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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第六章 それぞれの過去に
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アルフレッド・

2019/04/04~6に投降した『ひぐらし』『闇』『その姿に』三話を結合し誤字表現を中心に改稿しアル君の闇を深めました。

アル君が語っている境内のやらかしは、いつか夏目(大人)の方で公開する予定です。

本気で裏の方更新予定です(半年ぶりだけどね!)

 自分の独占欲が異常だって事くらい、ボクだってわかっていた。


 リョウが浴衣と言う愛らしい姿で見知らぬ男共に声をかけられているだけで、心の奥底がザワザワと泡立ち始める。

 少しでもキミを傷付ける存在なら皆殺しにしてやろうとも思った。

 だけど……

 ああ、君の表情を見たらわかったよ。

 そのチンパンジー共は、キミがこの世界に居た時の友人だったと。


 ……だからといって、それがボクのリョウに絡んで良い理由にはならない。


「悪いねガキ共。この娘はとっくに俺が目を付けてたんだ、ナンパは余所でやんな」


 気が付けば身体が動いていた。

 リョウは当然だけど、突然の出来事に目を白黒させていた。


 何だよその反応、とか思ってしまったけど、今のボクもまたこっちの世界の浴衣という物を着ているし、何よりボクはリョウの隣を歩いてもおかしくないように魔術を使って成長した姿だった。


 ……自分でやっておきながら、実に間抜けな話だ。


 どこか不審と不安で警戒する彼女。

 正直、ここまで気が付かれないのも悲しい物はあったけど、その後の言動で、全てはボクを愛してくれているからだとわかって、むず痒いような、何とも言えない幸せな気持ちが溢れてきた。

 お祭りと呼ばれ祭典でも、リョウは本当に可愛かった。

 正直、境内と呼ばれるこの国の神聖な場所でちょっとやらかしたのは、秘密中の秘密だ……


 ただただ、君がボクの中で溢れていく。

 幸せ、だった……


 今なら、もしかしたら自分の本心が話せるんじゃ無いのか?


 ……

 …………

 ………………


 結局、そう思っただけで、自分の本性は欠片も見せる事は出来なかった。

 ただ、訳もわからない焦燥感にかられ、気が付けばリョウに呪いじみた、異性を寄せ付けない魔術まで使っている始末。


「いかれてる……」


 縁側とかいう庭先に横になりながら、思わず呟いていた。


 キーン……カナカナカナカナ……


 それは、不思議な音色だった。

 遙かな望郷を思い出させるみたいな、終わりゆく季節を懐かしむみたいな、そんな音色。

 そう言えばボクが昔こっちの世界に来たとき、リョウが大怪我した時にもこの鳴き声が聞こえてたんだっけ……


 キキキキキキキ……


 夕暮れ。

 ボクが居た故郷には無かった、どこかもの悲しさと夏の終わりを纏い始めた風が吹いていた。

 こっちにきて、もう二週間近くが経過していた。


 キーン……ケケケケケケケケ……


 戦いも何もかもを忘れて過ごす日々。

 時間だけがやけに早く流れて、まるで自分がこの世界の住人にでもなれたみたいな錯覚さえ覚える。


 ここしばらく、アイツは出て来ていない。


 夕空にかざした手。

 先生に言われた、自分達の存在が幻想に過ぎないという真実。

 自分を否定すれば、この世界に留まる事さえ出来ない脆弱な存在。

 そんな脆弱なガキが、自分の本音にさえ怯える日々。


 この世界に居れば、煩わしい事を全部忘れて、ボクは、ボクのままでいられるんだろうか?

 あんな自分を、もう思い出さずに済むんだ……


「ハハ、何考えてんだか……ただ、誤魔化しばかりが上手くなっているだけだ……何も、何も変わりゃしない」


 我知らず呟いていた、リョウにさえ言えない本音と言う名の弱音は、


 キーン……カナカナカナカナ……


 夏の落とし子が奏でる鳴き声の中に、砕けて消えた。




「ひゃん!」


「ん……?」


 ボクの足下にいつの間にか座っていたモンジロウ。

 後ろ足で立ち上がると、タシッとボクの膝に前足を乗せる。


 気が付けば、あたりは薄暗み色。

 夜風にわずかな冷たさが宿り、地平にはいまにも沈みそうな夕日が頭だけを残していた。


 何時の間に寝落ちしたのか、それとも時が過ぎるのも忘れて考え事をしていたのか……


「わふっ!」


 モンジロウは小さく一鳴きすると、ボクの膝頭をカリカリと甘撫でしてくる。

 その頭を軽く撫でてあげると、鼻から息を漏らしながら眼を細め尻尾をブンブンと振る。


「……ごめんな、モンジロウ。変な魔術を使ってまで、キミのご主人さまを独占しちゃって。お詫びに豪華な小屋を建てたんだからさ、どうか許しておくれよ」

 

