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TSヒロイン・召喚魔法

2019/02/01~4に投稿した『がんばる』『チベットスナギツネと召喚魔法』を結合し、誤字表現を中心に改稿しました。

「さてと、荷物はオッケーと」


 指差し確認でリュックの中身をチェックする。

 荷物と言っても、大半はこの持ち歩ける家の中に置いとけば良いだけだから、リュックの中身は塔を攻略するためのアイテム類とちょっとした携行食ぐらいなものである。


「リョウ、武器はオッケー?」

「うん、大丈夫だよ」


 最終的にオレが選んだ獲物は、槍・短剣・スリングショット・寸鉄(タクティカルペン)(鉄製じゃ無いけど)の四つだ。

 遠距離武器がスリングショットだけってのはモンスター相手にはちょっと頼りないけど、オレの弓の精度はまだまだ低いから実戦投入するには不安が残るのだ。

 ましてやアル君と二人だけなのを考慮する(二人旅は嬉しい)、悠長に敵を狙ってる暇は無い。

 シャルみたいに速射が出来れば多少ばら撒いても良いが、技術的にそれが出来無い以上手頃な武器での牽制の方がマシという判断だ。

 とは言え魔法も魔術もかなり鍛えた。緊張はあるけどもどちらかというと高揚の方が強いかも知れない。


 う~ん……


 性別が男に戻ったせいか、好戦的になってるのか?

 とは言え、オレは元々喧嘩なんかとは無縁な穏健派で、タカ派じゃ無い。

 ん~、ってことは、やっぱり武器が扱えるようになったのと魔法や魔術に多少なりとも自信が付いたのが一因か?

 ん、気を付けよう。こう言う時ほど足をすくわれるって言うし。


「よし……大丈夫、オレやれる!」

「気合いが入ったみたいだね」

「うん! 武器もオッケーだし、鎧も今は軽く感じるぐらい、気合いが乗ってるよ!」


 家から一歩踏み出すと、アル君はすぐに何かを唱え始めた。

 と同時に、家は見る間に縮小しミニチュアサイズに変わる。


「初めて見たけど凄いね」

「そうだね。しかも縮んでも中は異空間になってて家具とかは無事だってんだから、ほんと異次元過ぎる。ボクじゃとてもじゃないけど真似出来ない」


 言いながらヒョイと持ち上げウェストポーチにしまう。

 物理学者が見たら発狂しそうな行動である。

 う~ん、深く悩んだって魔法の恩恵と言う事しかオレには分からない。

 恩恵を受ける一消費者に過ぎないオレが変に悩むより、便利なモンは便利なモンとして受け止めておくのが一番だろう。


 ……ん?


「ねぇ、アル君」

「なんだい?」

「何だか突然、魔物の気配が増えた気がするんだけど」

「よく気が付いたね。そ、家を片付けたからアダマンレプタイルの結界が消えたんだよ。だから息を潜めていたモンスター達が姿を現したんだ」

「え、ここ、こんなにモンスターが居たの!? あれ? でも前回はそんなに襲われた気がしなかったんだけど?」

「あの時は野営地を決めた時、真っ先に階層の主クラスを何体か潰してばらまいておいたんだ」

「あ、そうなんだ……」


 オレが勝手に落ち込んでいた時、いつの間にかそんな事をやっていてくれたんだ。

 今更ながら改めて申し訳なさが込み上げてくる。

 そんな感情を察してくれたのか、アル君がポンとオレの肩を叩く。


「もう過ぎた話だよ。余計な事は気にしない。今成すべき事に集中集中」

「……うん」


 一番傷付けたはずのオレに、優しく笑ってくれる。

 守りたいぜ、この笑顔!

 って言うか、守ってみせる!


