?

 どうやればいい?

 さっきの法術は魔術のイメージを応用して使う事が出来た。

 だけど、治癒……

 治癒なんて何をイメージすれば良いんだ?

 急げ、思考を止めるな。

 思考を続ける限り、出口は必ず見つかるはずなんだ!


「リョウ、大丈夫だから慌てないで。キミの身体が纏っているその光のおかげなのか、痛みはかなり和らいでいるんだ」

「ほんと? 嘘じゃ無い? 出血しすぎて意識飛びかけてるとかじゃない?」

「アハハ、本当に大丈夫だって。それに、ほら……ソウルドレイクを階下に降ろした黒幕が、もうそこに来ているんだから。弱った姿は見せていられないよ」


 黒幕?

 振り返ると、そこには父さんとカーズさんが居た。


 ???


 頭の中に浮かぶハテナの山。

 いや、冷静に考えれば、ブルーソウル(ソウルドレイク)なんてバケモノを階下に落とすような真似が出来るのは、カーズさんぐらいなものだ。


 だけど、百階で待つと言ったこの人が、何でここに居る?

 と言うよりも、何で父さんが黒幕みたいな感じでドヤ顔してるんだ?

 あんた中年のくせに張り切り過ぎて腰痛で動けなかったよな?

 そして、何で父さんの真似してモンジロウも腕組んでドヤ顔してるんだろう?


 ……いや、まぁモンジロウは良いんだ。


 たぶん真似してるだけだろうから。

 それよりも、カーズさん……何の思案があってこんな真似をしたんだ?

 そもそも、オレ達の能力を十分に知っている人が、あんなバケモノを乗り越えろってちょっとやり過ぎじゃ無いのか?

 まぁ、オレ達も乗り気と言うか調子に乗っていたから、オレ達にも非は確かにあるけど。

 それにしても、どうしてここまで苛烈な試練を与えてきた?

 そのせいで、アル君は片腕を失ったんだぞ……


 ゴッ! と鈍い音が一つ。


「「リョウ(良)ッ!!」」

「ひゃんっ!」


 カーズさん以外の三人から叫びが上がる。

 気が付けばオレは、カーズさんの頬を思いきり殴っていた。


「ぐ……ぅ……」


 呻きを上げたのはカーズさんじゃなく、オレだった。

 カーズさんを殴ったはずのオレの拳は、まるで分厚いトラックのタイヤでも殴ったみたいな衝撃に悲鳴を上げたのだ。


「リョウ、やめるんだ!」

「試練にしたって、こんなの酷すぎるだろ!!」

「ダメだ、リョウ! 先生は意味の無い事をする人じゃ無い。それはキミだって十分にわかってるだろ」

「だけど、だけどさ! だけど、さ……」


 アル君がボロボロの身体でオレを止める。

 頭じゃわかっている。

 わかっているんだ……

 だけど、全てに理由があったとしても、この試練はあんまりに過ぎる。

 納得のいく理由なんて本当にあるのかさえ疑問だ……


「よい、アルフレッド。リョウの持つ怒りはわかる。気が済むまで殴らせよ」

「ですが先生! ここでリョウを止めずに先生を殴らせ続ければリョウの拳が先に破壊されます! だけどリョウは、それぐらいで自制して殴るのをやめるタイプの人間じゃ無いんです!」


 ……おい。

 人が誰のために怒ってると思うんだ?

 自分の恋人をバカな猪みたいな扱いするな。


「リョウの性格は俺に似てるからなぁ」

「失礼な!?」

「ひゃんっ!!」

「モンジロウまで、なすて!?」


 やべぇ、この空間、オレに超アウェーだ。

 何で酷い目に遭わされたオレが弄られにゃならんのか。

 

「さて、話はまとまったか?」

「全然!!」

「そうか、なら話があるなら後で聞いてあげよう。まずはアルフレッド……」


 カーズさんは抗議するオレをあっさりとスルーしてアル君の前に立つ。

 カーズさんが手をかざすと、柔らかな光がアル君を包み込む。

 腕の再生はしていないが、眉間の皺が消えている辺りおそらく癒やしの奇跡ってヤツだろう。


「随分と手痛い目にあったな」

「おかげさまで」

「……自分の中の闇、見つめ直す事は出来たか?」

「嫌と言うほどに……」

「そうか、お前は幼くして賢かった。いや、賢すぎた。自由に生きているように見せて、解放出来ぬ心を縛り付けたまま闇を抱え、それを膨らませすぎた」

「はい……」

「風船と同じだ。膨れ上がった心は、弾力を失い、何時破裂してもおかしくは無い状況に陥っていた。だが、今更こじれた糸を自ら解きほぐす事も出来ず、苦しみのたうち回る日々は、さぞ辛かっただろう……」

