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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第四章 TSヒロイン帰郷する
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TSヒロイン・何度目かのファーストキス?

2018.11.28~29に投降した『惚れさせてみろ!!』『止まらないアル君』を再編集し、くどかった表現とか削除しました。

誤字報告お待ちしております(爆)

 手を握る柔らかな感触。


「ん……」


 知らずに声が溢れ出た。

 膜が掛かったみたいにぼんやりとする頭。

 頬が冷たいのがわかる。

 それは自分の目から溢れたものだったのか、それとも、今オレの手を握りしめて泣いている少年が流したものだったのか……

 あるいは両方だったのか……それは分からない。

 ただ、目を覚ましたら――


「リョウ!」


 抱きしめられた。

 メッチャ抱きしめられた。

 ふぉおぉおぉぉっ……

 やべぇ、アルフレッドってばメッチャ良い匂いするんですけど!?

 良い匂いと言っても焼き肉とか鰻重とか、酢飯の香りとかそんなんじゃないぞ!

 何てか脳の奥が満たされるような、幸せを感じる香りって言うか……

 そう、あれだ!

 姉貴が俺のパンツを顔に乗せて『良ちゃんの香り、幸せの香りだよ~』って言ってた系の……じゃなくて! そっち系じゃ俺変態になっちゃうじゃん!!

 こいつは男、こいつは男……

 整った目鼻立ちで、一見すれば美少女でも通じるような見た目だけど、こいつは男だ。

 あ、でも髪綺麗だな。うん、子供の頃に見た記憶の中のソフィーもきれいな髪色だった。

 夕方になると夕日を浴びて太陽みたいに輝いて、朝には空の青を吸い込んだみたいに青銀色の髪が風にたなびく。

 それにこの臭い、じゃなくてこの匂い、まるで若草の絨毯で寝ているみたいに落ち着くなぁ……


「じゃなくて!!」

「リョ、リョウ!?」

「あ、や……じゃ、なくも、なくて、と言うか、あれな、感じで、さ……」

「リョウ、どこかまだ痛むのかい? それともどこか後遺症でも……」


 凄い優しい声音と瞳でメッチャ心配された。

 あれ? なんか俺、ソフィー……じゃなくて、アルフレッドの顔見ていたら、何か下腹部の辺りがキュンってした気が……

 き、気のせいだよ、な?


「あ、あのさ……ソフィー、じゃなくて、ア、アルフレッド……って言うか、アルハンブ、ラ?」


 オドオドとするオレの態度にそれが意味する事に気が付いたのだろう、アルフレッドの瞳の奥が悲しみに揺れた。


「あ……そうか、ごめん……」


 違う、こんな顔、こんな顔をさせたかったんじゃ無いんだ。

 いや、どんな言葉で取り繕っても、こうなる事は端から……

 だけど、命を賭けて守ってくれたアルフレッドに俺は何を伝えればいいんだ?

 何を伝えれば……

 そんなのは決まっている。

 だけど、それは俺が【男】である事を捨てるのと同義語だ。

 それは正直、キッツィと言いますか……

 いくら何でも無茶振りが過ぎるというか。


「でも良いんだ。リョウ、キミが無事に目を覚ましてくれた……それだけで、ボクはこんなにも幸せだから」


 それは本音と強がりが入り交じった複雑な音色の声音だった。

 だけど、好きだった人が無事だっただけで幸せだと語ったこの少年の気持ちに嘘が無い事ぐらい、恋人が居た事の無い俺にだって分かる。


 ……恋人が居たこと無い、か。


 それは嘘だ。

 真実は俺が勝手に忘れているだけ……


「あ、あのさ……う、上手く言えないんだけど、お、俺さ、お前……じゃなくて、アルフレッドのこと正直言って忘れてる……だけど、アルフレッドが自分を省みずに命を分け与えてくれたおかげで、助けてもらえて、その、キミと俺の関係がどんなだったかってのは、だから、キミの記憶を頼りに少しは理解してるつもり」

「それって……あ、そうか、命の共有化で……何か恥ずかしいね、そう言うの」

「恥ずかしいのは俺だよ! 奇行の数々で、その節はとんでもないご迷惑を……」

「迷惑だなんて思ってな! お、思って……」

「あ! その反応は思ってたんだろ!」

「そりゃ魔導列車の中で突然発情されたりすれば!」

「それは言わないでえぇぇえぇぇぇぇぇ……自分を他人(ひと)の視点で客観視させられて、悶死しそうなんですぅ~」

「でも、場所はあれだったけど……誰にも愛され無いって諦めていたボクを、愛してくれて、嬉しかったのはホント……」


 え?

 うあ! 何だよ、その可愛い反応!!

 夢で見たアルフレッドは、俺の知ってるソフィーは、いつもどこかトゲトゲした感じだったんですけど!?

 それなのに何だよその反応! 超可愛いんですけど!

 や、落ち着け俺……

 俺の好きなタイプは負け犬系幼馴染みだろ。

 だけど、やう゛ぇ……こんな反応されたら、俺でもショタに目覚めそうだ!!

