TSヒロイン・三者三様(+一わんこ)
2019/03/07・12×2に投稿した『許さない』『掟破り』『怒られる前に持ち上げよう』の合計3話を結合し誤字表現等を中心に改稿しました。
作戦会議は五分ほどで終了した。
と言うのも、アル君が立てた作戦は実に単純明快で超効率的なものだったからだ。
初撃から超火力での殲滅。
「前回の敗北はボクの中の油断と相手の力を見誤っていた認識不足の結果だ。リョウと仲間達のおかげで助かったけど、戦いの天秤が少しでも敵に傾いてたらボク達はここに居なかった。過ぎてしまった過去にifを求めるのも同じ結末を引くのも愚の骨頂だ。なら、ボクらが成すべきことはただ一つ、絶対の勝利だ!」
ふ、ふふふ……
にゅふふふふ……マジメに語るアル君、超格好いい。
頭クリクリでキュートすぎるのに、メッチャ格好いい!
そんなアル君はオレの彼氏!
「ひゃん!」
「うぉっ!? 何だ、モンジロウか……」
ちょっとトリップしすぎていたのか、モンジロウが足下に近付いていた事に気が付かなかった。
「どうしたの? 出発まではまだ少し時間あるけど準備は出来た? って、オレもモンジロウに何言ってんだか」
我ながら、思わず苦笑いがこぼれ出る。
「ほら、モンジロウおいで。散歩に行く準備するよ」
「ひゃん♪」
お散歩=冒険と認識している感じのモンジロウ。
冒険をすでに楽しいと感じている辺りにいささか不安を感じるけど、この理解力の高さと愛らしさを見ると、将来が楽しみでしかた無い。
「さて、作戦会議も終わったし。ボチボチ出発の時間だから、こっちもちゃちゃっと準備を終わらせようか」
「ひゃん♪」
クローゼットから取り出す衣服。
当然だけどモンジロウサイズの女の子用はない。
ただ、アル君が子供の頃にカーズさんに作って貰ったお古がある。
可愛いとは言い難いけど、質実剛健で機能美の美しさを兼ねている造形は、実にカーズさんとアル君らしい。
「おお~、モンジロウなまら凜々しい!」
耳がシャキーン!! って音が聞こえそうなほどにそそり立っている。
「うちのモンジロウのかっこ可愛さ世界一ぃぃぃぃぃぃっ!!」
「ひゃん!」
「賑やかだね、何やってたの?」
部屋に入ってきたアル君が優しく微笑んでいた。
「見て見て、うちのモンジロウ! ちょークールでちょー可愛い!!」
「あはは、本当だね」
アル君のさっきまでの緊張感に満ちた顔はどこへやら、今は穏やかな、そしてどこか休日のパパみたいな感じで穏やかな笑みを浮かべていた。
「アル君、どうしたの?」
「いや、最近のリョウの言動が女の子っぽくなってきて可愛いなって」
「…………」
アル君がニコニコと笑いながら話す言葉の意味。
オレは一瞬、その意味を理解出来なかった。
ただ、その言葉の意味を咀嚼し受け止めるにつれ、自分の頬が熱くなるのを感じる。
パクパクと、まるで空気を求めて湖面に群がる魚みたいに口が勝手に動く。
や、分かってる。
お前今更何言ってんだって突っ込み受けるのは分かってるんだ!!
アル君に愛されたいって思ってるし、男の子のアル君が可愛いとか思ってるし、何時だって好きだって言って貰いたいとかキスとか一杯したいし、もっともっとえっちぃ事だってしたいし、オレの愛情や欲望が男のそれとはずれている事くらい……うぅ……
わ、わかってるし!
女になった身体を受け入れてるし、アル君大好きだし……
女に戻りたいとか思ってるし……
今更なのわかってるし!!
分かってるんだけどさ……
何かパニクって語尾がギャルみたいにおかしくなってるのも分かってるよ……
全部、分かってるもん……
だ、だけど別に気持ちまで女になりたいなんて思ってないんだからね!
……
…………
何、言ってんだオレ……
「えっと、何かごめん。ボクの想定外な感じでパニック起こして身悶えさせちゃったみたいだね」
「いや、あの、ね……オレのアイデンティティが田島寸前、じゃなくて崩壊寸前と言うか、何ていうか……」
今更、男を主張する気は無い。気は無いし、お前は今更何言ってんだってレベルで無理過ぎるのだって……
だ、だけどさ、まだトランクスも穿いてるし、ブラだって……母さんは買ってくれたけど、その付ける気というか、勇気は無いって言うか……
あ、あれ? あれれ??
