TSヒロイン・来年も再来年も
2018/12/19・20に投稿した『警戒心MAXなワンコ系TSヒロイン』『花火と約束』を結合し、誤字表現等を中心に改稿しました。
「何だちきしょう! ちょっとイケメンだからって横から人のナンパ邪魔して良いと思ってるのか!」
ボインマスター、その発言の端端にすでに負け犬臭が漂ってるよ。
あとこの男、ちょっとどころじゃ無くイケメンだぞ。
「別に俺はナンパしている訳じゃない。ただ、この娘は先に俺が目を付けてたし、とっくに俺の女だって言ってんだよ」
お前の女になった覚えはないが、ドラマとかでよく困ってる女を助ける所謂イケメンがやりそうな横から助け船ってヤツなのかな?
俺にはイケメンだった頃が無いから分からんけど。
「心、どう考えてもお前に勝ち目は無い。それに見てみろよ、すでに見た目からカップリング成立してるじゃん。ここで悪目立ちするよりもさっさと行こうぜ」
叶に説得され、地団駄を踏む心。
う~ん、ドラマならここらでもう一波乱ぐらいありそうだけど、あっさりと引く辺りさすがは俺の男時代のツレ達。
根性がまるでない。
まぁ面倒臭いごたごたがあっという間に収束したのは助かるけどさ。
「えっと……」
まあアイツらぐらい、例え何があってもボコしてほかすぐらい、今の俺なら訳なく出来るんだけどさ。そうは言っても友達だったしな。
暴力に訴えずにすんだのはこの見知らぬイケメンの……見知らぬ……
ん?
あれ、よく見たらこの顔……
「え、え? まさか……」
「お待たせ。準備に手間がかかってごめん」
「ふぁっ!? ア、アルくん!?」
「ふふ……」
クールな笑みを浮かべて髪を掻き上げる超イケメン。
え? 何ですか、このぶっちぎりで格好いい男は?
これが俺のおっぱいに甘えていたあの甘えん坊で可愛いアル君なのですか?
やべぇ、濡れる!
いやいや、そうじゃなくて!
「え、どうしたのその姿? 実は怪しいクスリでも飲んで子供の姿になってたとか? 謎の黒服集団に襲われた過去があるとか?」
慌てる俺に、苦笑いを浮かべる自称アル君。
「リョウ、慌ててる時のキミは相変わらずボクには分からない事ばかり言うね」
「いやいや、だってだってだってさ! 確かに俺普段メチャクチャなこと言ってる自信あるけど!」
「そんな自信はいらないから。自覚しているなら直そうね」
「でもでも、いまの状況が訳分からないのは確実にアル君のせいだよね」
「それもそうか。一応ね、せっかくキミの故郷でデートするなら、見た目とか釣り合うようにしたかったんだよ。あの姿のままだと、姉に甘える弟にしか見えないからね」
「まぁ、俺はそれでも全然かまわないんだけど……え? そしたら、その姿や浴衣は?」
「浴衣はキミのお母さんに借りた」
「急成長した姿見たの?」
「うん、目の前で変化の魔術を使ってね」
「えっと、変化の魔術って……」
「キミを白狐族に変えた魔術だよ。アレの応用。ボクが以前にこっちの世界に来たとき大人の姿になった話をしたよね」
「聞いた聞いた、バッチリ覚えてる」
「アハハ、凄いの食いつきだね。一応その時に鏡で見た自分の姿を思い出して、だけどあの時の姿はキミの隣を歩くのには少し年上だったからさ」
「うんうん」
「キミの隣を歩いても釣り合うぐらいの年齢まで下げたんだ」
「そぅ、何だ。アル君、メッチャ格好いい……」
思わずポツリと呟いてしまう。
あれ、何だ?
さっきまでちょっとすかしたイケメンだなぁ、とか思ってたのに、アル君だと思うと、ヤバイ、すごく胸がドキドキする。
「キミのお母さんを一瞬驚かせてしまったけど、驚いた理由が浴衣のサイズが合わないってのが、そうとう肝っ玉が据わっていると言えば良いのか、どうなのか」
「あはは、たぶん深く考えていないだけだ、と、思う……」
「どうしたの、リョウ? 何か顔真っ赤だけど?」
「だだだ、だって、さ……今のアル君……」
メッチャ格好良くて……
あ、あれ? 俺、変だ。
アル君はアル君で、アル君は可愛いから、その、男の俺でもすんなりと気が付いたら好きになってた訳で、イ、イケメンになったアル君にときめくとか、いや、そりゃさ、どっちもアル君だからアル君を好きな俺は大人のアル君にもときめくって事は、すなわち、俺の愛情が冷め無いって証明な訳で、そ、それってアル君と添い遂げる事を考えたら、俺がイケメンなアル君を好きになるのは問題ないわけで、すなわちイケアルを好きになった俺は潜在的ホモだった?