「や、やめて下さい、そんな優しい言葉……全部、全部ボクのせいなんですから……」

「馬鹿者、どうしてお前はそんなに不器用なのだ。その頑なさと己の中で抱え込む癖が、今のお前の苦しみに繋がっているのだ」


 苛烈な試練を与えた人とは思えないほどに優しい微笑みをたたえながら、アル君の頭を撫でるとその視線がオレへと向けられた。


「よくぞ、このバカ息子の心を解き放ってくれた。感謝する」

「え、いや、あの……あ、カーズさん、今息子って……」


 見るとアル君が真っ赤な顔でうつむいている。

 がるるるる……と一瞬オレの中のヤキモチ犬が吠えかけたが、まぁ、仕方ないか。


「コイツをあのまま放置していれば、やがて自ら心を壊し、新たな魔王として……おそらく、今具現化している魔王達よりも凶悪な魔王となり世界を崩壊させていたかもしれん。そうなれば、未来にあるお前達の世界さえも崩壊させていた可能性があった」

「……え?」


 今さらっと言ったけど、アル君の力ってそれだけヤバかったってことか?

 うわぁ……

 オレ、よく止めること出来たな。


 ……うん、愛の力だ。間違いない!


「本来なら時間を掛けてお前の心の闇を解きほぐしたかったが、お前の残された寿命を考えるとそんな猶予も無かった。魔王と成り果てて永遠を生きるぐらいなら、せめて残り僅かな余生を人として生かしてあげたかった」

「先生……ご免なさい……何もわかって無くて、ご免なさい……」


 涙ぐむアル君をカーズさんが優しく受け止める。

 なるほど、アル君の強情な性格を考えると、そう簡単に矯正する事は出来無い。

 だけどアル君の残り僅かな寿命を考えると、悠長にことを勧める事も出来無い。

 だから危険を冒しても人として生きられるよ、アル君に強烈な敗北を与えたブルーソウル(ソウルドレイク)と戦わせる道を選ばせたのか。

 これは、アル君に人として生きて欲しい……そう願うカーズさんの親としての優しさだったのか。


 …………ん?


「ねぇねぇ、カーズさん」

「なんだ?」

「アル君の残された寿命とか残りの余生って、何?」


 そりゃ不老長寿みたいなカーズさんからすればオレ達の寿命なんか瞬き程度かも知れないけど、どうにもそんな感じじゃ無い。

 だって、アル君がオレの隣で引き攣った笑いを浮かべてるもん。

 多分だけどオレから死角になっている方の顔半分で、カーズさんに目配せしているんだろうなってのが気配でわかる。


 こいつ、絶対にまだ何か隠し事していやがる。


 しかもガチで重要なことを。

 アル君の態度にカーズさんが肩を落とす。

 確信した、やっぱりアル君、オレに何か隠してやがる。


「アルフレッド……お前の態度で確信した。リョウ、以前に私の言ったことを覚えているか? アルフレッドの残された寿命のことだ」

「えっと、オレに寿命を与えたってヤツですよね。でに魂をバイパスしたことで寿命が補填されたんですよね?」

「そこで、止まっているか……」

「え? まさか……」

「なるほど、このバカの事だ自分の事でいっぱいに成り真実を伝える機会を逃し今に至ったのだろう……人の失われた寿命はそう簡単に補填されるはずがなかろう。あれだけ無茶をやらかしたのだ、アルフレッドの残された余命は、おそらく三年もあるまい……」

「え、あ~……その、何と言いましょうか……リョ、リョウ?」


 目の前が真っ暗になった気がした。

 やっと取り戻せたと思ったのに。

 これからオレ達の日常が始められると思ったのに……


「何で……」

「リョウ、だから、さ……」

「何で……」

「えっと……」

「何で……」


 ふつふつと込み上げてくるもの。

 真実を黙っていたアル君に対する怒りは勿論ある。

 だけどそれ以上に、オレは何であんな単純な嘘に騙された。

 そんなのは、決まっている。

 

 騙されたいと思ったからだ……


 その方が、自分が恋人の命を奪ったという罪悪感から逃れられると思ったからじゃないのか?


