TSヒロイン・大好きだから気になった!
2018.12.6~7に投稿した『リョウ無双』『間違えた……?』の2話を結合し改稿しました。
オレたちの願いはけんもほろろに突き返された。
今までもカーズさんは確かに厳しさはあったけど、こんな雰囲気で一蹴されるとは思わなかった。
「何でですか、先生!」
アル君は尚も食い下がる。
掴みかかるアル君に、だけどカーズさんはやれやれとばかりにため息を一つつき、
バチコンッ!!
「アル君ッ!?」
凄まじい破裂音。
首から上が弾け飛んだんじゃないかと錯覚するほどの威力を纏ったデコピンをお見舞いした。
「おおぉぉ、何が、起きた……?」
アル君がおでこから煙を噴きながらゴロゴロと床を転がり回る。
これ、絶対にデコピンの破壊力じゃない!
「アル君、アル君! カーズさん! 何でアル君を!」
「落ち着けと言っている」
「は、はい……」
有無を言わせぬ迫力。
私はアル君を抱きしめたまま、尻尾を丸め地面に正座するしかなかった。
「お前達が愛し合うのも、子を成すのも、それはお前達の意思だ。その愛に他人が口を挟む道理はない。しかし、リョウ……お前の身体に恒久的な変化をもたらすとなればそれは話が別だ」
「へ?」
「自分の肉体は自分だけのもの。そう言う意見もあるだろうし、事実その通りでもあろう。だが、お前には愛してくれる、そしてお前自身も愛した親兄弟や祖父母が居るのであろう。最低限肉親には自分がどう生きるのか、またどちらの世界で生きるのかを伝える必要があるのでは無いか?」
「う……」
正論だった。
突然失踪したあげく、女になって帰りました。
しかも、もう、戻りようのない事態になって全てが事後報告となれば、さすがに問題だらけだ。
家庭崩壊にも繋がりかねない。
しかも、その一端をカーズさんに丸投げしてお願いするのは確かに間違っている。
「まぁ、どう身内と話し合ったところでお前自身の意思は変わらぬかもしれんが、まずは話しておくべきではないのか?」
カーズさんの諭すような声音に、オレは静かに頷く事しか出来無かった。
「ですが、先生。リョウを連れて異界……未来に旅立つにも、現存する扉は全て国の管理下にあります。ボクが住んでいた近くにあった扉も、何者かによって破壊されました」
破壊された?
な、何か身に覚えが……
「時の扉か。あれはかつて【時喰らい】を滅ぼしたとき、その余波で各地に空いた次元の穴だ。宇宙が一巡した未来へと繋がる、な。だがリョウ、お前がこの世界に渡ってきた扉、あれは別だ」
「別?」
「お前の記憶を探ったとき、どのタイミングでこの世界を渡ったのか見させてもらったが、あれはイプシロンが人為的に作り上げた扉だ。袂を分かった血縁同士がもう一度繋がるように作られている……」
「人為的……確かに、ボクが他に渡った他の扉とは作りが違った。あの遺跡には祭壇がありキーワードを必要としていた」
「アル君、オレ、何となく心当たりあるかも……」
「え?」
オレとアル君は遠い昔に別れた血縁同士。
だから、アル君がこっちの世界に来た時、オレの近くに繋がった。
オレが向こうの世界に一度戻ったとき、見知らぬ土地に出たのは姉貴の影響だ。まぁ、両親の元に出なかったのは確率の問題かなのか、あまり考えたくはないが姉貴がオレと繁殖したがっていたから、とも推測出来る。
アル君の記憶を頼りにしてアル君の行動を思い出してみるなら、その頃、オレを心配して追いかけてきてくれた。
この時にオレの近くに転移しなかったのって、あの時のオレはまだ精神が♂だった。
そう考えると……って言うか、あんまり考えたくはないけど、肉体的に一番成熟している母さんの元に引き寄せられた可能性があるんじゃないか?
……え?
もしこの推測でいくなら、異世界に来たのが姉貴じゃなくてオレだったのは、姉貴の性欲がオレに向いていて、アル君がその対象になる可能性が低かったからって事か?
