TSヒロイン・ベジータ系父ちゃん
2018/12/15・16に投稿した『父さん』『ドタバタな家族』の2話を結合し、表現誤字を中心に改稿しました。
母さんにYESな先生にお世話になったんじゃ無く、異世界に行ったことの証明をするべく魔術を放って見せた。
悲しい事故の結果モンジロウの小屋が大破し小屋なき子になってしまったけど、とりあえず母さんは半信半疑ながら納得してくれた。
そして、現在。
母さんは父さんに連絡するからと席を外し、オレ達二人はリビングで母さんが戻ってくるのを待っていた。
……毎日当たり前に見ていたリビングが、すごく懐かしい。
オレの最後の記憶は、今座っているソファーで落ち込む姉貴を慰めていた……そこで終わっている。
そう言えば、オレのスマホは部屋にあるのかな?
ま、数ヶ月も向こうに居たから今さらスマホが無くてもな~んも困らないんだけどさ。
でも、せっかくこっちに帰ってきたから、ちょっと触ってみたいとか思ったり。
うん、母さんと話せたおかげか、少しだけ心に余裕が生まれた気がする。
「ねぇ、リョウ」
と、それまで母さんの圧力の前にだいぶ空気状態だったアル君がオレに問いかけて来た。
「何、アル君?」
「場違いを承知で聞くんだけどさ、さっき氷の魔術使ってよね。低温を作り出すのってかなりな高等技術だよ、いつの間に身に付けたのさ」
「アル君がカーズさんに吹っ飛ばされて気を失ってる時だよ」
「ボクが気を失ってる時?」
「うん、カーズさんが『お前は血の気が多くて理性より感情で先走る傾向があるから、性格と相性の良い炎や肉体強化の闘気術を使い続けるのは危険だ』って言われちゃってさ」
「なるほど。確かに効率を考えたら自分の性格と合う属性を選択するのが一番なんだけど、気を付けないと性格がその属性に影響を受けるのは確かだ。リョウの場合だと、猪突猛進型になる危険性があったかも……あ、手遅れか」
「失礼な!」
まったく、自分の恋人の事をイノシシみたいに言ってくれちゃってさ。
それならアル君だって闇属性とかメッチャ得意そうじゃん。
「アハハ、ごめんごめん。そんな可愛い顔で口を尖らせないの」
「むぅ……アル君、オレが可愛いって言われたら機嫌直すとか思ってない?」
「流石にそこまで単純だとは思ってないよ」
「……気のせいか、酷いこと言われてる気がする」
「考えすぎ考えすぎ」
「ホントかなぁ……」
「あんまり深く考えないの。でさ、さっきの続きなんだけど」
「ん? 氷の魔術のこと」
「そう。氷の魔術って属性魔術の中ではかなり制御が難しのに、何で異界に行っていたことを証明するためだけに、あんな制御の難しい魔術を使ったの?」
「ああ、その事か。えっとね、風や火ってさ、こっちの世界だとわりと簡単に起こせるんだよね」
「言われてみれば、確かに便利な道具が多かった記憶があるよ」
「それでね、市販品で簡単に生み出せる力を使っても、一歩間違うと手品って思われるかなって。一度手品って思われちゃうとさ、他の力を使ってもなかなか払拭するの難しいじゃん」
「まぁ先入観が出来ちゃうからね」
「そうそう。けど、あれだけの氷を一瞬で生み出す方法は、こっちの世界では確立されてないはずなんだ。少なくとも、日常生活では絶対に不可能。だから先入観を植え付けずに証明するには氷が一番手っ取り早いかなって」
「なるほど、そこまで考えて氷の魔術を使ったんだ。ワンコの犠牲はあったけど」
「ワンコの犠牲って言い方酷いよ。まぁ、モンジロウの小屋を吹き飛ばして氷漬けにしたのは申し訳ないけど……後で新築のワンルーム作ってあげるもん!」
