表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第六章 それぞれの過去に
96/266

TSヒロイン・霧

2019/04/15・17に投降した『守護る』『真名』を結合し、誤字表現を中心に改稿しました。

 それは、この世の獣全ての怨嗟を練り上げたみたいな咆哮だった。


「すっかりコイツの存在忘れてた!」

「絶対に忘れちゃいけない存在だったけどね」


 ヤバい、コイツにリベンジかますのが目的だったけど、アル君を説得するのに力を使い果たしてしまった。

 どうする?

 どうすればこの状況を打開出来る?

 アル君に二度とあんな戦い方はさせたくないし……

 と言うか、それ以前にアル君自体が俺のせいですでにボロボロだ。


 どうすれば良い?

 逆転の秘策は……


「秘策?」


 俺はそこでふと思い出す。


「そうだ!」

「何か思い付いたのかい?」

「思い付くも何も、アル君が向こうの世界で見付けた技があったじゃん!!」

「技……ああ、そうだった!」


 ええい、このうっかりさんめ!

 でも、そんなうっかりさんなオレ(・・)のアル君も可愛いけどな!!


 って、今は惚気てる場合じゃ無い。


「ほら、例の『魔竜封じ』って書いたお札貼っ付けた小瓶出して! 何なら電子ジャーでも良いから!!」


 ぶっちゃけアル君が向こうの漫画で発想したというか、モロパクリで思い付いたのが魔〇波だった。

 ようは倒せないなら封印すれば良い。

 という結論に達したのだが、何せ道具が無ければ話にならん。

 敵は目と鼻の先に居るのに下準備が必要な技だ、急かさずにはいられない。


 だけど、そんな慌てる俺をよそにアル君の視線が宙を泳ぐ。


「おい?」

「リョウ、怒らずに冷静に聞いて欲しい」

「何?」


 嫌な予感しかしない。


「ボクはソウルドレイクに気が付い急いで飛び出した。そんなボクに、お札や入れ物を持ってくる暇があったと思う?」

「あああぁぁぁぁぁぁ……やっぱりだ! って言うか、そんな遠回しな言い訳いらないから! スッと言えよ!!」

「うん、道具忘れちゃった、てへ」


 ポコンと軽く自分の頭を小突いて舌をぺろりと出す。


 アル君可愛い♪

 って、可愛いけど!

 可愛いけども!!


 今はそれどころじゃねぇですし!!

 しかも貴方、オレに頭突き喰らってからちょっと性格変わってません!?


 背後からビシバシと刺さる殺気を纏った視線。


「やれやれ……よっと」

「アルくん?」


 ボロボロの姿(おおむねオレの責任)で立ち上がると、オレをかばうみたいにしてソウルドレイクとの間に立ちふさがる。


「ま、惚れた女を逃がすための時間稼ぎぐらい、今のボクでも出来るさ」

「アル君……」


 その言葉、嬉しいけど。

 熱が出ちゃうぐらい嬉しいけど!


「おバカ!!」

「ちょ、お馬鹿は無いだろ!」

「誰がそんな格好付け望んだよ!」

「どうしようも無い姿を散々見せたんだ。少しは格好付けさせてよ」

「だったら、オレに見せるのは過去と決別した姿だ! 自分の命を犠牲にするような、そんな間違った格好付けなんか見たくない!!」

「リョウ……」

「オレのこと幸せにすれって言っただろ! やっぱあとでアル君にはお仕置き頭突き決定!」

「や、それはソウルドレイクとタイマンかますより勘弁してほしいんだけど」

「だったら……だったら! ここはお互いを守護(まも)って生き抜くんだよッ!」

「ふ……アハハハハハッ! 了解したよ。今度こそキミとの約束は守護(まも)ってみせる!」


 ボロボロのオレ達は、まるで今から今日初めての戦闘を始めるみたいに――


 笑って構えるのだった。


 


 それは、どれほどの時間が経っただろう……


 果てしない時間の中で戦い続けたような、一瞬でもあったような……

 