 モンジロウはピスピスと鼻を鳴らして、ボクにおでこを押しつけてくる。


「もしかしてキミは、ボクを慰めようとしてくれてるのかい?」

「ひゃん!」

「ハハ……ボクも犬相手に何を言ってんだか……」

「わんっ!!」


 それはまるで、わかってるよ! とでも言いたげな鳴き声。


「そっ……か、犬ってのは人間に寄り添う、感受性豊かな動物だったっけ。それとも、キミが特別に優しいのかな?」


 モンジロウを抱き上げ、膝の上に置く。

 あれだけ元気に走り回っていたモンジロウの姿が、嘘みたいにボクの膝の上で丸まって大人しくなる。


 そういや、誰かが言ってたな……

 ペットは飼い主に似るって。


「キミのその優しい性格や、甘えん坊なところはご主人さまに似たのかい? それとも、他の家族の誰かかい?」

「ひゃん?」

「あはは、ボクも犬相手に、何を言ってるんだか……ねぇもし良かったらだけど、聞き流してくれて良いから、ボクの話を聞いてくれるかい?」

「ひゃん!」

「ありがとう、モンジロウ。あのね、ボクにはね、本当の親は居ないんだ。もしかたら、どこかでまだ生きて居るのかも知れないけど、会いたいとは欠片も思っちゃいない」

「くぅん……」

「アハハ、そんな悲しそうに鳴かないで。ボクは今さらそれを別に悲しい事だなんて思っちゃいないし、親が居ないという事実だけを見れば、それは、あるいは悲劇かも知れないけど特別珍しい話じゃ無いから」


 そう、異世界人であるボクだって知っている。

 この豊に見える世界にだって、そんな話が山ほど溢れているのを。


「それにね、モンジロウ。ボク自身はそれが今さら不幸だなんて思っちゃい居ないし、思っちゃいけないだけの事をしてきた自覚はある。それなのに、ボクには誰よりも尊敬する先生が居てくれた。そう考えたら、本当に一人ぼっちな子供や、君達親を知らない動物たちよりも遙かに恵まれてる」


 そう、ボクは恵まれている。

 厳しかったけど、誰よりも温かく教え導いてくれた人が居て、かつて心の支えとなっていた友人が、今やボクを心から愛してくれる恋人になってくれた……


「ボクは……誰よりも、恵まれているはずなんだ……そりゃ、上を見たらキリが無いけどさ、それでも、こんな生き方をしてきたボクには、上出来すぎるぐらいの……幸せ、だ……」


 それ、なのに……

 リョウの事を好きなればなるほど、まるで太陽を求めた羽虫がその光に焼かれるみたいに…… 

 あるいは、太陽が遙か天頂にあるとも知らず、無知のままに飛んでただ求め続け、追いすがる事さえ出来ずに力尽きて地べたに落ちる鳥みたいに……


 嗚呼、被り続けていた仮面の何と薄っぺらい事だろう。


 先生にかつて言われた『お前の闇は深い』と言う言葉。

 それが今さらながら実感となって降り積もる。


「あの言葉は、ボクが向こうの世界にばらまいた悪意って意味かと思ったんだけどな……まさか、ボク自身の闇でもあったなんてね……」

「ピスピス……」

「ごめんな、何の話かわかんないよな」


 モンジロウの頭を撫でながら、懐から取り出した古ぼけた箱。 

 先生から貰った、奥さんとの思い出の品。そして、その奥さんの両親が残してくれた、長い時間を紡いだ思い出の品。

 