 あれ? でも、よく考えてみたらアルフレッドって、ソフィーだった訳で、ある意味で幼馴染みポジとも言えるような……

 強気だけど健気だし、散々な目にも遭ってるし、ある意味で負け犬とも言えるし……

 おお!

 そう考えたらアルフレッドってバッチリ俺の理想……

 って、だから性別ぅ!!

 何ですぐそこ忘れるかなぁ、俺!!

 あ、でも、今は俺も女だから、誰に後ろ指指されることも無くナイスカポーって呼ばれるような関係に……

 って、だから、違うっての!!

 いかん、だいぶ混乱してきたぞ……


 そうだよ、落ち着けよ俺!


 多少道を踏み外しかけたけど、ノーマルな方向に戻らねば。

 ああ、だけど、アルフレッド……安らぐ~……


「リョ、リョウ!?」

「ふぁっ!? 何で俺、アルフレッドの髪に顔を!」


 気が付いたらアルフレッドを抱きしめたあげくに、その髪に顔を埋めてダイソンも驚く吸引力でクンカクンカしていた。

 しかし、くそ……

 何て、安らぎを覚える良い匂いなんだ。

 くきーっ!!


「は、恥ずかしいってば。今、先生に言われて水汲みしてきたばかりだから、汗臭かったでしょ……」

「臭くなんか無い! むしろ良い匂いだった! フローラルだ!! ……はっ!? オ、オレは一体何を……」


 頭を抱えてうずくまるオレに、アルフレッドがややの間とともに吹き出す。


「何だよ、人の痴態を笑うなぁ~」

「その程度の痴態じゃ、今更驚かないし笑わないよ」

「その程度じゃすまあない行為の数々……その節は、大変ご迷惑を……」

「だから、迷惑なんて思ってないよ。ただ、リョウと初めてこの世界で再会したばかりのときに、同じようなこと言われたのを思い出してさ」

「フローラル発言?」

「そ、初めて言われた時は流石に肝が冷えたけどね」

「う~……でもその話ってさ、かなり前の事だよね。それでも覚えてたの?」

「キミとの会話は全部とは言わないけど、だいたい覚えてる。ボクに初めて手を差し伸べてくれた人、だから……」


 う、きゅ~。

 な、何だよ、何なんだよ!

 可愛い上にイケメンみたいな発言したり、こいつはパーフェクト超人かよ!!


「ボクは子供の頃から、よくキミと出会った時の事ばかりを思い出していたよ。キミは本当にメチャクチャなヤツだったけど、優しくて真っ直ぐだった性格にボクは憧れていたんだ。この世界で出会ったキミが、まさかカメンノリョウだとは思わなかったけどね」

「カメン、ああぁぁぁぁ懐かしき黒歴史ぐあぁぁぁぁ……」

「キミにとって黒歴史でも、ボクにとっては大切な思い出だよ」

「アルフ……ア、アル、君……」

「ありがとう。でも、無理に前みたいに呼ばなくても良いよ。今のリョウが受け入れるのは難しいだろうから……」


 そう言って笑ったアルフレッドの顔は、誰が見ても分かるぐらいに強がりなものだった。

 くそ、何でコイツこんな良い奴なんだよ。

 いっそ嫌なヤツだったら突き放せたのに。

 って、嫌なヤツだったらそもそも好きになんか…… 


「あ、あのさ、俺さ、忘れてるけど……い、今はまだ、全部を受け入れるのは無理だけどさ、だけど、全部無かった事にするのは、やっぱり違うの……かなって」

「リョウ……」

「上手く言えないけど、あ、あれだ! く、悔しかったらもう一度俺を惚れさせてみろよ!」

「それって……」

「あ、あくまでワンチャンあるかもってだけの話で、べ、別に俺は、お前が嫌ならどうでも良いって言うか、その、だ、だから」


 頭の奥が沸騰したみたいだ。

 男相手に、何言ってんだ?

 心の奥底で、そんな風に叫んでいる俺が確かに居る。

 だけど命を分けてくれたからとか、そんなんじゃなくて、こいつには笑っていて欲しい あ、見下すような笑いって意味じゃ無いぞ!

 ……ごめん、一生懸命誤魔化そうとしてた。

 でも、笑っていてほしいのはほんと。

 アルフレッドを苦しめたり見捨てた連中が悔しがるような、そんな幸せな笑顔で居て欲しい。

 こいつの寂しそうな顔は、正直見たくない。

 だから、やっぱり笑っていて欲しい。


 そんな事を考えていると、ふわりと抱きしめられた。


「あ、アア、あ、あゆふれっど、いっひゃい、にゃにを……」

「諦めるつもりなんか無いよ。二度と戻ってこない記憶は、他人からすればたった数ヶ月分かも知れない。でも、他人に奪われて『はい、そうですか』とお行儀良く諦めるものか。今度は、絶対に忘れる事が出来無いよう、キミの魂にボクとの絆を植え付けてやる」

「おお俺は男だったんだぞ!? そそ、その俺に、そんな台詞吐いて、こ、後悔しないのかよ!!」

「リョウ……キミを失うこと以上の後悔なんか、ボクには無いよ」

「ア、ア、アリュ……く……ん……」


 意識せずにこぼれ出た言葉。

 アル君の抱きしめる力が、ギュッと強くなった。

 それはたぶん、彼がいつも俺を抱きしめてくれていた時の力、だったんだと思う。

 だけどすっかり忘れてたけど……

 今、お腹……と言うか、下腹部を圧迫されると……


「あ、あの、放して……」

「絶対に嫌だ、断る」

「うわぉ! 何て男らしい!!」


 俺も男の時に言ってみたかった。

 じゃなくて!