そして、当時のオレはフリーだったし、何より初めて会った時にソフィーの事を好きになっていたから、一番結ばれる可能性があった……
これらは憶測の域を出ない。
でも、そう考えると、案外しっくりまとまった気がするような……
思わず項垂れてしまう。
「突然項垂れて、どうしたのさ?」
「自分の想像が的を射ている気がして、げんなりしたというか……オレ達の先祖、どこまで予想していたか謎だけど、厄介なぐらい策士だった可能性が」
「ふむ、何に思い当たったかは分からないが。お前達が惹かれ合う可能性をイプシロンは計算尽くだった可能性はあるな」
「そうなんですか、先生?」
「元来はエルフもドラゴンも共に希少種だ。ましてや魔王の因子までとなると、極上に稀も稀。そうなると生物の本能という観点から考えても、お互いに一番近い性質の者を本能的に求めるのは何ら不思議じゃない」
カーズさんの説明にオレは頭を抱えた。
「姉貴の奇行や母さんがよくオレの匂いを嗅いだり、オレがアル君の匂いを心地よく感じたのって……」
「まぁ、近親者の場合、血縁を確かめるためとも考えられるがな。野生動物が匂いで子供を確かめたり、求愛を表現するような本能に近い行動なのかも知れないな」
「オレも家族も野生動物ですか」
ガックリと床に膝を突く。
姉貴がオレを幸せの香りとか言ってたのは、やっぱり繁殖相手として見ていたって事かよ。
……あれ?
「でもカーズさん、それじゃ共通の先祖を持つアル君がそうならないのは?」
「そうならないと言うのは、匂いを嗅いだりしないという意味か?」
「や、リョウ、キミは先生に何を聞いているのさ!?」
「だってだって、気になるじゃん! アル君がオレを本能から愛してくれてるかどうかがさ!」
「それは、だって、さ……」
「う~、アル君、本当はオレの事なんかそんなに愛してないんだろ……」
「何言ってんのさ! 愛してるよ、愛してるに決まってるだろ! 本能なんか超えて、理性的に愛してるよ!」
「よし、それが聞けたから許す! で、カーズさん、何故アル君はオレをクンクンしてくれないんですか?」
「うぉいッ!? ボクに言わせたかっただけかい! そして、先生にアホなことを聞くな!」
「メッチャ気になったから聞いた! オレはアル君の匂いに幸福を感じるのに、アル君はどうなんだろうって気になった!」
「せ、先生の前で言う事か!」
「アル君はカーズさんの前だと良い子になりすぎだ! オレはアル君の本音を何時だって知りたいの!」
「何時だって全力で表現してるだろ!」
「もっとちょうだい! そう言うのもっとちょうだい!」
「欲しがりかっ!」
「フ、ハハ……若さだな」
オレとアル君のやりとりがツボだったのか、カーズさんが奥歯を噛み殺して笑っていた。
「リョウ……」
アル君も真っ赤だった。
ふ……オレの勝ち!
「まぁアルフレッドの場合、思いつく可能性が二つある」
「先生まで何を!」
「教えて下さい!」
「バス並みに食いつき良いなぁ!」
「教えて下さい!」
「ぐ、この……」
「アルフレッドは元々がこっちの世界の住人だ。魔素を含む魅了系の匂いに耐性があったのがまず一点。もう一点は……話しても良いか?」
カーズさんがアル君に視線で促す。
「何を言われるか知りませんが、もう、ここまで来たなら好きにして下さい」
アル君はそれだけを言うと、一人小屋に戻っていた。
何を言われても良いと覚悟を決めた、と言うよりは諦めたって反応だ。
「アルフレッドの過去を知っているなら殊更に言うべきでは無いのだろうが、あの男は幼い頃に両親と袂を分けている。それは、アルフレッドが親を圧倒的に凌ぐ天才児であり、その才に恐れた両親が愛情を放棄したからだ」
カーズさんの言葉にオレは小さく頷いた。
知っている。
アル君がどんなに孤独な少年時代を生きていたのかを。
昔、出会ったばかりの頃に見たあの暗く沈んでいた顔を。
「本来なら愛情を十分に与えられるべき多感な時期に、アルフレッドはそれを知らずに育った。知恵や力ばかりは人の十全以上に備わったが、愛情というものを知らずに心が欠けた状態でな。だから、だろうな。お前が本能的に動いている部分、本来は誰もが持つはずだった情動さえもがどこか歪に育ってしまったのは」
「愛情をかけてもらえなかったから、情動が欠けている……」
「まぁアルフレッドの場合は不幸が重なった結果でもある。だが、例え本能の部分が欠け落ちようとも幼い頃にお前と出会う事で、お前との細い絆を頼りにする事で、アレは人として欠けていた部分を補い成長させた。アレの歳に見合わない老成した部分や不器用さには不満はあるだろうが、どうか許容してやってくれ」
