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TSヒロイン・僅かに感じた違和感

2019/01/25~30×2に投稿した『やっぱりわんこ』『発想とリョウの優しさ』『再攻略』の3話を結合し、誤字表現を中心に改稿しました。

 ガルルルル……

 キャインキャイン……

 くぅ~んくぅ~ん……


 駄犬三段活用――


 何かと言うと、ここ数週間のオレの生き様です。

 魔法覚えてチョッピリ調子こいたのはほんの初日だけ。

 牙を抜かれたというより、牙をボッキンボッキンにへし折る勢いでアル君はスパルタでした……

 愛あるお仕置きというか指導と言うにはあまりに苛烈。


「お早う」

「イエッサ!」


 笑顔でおはようの挨拶してくれるアル君にさえ、思わず軍人張りに背筋がピンと伸びてしまう。

 そんなオレの様子に苦笑いするアル君。

 いや、苦笑いしてますけど、原因貴方ですからね?


 まぁ、多少はオレも悪かったけどさ。


 それに、ここしばらくイチャコラまでもお預けだし……


 がるるるる……

 俺の消えかけた野生がアル君を見ていると沸々と蘇ってくるですよ。


「何を人のお尻見て唸り声上げてるのさ。もうちょっとお仕置きが必要?」


 きゃいんきゃいん……

 愛あるお仕置きを所望します!


 そんな感じの日々ですが、オレ達の愛は不滅です。

 いや、マジで!

 大丈夫だよね、アル君?


「――リョウ」

「……」

「リョウ、リョウってば!」

「ふぁ!? アル君大好き!!」

「え? ありがと。ボクも好きだよ。愛してる」

「ありゅ君……」

「さ、愛してるから修行頑張ろうか」

「うわぁお、心が凍てつくほどの塩対応!」


 くぅ~んくぅ~ん……

 寂しい。

 今日も今日とて飴玉を貰えない訓練漬けの日々か……



 どぉん……

 ガオッ!!


 炸裂する爆音、はじけ飛ぶ地面、陽光に煌めく汗。

 最後の文言だけ聞くと若干スポ根チックだけど、然に非ず。

 まぁ、言わなくても音を聞けば分かるよね。

 金属の刃は金切り音と火花を散らし、高速で紡いだ魔術や魔法が空間に炸裂する。

 ちなみにオレが使っている武器はジャマダハルという手甲と刃が一体化したような武器を使っている。

 武器の使いに慣れてないので、手の延長線上として使えるからとアル君が選んでくれた武器だ。


 ガルルルル……

 え、楽しそう?

 ……ふふ、実はそうなのだ。

 イチャコラ出来ずにやさぐれかけてたけど、実はオレ、今凄く楽しかったりします。

 みそっかすだと思ってた自分が動ける事を体感出来てるというか、自分にはまだまだ伸び代があって成長しているのを実感出来ていると言えば良いのか。


 正直、アル君と出会えたこと以外、この世界はオレに絶望しか与えてくれなかった。

 だけど、やっと……やっとだ!


 えっちぃ事が出来てないのを除けば、オレは今ファンタジー世界に来て以来、間違いなく最高の瞬間を向かえているのだ!


「考え事をしているとは余裕だね!」


 アル君はニヤリと笑うと、腰に括り付けた皮の水筒を地面に叩き付けた。

 裂けて飛び散る水。


 ヤバイ!


「水霊よ、形無き刃となりて牙を剥け!」


 アル君の呪禁が放たれると同時に無数の氷柱が大地からそそり立つ。


「風霊よ、暴風となりて我に牙剥く障害を噛み砕け!」


 俺が解き放った風とアル君が解き放った氷の刃が激突し霧散する。そして、そのまま渦を巻いた風をアル君に叩き付ける。


「氷に風か、良い判断だ!」

「何度も反撃喰らってるからね!」


 そう、最初は水や氷に炎を放っていたが、水蒸気を高温にされたり凍らされたりでどえらい反撃を受けた。土で防ごうとしても、泥の塊にされて俺ごとカチカチに固められ酷い目に遭わされたこともあた。

 魔術は科学的な力だとアル君は言っていた。

 だけど、その応用は使い手によって科学の常識を遙かに超えてくる。

 アル君相手なら、半端な防御よりも攻撃を兼ねたカウンターの方がよほど効果がある。

 

 闘争の思考回路は、アル君と戦うことでドンドンと磨かれている。


 牽制からのぶつかり合い。

 虚実入り交じった攻防はやがて真のみとなり、


「惜しいね、あと一歩だ」


 ドンッ!


