TSヒロイン・欲しかったのは勇気
2019/01/19~20に投稿した『不安と修行』『魔法とアル君』を結合し、誤字表現を中心に改稿しました。
アル君は未来の地球で発見した秘策を試すべく、早速下準備をはじめていた。
その技の過程というか方法は、向こうの世界だと、日本だけで無く外国でさえ知られている方法なので、とりあえず割愛する。
って言うか、表現するのが恐ろしい……
と、とにかく、アル君は数日の練習でその方法を身に付けた。
改めて思い知るオレとの違い。
背中を追っかけるのが嫌になるくらいの天才児……
いかん、自分が男に戻ったせいか、アル君に対して忘れかけてた劣等感にも似た感情が蘇って……
って、馬鹿か!
こんな感情を抱えてたりしたから、あの時ロイに付け入る隙を与えたんだろ!
今のオレ達は愛し合う関係だもん!
劣等感何か捨てて、この世界の先駆者であるアル君に教えて貰い支え合うのが正しい関係なんだ!
そんな風に悩んでいると、いつの間にか近付いてきたアル君がいぶかしげな表情で覗き込む。
「また妙なこと考えてない? お願いだからおかしな思考に捕らわれるのはやめてね」
「うん、だから正直に話す。アル君の力になれてるか不安&自信が無い&劣等感に苛まれてます」
「ド直球で来たね」
アル君が小さな唸り声を上げた。
「正直思う所はあるし、言いたい事もあるんだけど……掻い摘まんで話すなら、そんな悩みは忘れろ」
「うわぉ、アドバイス無しと言う雑な慰め!」
「どうせ深く話せば話すほどキミは悩みすぎて澱みに嵌まるんだから」
「そうだけどさ……」
所詮、脳内処理能力16bitですよ~だ。
でもさ、もうちょっと言葉があっても良いと思いません?
「ようはこの世界でやっていける自信を身に付ければ良いんだよ」
「簡単に言うけど、正直この世界に来てから挫折しかしてないよ」
「何言ってるのさ」
「え?」
「キミ、ボクが手も足も出なかったソウルドレイクを一人で圧倒したじゃん」
「そうだっけ? いや、でもアレは味方の援護があったから」
「援護があろうと無かろうと、強かろうと弱かろうと、あの戦いで生き延びられたのはキミの活躍があったからだ」
「そ、そう?」
「そうだよ。だってさ、どんなに強くても立ち向かう勇気が無ければ使い物にならないし自分本位の人間なら誰一人守る事は出来ないよ。キミは確かに戦いにおける技量はボクよりも劣る。だけどそれは経験の問題だ。キミが持つ最大の武器は、臆せずに強大な敵に立ち向かう勇気だ。そして、ボクたちの折れかけた心を奮い立たせた行動力だよ」
「勇気と行動力……」
「こっちの世界の人間だろうと向こうの世界人間だろうと、何かを成す勇気がない者には、どんな小さな事も成す事は出来やしない。ただ折れるだけさ。大丈夫、絶対100階層まで行けるさ。先生を見返せるぐらい強くなってさ」
「アル君……」
気が付けばアル君の裾を掴んでいた。
アル君、キミは前に進む力をくれるのはオレだって言ったよね?
……違うよ。
いつだってキミが、キミこそがオレに力をくれる。
「だからさ、ここからは先生の言葉の受け売りだけど……何度も挫折したって良いじゃない」
「挫折しても良いの?」
「そ。何度負けても何度折れかけても、最後に立って笑っていたヤツの勝ちだ。幸いにも今のボク達は一人じゃ無い。ボクが折れそうな時はリョウが支えてくれ。その代わり、リョウが折れそうな時はボクが絶対に支える」
「もし、二人が折れそうになったら?」
「そん時は……そうだね、二人で一緒にさ、笑い合おうか。きっと辛い時に笑えたら、その先に道を見つけ出す事が出来るはずさ。二人なら絶対にね」
それは、この世界でも向こうの世界で何度も何度も苦しみ抜いたアル君だからこそ伝わる、説得力のある言葉だった。
そして、そんなアル君が必要としてくれる……
パチンと自分の頬を叩く。
「……よっしゃ! アル君から勇気貰った!! 改めてよろしくだよアル君!」
「うん、ボクの方こそ」
「こういう時のかけ声は『うん』じゃない! オーッだ!!」
「お、おーっ」
「声が小さい、オーッ!!」
「オ、オーッ!!」
「オレ達は塔攻略のパートナーで! 愛のパートナーだ!」
「愛のって……」
「はい、ご一緒に!」
「え?」
「オレ達は永遠無敵の愛のパートナーだ!!」
「ごり押しでレベル上げてきやがった!」
「はい、ご一緒に!」
「いや、言わないとダメかい?」
「はい、ご一緒に!」
「…………」
「はい、ご一緒に!!」
「ボ、ボクたちは永遠無敵の愛のパートナーだ……」
壊れたレコーダー、あるいは日本一有名な某JPRGの姫の台詞『そんな、ひどい……』張りに強要されたアル君がついに折れた。
だが、そこで終わらないのがオレクオリティだ。
「声が小さい!」
「え゛?」
「ワンモアセッ! オレ達は永遠無敵の愛のパートナーだ!!」
「う、う……」
「オレ達は永遠無敵の愛のパートナーだ!!」
「「オレ(ボク)達は永遠無敵の愛のパートナーだ!!」」
よっしゃ、言わせてやったぜ!