 網膜が光を失いかけるほどの閃光が世界を焼いたかと思えば、雷を纏った凍てついた氷柱が空間を穿つ。

 業火が渦巻けば、鈍色の閃光が空を切り裂き赤を断つ。


 とっくにすっからかんだと思った身体は、奇妙な高揚感を覚えながら腹の底から沸き上がる何かに突き動かされる。


「リョウ!」

「オッケー!」


 あれほどぎくしゃくしていたオレ達。

 だけど今は、アル君が何を求めているのかオレが何を求めているのか、お互いが手に取るようにわかる。



「「大地よ大地 我が母よ 我は汝が子なり

 たとえ血の一滴繋がらずとも 我が肉は貴女の賜なり

 紡がれし時の恩恵の一欠け一紡ぎ 貴女の子に貸し与えたまえ

 我は母なる大地の精クローディア 貴女に助けを請う者なり」」



「「クリスタルウォール!」」


 同時に紡いだ魔術が暴食竜ソウルドレイクを取り囲む。


「どんどん行くよ、アル君!!」

「上等!」


「「古き王の露払いたる種火よ、その気高き力の一欠片を我に恵み与えたまえ」」


「「瞬炎!!」」


 解き放った炎の魔術が硬質な輝きの中で暴れ狂い、再生を繰り返すソウルドレイクの肉体を蜿蜿と焼き払う。

 あの見上げるほどに巨大だった肉体が業火に焼かれ、見る間に縮んでいく。

 だが、オレもアル君も知っている。


 この程度で倒せる相手じゃ無いのを。


 気を抜けば瞬く間に再生を開始しするソウルドレイク。

 オレ達が当初見立てた倒した敵の魔素を吸収して復活するという負のサイクル。

 だが、ソウルドレイクの回復量は、明らかにオレ達が倒して巻き散らかした魔素の量を遙かに上回っていた。


「アル君、疑問って言うか、予想した事があるんだけど……」

「奇遇だね、ボクもたぶん同じ事を考えてた」

「じゃあ、同時に」

「オッケー」


「「アイツ、オレ(ボク)達が使う魔素も食ってるよね」」


 お互いの声がほぼハモった。

 そして、お互いぎこちない笑みを浮かべての、グータッチ。


「オレ達息ピッタリだね」

「こんな形でのピッタリは勘弁して欲しかったけどね」

「ほんと、何で最悪な予想がハモっちゃうかな」


 魔術や魔法で攻撃すればするほど回復される。

 酷い永久機関もあったもんだ……


 今のオレ達じゃ武器で殺しきるのだって不可能。なら、弱点なんてあるの、か……


「そうだ!」

「やめときなよ」

「え?」

「例のステータスとか言うヤツで、ソウルドレイクの能力を探る気だろ」

「何故その秘密を」

「キミがやりそうな事ぐらいは気付くよ。自分の情報探って頭がパンクしかけたの忘れたの?」

「覚えてる、超覚えてる! だけど大丈夫、今度は自重するから!!」


 満面で微笑むオレに、アル君がいぶかしむ視線を向けてくる。

 いや、オレも流石にそこまでバカじゃないですよ。

 バカじゃないんですよ?


「大丈夫! 今度はホントに気を付けるから」

「……わかった。もし怪しければ、途中で止めるし、最悪ここからは全力で撤退するから」

「撤退しても良いの?」


 撤退。それは、ソウルドレイクへの敗北を意味する。

 この敗北でカーズさんが全てを切り捨てるみたいにオレ達を見放すとは思わないけど、だけど、その可能性はゼロとも言えない。

 何より撤退、それはアル君にとって三度目の敗北……

 心をあれほど病んだ敵を相手に、逃亡はさせたく――


「リョウ、もし同じ敵に三度の敗北を喫したとしても、キミ以上に大切な事なんてあるはずが無いよ。だから、キミが何かの可能性をそこに見いだすなら、ボクはそれを全力で応援する。支えてみせる。だけど危険と思えば躊躇なく撤退する」


 うぉー!

 うぉー!!

 うぉー!!!


 うぉおぉおおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおっ!!!!


 き、聞きましたか、天地あまねく全能なる精霊と、ゴッドオブカーズ様!

 あのアル君がさらりとデレをぶち込んでくれました!!


 愛あるデレです!

 デレなんです!!


 た~ぎってきたあぁあぁぁぁぁぁっ!!


「アル君の為にぶちかますぜ、イヤッフー! スッティタ~ス!」

「ちょ、テンション上げすぎ! それ失敗する勢いだから!!」

「大丈夫! ま~かせなさいっ!!」


 おりゃあぁあぁぁあ!!

 全部さらけ出しやがれ、腐れドラゴン!

 アル君の為にネットに晒す勢いでお前の恥部まで炙り出しちゃるぜ!