 と鈍い衝撃に押され、俺は地面に転がった。


 きゃ、きゃいんきゃいん……ぐふ……


 ……

 …………

 

「う、ん……」

「目が覚めた? 大丈夫かい?」


 目が覚めると、アル君の膝の上で寝ていた俺。


「何か、こうやってアル君に気絶させられたの、最初の頃を思い出すよ」

「あったね、そんなことも。まさかあの頃はキミとこんな関係になるなんて思っても居なかったけどね」

「それは俺もだよ。あん時は確かベッドで目を覚まして、今はアル君の膝で目を覚ましてる……えへへ……」

「どうしたの? 打ち所悪かった?」

「失礼な! って、はは~ん、さてはアル君照れてるな」

「どうしてそうなるのさ」

「だってアル君が口悪い時って大概照れ隠しだもん」


 にへ~と思わず笑みをこぼすと、アル君は照れ隠しみたいにオレの顔に手を置いた。

 アル君の手。

 オレを優しく撫でて、化け物どもから守ってくれた手。

 決して大きくはない。同年代から見ても少し小さいかもしれない。

 それでも、この手は多くのモノを地上にもたらした。

 不幸も、幸福も……

 もたらしたモノの比重は、不幸の方が重いのかも知れない。


 ペロ……


「リョ、リョウ?」


 ちゅ……


「リョウってば、は、恥ずかしいよ」


 でも、オレには幸せをくれる手だ。


「大好き」


 俺は身体を回転させると、ギュッと、アル君の腰に抱きつく。

 頭を優しく撫でてくれるアル君の手が心地良い。


 クンカクンカ……

 …………よく考えてみたら、オレの頬の下辺りにはアル君のアル君が居るのでせうな。

 ガルルルルル……

 しばらくお預け食らってる身としては、そろそろ野生の血が滾るのですよ。

 え? お前今雄だろって?

 ふ……知ってるか?

 野生のキリンの九割はホモらしいですよ?


「はぁはぁ……あゆくん、はぁはぁ……」

「リョウ、何か悪寒が……って、いだだだだ、腰の締め付けが……どこからそんな馬鹿力を……」

「ハァ……麒麟です」

「どこからそんな野太い声出してんのさ! ってか、キリンって何?」

「イケボと言ってくれ。アル君、あいらびゅ~」

「あいらびゅ~は分かってるから落ち着いて!」

「アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、アル君、しゃしゃしゃー!!」

「怖ッ! う、うわあぁぁぁあぁぁっ! ら、雷霊よっ!」

「み、みぎゃああぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっ……」


 ビシャッ!! って言う音を聞いた瞬間に俺の全身を襲った強烈な痺れ。


 ぷすぷす……


 アル君のイケズゴッド……

 

 ガク……



 電撃喰らってからさらに2週間ほどが過ぎた。

 俺の肉体は先祖の血かそれともエルフの肉体がもたらしたものか、最初の脳筋ステータスとは裏腹に、意外なほど魔術と魔法に適正があった。

 さらに魔法はイメージの力との通り、オレ自身の想像(もうそう)力もまた魔法との相性が良かった。


 うん、秘めてて良かったオタク力。


 ただ、さすがに初日にぶっ放した『かめ〇め波』はアル君以外にも多方面からお叱りを受けそうなので封印しています。

 そんなわけで、今は何をしているのかって言うと……


 槍を使っています。

 え?

 お前最初の頃に槍は挫折しただろって?

 ふ、甘いな。

 俺はあれから考えたのだよ。

 魔術での身体強化。

 これって単純に力や素早さのみの強化何だろうかってね。

 俺も詳しくはよく分からないけど、人間は脳からの伝達物質で筋肉を動かすらしい。しかも、父さんの愛読書『バキ』ではトールなんちゃらさん曰く、『伝達物質は0.5秒遅れてやってくる(ドヤッ!)』という事らしい。

 まぁ、それは余談だけど、ようは自分の思い描く動きと実際の動きの不一致。

 達人とかにはそんなブレは無いんだろうけど、素人はそうはいかない。

 穿ちたいところに刃を穿てない、狙った場所を切りつける事が出来無い――

 これは今現在オレが持ち合わせている身体能力と技量ではいかんともし難い課題だった。

 だけど、自分が振り下ろす、あるいは突こうとする位置を、自分自身が直感的に理解する事が出来たらどうだろう?