「や、ほんとに放して頂かないと……」

「断るって言ったでしょ」

「そ、そうじゃなくて、話してて忘れてたけど、お、俺、にょ、にょ……」

「にょ?」

「尿意デマイオ……」


 しゃらららら……


 ダムは決壊した。


 ……

 …………

 ………………


「しかし、これは見事な世界地図だな。かつて私が居た世界の古い賢人に伊能忠敬とい人物が居たが、彼の者が描いた地図よりもよほど正確なんじゃ無いのか?」

「すいません、先生……しっかりと洗って干しますので」


 う、うぅ……

 窓の外から聞こえてくる声。


「俺悪くない! 悪くないもん! ア、アル君のせいだ! 放してって言ったのにアル君が放してくれなかったからだぁああぁぁぁあぁあぁうわあぁぁぁぁああぁぁんっ!!」


 ふ、ふぐぅ……

 十五歳にもなっておねしょとか……

 いや、起きててもらしたから、ただのおもらしじゃん!


 TSして、痴女行為に走って、アル君の記憶の中だとゲロまでぶちまけて、終いにゃおもらしとか……

 俺ってばどこまでニッチなジャンル突き進めば気がすむんだよ……


「うぅ……もう、お婿に行けない……」

「行かれたら困るよ。キミにはボクのお嫁さんになってもらうんだからね」

「ふぁっ!!」

 

 いつの間にか外から戻っていたアル君が部屋の入り口に立っていた。


「にゃふぁふっ!? い、いちゅのまに……」

「行かれちゃ困るし、どこにも行かせる気は無いよ。リョウが隣に居てくれないと、ボクはボクじゃ居られなくなる……リョウは、ボクのだ」

「う、うきゅぅうぅぅぅぅ……」


 畜生、俺が男だってこと知ってるくせに、なんでコイツこんなさらっと口説いてくるんだよ。

 しかも、優しい声音でそんな照れること言ってるのに堂々としすぎじゃん!

 クソ! コイツ絶対に天性のタラシだ!


「違うよ」

「ふぇ?」

「ボクはリョウだから口説くし、絶対に他人に渡したくないって思ってるんだ」

「うぎぃぃぃ……人の心を読むな……」

「読んでないよ」

「じゃあ、俺が分かりやすいって言うのかよ!」

「それも全部違うとは言わないけど、違うよ。キミの事を分かりたいんだ。全部を知りたいなんて傲慢な事は言わないよ。でも、もう後悔したくないから、無くしたくないから、キミの事を思い続けていたいんだ」

「ふぐぅ……」


 素直に格好いいとか思ってしまった。

 やばい、このままだと、俺、チョロイン路線まっしぐらになりそう。 

 って、だから俺は男だって!

 何とか正気を保つために、頬をつねって誤魔化す。

 ジンジンとする頬。

 すると、


「バカ! せっかく傷が良くなったのに、そんな事しちゃダメだよ……ほら、赤くなってるじゃん」

「ふくぅおおぉぉ!」


 痛いところをメッチャ優しく撫でられた。

 うぅうぅうっ!!

 う~っ!!

 うぎぃぃ~!!

 ヤバイ、俺、元々精神的に腐だったんだろうか……

 気が付けばアルフレッドをアル君とか呼んでるし、優しくされると、何か下腹部の辺りがキュンキュンするし、アルく……アルフレッドに見つめられるとめちゃくちゃドキドキする。

 つねった頬どころか、耳まで赤くなってるのが、自分でも感じる。


「リョウ……」


 ふぁっ!

 な、んあ!? な、何で俺の頬を触りながら顔近付けてくるんだよ!!

 ベッドの上で後ずさっても、後ろはすぐに壁。

 逃げ場なんかどこにもなくて。

 そりゃ、突き飛ばせば、大丈夫だろうけど、そ、そんな、酷い事したくないし……

 あ、でもアルフレッド、睫長いなぁ。

 ほんと、綺麗な顔だな。


「目、閉じて……」

「や、やだ!」

「オッケー、じゃあ、開けたままで」


 あ、どっちでも良いんですね!!

 ふぁ、ふぁ~……


 あ~、アーッ!!

お読みいただいている読者様、本当にありがとうございます!


コメントやランキングタグなどで応援を頂けると執筆の励みになりますので、もし面白かったと思っていただけましたなら、何卒! ポチりとよろしくお願いします!!

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