アル君の恥ずかしがる顔がたまりません!
起ちます! 起つとき起てば、起ちやがれこのやろー!!
何て、思わずうそんこ三段活用したくなるぐらいに起ちます!!
……ふ。
何時ものオレならここでアル君にダイブしているところですが、今日はやりませんよ。
アル君も警戒しているみたいだけど、その警戒は無駄だ。
「え、あ、あれ? てっきり飛び付いてくると思ったんだけど」
「いや、今は強くなるの優先です!」
「そ、そうか! リョウもやっと分かってくれたんだね」
嬉しそうに目を細めて喜ぶアル君。
……ふ、違うデスよ。
オレは何時だってアル君と合体したいのです。
でもね、オレにも焦る理由があるのです。
まあ、今日明日でどうなるとは思わないし、エルフの成長期がどんなものかは分からないけど、このまま日数が過ぎて雄力が暴走したら、その、ね……
「リョウ、またアホなこと考えてない?」
「アル君、正直に言う。髭やらすね毛が生えてきたら困るから、急ごう」
「……あ、あぁ」
そうなのだ。
よくファンタジーモノだとエルフは髭とか生えないみたいなこと書いてあるけど、この世界はオレにチートも寄こしやがらない捻くれッぷりだ。髭が生えてこないなんて保証はどこにもない。いや、よしんば体毛が薄いままだったとしても、骨格が何時までもこのままの保証は無い。
オレの元年齢を考えれば、まだまだ成長期。
いたずらに時が過ぎれば、男の骨格に進まないとも限らない。
仮に成長したとしても、カーズさんにお願いすればたぶんそこら辺はどうとでもなりそうだけど……
やっぱそんなオレ自身も知らない♂々した姿をアル君に見られたくない。
「リョウは可愛いね」
「う~……オレが何を考えてるのかまた心を読んだの?」
「顔に書いてる」
「うぎぃぃぃ……」
「ま、リョウが心配しなくても済むように、慎重に、時に大胆に、そしてレベルアップは迅速にやるとしよう」
「そんな上手くいく?」
「我に秘策あり!」
ギラリと光ったアル君の目。
頼もしい、実に頼もしいMy恋人だ。
頼もしい……
ええ、実に頼もしかったです。
だけどこの日から、オレの心安まらぬ修行の日々がはじまったのであった。
まず自分にどんな武器の適正があるのか、それを知る為にとりあえず武器庫にある武器を片っ端から試してみたのだが、正直どれもこれもパッとしない。
って言うのも、斧や槌ってのは何となく振り回す事が出来る。
勿論巧くなろうと思えば半端じゃない月日がかかるんだろうけど、振り回すだけなら容易だ。
でも、斧と槌……
オレが屈強な男戦士なら良いのだが、正直、絵面が……
で、他の武器と言う事でオーソドックスに剣を選択してみた。
だが、これも振り回すだけなら問題ないが、オレの技量だと刃こぼれさせるだけだという事がすぐに判明。
さらに上段からの膂力を使って斬るという攻撃すら、今の身長と体重だとどうしても一撃が軽くなる。
素人相手にはこれでもいいが、ちょっとした熟練兵相手になるとボロ負けする未来しか見えない。
あと、以外と敵の懐に入らないと、威力のある攻撃が届かないというのが致命的だった。
さて、そこで槍を持ってみたが……
これが思っているよりも難しい。リーチがある分その隙を突かれやすいのだ。しかも切っ先に威力を集中させようとすると遠心力に身体を持って行かれそうになる。
槍を使うとなると、懐に飛び込まれた事を考えて剣も同時に使えないと駄目な事が判明。
いっぺんに二つは無理。と言う訳で却下である。
弓……
絵面的にはこれが一番しっくりくるんだけど、何よりもこれが一番厄介だった。
まず的に当たらない。
どうやっても当たらない。
運良く当たっても速射が出来無い。やろうとするとどこに飛んでいくかがまるで分からん。
あと、簡単に弦が引けるかと思ったら思いの外筋力を必要とした。
だいぶ鍛えたと思ったけど、いざ武器を使うとなると丸っきり能力が足りていない。
「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」
「奇妙な声を上げてるね」