結局、オレはどうしたいんだ?
女の子扱いされたいような、だけど、女の子っぽいとか言われると困るような、乙女とか自分で言う分にはシャレで済んでるとか思って安心していると言うか……
改めて考えると、本当のオレは女になれなくても、アル君と居る事が出来れば良いだけのような……
でもでも、やっぱり好きで居てもらうなら――
「あちょー!!」
バチコン!
「いだ!?」
どっかの功夫使いみたいな叫びと共に、オレの頭頂部に手刀が振り下ろされ鈍い音が鳴る。
「何すんのさ……」
「落ち着け」
「落ち着けって、恋人に物理言語で語るのはいかがなものかと……」
「今のキミに言葉は通じない」
「ちょ、人を獣か何かみたいに!」
「キミは直感で動くタイプのくせに、時折変な思考の澱みに嵌まる事がある」
「直感型なのは認めるけど、変な思考の澱みは余計だよ」
「良いから聞く」
「良いからって……」
「キミが何に悩んでいるのか、それの深い所はボクには分からない。何せキミの価値観はこの世界で大きく変えられたんだからね」
「うん……」
「だけど、これだけは絶対に覚えておいて」
「何?」
いつも以上に真剣なアル君の眼差しに、オレは思わず口ごもる。
「ボクはキミと一緒に生きたい。だから、キミにもボクと一緒に道を歩むための、最善の選択を選んで欲しい。だけど、キミが悩んで苦しむ選択を選ばせてまで女性であれと強制するつもりも無い。ただキミがキミらしく、ボクの隣を歩んでくれる事を望む」
「え、えっと……それって……」
「簡潔に言うなら、キミが男だろうと女だろうと愛している。だから、余計な事を悩まずにボクの側に居ろ。離れる事は絶対に許さない」
アル君の乱暴すぎるほどの率直な言葉に、オレの鼓動が早鐘みたいに暴れ出す。
「何か言葉がいっぱい付け加えられた気がするけど……」
照れ隠しみたいに、そんな言葉しか返す事しか出来無い。
「何度もキミに伝えてきた言葉だよ。まさか、軽口混じりの冗談だとでも思ってた?」
「アル君が言ってくれた言葉を、そんな軽い気持ちで何て聞いてないよ」
「本当に?」
「当たり前じゃん! オレ何かの為にさ、何度もアル君が命がけで守ってくれたの知ってるし、オレ何かの為にどんなにアル君がうむぅ!?」
いきなりアル君の顔が近付いたかと思うと、キスされた。しかもメッチャ熱烈なヤツ。
ふぇえ!?
やう゛ぇ、何度もしたはずなのに、不意打ちすぎて腰が抜けそう……
ふと視線だけで横を見ると、いつの間にそんなリアクションを覚えたのか、モンジロウは顔を両手で隠してそっぽを向いていた。
「あ、あゆ君、にゃに? どうしたの、突然……」
「ボ……いや、オレの大切な人を「こんなオレ何か」とか貶すのは許さない。それが、喩えリョウ自身の口から出たモノであっても、絶対に、ね」
ヤバイです。
知ってたよ。アル君が可愛くて、頭も良くて、強くて、そして、格好良いってこと……
いや、格好良いだけじゃ足りない。
オレの彼氏、超格好いい!!
ってか、予想外のオレ様チックな発言に、心臓が高鳴るとか……オレ、やっぱりどMなんじゃないのか?