 この時代は、指輪で婚姻を誓うと聞いた。


 正直、ボクの財力なら指輪の新調は簡単だ。

 だけど、あの先生がこの指輪をボクに託してくれた事の意味、それを噛み絞めたら、これ以上の品物なんて用意出来るはずも無かった。


 だけど、今は……


 リョウにこの指輪を渡す資格があるのか、そもそもボクがこの指輪を持つ資格があるのか、それさえもわからなくなっていた。


「愛してる、それに嘘は無いんだ。リョウが居なければ、何時だって前に進む事が出来ないのはボクなんだ。ただ、自分の闇を消せる日が来るのか……」

「くぅん……」

「先生が望んでくれたみたいに、人として成長出来るのか……それさえもわからなくて、怖いんだ。いつか自分の中の穢れた感情が、リョウを傷付けるんじゃ……」

「ぴすぴす……」

「ごめんな……こんな話、しちゃって……」


 寄り添ってくれる、モンジロウの温かさがとても心地良かった。

 そういや、前にリョウと一緒になったら、犬を飼おうって話をしたっけ。


「ねぁ、モンジロウ」

「ひゃん?」

「もし、キミさえ良かったらだけど、ボクがリョウと一緒になる事が出来たら、ウチの子にならないかい? ……なんて、な」


 キミはここの家族に愛されている、それを引き裂く真似なんて……


『リョウだって、ここの家族に愛されてるよね。それを引き裂こうとしているボクが今さら何言ってるのさ』


「ヒャンヒャン!!」


「っ!?」


 ゾクリとした。

 違う、今のは幻聴だ……

 アイツの声なんか、聞こえちゃいない……


「どうしたのモンジロウ? おっきな声出して」


 それは、リョウの声。

 トタトタした足音と共に近づいてくる。

 マズい。今、ボクはどんな顔をしているんだ?

 誤魔化せ。

 バレちゃ、ダメだ……


「あれ? アル君ここに居たんだ。姿見なかったから、父さんと出かけたのかと思ったよ」

「あ、うん。こっちの世界の虫たちの音色が興味深くて、聞いているうちにうたた寝してたみたい」

「そだったんだ。今日も暑かったもんね」

「うん、向こうはこっちの世界ほど暑くないから、疲れが出てたのかも」

「確かに、向こうは過ごしやすかったもんね。あ、だけどアル君」

「な、何?」

「北海道は夏でも夜になると冷えるんだから、変なとこでうたた寝しちゃ風邪引くよ」

「あ、ああ、そうか。うん、それでモンジロウが起こしてくれたんだと思う」

「今のモンジロウの鳴き声はそだったの?」

「さ、さぁ……? ボクはモンジロウじゃ無いからわからないけど……」


 我ながら何だよ、その返しは。

 少しは装えよ。

 この程度、誤魔化すぐらい出来るだろ。


「ん、それもそっか」


 何か一瞬、間はあったけれど納得してくれたみたいだった。

 余計な詮索される前に話をそらさないと。


「あ、えっと、あれ? それはそうとさ、その袋はなに?」

「え? あ、これはね、家の中が蒸し暑かったから、アイス買いに行ってきたの」

「アイ、ス? ああ、あの縁日で食べたヤツか」

「そそ。まあ、あんなカップに入ってシャクシャクするようなヤツじゃ無いけどさ、暑い夏の日本の風物詩ったらやっぱこれっしょ!」

 

 満面の笑みでリョウが取り出したそれは、青色のパッケージに坊主頭の少年が描かれた包みだった。


「えっと、それは?」

「当たりが出たらもう一本! 子供から大人まで愛される庶民の味方! 百円でタップリおつりが戻って来ちゃう日本が世界に誇る氷菓子だよ! ああ、またこれをこんな最高の季節に囓れる日がこようとは! この会社マヂゴッド! こっちに帰って来るのに一杯一杯で、キミのこと忘れててごめんよ!」

「……えっと、何を言ってるのかさっぱりわからないし異様にテンション高いけど、とりあえずリョウの好物がそれってのはわかったよ」

「ええい、小難しい事は考えずに黙って喰らえ!」

「むごっ!?」


 そう言って、暴力的に口に入れられたそのアイスは、ガリガリとした食感と不思議なほど爽やかな風味と旨さの……旨さの……


 とりあえず、悩んでいたのが馬鹿らしくなるぐらい頭がキンキンした。




 それは、突然に起きた想定外のハプニングだった。


「よし、よし……」


 たどたどしく、取り扱うので精一杯。

 雑に触れればすぐにでも壊れてしまいそうな存在。

 どうすれば良いのか、まるで思い付きもしない。

 正直言って、人生最大級のピンチとも言える。


 何が起きているのかと言えば……


「だ~う~」

「何を言ってるのかわからない、簡潔明瞭な情報提供を要求する」

「おいおい」


 半分呆れたような声音で、リョウの突っ込みが入る。

 いや、そうは言っても……

 本当にどうして良いのかわからないんだ!

