TSヒロイン・憧れ故に
2018/12/27~209/1/1に投稿した『パーフェクト超人』『無茶苦茶……・』『嘘』の計3話を結合し、誤字表現を中心に改稿しました。
「ん~……ッ! ふへぇぇぇぇ~……」
伸びをして目一杯吸い込んだ空気。
二週間ぶりの異世界よこんにちは。
オレは帰ってきたぞー!
と、若干おかしなテンションで始めてしまったが、こっちの世界の空気(とは言っても塔の中だけど)はちょっと独特なのだ。
改めて心に余裕がある状態で長期間も向こうに戻っていると、こっちの世界の空気がちょっと違うというのを改めて実感する。
空気が美味いとか草木の香りがどうとか、そんなのもあるんだけど、そう言うのとはちょっと違う感じだ。
何と言うか、よく海外から日本に来ると空港が魚や醤油の匂いがするというその土地独特の匂いみたいな感じだ
ようは何となく懐かしくて落ち着くって感じ。
向こうに戻った時はテンパっててそれどころじゃ無かったが、こっちの匂いは……
何て言えば良いのか、落ち着くというか、どこかホッとしている自分が居る。
オレこの世界の住人力が上がってる気がする。
アル君の新妻として違和感無く馴染めるのだから何よりかも知れないけど。
「戻ったか」
「ハイッ!」
「先生ありがとうございました、今戻りました!」
圧倒的強者の風格を纏うカーズさんが穏やかな笑みを浮かべる。
うん、この笑顔は正直に言って魔性だ。
性別も年齢も不詳なこの姿は、ハッキリってしまうと今の日本人が理想とする美形象そのものと言える。
まさにパーフェクト超人と言った風格だ。
って、いかんいかん……
そんな表現していたら、今度お叱りを受ける時に地獄のなんちゃらとか、最悪、ダイヤモンドを超えるロンズなんちゃらパワーで粉々に粉砕されるかも知れない。
恐ろしや、恐ろしや……
だけど、怖くても優しくて最強とか、理想の父親みたいな人で……ん? アル君にとって父親って事は、当然オレにとっても、
「して、リョウよ」
「何、父さん?」
それは思い切りの素ボケだった。
はっ!?
「や、違くてですね、その、思わずと言いましょうか……」
「リョウ……」
え、何ですか?
何でアル君がそんなヤキモチ焼いたみたいな顔してるの?
もしかしてアル君よりも先に、カーズさんを父さんって呼んだから怒ってらっしゃる?
や、違くてね。
これはただの事故ですよ?
「父さんか、そんな呼ばれ方は初めて……だな。アルフレッド、何もお前の恋人を取った訳じゃ無いのだから、そんなむくれるな」
「ボクは別に怒って何て……何さリョウ。その顔は?」
「や、何でも無いですよ?」
やば、自分で蒔いた種とは言え、こっちにまでとばっちりが来た。
「まぁ良い。アルフレッドは私にとっても息子のようなものだ。それの嫁なら私にとっても娘のようなもの。ふ……ただ、お前達の事を息子や娘と呼ぶには、私はいささか所では無く年が離れ老いてしまったがな」
「そんな事ないです!」
アル君がめっちゃ嬉しそうに頭を下げる。
うん、良かったね、アル君。
大好きで尊敬するカーズさんに息子と言ってもらえて。
でも、ちょっとよろしいですか?
貴方、いささか年上に弱すぎやしませんか?
ウチの母さんに匂いかがれてたときも真っ赤になってましたよね?
そう考えるとオレも年上だし……
クソ!
ただの年下男子属性か!
後で、そこら辺はキッチリと説明責任を果たしてもらうぞ!