「どうしたの、拳握って? 今からそんなに気合いを入れてたら、疲れちゃわぷっ!」


 思わず抱きしめ、そのジョリジョリした頭をこねくり回す。


「えへへ、アル君、頑張ろうね!」

「うん、頑張る、頑張るから……その、胸が硬い……」

「おい! 人の薄くなった胸を揶揄するなや!」

「胸が薄くなったとかじゃなくて鎧!」

「あ、鎧着てたんだ。メッサソーリー」

「何さそのメッサソーリーってのは。ま、抱き付くならとりあえず、次の階層移動で休んだ時にでもしてよ」

「よっしゃ! 甘えオッケーの言質取った!!」

「そんなに喜んでくれるのは恋人冥利に尽きるけど、塔の攻略優先だから、夜の消耗戦は無しだよ」

「…………」

「返事は?」

「きーこーえーまーせーん」

「顎しゃくれてるってば」


 お互いに一瞬沈黙し、見合って笑い出す。

 こんな空気感でこの塔をもう一度攻略する日が来るなんて思ってもいなかった。

 うん、油断はして無いけど、改めて今のオレの足取りは軽い!

 絶対に100階まで踏破して、踏破して、踏破して……アル君とめちゃめちゃイチャ付いてやるぜ!

 ふ、ふふ……「グヘヘ……」


「……リョウ、邪悪な笑いがこぼれてるよ」

「おっと、つい欲望が溢れ出てた」

「いよいよ取り繕わなくなってきたね」

「アル君、らびゅー!!」

「分かってる分かってる、ありがと。さ、行くとするか」

「うぅ、クールな塩対応再び……アメ玉プリーズ」

「今アメをあげると、キミの事だから出発がグダグダになるでしょ」

「うん、なるね。間違いなくなるね! 絶対なるね!!」

「胸張って言わないの」

「分かってる、ほんの冗談だから」

「本当に?」

「冗談は二割くらいでしゅ」

「……ま、いっか。そうしたら、今度こそ出発するとしよう」

「らじゃ!」

「で、先生との約束果たしたら、お互いに甘え合おう」

「やる気出て来た!!」


 アル君の下手くそなデレ。

 でも、それはオレにとっては極上のデレだ。


 燃えたぎる気力を胸に、オレ達は遂に出発したのだった。



 出発して二日目。

 それは予想通りというか、想定以上に大変だった。


 現在38階層――


 オレ達の実力は、もっと言うならオレの実力は前回とは比べものにならないほど上昇していたが、やっぱり二人というのは圧倒的に手数が足りない。

 火力VS物量という構図がすぐに出来上がったのだ。

 蹴散らしては湧き、蹴散らしては湧く……

 この階層はまだ雑魚なのは確かだが、夏場に台所で放置していた果物から小バエが湧きまくり、潰しても潰しても終わらない感じと言えばいいのか……

 あれ? 譬え話をしようと思ったら、逆に分かり難くなったか?

 要は今のオレ達にとっては雑魚なんだけど、とにかく数が多くて厄介なのだ。


「敵湧きすぎ……エンカウンント率狂い過ぎじゃん」


 肩で息をしながら、思わずぼやいてしまう。

 父さんが動画配信の為にやってた、レトロゲーの画面切り替わるだけでモンスターが湧きまくるゲームを思い出してしまう。


「極力殺さないという選択は、さすがに厳しいものがあるね」


 そうなのだ。

 ソウルドレイクを倒すためには、あの『怨念喰らい(オレが勝手に命名)』を防がないといけない。

 アル君が対策を考えてくれたけど、それを含めて幾つもの対策を積み上げての判断なのだ。


「敵に倒されなくても、疲れて動けなくなりそうだね」

「イライラするよ。まったく……まとめて消し飛ばしたい気分だ」

「やめて、それをやったらソウルドレイクがうなぎ登りに強くなるから」

「わかってる、言ってみただけさ!」


 普段冷静なアル君も、ストレスのせいか口調がどこか刺々しい。

 手数……か。

 手数?