 まあ、普通なら出来たところでそれを修正するのはほぼ不可能に近い。

 さっき言った0.5秒もさることながら、自分自身の肉体をそんな刹那的状況で補正して動かすなど、到底不可能だからだ。


 で、最初の魔術による身体強化に話は戻る。


 魔術ってのは魔法と違ってあくまで自然界で可能な範囲でしか変化を起こせない。

 例えば筋力や素早さを一時期に増強するのも、筋繊維の変化の範囲という考え方だ。

 ……なら、反射神経はどうか?

 反射神経は当然、難しくとも鍛える事が出来る。

 ならば、だ。

 さっきの意識の話とちょっとかぶるけど、ここを魔術で強化すれば、そのブレを補正出来るんじゃ無いか、と考えた。

 その結果、オレの目論見は成功する。

 自分が振り下ろす刃の動きを、振り下ろしきる以前に知覚出来たのだ。

 とは言え、知覚出来たからって修正するのはそんなに簡単じゃ無かった。

 何せ、すでに動いている行動から急反転させたりするから、筋繊維がズタズタになるんじゃないかってぐらい悲鳴を上げた。

 筋肉痛とは違う痛みに最初の頃は支配されたのだ。

 ただ、自分の発想で酷い目にもあったけど発見は大きかった。

 神経を加速させる事は、同時に思考の加速にも繋がった。

 ぶっちゃけ言ってしまうと、一日が二日にも三日にもなったぐらいの感じだ。

 でもハッキリ言って負担もでかいから、あまりやり過ぎると廃人になるんじゃ無いかってレベルの疲労とかも同時に襲ってくるから、多用は出来無いけどね。

 と、それは置いておいて。

 更にもう一つの副産物として精神の加速は同時に学習能力の加速にも繋がった。所謂『身体が動きを覚えた』みたいな状態にまでなってきたのだ。

 最近は少しずつ身体強化を切って、素の自分で槍を扱っても人並み以上に動かせるまでに成功したのだ。

 その成果もあってか、


「く、と……」


 アル君が苦悶の声を上げる。

 武芸百般――

 この見た目でそんな言葉が似合う、まさに歩く武器庫みたいな少年をオレの槍は追い詰めつつあったのだ。


 カキンッ! と金属音が鳴った。


 空を切り裂きながら宙を舞ったアル君の剣。

 よっしゃッ!

 初めてアル君に競り勝った!

 これであと一撃入れればオレの勝ち!


「もらったー!!」


 それは突きを出そうとした瞬間だった、

 一瞬、ほんの一瞬だけど、オレの身体が強張った。


 キンッ!


 と乾いた音が鳴ると同時に宙を舞った槍の切っ先。

 アル君の鞭のように撓った手刀が太刀打ちの部分を切り裂いたのだ。


 そして、ピチッと……


 アル君の優しいデコピンがオレの額を打つ。


「うにゃぁ、また負けた……」

「何言ってんのさ。キミの勝ちだよ」

「え?」


 そう言うとオレの胸に拳をトンと当てる。


「ボクはキミの優しさで逆転出来たに過ぎない」

「優しさ?」

「ボクに槍で一撃入れるのためらったでしょ」

「だって、怪我させたらってやだなって……」

「槍の穂を刃引きしてるのに?」

「刃引きしても怪我するかも知れないじゃん」

「そっか」


 オレの言葉に、アル君は薄く微笑むのだった。 





「リョウ、今日これからの予定を伝えるよ」


 それは、朝食を食べ終えてすぐの第一声だった。


「今日これから?」

「そ、今日これから」

「その言い方からすると、いよいよ……」

「正解。塔の攻略を始める」


 うぉー!

 いよいよ攻略開始か。

 目指すは100階層、カーズさんの元までだ。


 この日が来る事を待ち望んだいたくせに、いざその日を自覚すると、緊張に指が震えてくる。


「怖い?」

「正直言うと」

「だよね、ボクも緊張している」

「アル君でも?」

「そりゃ、対策を考案したからって、二度も敗北している相手だからね」


 そっか、そりゃそうだよな。

 アル君にとって敗北の経験なんて、カーズさんぐらいなモノだろう。

 ただ、言ってしまえばカーズさんは規格外過ぎるから除外すると、唯一二度も黒星を付けた相手てだろう。


「戦力はハッキリ言って、前回のメンバーを含めても間違いなく今のボク達二人の方が上だ」

「え? そ、そんなに強くなってるの?」

「自覚無いみたいだけど、キミの能力は格段に上がっている。もちろん、ボクもね」


 アル君がニヤリと笑う。

 うぉー、格好いい!

