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TSヒロイン・魔法の神髄、その片鱗

2019/01/23×2・3に投稿した『初めての魔法』『魔法の乱用』『怒られた』の3話を結合し、誤字表現を中心に改稿しました。


 地面に描かれた文様が淡い光を放ちはじめる。


 ――時の彼方に刻まれし命のタペストリーよ、

 今新たなる者が魔導の道を歩むこと刻みたまえ、

 全ての調和を保つコズミックバランスよ、

 その偉大なる采配を我らに僅かなりとも傾けたまえ、

 我ら望みしは魔の力なれど、

 その力は偉大なる法の王、剣の神、魔導の王が振りかざし正義の一振りなり――


 う~ん、滔々とアル君の口から紡がれる文言は古めかしくて分かり難いが、掻い摘まんで言うとどっかの神様か何かにカーズさんの力を借り受けるのをお願いしているって感じか。


 アル君、後半のカーズさんの文言メッチャ褒めまくりですよね?

 や、分かってますよ、カーズさんが凄いってのは。


 ……がるるるる。


 って、いかんいかん。

 どうも白狐族になってからと言うもの、犬属性が強くなってる気がする。

 ここは一度心を無にして、ちゃんと魔法を受け入れないと。


 そんな俺のアホな葛藤など気付きもせずに、アル君の儀式は進んでいく。


 やがて、魔法陣が強烈な光を帯び始める。

 それは契約の儀が完了間近の表れか。


 ――新たに生まれし導師、その名はヒノリョウ――


 カッ!

 と網膜を焼くほどの強烈な光が辺りを、いや、俺を包み込んだ。


 身体の中の、どことも分からない場所がとても熱い。


「あ、ぐぅ……」


 まるで燃えるみたいな熱さに、思わず漏れた吐息。

 水が、欲しい……


「リョウ!」

「あ、あゆ……くん……」

「気をしっかり保て! 今のキミならそんな痛み何て事は無いはずだ!」


 そんなこと言ったって……ハァ……


「ボクと一緒に生きるって言ってくれたのは嘘だったのか!」

「ッ! う、う……嘘なもんかーッ!!」


 俺の絶叫と同時にカッと胸の中で光が弾ける。


 ……?


 ??


「何とも、ない?」


 俺の絶叫と同時に、さっきまでの不調が嘘みたいに霧散する。


 なんか、こんなのが前にもあったような……


「よく乗り越えたね、リョウ」

「う、うん……だけど、魔法って契約だけでこんなに危険だったの?」

「いや、普通は魔法ってのは主から力を借りる儀式だから、力を貸してくれる主が『子』に対して敵意を持つとか、『子』が主に対して敵意でも持たない限り、初級魔法でこんなに苦しむなんて普通は有り得ないはずなんだ……」


 ……ごめん、アル君。


 犯人オレだ。


「すまない、ボクの知識が間違っていたみたいだ」

「い、いや、良いんだよ。アル君が悪いわけじゃ無いし、未熟なオレがアル君に迷惑かけただけだから」


 誤魔化してみたけど、心の中に降り積もるのは罪悪感という名の灰色の雪。

 これは早く謝った方が良いパターンだな。


「あ、あのね、アル君」

「でも、もしボクの知識が間違いじゃ無いとしたら、先生の力が凄すぎた可能性もあるね」


 ……がるるるるる、やっぱり本当のこと言うの止めた! 絶対に言うもんか!!


 オレもカーズさんの事は好きだけど、カーズさんの事を好きすぎるアル君はちょっと嫌いだ。


 そんな感じで少しやさぐれ気味だったけど、よく考えてみたら今はそれどころじゃ無い。

 だって、オレ、ステータスの魔法を覚えたんだもん!

 何か異世界に来て早数十話、リ・アルじゃ随分経った気もするけど、何かここに来て異世界転生は~じま~るYO~って感じだ!