そんなこんなで、波乱の異世界生活第二幕が始まったのである。
戻った事を報告し終えたオレたちは、カーズさんから貰った部屋に戻っていた。
これは……
荷物を部屋に片付け終わり、食卓テーブルでの一コマである。
「リョウ、キミに聞いて欲しい事があるんだ」
「奇遇だね、実はオレもアル君に聞きたい事があるんだ」
「聞いて欲しいと聞きたい事は、意味的には真逆な気もするけど……」
「そんな事はどうでも良いんだよ。オレが言いたいのは、アル君はただの年上好きなの?」
「え?」
「ル君は胸に手を当てて年上属性が好きならオレだけが好きと言い切れるの?」
「えっと、まず言いたいけど、ボクが好きなのはキミだよ? ただ、年上属性って何?」
「ぬぅ~、オレの事が好きとまず言ってくれたから溜飲は下がった気分だけど、そうか年上属性から説明が必要だったか。えっと掻い摘まんで説明するなら、甘やかしてくれる年上の異性が好きかってこと」
「あ~……そう言う意味ね。リョウが年上属性?」
「何さ、その残念なモノを見る目は。あのねアル君、オレ思うんだけどアル君は優しい年上にデレデレしすぎだと思うんだ。あ、それ自体を悪いとは言わないよ。ただね、アル君が甘えるべきは年上で幼妻で、愛妻で唯一無二の絶対的らびゅ~な存在であるオレだけで良いと思うんだけど、なんか最近のアル君、あ、別にアル君のオレへの愛は疑ってないけどさ、オレ以外の他の年上に甘え過ぎな気がするんだよ。良いかい、アル君。もう一度言うけど、アル君が甘えるべき年上属性持ちはオレ! オレ一択! それ以外に無し!!」
「一気に長文説明ご苦労様」
「ふ、ふふぃ……うん、血管切れるかと思った……って、そうじゃなくて! オレが言いたい事ちゃんと聞いてた!?」
「聞いてた聞いてた」
「むぅ、適当に返事してる」
「や、えっとね、リョウにその所謂年上属性とやらを持ち合わせているのかは議論の余地しか無いと思うんだけど……」
「失礼な! オレis年上ナウ! アル君の姐さん女房Withオレ!」
「えっと、その頭の悪い文法からして年上属性からはほど遠いと思うけど……えっと、ボクがキミの癪に障る事したかな?」
「カーズさんに甘えるのは仕方ないと諦めます」
「えっと、改めて言われると逆に辛いと言うか……」
「アル君にとってカーズさんは先生って言葉以上に大切な存在だってのは知ってるからね。ただうちの父さんと母さん、まぁアル君にとっても義理の父母になるのだから仲良くするのは良いのだけど、父さんとはオレと居るとき以上に馬鹿笑いしてたよね」
「ああ、その事か……えっと、ね。キミの父さんはボクの中ではキミが男の時の生き写しみたいな性格だから絡みやすいってのはあった」
「……それを言われると、辛いと言うか」
「後はあんな感じだけど、やっぱり息子を失ったってのは大きいみたいでね」
「う、そこを突かれると……」
「京一氏は遊び相手が居なくなったってしょげてたよ……」
「そっちかい! 息子が娘になったとか、そっちでしょげてたんじゃ無いのかよ!」
「まぁ、それもあっただろうけど、それに関してはボクもキミを男に戻す意志は無いと確固たる決意を伝えてるから、諦めてたよ」
「おうぅぅ、あ、ありがと。アル君ってば、何気にオレの知らないところで男気発揮してくれてたんだね」
「言ったでしょ、キミを手放す気は無いって。まぁ、キミの父はキミの父でボクを確かめたいってのもあったんだろうし、子供が行方不明になった時のストレスを吐き出して単純にはしゃぎたいってのもあったんだろうね」