アル君が眉をハの字にして苦笑いする。
「うぅ、自分のおミソっぷりがもう……」
「オミソ?」
「味噌っかす、半端物、問題外、鼻くそ以下……」
「後半になるにつれてどんどんやさぐれてるね」
「やさぐれたくもなるよ。強くなったと思ったら、本当は何も出来ませんって現実を突きつけられてさ。せめてステータスとか分かれば適正が分かってもう少し頑張れる気がするんだけど……」
「ステータス? ああ、確か……キミがボクの家に来たばかりの頃、一晩中叫んで安眠妨害してくれたあれか」
「その説はどうやらご迷惑をおかけしたようで……」
「今となっては懐かしい思い出だよ。それで、そのステータスって何さ?」
「うん? えっと……自分の能力を数値化して能力を見るというか……」
「ああ、そんな事か」
「そんな事って……」
「知った所で強くなれる訳じゃないでしょ」
「でもさ、相手の強さや自分の強さを知る指標にはなるでしょ」
「う~ん、自分がある程度のレベルに至れば、相手の強さも分かるようになるけど」
「それはアル君ぐらいの領域まで行けた人の台詞だよ。オレ何てどうやれば良いのか手探り過ぎて、さっぱり……ってごめん、さっそく泣き言言ってるね」
ヤバいな、上手く行かない苛立ちを年下彼氏にぶつけそうになる。
格好悪過ぎる……
だけど、そんなオレを慰めるみたいにアル君が背中から優しく抱きしめてくれた。
「確かに地球から来たリョウは、この世界の強さとか知る術はあった方が良いかもね」
「アル君?」
「それにキミの場合、ほっとくとどんな無茶やらかすか恐怖でしか無いし」
「う~……慰めてくれるのか貶すのか、どっちかにしてよ」
オレの訴えにアル君が薄く意地悪な笑みを浮かべる。
うぅ~、この厄介な笑顔を好きになった自分が恨めしい……
「一応ね、対象の能力値が分かる魔法というのはあるんだよ」
「え、あるの?」
「魔法にはね」
「あ、魔法ですか……そうですか」
この世界には魔法と魔術がある。
その差というのはとても分厚いらしく、魔法は人間には使いこなす事が出来無いと教えられた。
「ま、ボクたちなら練習すれば使えるようになると思うけどね」
「あ、そうか。先祖の何たらって魔王の血!」
「竜王ラースタイラントね」
「でもさ、先祖と言っても大昔だし、そんな使えるとは……」
「ボクは少なくとも使えたよ」
「え? あ、ああ、そう言えば」
言われて思い出すアル君の記憶。
魔王と戦った時や、幼い頃あの森に一人で居た時に使っていた力は魔力だったはず。
「魔術は学術だから基本は学ぶ事で身に付けるけど、魔法は契約か潜在能力に由来する。本音を言えば魔法は危険だからあまり教えたくは無いけど、無闇に使わないとを約束してくれるなら契約の儀をやってあげるよ」
「え? ほんとに良いの? カーズさんに怒られない?」
「まぁ、先生からは人として生きろとは言われたけど、魔法を覚えるなとは言われてないしね」
ニヤリとイタズラを思いついた子供みたいな笑い。
そして、スッと背後から目線の先に突き出された拳。
「ボクたちは人としての心を持って強くなる。危険だって言うなら剣だって斧だって魔術だって危険だ。だから、清濁併せ呑む覚悟で前に進もう」
誇らしく笑うアル君。
気が付けば、アル君の突き出した拳に泣きながら自分の手を重ねていた。
「何泣いてるのさ」
「だって、だってさ、アル君の力強さが格好いいんだもん」
アル君が困ったように、照れたように笑う。
前に進もうとする度に憎悪や怒りという強敵に打ちのめされてきた少年。
何度もへし折られたはずのプライド。
だけど、どんなに傷付いて突き落とされても、最後には立ち上がって自分の進むべき道に戻ってくる。
オレにはその姿が眩しくてとてつもなく尊くて、何よりも格好良く見えた。
「ほら。泣いてないで、魔法の契約しよう」
照れ隠しで急かされる。
そんな言動も凄く可愛いと思ってしまう辺り、オレも相当な恋愛脳になったものだ。
「さ、始めよう」
オレの肩に両手を当てて立ち上がると、そそくさと地面に紋様を描き始める。
契約の魔法陣ってやつかな?