気が付けばオレは、腰が抜けるどころか膝から崩れ落ちるみたいに床に座り込んでいた。
「どうしたの?」
「どうしたのって、か……うぅ……アル君分かってて言ってるでしょ」
「さぁ、どうだろう? ボクは残念ながら万能じゃ無いから、分からない事だらけでね」
アル君が意地悪な笑みを浮かべる。
うぅ……このちょっとどころじゃなく意地悪で、だけど優しい年下を好きになってしまった時点で、オレの負けは決まってたんだよな……
「ほら、もう出発する時間だよ」
そう言うと、アル君が突然オレを抱きかかえた。
「わわ、ちょ、ちょっと、何!?」
「え、知らない? キミの世界じゃこれをお姫様抱っこって言うらしいよ」
「いや、それは知ってるけど、知ってるけど!!」
「知ってるなら問題なし。さ、行くとしよう」
「や、あ、あのね! このまま降りたら父さんに見られちゃうって言うか、その、だから」
滑舌悪くしどろもどろになるオレに、アル君が心底意地の悪い笑みを浮かべる。
「見せびらかそう」
「ふぁ!? え、え? 何でいきなりそんな発想になるのさ!!」
「だって、自分の娘を奥さんと重ねてドキドキするような悪い父親には、キミが一体誰の恋人なのかしっかりと自覚させないと駄目だと思うんだ」
それは、その黒い笑顔からは想像も出来ないほどに爽やかな声音での発言だった。
「え、もしかしてさっきの父さんとのやりとりで見せた舌打ちとかって、父さんの発言が気に障ったから!?」
返事は無い。
ただ、爽やかに黒い笑みを浮かべるだけ。
忘れかけてたけど、オレが好きになった少年はやっぱり独占欲が強い腹黒でした。
……って、ここで良い感じに話をまとめてる場合じゃ無い。
「ね、ねぇ」
「なに?」
「自分で歩けるから降ろして欲しいんだけど」
リビングに向かう廊下、オレはお姫様抱っこされたまま。
さすがに、ねぇ。
この姿を父さんに見られるのは恥ずかしいと言うか……
「え? ぼくは言ったよね。キミが誰の恋人なのか、しっかりと見せつけるって」
「聞いた、聞きました! って、本気だったんかい!?」
「ボクが冗談言うタイプだと思う?」
「……おもわにゃい」
爽やかな黒い微笑みに当てられたオレは、思わず素直に答えていた。
うぅ……
だけどこのままだと、ますますオレが精神的に辛い状況に追い込まれるのは目に見えている。
どうにかしないと……
「あ、あの、さ」
「何?」
「周りが何て言おうとさ、オレの心はもうアル君だけのモノなんだから、わざわざ見せびらかさなくても、良いと思うなぁ」
「リョウは本当に可愛い事を言ってくれるね。だけど、こんなに可愛いキミだからこそ、キミの恋人が誰なのか世間に見せ付けておきたいんだよ。悪い虫が付かないようにね」
無理でした(諦め)
この黒笑顔のショタ、オレの予想以上に独占欲が強すぎました。
強すぎ……ました。
でも、そんなアル君の言動を嬉しいとか心のどこかで思ってる辺り、オレも相当に終わってる気がする。
駄目男に惹かれる女って言えば良いのか……
や、アル君は甲斐性があるから、駄目男なんかじゃ無いけどさ。
……うん、オレも順調に駄目になってる。
間違いない!
「何か、突然どや顔になってるけど、どうしたの?」
「えへへ、オレ、やっぱりアル君が大好きなんだって、また自覚出来たのが嬉しくてさ」
「…………」
フイッ、って感じで目線をそらすアル君。
うにゃ? どうした?
「まったくキミってヤツは、いつもボクが望む以上の言葉をくれるんだもんな……」
どこかうわずった声音と赤い耳。
アル君、もしかしなくても照れてる?
うへへへへ……
「…………」
「? どしたの? 照れすぎて声も出なぬぉっ!?」
何故か突然手を離され、床に落下するオレ。
なんのー!
キャット空中半回転!!
シュタッ!! と床までの僅かなすき間を、我ながら驚くほどの反射神経を屈しして身体を半回転させて着地する。
「フシャー!! アル君、照れ隠しにしたって落とすのはいくら何でも酷いと思うな!!」
声を荒げるオレに、だけど気が付いた様子の無いアル君。
「フシャシャーッ! ねぇ、アル君! 聞いてるの! ドメスティックはバイオレンスだから、愛し合ってるならやっちゃダメ絶対!!」
「…………」
「ねぇ、聞いて……って、どうしたの?」
よく見ると、さっきまでの緩やかな空気はどこへやら(まぁ、アル君は黒い笑顔だったけど)、アル君が纏うそれは明らかに緊張に支配された濃密な気であった。
「アル、君……?」
「馬鹿な……階下へ侵攻したっていうのか!?」
「え、何?」
「リョウ、いくらこの家でもヤツの攻撃を防ぐ事は出来ない! 今すぐ動けない京一さんを連れて三人で離れるんだ!!」
「ア、アル……」
駆け出しながら矢継ぎ早に指示を飛ばすアル君。
その背中に意味を問い掛けようとするも、オレの言葉は続かなかった。
いや、正確には――
その問い掛けの解をすぐに知り、その必要が無かったのだ。
VaOOOooooooooooM!!
それは、忘れるはずも無い悪夢の咆哮。
――蜃気楼の塔 59階層に巣くう悪魔《暴食竜ソウルドレイク》――
DATA:《All unknown》
ヤツは掟破りとも言えるの階下への侵攻を行ったのである。
「そんな、ソウルドレイク……ア、アル君! 一人で何て無茶だよ!」
DOMUGOOoooooooooo!!