 それじゃ、早速行くでヤンス! ふんがー!(一人小芝居)


「すっっっっていぃぃぃぃたああぁぁぁぁぁぁぁすぅぅぅぅっ!!」


 し~ん……


「懐かしいね、その絶叫」


 苦笑いを浮かべるアル君……


「う~、何だよ! やっぱりみそっかすって事か!? ちきしょー!!」

「すぐやさぐれないの。初級魔法は特に魔法名も詠唱も必要としないんだよ」

「え? そうなの?」

「ただし、その魔法を正確に発動させる魔力が必要なんだ」

「魔力が足りないってこと?」

「足りないってよりも、使い方を分かってないって感じだね。あと、初級魔法は制約が緩い分、術者の能力に大きく左右されるから」

「術者の能力?」

「例えば赤ちゃんのパンチも格闘家のパンチも、大きく括ればパンチはパンチだよね」

「? う、うん……」

「でも、同じパンチだけど赤ちゃんのパンチで大人を倒せるかって言うと無理だよね」

「そりゃまぁ、そうだけど……あ、そう言うことか」

「気が付いた?」

「アル君が言いたい事が何となく分かった気がする。誰でも使えるし見た目は同じ魔法でも、その効果は術者次第って事だよね?」

「そう言うこと。ちなみに、魔法はとくに『主』同士の力の差にも左右されやすいんだ」

「『主』同士?」

「魔法は魔法の力の仮受け先である『主』より格上の相手に効果が及ばないとか色々制約があるんだよ」

「……えっと、どう言うこと?」

「聖書にある神罰ってのは、神という人より格上の存在が人という神よりも格下の存在に落とす罰だろ?」

「て事は魔法ってのも、上位の者が下位の者に下す力だったってこと?」

「恐らくね。だから制約も多いんだ」

「だけど魔族や魔王のような、人間よりも遙かに強大な力を借りるから――」

「その通り。実現出来る力は魔術の比じゃ無い。それこそ理の外の力だ」

「ぬむぅ……」


 改めて知る魔法という力の恐ろしさと難しさ。


「ま、今回リョウが契約した魔法はあくまでも初歩だからね。そこまで警戒しなくても大丈夫だとは思うけど、初歩の魔法でも当然危険性はある。だから無茶はやめてね」

「うん、分かったよ。でさ、早速だけど、契約したこの魔法ってどうやって使うの?」

「知りたいと思う内容を十分自分の中で考えて、対象を選ぶ。ザックリ言うとそんな感じ」

「ザックリしすぎ」

「仕方ないでしょ、そう言う魔法なんだから。ちなみに自分よりも格上の相手には、ほぼほぼ効果は無い」

「つ、使えない……」

「だからボクは身に付けなかったんだよ」


 そう言って苦笑いするアル君。


「ぬむぅ……」

「まぁ、これはこれで使い道はあるんだよ。鑑定出来ないって事は自分よりも格上の証拠さ。素直に逃げるってのもありでしょ?」

「むぅ~……後ろ向きだなぁ」


 せっかく魔法を手に入れたのに、何だか出鼻を挫かれた気分だ。


「ほら、何時までもむくれてないで、とりあえず軽く自分に使ってみなよ。念を押すようだけど、あくまで軽くだよ」

「うん……」


 俺は促されるままに試してみる。

 詠唱も何もいらない。

 ただ、知りたいと思うことを願うだけ……


 ピピピピピピピ……


 ん? 突然脳内に響いた電子音(?)

 って言うか、某アニメで聞き覚えのある音なんですが……


 ピー……


 戦闘能力1200――


 ……俺の能力値サイバイマンですか?