「あはは、ごめんごめん、ちょっと意地悪な言い方だったね」
「むぅ……」
そんなやりとりをしていると、けたたましい音が玄関から聞こえて来た。
「ハァハァ……た、ただいま綾さん、良が帰ってきたって!? しかも異世界に行ってた!? 何それ父さんすごく羨ましいんだけど! 父さんも異世界行きたい! 異世界で畑とか耕してドラゴンをペットにしたい! ドラゴンの名前はモンジロウ2とか良いと思うんだけど!」
「あらあら、モンジロウちゃんはモンジロウちゃんだからいんじゃない。量産型モンジロウちゃんなんて、ダメよ」
「彩さん、量産型を馬鹿にしちゃ行けないぞ! 本来量産型というのは安定した技術と確立された理論が実証されているから、性能は試作機より上で」
「あら、それならうちのモンジロウちゃんは見た事も無いドラゴンさんより可愛さで劣ると?」
「いや、そんな事はない! もちろんそんなはずはないぞ、彩さん!」
我が家の猪突猛進の総本山が帰って来た。
頭痛が痛いです、はい。
「そんな事よりも京一さん、良ちゃんが帰ってきたのよ。そっちが先じゃ無い?」
「ああ、そうだ良! 無事なんだな! 元気なんだな!! 父さん仕事自主的に終了して帰ってきたぞ!!」
思わず膝を抱えて顔をうずくめる。
は、恥ずかしい……
「間違いなくキミの血縁っぽい人が帰ってきたね……」
「…………」
実に何とも否定しがたい。
ハッキリ言ってウチの父さんはオタクだ。しかも数少ないレア種とも言えるスポーツと喧嘩が出来るタイプのオタクだ。
オレの漫画趣味は父さんコレクションの結果だし(トラ〇ガンとかHEL〇S〇NGとかキン〇マンとか、オレの世代じゃ無い漫画は大概父さんコレクションだ)、しかも戦い方面の漫画ばかりが好きだったから身体を鍛えたという生粋の間違った人種だ。
だから正直母さんさえ説得出来れば、父さんの説得は眼中には無かった。
ガチャ!!
開け放たれた扉!
「帰ったんだな、良!! ……ゆーあーマイ、サン?」
目を一瞬白黒させる父さん。
「た、只今、父さん」
「う、う……ウチの息子がTS転生した件について! 娘よ!!」
「グェッ!!」
熱烈に抱擁された。
ほら、ね。
やっぱりだ。
この人は、すぐに脳内変換完了出来る駄目な大人なんだよ……
「父さんな、定時制帰りの夜道で自転車を漕ぎながらドラグ〇レイブや七鍵〇護神の呪文を詠唱したり頑張ったんだけどなぁ。ついに向こうの世界が父さんに微笑む事は無かったんだ……」
や、しみじみ言ってますが、別に聞きたくは無かったですよ?
自分の父親の痛い過去とか。
ましてそれらの行為が自分のやってきた過去と重なるとか、そりゃもう地獄でしかありませんよ。
「父さんの時代の異世界転移と言ったら二頭身ロボットアニメだったなぁ……ワ〇ルとか面白かったんだよ」
貴方はあのアニメを異世界転移物と言いますか。
まぁ、異世界転移物っちゃ異世界物か……
って言うよりも、いつまで続く父親のアニメ談議。
正直キッツぃです。
「京一さん、いつまで雑談してるのかしら~?」
「あ、ああ、そうだね、綾さん。それで良……本題だ」
父さんのらしくも無い鋭い眼光。
西日をバックにゲンドウのポーズをしているのが気になるけど……
って言うか母さん、立っている場所的にどうにも冬月にしか見えませんが、それで良いんですか?
「良……」
父さんのらしくも無い重々しい口調に喉が鳴る。
「父さんもな……魔法、覚えたい!」
ドンッ!
と、背中にONE PIECEばりの効果音を背負う勢いで告げられた本音。
や、今それか!?
今聞くことホントにそれか!?
それで良いのか、二児の父!!
ゴンッ!!