「ぐうの音も出ませぬ……アフターケアをありがとうございます」
「どういたしまして」
「でもでも、母さんに抱きしめられた時に真っ赤になったのは何故か!」
「記憶と感情が連動して芋づる式に思い出すのは、女性特有の記憶処理の仕方らしいね」
「いつの間に、そんなどこぞの炎上脳科学者みたいな知識を仕入れてきたのさ」
「向こうでキミと買い出しの時に寄った、【つた】何とかってやたらうねうねした文字の本屋で。あれだけの蔵書があるのは実に興味深かったからね」
「そういやアル君、ホムセン以上にはしゃいでたもんね」
あの時のアル君のはしゃぎっぷりはすごかった。
大人アル君が目をキラキラさせてはしゃぐ物だから、周りの雌共が五月蠅かったこと五月蠅かったこと……
「でもさ、いつの間に文字を覚えたの?」
「読みながらとりあえず漢字とやらは学習したよ。たぶん、普通に本を読むのに困らない程度の文字は覚えたはず」
「忘れかけてたけど、流石の天才児だね」
「茶化さないでよ、ま、キミなら良いけどさ」
「で、話ずれたけど、結局母さんに抱きつかれて真っ赤になってたのは何でさ!」
「や、まぁ……そりゃ女性に抱きつかれたら照れるのは仕方ないでしょ」
「むぅ、オレの母さんだよ?」
「いや、あのね……その、さ……」
「何しどろもどろになってるのさ」
「キミの母親はボクみたいな未熟な男子目線としてもかなり綺麗な女性だとは思うよ?」
「息子としては、その辺の評価はどう判断して良いか迷うのですが」
「キミは息子じゃ無くて娘。あと、別に君の母親に欲情したとかじゃないよ。ただ、何時までも綺麗で朗らかな雰囲気はよく似たキミの将来の姿なのかなって想像したらさ、キミもすごく綺麗になるんだろうなって。その隣に居られるのが凄く嬉しくなったって言うか」
しどろもどろな説明に頬が熱くなる。
それって、母さんを通してオレの未来の姿を想像して、まだ出会っても居ないおばちゃんになったオレともずっと一緒に居たいって、そう思ってくれたって事だよね?
ヤバイ、アル君の愛情が嬉しいです!
愛おしくて仕方ないのです!
「ごめんねアル君、変なスイッチ入って八つ当たりして」
「良いよ、それもキミのボクへの愛情と思っておくから」
「うん……あ、あのね!」
「何?」
「変なスイッチ入ったついでに言いますが、オレ、今発情スイッチも入っちゃってます!!」
「リョウ、あのさ。抱きつかれると胸が当たって、ボクも……」
「オレ達、向こうに戻ってから二週間以上ですね……」
「日数を言わないの……」
このあと、オレ達はめちゃくちゃ……(以下略。
「ねぇねぇ、アル君」
「ん……ふにゃ?」
布団の中からアル君の寝ぼけ声が返ってくる。
えへへ、やっぱり寝ぼけてる時のアル君すごく可愛い♪
まぁ、アル君がこんな状態なのは夜戦を延長八連戦に突入したからなのだが、べ、別に俺だけが悪い訳じゃ無いんだからね!
「あのねアル君、お疲れの所悪いんだけどさ」
「う……ん、うん、大丈夫……ろーしたの?」
「呂律が回ってないのも可愛い。あ、そうじゃなくて、あのねアル君さ」
「……うん」
「えっちぃ事する前に聞いて欲しい事があるって言ってたよね? 今更だけど、それって何だったのかなって」
「…………ハッ!」
「うわっ!」
背中の筋肉に鬼でも飼っているのか、ボンッ! と寝たままの姿勢で跳ね起きる。
「ど、どうしたの? そんなに慌てて。ってか、オレの目の前にアル君のアル君が居るのですが、夜戦を九戦目するですか? 望む所ですよ?」
オレの中のエロフが止まらない。
だって、アル君のアル君がオレの目の前に居るんだもん!
