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TSヒロイン・愛の狩猟犬は未来にちょっと不安になる

2019/03/01~3に投稿した『元男だけど愛の狩猟犬だからしかたないよねっ。』『父さん……』『黒フレッド』3話を結合し、表現誤字を中心に改稿しました。

「んん……ぐむぅ……ぐぐ……」


 それは、ソウルドレイクとの決戦を当日に控えた野営地(家だけど)での事だった。

 一緒の布団で寝ていたはずのアル君が、何故かクローゼットに突き刺さっていた。

 アル君は自分でも言っていたが、寝相の悪いタイプじゃ無い。


 どうしたんだろ? 


「アル君、寝ぼけて突っ込んだ?」


 それとも人知れず『びっくりするほどユートピア』でもやっていてベッドから踏み外したか……

 言動は大人びているが、以外と子供っぽいところもあったりするし……

 それとも、ちっちゃな子供みたいに夢でも見て寝ぼけたか?


「いでででで……ボクがこんな力任せな寝ぼけ方をすると思う?」


「えっと、それじゃ……」

「……まずはここから引っこ抜いてくれる?」

「う、うん」


 小学生の頃に友達とやった「大根抜き」遊びの要領でアル君の足を引っ張る。


 ズボッ!!


 と、アル君が勢いよくクローゼットから飛び出した。


「いたたたた……」

「えっと、大丈夫?」

「身体硬化の魔術のおかげでなんとかね」

「え? 身体硬化?」

「モンジロウが君の所で寝ない理由だよ」

「え、えっと……」

「リョウ」

「な、何、改まって?」

「キミ、寝相が盛大に悪いんだよ」

「ふえ!?」

「この痕を見てごらん」


 捲られたシャツ。

 色白のアル君の肌にばえるピンクのちちくび、メッチャエロい!


「おい、どこ見てる?」

「愛の狩猟犬を自称する身としては、メッチャペロペロしたいです!」

「朝一それかい!」


 ビシッと乾いた音を立てて、アル君のチョップがオレの脳天を打つ。


「いだ、また叩かれた……乙女の柔肌なのに!」

「そんな性欲が豪傑な乙女が居てたまるか! 目で抗議を訴え掛ける前に、キミはこっちを見ろ」

「アル君のおへそ可愛い♥」

「そこじゃねぇ!!」

「雑にどにゃられた……」

「ここを見る!」

 

 そう言って指さした場所はヘソのちょっと上。みぞおちの辺りに見事にクッキリと浮いた足跡。


「おお、見事な足跡……って、え? オレがアル君にこんなバイオレンスな事やったの? 嘘だ、オレってヤツは何時だってアル君に調教される側でいたいんだけど」

「謝罪の前に己の欲望をねじ込むな!」

「しまった、つい本音が……って、え? でも、それ本当にオレがやったの?」


 アル君の赤く……って言うか、少し青くなっているお腹を撫でる。


「ごめん。オレこんなに寝相悪かった何て思わなくて……」

「あ……えっと、そこまで落ち込まないで。女の子の時はヘソ出して寝るくらいの可愛いモノだったんだから」

「女の時も寝相悪かったんだ……そういや、冬なのに朝起きたら布団が床に転がっていて、39度超す熱出した事があったような……」

「今思うと、キミのベッドの掛け布団が何であんなに角が出るくらい直角にマットレスに巻き込んでいたのか、分かったよ」


 アル君に言われて思い出した……

 母さんのベッドメイキング術が気が付けばビジネスホテルみたいになっていたのを。

 ……何でそうなったのか、すっかり忘れてたけど。


 そりゃ、毎日こんな攻撃を喰らってたら、いくらアル君でも一緒に寝てくれなくなるよな……


「まさか、男に戻る弊害がこんなところで遺憾なく発揮されるとは思いもしなかったよ」

「ごめんね……」

「ああ、ごめん。ボクの言い方が悪かったかも知れないけど、そこまで落ち込まないで。あと数日で先生に会える予定だから、それまでの辛抱だよ」


 そう言って、アル君がオレの手の甲にキスをする。


「本当ならおでこにしたいんだけどさ、つま先立ちの背伸びじゃ格好付かないからね。だから今はこれで許して。あと何年か…………うん、何年後かにキミより大きくなれたら、キミが落ち込むたびに何度でもキスするよ」


 ニヤリと笑みを浮かべるアル君。

 何年かして……って、それってオレとずっと居てくれるって事じゃん!

 うきゅ~、このイケショタ! イケショタ!! イケショタめっ!!

 いや、プロポーズもされてますがねっ!


 されてますがね♥♥♥♥

 この男、どこまでオレをときめかせれば気が済むんだ!


 早鐘みたいに喘ぐ心臓。

 真っ赤になった顔を見られたくなくて、オレは一人リビングに駆け出した。

 ここ数日の寂しさとか欲求不満とか、全てふっとばす幸せのご褒美。

 ちきしょーめー!!