「アル君! いったん小屋を出してくれる?」

「小屋? シェルター代わりに逃げ込むのかい?」

「それもあるけど、ちょっと思い付いた事がある!」

「わかった」


 促されウェストポーチから取り出したおもちゃみたいな小屋。

 アル君が魔力を注ぐと一気に巨大化し普通の家と変わらないサイズに変化する。

 と同時に、霧散する魔物達の姿。


「ふぅ……すごいね、魔除けの効果。辺りから魔物の気配が一気に消えたよ」

「この階層なら、まだまだアダマンレプタイルの結界が有効だからね」


 結界という名の血液塗料。

 だけど、そのうちこの結界も効果がなくなってくる。

 アル君が言うにはその上限は60階層辺りだろうとの事だ。


「とは言っても、この結界もレア個体が出て来たら下層でも分からないけどね」

「レア個体?」

「同じ魔物種でも突然変異体として生まれてくる、尖った進化をした【統治者】とか【はぐれ】とかの事だよ。群れを統率して異常に強力な軍隊を作る能力や逆に統治能力は皆無だけど個としての能力が異様に発達した存在だね」

「そんなの居るんだ」

「まあ、流石にそうそう出会わないけどね」

「そうなの?」

「レア個体はそもそも圧倒的に個体数が少ないうえに、基本的には寿命が短いからね」

「強いのに短いの?」

「突然変異は目立つから忌み嫌われて、仲間に群れを作られて襲われる事が多いんだ」

「うわぁ……」

「ただ、レアと言えばレアなんだけど」

「だけど?」

「魔物みたいな殺伐とした存在は何時死んでもおかしくはないから、種の生存本能が働いて強制的に強い個体が誕生する事もあるんだよ」

「モンスターの進化論ですか」

「そう言うこと。だから、本来なら滅多に出会わないけど、この塔みたいな魔物だらけの特殊な環境だと、何時出会ってもおかしくはないかなって」

「うわぉ。ほんと油断ならないとこだね、ここは」

「まぁね。でもこの塔は確実に外よりはレベルアップ出来る場所だよ。って、話が脱線した。それよりもリョウが思い付いたのって何? まさか小屋を出して休み休み進むとかじゃ無いよね?」

「いくら何でも、そんな消極的なこと考えてないよ。ちょっと閃いた事がある……何さ、その顔」


 オレの言葉を聞いた途端に、アル君の眉間に皺が寄る。


「いや、キミの発想は何時もボクの予想の斜め上行くからさ……」

「失礼な! 今回の閃きはかなり良い線いってると思うよ!」

「……良い線、ね」

「むぅぅぅ、また胡散臭そうに!」


 地団駄を踏むと、やれやれとばかりに肩を落とすアル君。

 むきーっ!!


 何だよ何だよ、その反応!

 それじゃまるでオレがアホな事ばっかりやってる見たいじゃ無いか!


 ……やってないよね?


「とりあえず、まずはキミが何をしたいのか教えてよ」

「ん? ふっふっふっ……ずばり召喚魔法っすよ」

「召喚魔法? えっと……何かを召喚するってこと?」

「そうそう、手数が足りないなら、何かを召喚して足止めするって戦法っす」


 オレの説明を聞いて渋い顔するアル君。


「え? ダメ?」

「いや、発想は悪くないと思うけど……」

「けど?」

「根本的なところで聞きたいのは、キミは召喚魔法を知ってるの?」

「え? アル君知らないの?」

「知らない」

「えっと……カーズさんの書籍の中には無いの?」

「無いよ。先生なら召喚魔法は知ってるとは思うけど、そもそも先生が何かを使役しなければならない自体なんてあり得ないモノ」

「言われてみれば確かに……って事は、あ、あるぇ~? オレの思い付き速攻で頓挫した?」

「ま、まぁほら、そんなに落ち込まない。とりあえずそろそろ休む必要があるのは確かだったんだし。ご飯でも食べて一休みしようよ」

「うみゅ……」


 肩にポンと手を置いて慰めてくれるアル君。

 う~ん、名案だと思ったんだけどなぁ……


 その日の夕食は、ドーラレックスという小型の恐竜の丸焼きだった。

 う~ん……

 こういう風に食料として狩ったモンスターも、やっぱりソウルドレイクの糧になるんだろうか?