???
あれ、俺は一体何を考えてるんだ……
「どうしたの? 大丈夫?」
「……ずるい」
「え?」
「アル君、ずるいぐらい格好良い」
思わずプクリと頬を膨らませ、たどたどしくしか言えない俺に、アル君は顔だけじゃなく耳まで赤くする。
やべぇ、イケショタから超絶進化しているくせに、反応が可愛いところは変わらないとか、犯罪過ぎる……
「リョウ……」
アル君が俺の肩を抱こうと手を伸ばしてくる。
「えへへ、アルく……って、ちょっと待った!!」
俺は慌ててアル君(仮)の手を制止する。
拒絶されたと思って眉尻を下げるアル君(仮)に、ちょっとキュンとするけど、先に確認する事がある!!
「アル君、俺たちが初めて会った場所は?」
「え? えっと、アルハンブラとしては雑草を美味しそうに食べようとしたキミを止めたのが初めてだから、ボクの住んでた小屋の近くの草原。ルーシェの頃はこの町の小さな公園。キミは木に登っていた。アルフレッドとしては、確か小屋の中でだったと思うよ?」
「完璧だ……」
俺はその完璧な答えに相槌を打つと、父さんからもしものための連絡用に手渡されてたスマホの画面を開く。
発信先は母さん。
発信履歴からかけてるのだが、発信先が母さんと姉貴しか無いのは流石としか言いようが無い。ある意味理想的な父親だ。
と言うか、あっさりと自分のスマホを子供に貸せるとか、黒い過去が無い証拠だ。
あと、気になるのが、どう見ても仕事中だとおぼしき時間帯に、毎日四回ほど発信してるのは何故じゃ?
『……はいはい、京一さんどうしたの? また仕事中に寂しくなってかけてきたのかしら?』
発信理由をあっさりと知った。そしてやっぱり駄目な父親だった。
まぁ、それはどうでも良い。
「もしもし」
『あらあら、電話先から女の子の声が。もしかしてモンジロウちゃん?』
「モンジロウは犬だし、雄だろ!」
欠片も浮気を疑わない辺り、流石としか言いようが無い。
「オレだよ、母さん、アンタの元息子、現在進行形で娘の良だよ」
『あらあら、娘ちゃんの良ちゃんね。そうそう、さっき良ちゃんの恋人のアーちゃんがね、不思議な魔法を使って変身したのよ~。テクマク何とか~って感じですっごいイケメンになったのよ~! 岩ちゃんファンのママも、思わずため息出ちゃうぐらいのイケメンだったわよ~』
「そ、そっか良かった」
『良かった?』
「こっちの話。あと、岩ちゃんファンってこと、それ父さんに言っちゃ絶対ダメだよ」
『あらあら、そう?』
そりゃ、あの子供大好き嫁命の父さんが嫉妬で落ち込むのが想像出来るからね。
「オレが聞きたかったこと先回りで教えてくれてありがと。ところで母さん、プレステって知ってる?」
『プレステ? それって、あのピコピコのこと?』
「姉貴が高校の入学で欲しがってた機械は?」
『マイコンかしら?』
「母さんの得意料理は?」
『えっと、えっと……良ちゃんが大好きなビーフガノンドロフかなぁ?』
見た目若いくせに表現が古い感じ、そして、間違えた料理名を覚えたまま修正されずにいるこの感じ、
「うん、間違いなく母さんだ」
『へ? ママ本物だよ~、ママは偽物が出てきてラジオ出演したり物乞いで旅行されるような有名人じゃ無いわよ~』
「えっと、何の話かよく分からないけど、とりあえず気にしないで。ちょっと確認したかっただけだから」
『あらそうなの? 確認は出来た?』
「十分出来ました」
『そ? そうしたら、良ちゃんはアーちゃんと沢山楽しんで来てね』
「ありがと、それじゃ!」
ピッ! とスマホを切って巾着袋に放り込むと、俺はそのままアル君(真)に振り返る。
「えっと、リョウ? それ、通信機器だったん……」
「アル君だ! とあっ!!」
「うわっ!!」
俺はアル君に飛び付いた。
「アル君だアル君だ! クンクン……この匂いは本物だ!!」
「えっと何々? どうしたの、犬みたいに突然匂い嗅いだりして。あ、それは何時もの事か。何かあった?」
「アル君だアル君だ!」
「そうだよ、キミの恋人のアルフレッドだよ」
「えへへ~」
やう゛ぁい、彼氏がイケメン過ぎて脳がとろけそうでしゅ……
「あのさ、さっきのは一体何だったの?」
「うん? やぁ~よくこっちの世界の陵辱系だとあるんですよ」
「りょーじょくけい?」
「恋人と仲良くなったら、恋人を名乗るそっくりな偽物が出てきて、散々嬲った挙げ句に偽物でした~みたいなの。そんで恋人の元に戻らずにそのまま雌落ちみたいな……」
「えっと、不穏当な単語が山ほど出て来た気がするけど、それ何の話?」
「十八歳未満が知っちゃ行けない世界です!」
「リョウ、キミいくつ?」
「忘れろ!」
「……了。えっと、そうしたら、リョウはボクのためにあえてちゃんと確認してくれたってこと?」
「もちろん!」
「リョウ!」
「うわぁ!!」
ガバッ! とアル君が抱きついてきて、むっちゃ熱烈なチューされた。
へ? ありゅくん、あっという間に発情モード?