「どうしたの、凄く表現しにくい顔しているよ?」

「いや、何か俺の思ってたのと違う数字が出たというか、ザックリした値しかわからなかったというか……」

「う~ん、キミが自分の能力を知りたいと思って、一体何を想像したの?」

「アル君も参考(・・)にした世界一有名なバトル漫画」

「ああ、キミの世界で読ませて貰ったヤツか。アレは面白かった……じゃなくてさ。良いかい、魔法はイメージの力だ。どれだけ具体的にイメージして実現するか何だよ」

「うぬぅ……そうなると、ゲームから引用した方が良いって感じか」

「でも、キミは想像力が豊だから頑張りすぎるとダメだよ。さっきも言ったけど軽くだからね」

「見せろ見せろ見せろ見せろ……」

「って、ボクの話聞いてる?」


 名前 日野良 

 HP110 MP10

 力37 敏捷51 知性6 精神7 魔力2

 習熟度

 無手 8 ナイフ 0 斧 1 

 剣  0 杖   0 弓 0

 魔法 1 魔術 1


「うぉー! 見れたー!! だけど脳筋……予想してたけど、エルフなのに脳筋……って……あれ?」


 習熟パーセント

 無手 8.12 ナイフ 0.1 斧 1.01 

 剣  0.01 杖   0.3 弓 0.001

 魔法 1.01 魔術 1.68

 垂直ジャンプ力3.1メートル 肉体的修復率……


 さらなる解析値――


「あ、あぁぁぁ! 数字が山ほど!」

「リョウ、魔法を切るよ!」

「みぎゃーっ……ッ!」


 アル君の、おそらく強制解除だろう魔法の力で、脳の中に溢れた情報が一瞬にして霧散する。

 やべぇやべぇ、オレ自身も知りたくなかった自分の欠点まで強制的に見抜くところだった。

 って言うか、情報の濁流が半端なかくて、後頭部が未だにズキズキする。

 ステータスを知る前に、自分の情報で脳みそが砕けるかと思った……


「大丈夫だった?」

「ありがとアル君。軽くパニック起こしかけたけど、何とか無事だよ」

「人間一人の情報量はキミが思う以上に膨大なんだ。自分が知りたいと思う能力値以外は、あまり欲張らない方が身のためだよ」

「うん、思い知りました……」


 まさか、よもやのステータスでこんな目に遭おうとは。


 うむぅ、魔法は危険と言ってたけど、シャレにならんな。

 ……あれ?

 だけど、想像力さえ豊なら魔法って……


「ねぇねぇ、アル君」

「何?」

「今契約したのって、カーズさんから力を借りる魔法だよね?」

「まぁ、先生から借りるって表現も少し語弊があるんだけど。そうだね、そう考えて貰ってとりあえず良いと思うよ」

「難しい事は追々聞くよ。あのね、今の契約で使えるのはあくまで相手の能力を看破する魔法だけ?」


 オレの質問にアル君が鼻の頭に皺を寄せた。

 その反応に思わずほくそ笑むと、アル君が深いため息をつく。


「キミはこう言う時だけは本当に勘が良いよね。正解、あくまでさっきの契約は先生との契約みたいなもんで、先生が生み出した初級魔法だったらおそらく全ての魔法が使える」


 よっしゃ! オレの予想通りだ。

 契約の儀式では、具体的に何の魔法(・・・・)と契約するとは言ってなかった。

 さっきの文言だと魔法と契約するんじゃなくて『主』との契約なのだ。


「キミのこう言う時の勘は驚嘆すべきなのか忌むべきなのか……言っておくけど、素人に――って、こら!」

「かーめー……」


 好奇心が止まらん!

 オレは世界で一番有名な必殺技を試すべく例のポーズを構えてみる。

 手の中に光る青い輝き。


「キミは魔法素人だ、バカな想像力はやめろ!」


 初級魔法は魔法名も詠唱もいらないって言ってた。

 要は根幹となる魔法の形はあるが、効果や詳細は術者次第って事だ。

 と言う事は、だ。

 それって逆に言えば自分が想像さえ出来れば、どんな形の力でも生み出せるって事だよな。

 想像力=妄想力

 って考えたらさ、アニオタや漫画オタクにはたまらん能力って事だろ?