 

 ボクの半分もない小さな手は、何か握れる物でも探してるのか、ワキワキと動きボクの頬を温かく撫でる。


「え、えっと……ご、ごめんリョウ。やっぱりボクには無理だ、代わって!」

「え、ふぇ?」


 ボクの突然の行動に、リョウが間の抜けた声を上げる。

 そりゃそうだ。

 恐らく、リョウも赤ん坊をあやした経験なんてほとんど無いはずだ。


 そんな事を考えていたら、


「よしよし……あのね、このくらいの子はまだ首が座ってないから、頭の後ろを腕や胸で支えてあげるの。そして、優しく包み込むみたいに抱っこしてあげないとダメなんだよ」


 意外、と言っては失礼だけど、それはボクを驚かせたリョウの確かな知識だった。

 リョウは優しく微笑みながら、手慣れた手付きで赤子をあやす。


「手慣れてるね」


 その姿に感心、というか心惹かれた。


「別に手慣れてるって、訳じゃないんだけどさ。前にこの子のお姉ちゃんも生まれて数ヶ月ぐらいの時だったかな。ハル姉が酷いインフルエンザにかかってさ二週間くらいウチで面倒見た事があったんだよ」


 そう言って、子供をあやすリョウの姿。

 その姿が、ボクの中の遠い記憶に重なった。

 正直、幸せだったとは言えない幼い頃の記憶。

 だけど、今よりはまだ穏やかに過ごしていた頃の記憶だ。


 思い出せば、胸がザワつくかとも思った。

 だけど、リョウの姿を眼で追いかけるだけで不思議と心に満たされていく淡く穏やかな感情。


 ……ボクという存在は、リョウにとって決してプラスになる存在では無い。

 ボクが居たから……ボクが居たせいで、リョウの人生を大きく変えてしまった。

 元の性別まで捨てさせて、故郷にさえもろくに帰えれないような地に拘束しようとしている。


 だから、これはボクの我が侭だ。


 我が侭で、まるで自分が正しいと言い続けたいがための傲慢かも知れない。

 それでも、今のキミを見ていると、その女の子の姿こそキミの本当の姿な気がするんだ。

 赤子をあやすキミの姿は、まるで理想の母親みたいな姿で……


「…………」

「どうしたの、アル君?」


 それは不意にかけられた言葉。

 不思議に思われるほど、ボクはどうやらキミに魅入っていたらしいね。


「正直に言えば、器用に子供の面倒を見る姿が意外だったんだけど。それよりもさ、何かこうやって見ると、リョウは良いお母さんになりそうだなって」

「なっ!?」


 思わず出てしまった素の言葉に、リョウが顔を真っ赤にし照れくさそうに俯いた。

 困った……その反応を素直に可愛いと思ってしまった。

 散々悩んで、心の奥で苦虫を噛み潰してきたのに……

 キミの笑顔を見ているだけで、全てが独りよがりだったんじゃ無いかと思い知らされる。


 気が付けば、時間が過ぎるのも忘れてリョウと二人、赤子をあやしながら止めどなく話をしていた。


 久しぶりに、素の自分を出していた気がした。


 ああ、ボクはやっぱりキミが好きだ。


 キミにパパなんて呼ばれて頭の奥が沸騰寸前にさせられて、良いお母さんになりそうだって言った瞬間に見せてくれた表情も、ただただボクにとってはかけがえのない宝物(おもいで)で――


 気が付けば、懐から取り出していた小箱。


 自分に何が出来るのかも、

 何が守れるのかも、

 あと、どれだけ(・・・・)一緒にいられるのかも、


 正直わからない。


 天才と持て囃され散々自惚れたくせに、自分の悩み事には何一つ答えを見出せない情けなさ。

 それでも、キミだけは誰にも渡したくない。

 手放したくない。


 そして、守りたい……


 その思いだけは、本物なんだ。

 本物だから――


 だから、どうかボクの隣に居続けて欲しい。


 ボクは小箱の中に願いを込めながら、ハプニングで気を失った(ボクがママと冗談で呼んだら照れ死してしまった)リョウが起きてくるのを待つのだった。

全体改稿中で既存の読者様にはご迷惑をおかけしております。

もう少し先になりますが、展開が大きく変わると思いますので今しばしお待ちください。

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