 ……なるよな、そりゃ。

 襲いかかって来たのはコイツだけど、じゃあ殺されても仕方ない、貴方を恨んでませんよ、何て悟りきったような思考をするはずも無し。

 って言うか、そもそも悟ってたら襲っては来ないか。

 それにソウルドレイクの復活に対する執着は凄そうだし、どんな死に方した魂でも気にせずまとめて吸収しそうだような。


 ……しゅう、ちゃく?


 ――魔術や魔法の基本は執着にある――


 とは誰の言葉だった?

 ……確かカーズさんだったよな?


 ――何かを顕在化させたい、何か願いを叶えたい……それらの願いが強ければ強いほど成功するし、願いが弱ければ失敗する――


 とも言ってたよな。

 魔法ってようは想像力と、何かを成したいという執着からその力を発揮するわけだ。


 だから、オレはカーズさんの加護と自身の揺るぎないアニオタ力を発揮してかめは〇波が出来たわけだ。


 ……執着か。


 シャワーを浴びながら、もう一度考察する。

 向こうの世界の常識は魔法の前ではまるで無意味。なら、発想を具現化する事にだけ集中すれば……

 でも、発想の具現化と言っても、そもそもこっちの世界の生物がよく分からん。

 ん~……

 精霊とか召喚するには、やっぱり形とか重要だよな?

 ドラゴンとかならあっさり形は浮かぶけど、下手に召喚したところで従わなければ意味が無い。


 鏡に映る自分を見ながら思わず唸り声を上げる。

 エルフか。エルフなら自分の姿を想像しながら願えば召喚出来そうな気もするけど……


 でもなぁ


 湯気で隠れてる股間を見ながら、

 懐かしきマイサン。でも、今じゃ違和感しか無いマイサン。

 アル君が大好きなおっぱいも無くなってしまった……。


 ここで、新しいエルフの召喚に成功したとして、ヒロイン増えたらやだしなぁ……


 う~ん……


 忠実な……

 仲間……

 戦力になりそうな……

 仲間……


「そうか……居たじゃん。オレが大好きで、よく知っていて、仲間になりそうな忠実なのが。でもなぁ、戦力になるかは微妙だなぁ……」


 シャワールームから出ると、急いで着替えアル君のいる部屋に向かう。


「アル君!」

「今日はNO!」

「や、ちゃいますけど!?」


 速攻拒否されてしまった。

 てか酷くありませんか、貴方?

 人が男に戻った途端にラブラブしてくれないとか。

 おっぱいか? おっぱい無いのがダメなのか?

 それともチン〇か? チン〇付きなのがいかんのか?

 まぁ勢いでアル君を蹂躙しよとしたのはオレですけどね。


 ……そういや、嫌よ嫌よも好きのうちという言葉がありましたね。

 ツンデレなアル君は口では拒否しながらも身体は……「わぷっ!」


 飛んで来た枕がオレの顔面を直撃する。

 枕に書かれてるのは『NO』の二文字。


「何すんのさ!」

「性欲の権化みたいな顔してるからだろ!」

「失礼な!!」

「じゃあ、考えてなかったと?」

「……考えてない事も無いような、あると言えばあるような、じっくりと検証したなら、おそらく司法判決としては有罪確定な気もしなくもないけど、有能な弁護士ならそれすらも覆してくれそうな気が……」

「ようは世間的にはギルティって事だよね?」

「イチャイチャ所望です!」

「全部終わってから! 疲労取るのが先!!」

「うぎぃぃぃ」

「珍妙な鳴き声上げないの」

「珍獣扱い!? ふん、だ。良いもん一人でするから、ってそうじゃなくて!」

「さっきから支離滅裂な言動だけどどうしたの、何かあった?」

「支離滅裂に見えるとしたら、それはアル君のせいだ……ってかね、さっき話してた召喚魔法だけど、良い手を思い付いたんだ!」

「良い手ぇ……?」

「うわぉ、チベットスナギツネ再び!?」


 すっごくクールな瞳をしたジョリジョリ頭のチベットスナギツネがそこに爆誕したのであった。

全体改稿中で既存の読者様にはご迷惑をおかけしております。

もう少し先になりますが、展開が大きく変わると思いますので今しばしお待ちください。

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