ぶっきらぼうなお願いの仕方。
だけど、どうにもカーズさんのこの雰囲気は、アル君に通じる部分を感じてしまう。
うん、きっとアル君とは、先生と生徒、師匠と弟子……という枠を越えた絆があるんだろうな。
歳の近いオレがアル君を変える切っ掛けになったみたいに、信用出来ない大人ばかりに囲まれていたアル君が初めて心を許した大人、それがカーズさんなんだろう。
アル君はカーズさんを尊敬し、間違いなく憧れている。
それは、子供が親に向ける感情に近いのかも知れない。
そう考えると、アル君は昔から背伸びしたガキンチョだったけど、あの時折見せる子供っぽさや大人びた雰囲気は、カーズさんの影響なのかも。
ふふ……
思わず笑みがこぼれ落ちた。
「カーズさん、アル君を育ててくれてありがとうございます」
深々と頭を下げてお礼を言うオレに、カーズさんは一瞬面を喰らったみたいな顔をしたと思うと、また、クールな笑みを浮かべた。
「アルフレッドを真実救ったのはお前だ。そして、これからもアレが人らしく生きられるか……それはお前の支えにかかっている。頼むぞ」
「勿論です♪」
「良い返事だ。ふむ、その返事に免じてお前に一つ褒美をやる」
「褒美ですか?」
「時の扉を開いてやろう」
「え!? カーズさん、作れるんですか!?」
「この世に存在する魔術・魔法において、私に使えぬモノは無いよ。それに、端から出来ぬとしたらお前達の要求を拒絶したりはせぬ」
あっさりと言い切られた。
かっけぇよ、この人超かっけぇよ。
それが裏付けの無い自信じゃないと雰囲気だけで分からせるのが、とにかくかっけぇ。
オレもこんな感じの異世界チーターになりたかったなぁ……
「早かれ遅かれ両親とは向かい合わねばならぬ。だが、いきなりでは覚悟も定まらぬだろう。部屋でふてくされているバカとよく話し合い、覚悟が決まったら私の元に来い」
「はい!」
「ただまー」
「お帰り、何か晴れやかな顔してるけど、先生から何か良い事でも教えて貰ったの?」
「うん、前に進む勇気を貰ったのと」
「と?」
「カーズさんがアル君を大切に思っていること。あと、アル君が何でカーズさんの事を好きなのかが何となく分かった」
オレがニコニコと話すと、顔を真っ赤にしたアル君が、まるで水槽から飛び出した金魚みたいにパクパクと口を動かす。
お、可愛い反応♪
「な、何言ってんだよ! ババ、馬鹿じゃないの!」
「うん、すごく新鮮な反応だね。だけど、アル君、アル君はオレの恋人だからね、カーズさんばっかりに甘えちゃ駄目だよ」
「ジト目で何を馬鹿なこと言ってんのさ! せ、先生はあくまで先生だよ! それ以上でもそれ以下でも無いから!!」
ぷいっ! と横を向かれてしまった。
ふひひ、ちょっとイジられ耐性が無いアル君をイジりすぎたかな?
でもさ、しゃあないじゃん。
何か今まで見た事ない反応が新鮮だし、メッチャ可愛いんだもん。
……うん、今さらだけど完璧に確信した。
やっぱりオレ、どう考えても男には戻れんわ。
「あのね、アル君、カーズさんに諭されて思ったんだけさ」
「うん」
「やっぱり、オレがこのままずっと女の子として生きるんなら、一回ちゃんと両親達に向き合いたい」
「両、親……」
「前に一度向こうに戻った時に姉貴に会ったんだけどすごく心配していてさ。やっぱり姉貴達にも心配をかけたまま自分だけ幸せになる事は出来ない」
「それは、そうかも知れない、ね」
「うん。もし、ね。仮に、仮にだよ。父さんや母さん達が認めなかったとしても、オレはアル君と添い遂げたいと思っているし、そうするつもりだよ。それに、アル君の居るこの世界だって、オレで力になるんだったら守れるように頑張りたい」
「うん……」
あれ?
何だろ?
何だかアル君の表情が曇った気が、さっきまでの緩い雰囲気と全然違うような……
「アル君、ダメ、かな?」
「ダメなんて、そんなこと言わないよ。ただ、ごめん。ちょっと上手く表現出来ない感情があってさ、明日の朝……いや、今日の夜にでも、ボクにもう一度時間が欲しい」
「う、うん……ごめん、オレ、アル君の事からかい過ぎた、かな?」
「いや、違う、そうじゃないんだ。そうじゃ……ただ、その、ごめん」
そう言ってアル君は頭を軽く下げると、そのまま部屋から、いや、家から出て行った。
……あれ?
オレ、本当にどこかで選択肢を間違えちゃったかな?
何か、アル君傷付けること、しちゃった……のかな?
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