「いや、今はそれじゃなくて!」
「でもでも、オレがあと五センチも前に傾いたら口が当たるよ?」
「そ、それは裏面でお願いします!」
「大人な方では続き希望なのだね。了解した!」
「目をキラキラさせないで! いや、それはそれでありがたいんだけども。今はそれよりもキミに聞いて欲しい事があってね」
「うん、なに? 赤ちゃんの数? 無理の無い範囲でお願いします」
「そ、そっち方面はとりあえず保留でお願いします! えっと、聞いて欲しいと言うか、聞きたいことでもあるというか……」
「うん」
「ボク、リョウにプロポーズしたことを先生に報告しようと思ってる」
「うん。アル君が報告したい気持ちは分かるし、ちゃんと報告してくれるの凄く嬉しいよ」
「そ、それでね。気が付いた事があるんだけど……」
「う、うん……」
何だか、変な間が流れる。
全裸の男と女(元男)がベッドの上で正座するという珍妙な空間。
いつものオレならアル君のアル君を見つめるところだが、今はそんな雰囲気じゃ無い。
えっと、アル君は何を懸念しているのだろう?
「リョウ……確認だけど、実家に戻った時に肉体を女性として固定すること伝えた?」
「うん? そりゃもちろん伝え……つた、え……つ・た・え……」
サッと血の気が引いていく。
帰郷の目的はオレが女として生きて行く事を両親に伝える事だった。
あれ、あれれ?
オレ、言ったよな。
……ヤバイ、言って、ないなぁ。
いや、まぁ、言ってなかったとしても結婚するって話で伝わったような……
でも、ちゃんと報告ってのが筋だよなぁ。
だからカーズさんに扉を開いてもらって会いに帰ったんだし……
……こりゃ、お叱りだな。
特大のお仕置き&車田ぶっ飛びコースか?
そ、それで済まなかったら宇宙の塵コースとか……
やべ、身体の奥底からガクガクと震える!
「リョウ? 震えてるけど両親には伝えたんだよね?」
「アル君、オレ、たぶん恐らく絶対に言ってない!」
「マヂか! や、やっぱりだったかかぁ!」
「ご、ごめん!」
「いや、リョウだけのせいじゃないよ。ボクも異世界の文化に現を抜かして途中から忘れていたは事実だ。だから先生には正直に伝えよう。ボクも一緒に怒られるから」
「怒られるの前提なんですね」
「先生には嘘も誤魔化しも通じないよ。魔術や魔法で真実を探るような野暮な真似はしないだろうけど、そんな力を使うまでも無く、ボクたちであの人を欺くなんて絶対に不可能だ」
「で、ですよね~」
「それに、先生にそんな真似はしたくはない」
「アル君の尊敬する人だもんね。オレもアル君が大切にしている先生に嘘は嫌だ」
「ありがと。でもさ、嘘をつきたくないのはもちろんだけど……」
「だけど?」
アル君が白みはじめた窓を眺めながら下唇を色が変わるまで噛み絞めた。
「つまらない嘘をついたのがバレたら殺される……」
横顔からも伝わる怯えと冷や汗。
カーズさんの強さは知っているし、怒られた事もあるからあの怖さは嫌ってほど身に染みている。
だからアル君が怯えるのはよく分かる。でも、たかがとは言わないけどさ、子供のつく嘘だよ?
それに対して『殺される』ってのは、若干過剰反応な気が……
う~ん、言葉のチョイスを誤っただけ?
でも、ここまでの反応はそういう感じじゃ無いなぁ。
……あ、そっか。
殺されるって言葉は、アル君がカーズさんに嫌われたくは無いって言う深層心理みたいなものか……
それは、子供が母親に嫌われたくないと頑張る姿にもどこか似ている。
「リョ、リョウ?」
オレは気が付けばアル君を抱きしめていた。
「えっと、九戦目希望なの?」
「したい気持ちはあります! でも、それは保留!」
「保留?」
「アル君はオレの胸の中で甘えるべし! 甘えてそのまま眠るべし!
「あはは、何さそれ」
「良いの。まだ夜明けには早いんだからさ、オレの中でゆっくりと寝るべし!」
「……うん」
そんな言葉を最後に、二人の寝息が溶け合うまでに時間はいらなかった。
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