 ――暴食竜ソウルドレイク――


 DATA

 能力 すべてが計測不能

 弱点属性 炎・氷・土・風・雷・闇・邪……

 吸収属性 炎・氷・土・風・雷・光・聖……

 真名 ブルー……


「え、どう言うこと?」

「リョウ、どうしの? 頭のネジは大丈夫!?」

「……さらっと酷いこと言われた気がするんですけど」

「気のせい」

「う~……」

「とりあえず、何がわかったかだけでも教えて」

「あ、うん。何か釈然としないけど、わかった事は教えるよ。あのね、弱点属性なんだけど、俺が向こうの世界のゲーム感覚で想像出来る全ての属性が弱点なんだよ……」

「全ての属性? それって、炎とか冷気みたいな事かい?」

「うん。だけどね、全ての属性が吸収属性になってる……これって、どう言うこと?」

「それって……え?」


 アル君の顔がこわばる。


「ア、アル君?」

「リョウ、もしそれが本当なら、ボクは根本から勘違いしてかもしれない」

「え?」

「魔素を吸収する。それ自体は間違いないかも知れない。だけど、コイツにはそもそも魔術も魔法も通じなかったんだ」

「そ、それって……で、でも全属性が弱点だったよ! 実際、燃えたし削れてるし!」

「問題はそこだよ」

「え?」

「コイツは全ての属性が弱点。例えば炎に水を使えばより効果的だ。だけど、同じ液体というくくりだとしても、炎に油をぶち込めば真逆の結果になる」

「?? えっと、それって……全ての属性は弱点だけど、何かの反転作用で炎に炎をくべる以上に回復しちゃう……ってこと?」

「おそらくは1+1どころじゃなく、弱点という要素を-5としたら、そこに×の要素が加わる事になるんだ。こちらの力が強いほど、ソウルドレイクの力は増していく」

「で、でも、マイナスだったら弱ってくんじゃ」

「あくまで仮説としてマイナスを持ち出しただけだよ。それに仮にマイナスだったとしても、攻撃という破壊の力をマイナスと表現するなら数字は膨らんでいくよね。しかも相手はこの世の理から外れたアンデッドだ……ただのマイナスとて力に換える可能性は十分にある」

「うひょ~、改めてファンタジー世界に来たって感じだよ。でも、こんな形で感じたくなかったなぁ……」

「ファンタジー、ね。君の世界の価値観からしたらそうだろうね。そういや、今思えば先生がボクを助けるためにソウルドレイクを調伏したと時も魔法じゃなく剣だった……くそ、コイツとボク達との相性は端から最悪だったわけだ。それを知った上で課題を出すとか……やってくれる」

「……ん?」

「どうしたの? 戦い方を誤った以上、急いでこの場から撤収した方が身のためだ」

「や、あのね、俺の世界の感覚だと、アンデッドって闇属性で光属性とか聖属性に弱いんだけど」

「こっちの世界でもその認識で間違いはないよ」


 んん??


「え? だ、だけどさ、コイツの弱点、闇と邪とか付いてるけど……あ、なんかその属性反転とか訳のわからない能力のせいだったとしてもね、何故か弱点に聖も光も無いよ」

「…………」

「それどころか、吸収属性に光と聖はあるけど、闇も邪も無いんだけど」

「…………え?」

「あとあと、真名ってのがあったんだけど。あ、俺の世界で真実の名前って意味なんだけど、そこにブルーソウルって出てるんだけど」

「何……だと……」


 アル君の声が、かつて無いほど震えていた。

 それは、明らかな驚愕。


「何か、どこかで聞いた事ある気がするんだけど。その様子だと、アル君知ってる……よね?」

「……リョウ」

「え、え? な、何、アル君? や、やだなぁそんな顔して驚かさないでよ」

「ボクは、そもそも大きな勘違いをしていた。戦い方の練り直し所じゃ無い。よほどの奇跡でも起きない限り、この戦いに勝ち目なんて無かったんだ……」

「それって……もしかしなくても、絶望系?」

「ブルーソウル、全ての竜族の頂点に立つ存在にして、かつて全ての魔物達の母【刻喰らい】と戦った竜の神。そして、先生の最後の盟友……」

「……え?」

「ボクたちの共通の先祖、竜王ラースタイラントですら……竜神ブールソウルの力の残滓で生まれた存在に過ぎない……」


 告げられた真実。

 勝利の二文字が、霧の中に霧散した。


全体改稿中で既存の読者様にはご迷惑をおかけしております。

もう少し先になりますが、展開が大きく変わると思いますので今しばしお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