 ニヤケがとまらん!


 だけどその気持ちはグッと堪えて、まずは皆の朝食の準備でもしてやろう。


 Be COOL……Be COOL……


 今の顔を父さんに見られたら、どんないじられ方するか分かったもんじゃない。


「ひゃん!」

「あはは、ごめんごめん、モンジロウ。今ご飯の準備するからちょっと待って……」


 モンジロウの鳴き声に振り返ると、だけど、そこには……


「父さん!?」


 床に転がりうなり声を上げて苦しんでる父さんとそれを心配そうに眺めているモンジロウが居た。


「んん……ぐむぅ……ぐぐ……」


 それは、ソウルドレイクとの戦いを覚悟して腹をくくった朝の……


 って、この始まり何度目だ?

 何かタイプリープしてね?

 ってそれどころじゃ無い。


 リビングの床では、父さんが痙攣したみたいにのたうち回っていた。


「父さん、どうしたの!?」

「う、ぐああぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」

「父さん!!」

「ひゃんひゃん!!」


「騒がしいけどどうしたの……って、京一さん!!」


 寝室から出て来たアル君も慌てて父さんに駆け寄ってくれる。

 な、何だよ?

 何が起きてんだよ?


 昨日までバカみたいに無双していた父さんに、何が起きてるってんだよ……


「ぐああぁあぁぁぁぁぁぁぁ」

「父さん! 父さん!! アル君、どうしよう……」

「大丈夫、大丈夫だから、そんな泣きそうな顔しないで。京一さんしっかりしてください、ボク達の声が聞こえますか!」

「ア、アルフレッド君……ああ、良も、そこに居るのか?」

「オレはここに居るよ! どうしたんだよ、何時もみたいに馬鹿な父さんに戻ってよ……」

「良……父さん、もう……ダメだ……」

「何馬鹿なこと言ってんだよ!!」

「そうですよ、リョウの言うとおりです! 突然訳もわからずこんな形でお別れだ何て言わないで下さい!!」

「だ、だが……あ、あ……」

「あ?」

「綾さん成分と愛ちゃん成分が足りないんだ……」

「母さんと姉貴の成分が足りないんだな! それがあれば! ……母さんと姉貴?」

「うぅ、良成分は補充出来たのに……綾さん達の分が目減りしすぎて……」

「…………」


 ドサッ、ゴンッ!!


 鈍い音が二つ重なった。

 オレが抱き上げていた父さんを床に投げ捨てた音と、その拍子後頭部が叩き付けられた音だ。


「ぐぉぉぉぉ、父さんの頭が床に!!」


 のたうち回る父さん。

 そりゃ痛いさ、痛いだろうさ!

 だけど、こっちがどれけ心配したと思ってるんだ!