 だったら撃てる、オレなら絶対に!

 あ、でもオレのステータスさっきMP10だったっけ?

 じゃあ、そこらも反省して、ちょいと抑え気味に……


「波っ!」


 ドオン!


 爆音を上げて吹き飛ぶ岩山。


「やったぜ! 父ちゃん、明日はホームランだ!」


 思わずYouTubeで見た懐かCMのネタを叫んでしまう。

 父さん、今のオレを見たら最高に羨ましがるだろうな。

 フヒヒ、やう゛ぇ、オレ今最高にファンタジーして――


 ゴインッ!!


「い、痛ったー!! 割れる割れる頭が割れる!!」


 涙目で振り返ると、そこには鬼の形相をしたアル君がいたのであった……



「あるく~ん、ごめんよ~、怒らないでドア開けて~」


 カリカリカリカリ……


 アル君が怒って部屋の中に閉じこもってしまった。


「あうぅぅぅ……」


 カリカリカリカリカリカリカリカリ……


 部屋の扉をノックしても出てこない……


 カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ……


「あゆく~ん、ごめんよ~……」


 カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ……


「うぅぅぅ……」


 カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ……


「やかましいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

「わきゃぁ!?」


 明け放れたドアの向こうで、アル君が仁王立ちしていた。

 オレの喉がゴクリと鳴る。

 メッチャ怒ってはる。

 

「あ、あの……」


 ギロリと睨まれた。

 あうぅぅ……

 その目は恋人に向ける目じゃないのですよ?

 オレ、アル君が何で怒っているのかも分からないですよ?


 うぅ……

 こんなに怒っているアル君は、野営地でライオン型の魔獣に襲われた時以来だ。


「その顔はボクが何で怒っているか分かってないね」

「うゆぅぅぅぅ……ただ、ね。アル君が怒る時は、何時だってオレを思ってくれてる時だって事くらいは……その、分かっているつもり、だよ?」


 これは言い訳じゃない。

 ライオンに襲われた時もオレを心配してくれたから怒っていたんだ。

 ただ、今日の怒りっぷりはその時の比じゃないのですがね。


「リョウ……ボクが怒っているのはね、キミは一歩間違えたら死んでいたからだ。いや、死ぬだけでは済まない危険性だってあったんだ」

「へ?」

「何度も言ったけど魔術と魔法は全くの別物だ。魔術を使って力尽きても昏倒する程度ですむ。もちろん、敵の前だったらそれは死に繋がる危機だ。だけど魔法は違う。術者の魔素が枯渇すれば放たれた魔法は術者に牙を剥く。それは動けない術者を一方的に貪る暴力だ」

「え、え?」

「魔法は理の外の力だ。術者に牙を剥いた暴力はその魂さえも浸食すると言われている……輪廻の輪からは放逐され、未来永劫生まれ変わる事の無い魂に成って果てる。魔族達はそうした穢れ堕ちた者達の生まれ変わりとさえ言われている」

「う、うへぇ~、そんな危険なモノなの?」 

「ボクは何度も、口を酸っぱくして言ったよね。魔法は危険だって」

「はい……」

「だけど、キミは聞く耳を持たなかった」

「そ、そのテンションが上がりすぎたと言いましょうか……」

「キミに魔法を与えたのはボクだ。ボクにも間違いなく非はある。だけど、何度言っても理解してもらえないなら、それはボク自身がキミに対して甘かったせいだろう」

「え?」


 アル君が、邪悪な笑みを浮かべた。


「駄犬には躾が必要だって事さ」


 パチンッ!


 と空気が弾けた。

 それは、アル君が手に持った鞭らしきモノを勢いよく空気を叩いた音だった。

全体改稿中で既存の読者様にはご迷惑をおかけしております。

もう少し先になりますが、展開が大きく変わると思いますので今しばしお待ちください。

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