俺の叫びを打ち消しまるであざ笑うみたいに再び家を揺らした悪魔の咆哮。
あの日の悪夢が脳裏をかすめ、足がすくみそうになる。
早くアル君に加勢……
「いや、まずはアル君が戦いやすい環境を作るのが先か……」
オレは迷いを振り払うように頭を振ると、部屋の隅で震えるモンジロウを抱えソファーでよぼよぼになっている父さんを背負う。
「うぅ、お良や、すまんのう……ワシがこんな身体で無ければ……」
「おとっつぁん、それは言わない約束でしょう。って、あほかぁあぁぁっ、誰が『お良』だ! この緊急時に昭和の時代劇コントやってる場合か!!」
オレは二人を抱え全力で家を後にする。
「良」
「今度は何だよ! またくだらないダジャレなら、父さんをソウルドレイクの餌にするよ!!」
「うぅ……良が冷たい」
「ああ、もう鬱陶しいなぁ! 何さ、どうしたの?」
「父さん達をここに置いて行きなさい。アルフレッド君を助けたいんだろ?」
「何言ってるのさ! 二人を見捨てること何て出来るはず無いだろ!!」
「いや、大丈夫だ。父さんな、実はここ最近、気が付いたんだが、補強系の魔術も行ける口みたいなんだわ」
「は、はぁ!?」
何この人、またオレを差し置いてチートゲットですか?
あんたゲームバランス崩壊をさせるエクスカリバー装備したどこぞの雷神様か何かですか?
「で、その気が付いた補助系って何さ……」
「何だ、その嫌そうな顔は。大丈夫だ、副作用は無い。ちょっと筋肉痛が遠吠えするぐらいだ」
「筋肉痛が遠吠えとか訳分からないんですけど。って、まさか父さんが今動けないのって……」
「うむ、重ね掛け出来るか実験したり、歯応えのある戦いを求めて敵に強化魔術をかけたりしたから、様々な要因の果てだろうな」
ニヤリと笑う父さん一人。
「母さんの気苦労が分かるよ……」
「そう言うなよ、良だってオレの遺伝子引いてんだから。気持ちは分かるだろ、な?」
「ま、まぁ……って、そんな事は良いから! 結局どうするのさ!」
「任せろ! へい、モンジロウ!!」
「ひゃん!」
「バイ〇ルト」
ピカーンと光るモンジロウ。魔術がかかった瞬間、耳のシャキーン具合が鬼増しする。
モンジロウの凜々しさが最早とどまる事を知らずに暴走中である。
どのくらい暴走してるかって?
その凜々しさたるや、紋次郎と漢字を当てて呼びたくなるぐらいだよ……って、
「あんたまた某RPGから魔法丸パクリして! 本当にスク〇ニに怒られたらどうする気だ!!」
「大丈夫だ。ケ〇ルをケヤ〇に直すぐらいで出版を許す寛大な会社だから」
目眩がした。
「知らん、オレは本気で知らんからな……」
「大丈夫だ、父さんには秘策がある。ん、ん……御社のRPGはJRPG界の至宝だと思います!! よし、これで良いはずだ」
「あからさまな媚び! そしてそれで許されると思う浅はかさ!」
「霜降りさんのツッコミみたいだなぁ良」
「うるせぇやい……」
もういいや、ほっとこ、この治外法権オヤジ……
「さ、父さんはモンジロウに担がれて逃げるから、良はアルフレッド君の元に行って助けてあげなさい。何よりも大切な少年なんだろ」
「父さん……」
何か、やたらいい顔で感動的に送り出そうとする父さん。
ただね、やたらキメ顔だけど、貴方を背負ってるのは犬耳の可愛い女の子だからね。
それに散々ボケ倒しておいて、今更その程度じゃ取り繕う事は出来無いからね?
「さ、良にツッコまれる前に戦略的撤退だ! モンジロウ、ハイヨーシルバー!」
「ひゃん!!」
なんだっけ、そのかけ声?
と聞く間もなく、モンジロウは父さんを抱えたまま塔の奥へと走って行く。
……ま、良いか。
父さんの実力でこの階層なら、今のポンコツ状態でも苦戦するはず無いだろうし。
それにしても、格好付けたいんだか、ただただボケ倒したいんだか……
父さんらしいっちゃらしいんだけどさ。
って、それよりも今は……
あの爆音と土煙が上がるところに居るアル君に加勢するのが先だ。
全体改稿中で既存の読者様にはご迷惑をおかけしております。
もう少し先になりますが、展開が大きく変わると思いますので今しばしお待ちください。