「言っとくけどな、父さんの馬鹿騒ぎに振り回さ、れ……」


 だけど、オレの怒りはそれ以上は続かなかった。

 父さんは、さっきの発言がやっぱり冗談だったとでも言いたげに、床に頽れたまま動かなくなったのだ。


「父さん、冗談はいい加減に……」


 唸り声だけを上げて身動き一つしない。


「ねぇ? 冗談は止めてよ……」

「京一さん!!」

「はぁ……よ……」


「「よ?」」


「腰痛と筋肉痛と綾さん愛ちゃんシックのクアドラプルコンボで、オレは、もう……ダメだ」

「…………ブチッ!」

「ちょ、リョウ! 無言でフライパン振りかぶらないの!」

「アル君、そこどいて! その馬鹿オヤジ殴れない!!」

「だから、今のキミがフライパンを握ったら、それもう殺戮兵器だから!」


 ぐ、ぐぎぎぎ……


「ほ、ほら、深呼吸して、ね」

「ひ、ひ……ひっふぅ……」

「その呼吸法は何か違う気もするけど、とりあえず落ち着いたかい?」


 落ち着いたとは言い難いが、アル君のおかげで少し冷静になれた。

 オレはフライパンをモンジロウに手渡し父さんに近付く。


「いい歳したおっさんが……歳も考えとんと無茶するからじゃ、このスカポンタン! しかも後半はただのホームシックじゃねぇか!!」

「だって……」

「三十も中過ぎてだってとか甘えた口調で言うな!」

「じゃけんども、父さん、ファミリー命じゃけん!」

「この、次から次に……口先だけは……」

「うぅ……いでぇよ、筋肉が爆発しそうじゃ……」

「はぁ、父さんは静かに寝てて」

「ふぁい……」


 その日、ソウルドレイクとの決戦を目前に控えながら、オレは父さんに戦力外通告を下したのであった。



「せっかくの戦力が……ごめんね、アル君」

「アハハ……とは言ってもさ、これは元々先生がボク達に与えた試練だ。ここまで手助けしてもらえただけでもラッキーだったと思おうよ」

「すまんのうぅ……わしがこんな身体で無ければ……」

「おとっつぁんそれは言わない約束でしょ……って、レトロな時代劇コントか! 黙って寝てろ!」

「まぁまぁ……とりあえず、ボクたち現時点でも京一さんのおかげで魔素の補充は十分すぎるほど出来ている。まずはソウルドレイクを滅ぼすとしよう」

「ソウル、ドレイク……」


 ソウルドレイクとの戦いの覚悟はすでに出来ている、はずだったのに……

 アル君の口から改めでその名を聞くと、オレの中どこかが確かに震えた。


 緊張を察してくれたのか、アル君がオレを見つめて静かに頷いてくれる。


 だけど、まるで空気を読まない男がここに一人……


「くぅ……ソウルドレイク、名前からしてメッチャ強そうじゃん! 父さんも戦いたかった!!」


 おい、病人はちょっと黙ってろ。


「お父さん、こっちは真剣な話ししてるんですから、ちょっと黙ってましょうね」

「うぉ! 良から綾さんと同じ【敬語纏の殺意の波動】ががが……お、おう! 父さん静かにしてる!」


 よし、何か知らんが父さんは静かになった。


「アル君、続きをお願い……って、どうしたの」


 何故か、アル君はのけぞりながら椅子の背もたれにしがみついていた。


「どうしたの?」

「い、いや、どうしたって言うか……モンジロウを見てごらん」

「モンジロウ?」


 振り返ると、そこには尻尾をくるんくるんに巻いて流し台の下に頭を隠しているモンジロウがいた。


「どうしたのモンジロウ? 悪さして母さんに怒られた時みたいになってるけど?」

「くぅ~ん……ぴすぴす」


 抱っこすすると、耳を後ろに垂らして鼻を鳴らす……

 え? 何?

 オレ、モンジロウに何かした?


「ふ、良……それが未だ愛ちゃんも身に付けていない、綾さんと綾さんママのみが持つ覇王色の覇気……じゃなくて、【敬語纏の殺意の波動】だ」

「何だよ、さっきも言ってたけど、その何とも形容しがたい技名は……」

「ふ……良も記憶にあるだろ? 普段温厚な綾さんや綾さんママが本気で怒った時の、あの心臓を握りつぶされるんじゃ無いかって迫力を……それが、綾さんの家の女性血統のみが持つ【敬語纏の殺意の波動】だ!」

「…………」


 こう言う厨二臭い、頭の悪そうなネーミングを口走ってる時の父さんって、ほんと活き活きしてるよな。

 ……さっきまで死にかけてたくせに。

 って、考えてみたら、ついこの間までのオレもこんな感じだったか。


 女になってアル君と愛し合う事で少し成長したのか?

 何てね、ニシシ。


「ふ、最近の良は見た目といい言動がといい……オレがほんのり恋心を覚えた高校時代の綾さんに似てきて、ちょっとドキドキするんだよな」

「…………」


 ゴッ!


「グハッ!!」


 ゴッ、ゴッ、ゴッ!

 

「リョウ、無言のままフライパンで殴り続けないの! ちょっと、リョウってば! 正気に戻れ! ボクは自分の妻が父親殺しになるぐらいなら、ボクが殺ってあげるから! ほら、モンジロウも怯えてるから!!」

「ハッ! オ、オレ、一体何を……」

「正気に戻ったかい?」

「うん、オレは正気に戻ったよ」

「だったらその血まみれのフライパンはしまって。あと、その死体はどこかに処分……」

「お父さん死んでない! 血まみれで筋肉痛だけどちょー元気!!」


 痣だらけになりながら力こぶを作って元気アピールする父さん。

 オレだけにしか聞こえないレベルで小さく舌打ちするアル君。


 え?

 アル君って、実は父さんの事を毛嫌いしてた?


 だとしたら、ちょっと今後の家族関係で不安になるんですが……

 後でちゃんと確認しとかないと。


「ま、とりあえず丸く収まったと言う事で、話を続けるとしようか」

「ア、アルフレッド君……で、出来れば、治療をお願いしたいのですが……」

「……チッ」


 こらっ!

 今のあからさまな舌打ちだよね?

 この父さんが有り得ないほど下手に出たのに、舌打ちだよね今の!?


 いいのか? これでもキミの義理の父(予定)何だからね。


 だが、そんなオレの不安に気が付いても居ないのか……


「じゃ、作戦会議をしようか」


 父さんの傷をおざなりに治すと、淡々と作戦会議を始めたのであった。

全体改稿中で既存の読者様にはご迷惑をおかけしております。


もう少し先になりますが、展開が大きく変わると思いますので今しばしお待ちください。

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