「ぐおぉおぉぉぉぉぉっ」
鈍い音が鳴り響いた。
頭を抑えた父さんがテーブルの上に突っ伏して呻き声を上げる。
「京一くん、そこまでにしなさいね」
ニコニコと笑う母さん。
父さんへの一人称が【さん】付けから【くん】付けに変わったのは、本気で怒っている証拠だ。
……父さんと母さんはいわゆる幼馴染み。
のんびりした母さんと、いつもやんちゃして大怪我する悪ガキが父さんだったらしい。
まったく関係ない事だけど、母さんは勝ち組幼馴染みなんだよな……この父親を選んで勝ち組かは疑問だけど。
勝ち組の幼馴染みか。幼馴染みは負け組でこそ価値があると思……あ、オレとアル君もある意味幼馴染みだから、やっぱ幼馴染みは勝ち組じゃ無いとダメだよな、うん。
「いだだだだ。とりあえずな。異世界行きなんて、今の日本じゃ当たり前なのかも知れないけど……」
「当たり前じゃ無いと思うけど……」
「そ、そうか? そうかもな、うん。だけど、とりあえず知らない世界に行って、良の身に有り得ない事態が起きた。それは、お前にしか出来ない使命があったからなのか? それともやっちまった系神様にうぇ~いって感じで飛ばされたのか、どっちだ?」
「変に知識があると逆にやりずらいなぁ……一応、使命はある。たぶんだけど、母さんの方の先祖に纏わる因縁だとも思ってる」
「え、綾さんの血筋……父さんの血筋じゃ無いの!? ぐあぁあぁぁああぁぁ、ここでも父さんハブられるのか! 父さんも『血がうずく』とか言ってみたかった!!」
「そこかよ!!」
「京一くん、いい加減にしましょうね」
「は、はい……」
母さんに威嚇され小さくなる父さん。
情けない。
ついでに言うと、すっかり空気なアル君は苦笑いをかみ殺せずにいる。
ごめん、こんな家族で……
「ほ、本題に入る。綾さんの血筋の因縁というのは確か……なのか?」
「たぶんね。明確な根拠は無いんだけど。オレ、女になってから母さんとか姉貴の言動と同じような事をやっちまっててさ……」
「え? あ、綾さんと同じような……」
何故か顔を真っ赤にしてモジモジする父さん。
や、四十絡みの父親にそんな事されても気持ち悪いだけなんですが。
「綾さんと同じようなって事は、そうとうエロ……」
ゴシャ!!
「あらあら、京一さんったら眠っちゃたみたいね」
母上、人はそれを眠らせたって言うのですよ。
でも口には出しません、怖いから……
「それでね、良ちゃん。ママずっと気になってたんだけど……」
「な、何?」
「良ちゃんの運命とかはママよく分からないし、ママの血筋のせいで迷惑かけちゃったなら、ごめんなさいって謝る事しか出来ないのよね」
「い、良いよ! 母さんの血筋であろうとこれはオレの運命だったんだから、誰が悪い訳でも無いよ」
「そう? そう言ってくれると、すごく助かる。ありがとう良ちゃん……それで、ね。ママが聞きたいのは、その隣にいるソフィーちゃんの事なんだけど……」
「あ、ボ、ボクですか?」
「えっと、母さんソフィーはソフィーじゃ無くて、あとウチらにとっては遠い親戚というか……」
「リョウ、ボクから名乗るから。ボクの本名はソフィーじゃ無く、アルフレッドと言います」
「あら、そうなの?」
「すいません、ちゃんと名乗って無くて……」
恐縮するアル君を優しく撫でる母さん。
「良いのよ、おばさんにはよく分からないけど、きっと色々あったのよね……で、ね。ソフィーちゃんがアルフレッドちゃんでも良いのよ。おばさんが聞きたいのは、アルフレッドちゃんは女の子……じゃ、無いわよね? それとも今流行の男の娘?」
母さんは突然アル君の頭をむんずと鷲掴みにする。
その動きはまさに流れる水が如き!
そして、クンクンと匂いを嗅ぎ始める。
ちょっと母さん、それオレのだから!
って言うか、アル君もなんで拒否しないで真っ赤になって俯いてるのさ!
ガルルルル……
「リョ、リョウ!?」
「あらあら」
ハッ!