 最近、甘えん坊なとことかオレ以上にポンコツな姿ばかり見ていたけど、このちょっと鼻につくぐらい自信家なところこそ、アル君が最も本領発揮する姿だ。

 最高です。

 この顔だけでご飯三杯はいけちゃいます。

 ……クリクリ坊主頭だけど。


「何、また余計なこと考えてない?」

「イイエ、キノセイデス」

「何で棒読みさ」

「えへへ」

「笑って誤魔化された。まぁ良いか。さっきの話の続きで一応言っておくけど、勿論懸念もあるんだ。いくらボク達が強くなっていても物量に押されれば苦戦は免れない」

「確かに」

「それで前も話したけど、50階層以降は後退するだけで階層落下の罠が発動する」

「うん、覚えてる」

「もし、今回の攻略が厳しいと少しでも感じたら、迷わずボクたちは階層落下を使おう」

「戦略的撤退ってヤツだね。あ、でも階層落下って、二人共同じ場所に出るのかな?」

「検証不十分だから確実とは言えないね。ただ、少なくともその階層よりは下に落ちる事は出来る。今のボクたちなら油断さえしなければ、50階層でも苦戦する事は無いだろうけど、その階層辺で落下した場合はとりあえず……そうだ、一番記憶に残っているだろうここまで撤退して集合、ってことにしよう」

「了解したよ。出来ればアル君と離ればなれにならないようになるのが希望ですけどね」

「勿論、それはボクも一緒だよ。それともう一つ気を付けるべき階層がある」

「気を付ける階層?」

「66階層だ」

「ッ!!」


 それは思い出したくも無い悪夢の階層だ。


「覚えてるよね」

「忘れた」

「気持ちは分かるけど、大事な事だからちゃんと考えて」

「うぅ~うぅ~」

「唸らないの。あの時、ボクたちは落下……と言うか浮遊感に包まれて逆落下したよね」

「うん、確かに上に空いた穴に吸い込まれた」

「その階層の話なんだけど、あの時古い死体があったのも覚えてる?」

「えっと……ああ、追い剥ぎした?」

「追い剥ぎ言わない。それでね、実はこの塔で分かった事がある」


 そう言ってアル君が取り出したのは古ぼけた1冊のノートだった。


「それは?」

「これはその探索者達の死体が持っていたノートだ」

「OH、遺物!?」

「YES、遺物。で、この遺物に書かれていた内容だけど、彼らは撤退が出来無くて最後は死に至っているみたいなんだ」

「撤退する前に怪物に襲われたって事?」

「半分正解かな?」

「半分?」

「66階層から降りる事が出来無くなったみたいなんだ」

「? それって敵が強くて?」

「さっきの話だけど、ボクたちは66階層で上に落下(・・)したよね? その落下先は、どうやら99階層らしいんだ」

「99階層!?」


 うへぇ、そんな上層階まで一気にワープしたのかよ……


「ボクたちは先生に助けられたけど、この探索者達は違った。何とかまた戻って来ても、66階層でまた上層階に戻されたらしい」

「罠の性格悪すぎ!」

「まぁ、罠だしね」

「って、あれ? でもそうしたら……確かジョーさん達は78階層まで登って戻って来たって言ってたよね? まさか嘘だったってこと?」


 あの人の良さそうなおじさん達が嘘?

 いや、人生経験がある意味で豊富だけどたいして生きてない俺にだって分かる。

 あの人達は嘘をついて虚勢を張るような人達じゃ無い。

 ん~、それならどういう事だ?