どした? ここ往来だよ?
お外で何て燃えるけど、見付かったら逮捕されちゃうよ?
出来れば、どっか茂みで……じゃ、なくて!
いかん、危うくサキュバスエロフモードになるとこだった。
「ど、どうしたの? アル君、そんな顔真っ赤にして?」
「言わせないでよ。男だから感じる喜びなんだから」
「むぅ、オレだって元男だよ。だけど何でアル君が喜んでくれたのか、よく分かんないんだけど」
「キミは女の子だから、分かんなくても良いの。愛してるよ、リョウ」
「にゃあ~♪ えへへへ……うん、オレもだよ。アル君、愛してる❤ デート一杯楽しもうね♪」
「ああ、もちろん」
俺はアル君に肩を抱かれて、仲良くお祭り会場へと向かった。
賑やかな祭り囃子が聞こえてくる。
ノスタルジックを感じるほど長生きした覚えは無いけど、この喧噪を聞くと改めて日本に戻って来たんだと実感する。
「これが日本の祭りか」
アル君が屋台を眺めながら興味深そうにポツリと呟く。
「うん、厳かなお祭りもあるけど、うちらが楽しみにしているのはこう言うお祭りかな? 食べ歩きとか、ゲームがメインな感じでさ」
「ゲーム?」
「あの輪投げとか射的とか。難しいけど型抜きとか金魚すくいとかもあるよ。ほら、アレだよ」
「なるほど、ああやって楽しみながら捕縛技術や狩猟能力、罠解除を身に付けるのか。子供の頃から楽しみながらスキルを身に付けると言うのは、過酷な訓練よりもよっぽど効率的かもね」
「違うよ? みんなただ遊んでるだけだよ?」
「遊んでるだけ? それなのに屋台ってのはこんなにも色々な種類が充実してるの?」
う~ん、仕方なのかも知れないけど、言葉の端端に滲むこの殺伐感よ。
でも、うん!
俺流の祭り楽しみ術でアル君を目一杯楽しませてやれば、きっと考えは変わるはずだ!
「アル君、まずはあれ食べよう!!」
軍資金はじぃちゃんからたんまり貰ってる。
地元の小さい祭りなら、全屋台制覇可能だぜ!
「あれって?」
「アメリカンドッグ! ケチャップやマヨをお好みでだっぷり付けてかぶりつくの! この衣と串の付け根辺りの、ガリガリした感じの部分がでりしゃす!」
「でりしゃす? あ、美味しいって事か。食べ歩きなんだね」
「そ、お祭りは基本食べ歩き。今日だけは小うるさいマナーはいらない感じで。 でも人混みで人の足だけは踏まないようにね」
「なるほど了解した。あれは?」
「たこ焼きと焼きそば。食べよう! こういう所で食べたら、多少あれでも美味しく感じるんだよ!」
「なんか微妙なニュアンスが……む、あれは?」
「林檎飴!」
「あ、あっちのめちゃくちゃ美味しそうな香ばしい匂いは?」
「焼き鳥!」
「その蛙の卵みたいなヤツは?」
「タピオカ!」
「あの長い刃物で調理しているヤツは?」
「ケバブ!」
「あ、あの黒くて禍々しいあれは一体何だというんだ!?」
「チョコバナナ! エロく食べるのが定番です!」
「お、奥が深い……けっぷ……」
最初はクールな感じで興味を示していたけど、いつの間にかアル君もハイテンションになっていた。そして、気が付けば片っ端から屋台を制覇していたのだ。
アル君がメッチャ楽しんでくれたのがよく分かる。
うん、今まできっつい事ばかりだったけど、やっぱこうやって楽しめるの、良いな。
二人で、こっちの世界にずっと居れたら最高なのに……
でも、そうは、いかないよね。
カーズさんが言ってた、こっちの世界と向こうの世界は基本一緒だって話……
向こうの世界を放っておいたら、きっとこっちにも悪影響が出る。
この世界で体感したの魔術の効果。
魔王なんて、呼ばれる連中がもしこっちの世界に来たら――
「ヒャンッ!! な、なに?」
首筋に当てられた突然の冷たい感覚に思わず悲鳴を上げてしまう。
振り返ると、キンキンに冷えて水滴まみれになってるラムネを持つアル君。
「むぅ……イタズラしたなぁ」
「ごめんごめん。何か難しそうなこと考えてるみたいだったから、イタズラしちゃったよ」
格好いい顔で子供みたいに笑うアル君。
何時も難しく考えてるアル君にしてやられた感じ、かな?