気が付けばオレは、アル君を力の限り抱きしめていた。
「あらあら、そうなのね。うんうん、大丈夫よママ、ネットでちゃんと調べて勉強したから。理解ある方だと思うから!」
「えっと……」
「娘はやらん!」
倒れていた父さんまで参戦して、絶叫する。
「リョウを、お嬢さんをください!」
「ぅおぃッ! ア、アルくんまで!? う、嬉しいけどさ」
「やらん!!」
「父さんまでなにゆえ拒否を!?」
「ください!」
「やらん!!」
「ください!!」
「やらんたら、やらん!!」
「もういただきました!」
「アル君、それ事後発言!!」
何なんだ、このノリは一体。
それからは、姉貴とモンジロウまで帰ってきて、本当にしっちゃかめっちゃかになった。
ま、変に重くなるよりは良いんだけどさ……
それは、久しぶりの家族の団らんを終えた深夜――
「はぁ、やっぱり日本の便座最高。そりゃインバウンド客も買い漁るよ……そしてビデ、その価値が初めてわかりました……ポッ」
一緒に寝ると叫んでいた家族達をどうにか抑え込んで、懐かしき我が部屋でアル君と就寝していた夜。
トイレから戻るとリビングの明かりが消えてない事に気が付き、そっと磨りガラスから中を覗いた。
父さんと母さん、そして姉貴が居る……
「京一さん、演技が過剰だったんじゃ無いの?」
「良いんだ、あれで」
「お父さん、良ちゃんが大好きだもんね」
「お父さんは愛ちゃんも大好きです!」
「うん、知ってる。でも、お姉ちゃんからも言わせて。良ちゃんを明るく迎え入れてくれてありがと」
「ふ、ふん! お父さんはお父さんだから、当然の事をしただけだ! 女になっても良が帰ってきた。なら良が気兼ねなく帰れる場所を作るのが父親の勤めだ!」
「京一さんったら、何でベジータの声真似して下手くそなツンデレ風に言うのかしら? そう言うのってベジータ系父って言うのよね、確か?」
それを言うならベジータ系女子だろ母さん。
ベジータ系父って、それってただのベジータ王じゃん。
「綾さん、下手くそなツンデレとか言うなよ。俺、今わりと良いこと言ったつもりだよ?」
「う~ん、今良いこと言ったとは思うけど、ただちょっと悪ノリしすぎだったんじゃないかしら?」
「さっきのかい? だって、しょうが無いだろ。異世界行ってみたかったのは本当だし」
「お父さんも、良ちゃんと同じで漫画とか大好きだもんね」
「ジャ〇プ漫画は、父さんの若い頃のバイブルだったからな!」
「今も、でしょ」
「うん! 今も少年誌大好き!!」
「でも京一さん、本当に異世界に行きたかっただけ?」
「……ふ、ふん。それ以上の理由なんぞあるものか!」
「だから、何でベジータ系父になるかなぁ。京一さん、本音は何処?」
「……良は俺と似ているところがあるから、どんなに大変な時でも自分から痛い辛いは言わない。だからこそあの子は余計な心配をかけまいと、深い理由は明かさずにまた向こうに行くはずだ」
「それお父さんの感?」
「父親の感とオタクの感だ」
「後半が台無し。でも、ママはもう良ちゃんを知らない世界になんか行かせたくない……」
「綾さん、あの子が向こうに行くと決めたなら、それはきっと俺たち家族に関わる事だのはずだ。あの子が俺たちを寂しがらせたり不幸になる事を望むような子じゃ無いのは、二人が一番分かってるだろ」
「そうだけど……」
オレはそれ以上、会話を聞く事が出来なかった。
心配してくれてたのは分かっていた。
当たり前だけど、辛かったのはオレだけじゃ無いんだよな。
心配を沢山かけたのに、戻って来たら戻って来たで父さん達が受け入れないと駄目な事が沢山あって……
それなのにオレが不安にならないよういつも通りに接してくれた。
ありがと、父さん……
さっきまでただのクソオタクとか思っててごめん。
オレ、初めて父さんをちゃんとした大人だったんだって知ったよ。
怒濤の家族再会はこうやって幕を閉じた……かに思えた。
じぃちゃんとばぁちゃんに再開して、また一波乱あったんだけどそれはまた今度語るとしよう……
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