「ねぇ、アル君」
「何?」
「アル君はその魔法は使えないの?」
「先生の書庫に本があったから存在は知っていたけど、必要無かったからね」
「なるほど。強者の理論ですな」
「強者って言うよりも、他人に興味が無かったから、かな。必要最低限な事だけ関われば十分と思ってたからね」
「な、なるほど」
その意見も思わずアル君らしくて思わず納得してしまった。
「あとさ、その魔法陣みたいなヤツさえ知ってれば他の魔法も契約出来るの?」
「……う~ん、難しいね。まずは素養が必要ってのは絶対条件だし、この契約陣は、形や紋様を知ってるだけじゃ使う事は出来無い」
「そうなの?」
「まず『魔法の主』が誰なのか、どんな存在でどんな力を持つ者なのか……初級魔法でも、最低限それくらいの事を『導師』は知らないとダメなんだ」
「『魔法の主』? 『導師』?」
「『魔法の主』ってのは、その力を使う時に力を貸してくれる相手のこと。『闇魔法』系は『輪廻の魔王レオニス』の力を借りる事が場合が多いし、『竜語魔法』なら『竜王ラースタイラント』から力を借りる場合が多い。だからそれに属する魔法は、その眷属が使う場合が多いんだよ」
「あ、なるほど。それが『魔法の主』って事か。そしたら当然、その魔法は主には……」
「効果は無いね。『お前を倒すのにお前を倒す力をちょっと貸せ』何て馬鹿にした話は無いよね」
確かに。
よっぽどドMなヤツでも無い限り有り得ない。
って言うか、そんな変態の力は借りたくない。
「で、『導師』ってのは今の場合だとボクの事かな」
「なるほど。魔法を伝授してくれる人の事だ」
「そう言うこと」
「で、でさ、アル君、もう一つ聞きたいんだけど」
「うん? 何だい?」
「アル君がその契約する魔法陣が使えるって事は、勉強したんだよね? 一体誰の事を勉強したの?」
他人に興味が無い、そう言い切ったアル君がその魔法を伝授出来るぐらいに勉強した相手だ。
場合によっては色々な意味でオレの敵になる可能性がある。
そんな予感は当たったのか、アル君が照れたように頭を掻いた。
がるるるるる……
やっぱり嫌な予感がビッシバシする!
「アル君、誰?」
「そんな怖い顔で詰め寄らないでよ」
「誰なの?」
「せ、先生だよ。この魔法は先生が作ったんだ」
「カーズさん?」
「知ってるだろ、この世界の魔導体系は先生が作ったんだ。特に初級とも言える基礎魔法の大半は先生の力を必要とするんだ」
「あ、何だそう言う事か」
「そ。そして、この相手の能力を見抜く魔法は魔法の中では確かに初歩ではあるけど、先生が数多の学問に精通して深い経験があるからこそ可能とする魔法でもあるんだよ」
誇らしく胸を張って説明するアル君。
……教えるのにかこつけて、カーズさんのこと自慢してませんか、貴方?
「アル君」
「な、何? 目が怖いんだけど……」
「アル君の恋人はオレなんだからね」
「な、何言ってんのさ、当たり前だろ!」
「がるるるるる……」
「犬か! ってだからそんな噛みつきそうな目をするんじゃないよ!!」
「う~、う~」
もし、地味にそっち方面にアル君が目覚めてたら全力で阻止しないと。
ビシィッ!!
「あいたー!! ア、アル君、何でチョップするのさ!」
「アホな事ばっかり考えてるからだろ!」
「オレisアル君の最愛、どぅーゆーあんだすたん?」
「どぅーゆーあんだすたん? ああ、Do you understandのこと? 当たり前でしょ、そんなこと!」
「だったら叩くよくない! 浮気ダメ絶対!」
「何で片言なんだよ! あと、浮気って何さ!?」
「カーズ×アルフレッ――」
びしゃっ!
「いったー、びしゃって言った! オレの少な過ぎる脳細胞が圧倒的に成仏する音が聞こえた! アル君のバイオレンスマン!!」
「人に頭の悪そうなリングネーム付けるな! ほら、早く女の子に戻りたいんだろ、馬鹿なこと言ってないでボクと契約するよ!」
「うぎぃぃぃ不穏なこと言われた。ボクと契約して魔法男の娘になってよってか」
「キミが何を言っているのか心底分からない。やるの、やらないの?」
「やります、やります~、アル君とやりたいで~す」
「……言いたい事が山ほど増えた気がするよ。とにかく、話が進まないからそこに座って」
結局ぐだぐだな感じになってしまったが、オレはアル君に促され魔法陣に座ったのであった。
全体改稿中で既存の読者様にはご迷惑をおかけしております。
もう少し先になりますが、展開が大きく変わると思いますので今しばしお待ちください。