そんな事を思っていると、周りから女子の歓声が聞こえてくる。
「ちょ、ちょっと、見てよあの人、ヤバい格好良すぎじゃない!」
「え、え? こんな田舎に何かの撮影かな?」
「地元掲示板にはアイドル情報とかは上がってないよ!?」
うぬぅ、どうやら大人アル君を見て発情したメスどもがいるようだ。
おもしくない、これは面白くないでありますぞー!
「アル君♪」
「何、リョウ?」
「とあっ!」
「うわっと!」
抱きつくと同時に、周りから聞こえる怨嗟。
ふ……これはオレんだ。
オレだけのアル君だ。
有象無象どものポッと出どもにはやらん。
ポッと出じゃなくてもやらんけど!
「どうしたの?」
「何でも無いよ。向こうに行こう♪」
「向こうって、あの薄暗い建物?」
「そ」
別に拝殿の裏で事に及ぶつもりはないですよ?
ただ、屋台の明かりから離れて提灯の明かりしかないあそこなら、薄暗くて有象無象GirlSどもに邪魔されずに二人きりになれる。
せっかくこっちでアル君と過ごすんだから、女の声は邪魔なのだ。
俺達は拝殿の向かいにお祭り期間だけ設置されている長椅子に腰を下ろした。
隣に座るアル君。
いつもは俺よりも低い位置にある目線が、今は少し見上げないと届かない。
「何か、こんなにゆったりとした日を送れるなんて、ちょっと不思議かな」
「そうだね。オレも向こうに行ってから、馴れない毎日を送っていたから、ちょっと気が抜けた感じ」
「張り詰めてばかりいちゃダメなのは分かっているんだけど。なかなか切り替えが出来ていなかったよ。こっちの世界に繋げてくれた先生に感謝だね」
「そうだね。ねぇ、アル君」
「何?」
「俺、ね。たぶん、本音を言えばこっちに住みたい」
「うん」
「だけど、向こうをほっておくのは嫌だし、向こうの世界でもアル君が居てくれるなら良いって思ってる」
「リョウ……」
「ちょっと、依存しすぎかな?」
「そのぐらいの依存ならいくらでもしてよ。それに依存って言うなら、ボクこそキミに依存している」
「アル君が?」
「うん、ずっと、キミの事ばかり考えていた。初めて会った頃から」
「アル君、男の頃の俺も好きだったの?」
「その言い方は語弊と悪意があるなぁ。まぁ、凄く変なヤツだと思ってはいた」
「変は余計だ」
「でもさ、子供のくせに精一杯自分の出来る事に暴走出来る、キミの真っ直ぐな生き方は、今思えば凄く格好良くて、羨んでいた」
「アル君……」
「正直に言えば、恋人同士になってからもたまに奇行の数々を思い出して萎えた時もある」
「……忘れろ」
「それでも、キミはキミのままだった。その変わらない真っ直ぐさにボクは救われた。キミが、アルフレッドという男に生きる意味を与えてくれたんだ」
「アル君……そう言ってくれると嬉しいけどさ。俺だって何時でも真っ直ぐだった訳じゃないよ。すくすくとへし折れて真っ直ぐだった時代だってあるもん」
「アハハ、何だよそのへし折れて真っ直ぐって」
笑いながら、アル君が俺の肩を抱き寄せる。
ドン!!
パラパラパラパラ……
打上花火がパッと空に咲いて消える。
「来年も、その次も、また一緒に見に来ようね」
微笑みかける俺に、アル君はただ優しく微笑んでくれた。