 拳がブルブルと震えた。


「リョウ、自分を責めるな。この嘘はそこのバカの懇願でもあったのだ」

「懇願?」

「どうか、真実は何時か自分の口から伝えるから黙っていて欲しいとな……まさか、この後に及んで伝えてないとは思わなかったがな」

「リョウ、その、黙ってたのは……」

「………………ぅ」

「リョ、リョウ!?」


 ボタボタと涙が溢れ落ちる。

 泣いたってどうにもならないのはわかっている。だけど、止める事はできなかった……


「何で、オレなんかに……」

「散々、傷付けちゃったけど……それでもキミが、誰よりも大切なんだ……」

「そう思うなら、アル君が隣に居なきゃダメだろ!!」

「……ごめん」

「謝るな! そんなこと言われたら……言われ、たら……」


 散々傷付けた?

 違う、アル君を振り回して傷付けてきたのはオレだ。

 それなのに、アル君の命まで貰ったままだったなんて……


「ごめん……」

「バカ、だよ……」

「ごめん……」

「ふぇ……」


 ダメだ、口を開けば涙声しか出てこない。


「リョウ、その阿呆に腹が立つのも、自分自身を許せないのもわかる。だが、今はその気持ちの高ぶりを少し抑えよ」

「だけど、だけどカーズさん……だけど……」

「よく聞け、失われた物が戻る事は無い。だが、その阿呆に寿命を与えることが出来るのもまた、お前の力があればこそなのだ」

「え……? アル君、長生き出来るの? あげます! オレの命あげますから、だから!」

「ダメだ! 何のためにボクが……ボクはキミに生きていてほしいんだ!」

「でも、でも! それならオレだってアル君に生きてて欲しいんだ! アル君が生きててくれないと、オレ……ッ!」

「りょ、良! それならお父さんのあげるから! 分けるのは40年……えっと、まだ家のローンが28年くらい残ってるから、15年ぐらいで良いなら!」

「ひゃん!」

「ほら、モンジロウも3か月ぐらいなら良いよって言ってるから!」

「ひゃん?」

「えーい、なら父さんのおもちゃコレクション、オクに流して良いから! そ、それなら家のローンも20年以上は圧縮出来るはずだ。ああ、でもそうだなぁ……せめて愛ちゃんがお嫁さんに行くまでは……いや、せめて結婚したいと紹介された男に『お前に娘はやらん! どうしても娘が欲しくば我が最強の奥義を見事受けきってみせよ!』って宣告した後にとどめ刺せるだけの時間を残してくれれば良いから! あ、出来れば綾さんが老後に困らないように保険三つぐらい掛けて、だけど、綾さんが保険金殺人を疑われないようせめて保険を掛けてから5年は生きて……」

「ひゃん!」

「そ、そうだな、2億ぐらい保険金が出れば、綾さんの性格なら十分に生きて……ああ、でも、せめて孫は抱きたかったなぁ。出来れば『じぃちゃん、ランドセル買ってくれてありがとう』とか言われたかったし、一緒にアニメ見たり遊びに出かけたり、夜に花火をやりながら、『見るんだ、アレが日本ハムファイターズの星だ』とか言って、養成ギプスとか買ってあげたり……一緒に異世界転生勇者ごっこやったり……なあ、分ける寿命はやっぱり10年位でいいか?」

「………………」

「アル君に貰ったのはオレだもん! それならオレの全部返すもん!」

「だからリョウは生きて!」

「ひゃん!」

「えーい持ってけドロボー! なら俺の寿命20年だ! これ以上は綾さん達に住宅ローンを残すかもしれないから、それ以上はローンが終わり次第の再交渉ってことでどうだ!!」

「……………………………………やかましい」

「お義父さんから分けて頂くわけにはいきません! そんなリョウの家族を悲しませるようなことは!」

「アルフレッド君! 俺は交際を認めたが、キミにお義父さんと呼ばれる筋合いはまだ無いぞ! 良を嫁に欲しくば俺の必殺技を見事受けきって――」


「いい加減にせんか馬鹿者共!!!!」


 しーん……

 と言うか、ビリビリと言えば良いのか……


 鼓膜が破壊されるかと思った。


「え……っと」

「誰の寿命もいらん! 少しは冷静に人の話を聞かんか!!」


 カーズさんは深いため息をつくと、手の中に真っ白な氷のような炎を生み出したのだった。

全体改稿中で既存の読者様にはご迷惑をおかけしております。

間もなく新章が始まります。

今しばしお待ちください。

あと、次話以降、展開が結構変わる予定になっております。

引き続きお楽しみ頂ければ幸いでございます

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