「リョウ、そこで思い出して欲しいんだ。最初にボクはこの塔を攻略した者達は居ないって、言ったよね」

「うん、だからどこまで階層があるのか不明だって言ってたね」

「おそらく一番の難関はあのソウルドレイクだけど、それを越えてからも苛烈な魔物達の襲撃は続く。力自慢の者達ほど、この塔を降りて来ない理由はその者達が途中で死んだからだ。だけど、ジョー氏たちは戻って来た。博識だけど彼らは力では戦士に大きく劣るのに、だ」

「それは、ジョーさん達が戦いを避けてたから……え、それじゃ戦い続けた人達は降りる事が出来無くなる塔だってこと?」

「59階層という試練を乗り越えた力自慢に与えられる最大の試練、と言えるかも知れないね」

「攻略するか死ぬか……その二択って事なの?」

「たぶん、今ある情報を精査するとそうなるね」


 ソウルドレイクの何度でも蘇るという不死性というか魂の回帰性も含めて、この塔に入ったモノの命は決して手放さないという感じは蟻地獄みたいだ。


「でもそれならさ、カーズさんが来てくれなければ、この間一緒に冒険した人達は降りる事が出来無かったってこと?」

「おそらく……」

「死んだ人達は、どうしてカーズさんに助けて貰えなかったんだろ」

「う~ん、必ずしも先生が手を貸すとは限らないよ」

「そうなの?」

「先生は基本的に現世に関わるのを良しとはしない方だから。自分はもう今の世界に直接関わるべきでは無いって感じだしね」

「じゃぁ、オレ達が助けて貰えたのは……」

「先生の弟子だった先祖のおかげだろうね」

「なるほど」


 あの慈愛に満ちた人の意外な一面を教えられた気分だった。

 いや、何かの本で神様ってのは現世に関わらないってどこかで読んだ気がするな。

 そう考えると、あの超越者とも言える空気を纏ったカーズさんなら不思議じゃ無いのかな?


「リョウは優しいから腑に落ちない点も多々あるかも知れないけど、今はまず先生の所に行く事だけを考えよう」

「う~ん、優しいって言うか、割り切れてないだけなんだと思う。この世界の価値観からすると、オレは甘いんだろうね」

「そうだね。甘いのかも知れない。でも、その甘さこそ、ボクはとても尊いと思うよ」


 アル君の言葉に思わず頬が熱くなる。

 何時ものオレだったら迷わずアル君に飛び付いて(とびかかって)たんだろうけど、流石にそんな状況では無い。

 だから、思わず誤魔化すみたいに、


「あ、そう言うやさ、ちょっと気になったんだけど」

「何?」

「あのね、66階層以降は後退出来無くなるって言ったよね。それって、どう言う意味?」

「どう言う意味って言うと?」

「えっと、確か最初に聞いたのは、敵の攻撃で後ずさりするだけでも落下するって聞いたんだけど、後ろ向いて普通に歩いて降りるのも後退になるの? でも、99階層から66階層までは普通に戻って来てるんだよね」

「あ、そう言うことか。えっとね、基本は敵前逃亡を含めて、ようは戦いから逃げるという行為そのものが落下に繋がるんだ。ただし、このノートを読む限り66階層だけは、戻る(・・)という行為も逆落下に繋がるみたいだね」

「う~ん、そしたら今回は戦わないで上層を目指すと言うこと?」

「いや、それは不可能だ。たぶん、ジョー氏達のあの好奇心の塊みたいな言動からして、戦わないで更に上層を目指せるなら、彼らはとっくに踏破しているはずなんだ」

「言われてみれば確かに。戦わざるを得なくなったから、仕方なく戻ったのか」

「そう考えた方がしっくりくると思う。それに、ボクたちは先生に一矢報いないとダメなんだ。塔の化け物如きに後れを取っていたら、先生に触れるの何て一生かかっても無理だと思う」


 それを言われると辛いなぁ。


「一層一層、時間をかけて上層を目指すのが理想だけど、65階層で危ないと判断したらまずは落下を使ってここに戻り、一から修行のやり直しだ。余力があると判断したら66階層で野営。その後は引き返せないのが前提だからジリ貧になる前に逆落下を使って一気に99階層を目指す。そして余力を使い切る前に100階層まで踏破するんだ」


 それは何時も慎重なアル君らしくも無い、かなりやんちゃな賭けな気がした。

 焦ってる?

 いや、焦るという意味じゃ、オレだって焦ってはいるけど……


 う~ん、何だか焦ってるのとも違う気がする……

 ま、どちらにせよここで足踏みしている場合じゃ無いってのはアル君と同意だ。


 覚悟を決めろ、日野良。


「了解したよ。アル君の作戦で行こう!」


 オレも腹をくくるべく高らかに宣言した。

全体改稿中で既存の読者様にはご迷惑をおかけしております。


もう少し先になりますが、展開が大きく変わると思いますので今しばしお待ちください。

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