??サイド
2018/11/25に投稿した【??サイド】を改稿編集しました。
Bang! BangBang!!
乾いた音に苦い火薬の香りが混ざり、やがて生臭い血の臭いが充満する。
「まだやるぅ? さっさとアタシの、アタシだけの傘下に入りなさいよ」
強面の、明らかに正道から外れたヤクザ者達の前に、マスクで顔を覆い隠した長身痩躯の男が居た。
ゆらゆらユラユラ……
背骨をどこかに置き忘れてきた幽鬼の如く揺れ動くマスクの男。
恐怖とは無縁そうなヤクザ者達。
しかし、その男が持つ見慣れぬ、だが恐ろしいほどの破壊力を持つ現代において銃と呼ばれる武器を前に蒼白であった。
だが――
「何だ、貴様はぶしつけに? 私たちがモランディー一家であり、ここがファミリーのカジノと知って乗り込んだのか?」
気丈、いや、豪胆という言葉がまさにピッタリだろう。
浅黒い肌の男コーディは、目の前で部下の頭が銃ではじけ飛んでも、顔色一つ変えずマスクの男を睨め付ける。
「知~ら~な~い~。知ってるけど、知らな~い。あんたらが何者かなんてぶっちゃけどうでも良いの。黙ってその力をアタシに明け渡しなさいよ」
マスクの男の傍若無人な発言に、男達の空気がひりつく。
当たり前だ、これだけの武装された男達を前にこの男は噛みついたのだ。
有り得ないほどに舐めた行動。
だが、男達は知っている。
この男が手に持つ怪しい武器以上に、得体の知れない存在である事を。
目の前に居るのはたった一人。
それでも、まともにぶつかれば、負けぬまでも双方無事では済まぬ事態になるであろう事も。
「貴様が何をしに来たのか、何を欲して来たのかは知らんし、知る必要も無い。ただ、ここで、この場所で、我らがファミリーを血で濡らした意味は何だ?」
ダンッ!
ビリヤード台のラシャに突き立てられたダガー。
だが、ただラシャの上にダガーが突き立てられた訳では無い。
ラシャとダガーの間には、マスクの男の手があった。
真っ赤な鮮血を吸ったブルーグリーンのラシャがどす黒く染まっていく。
しかし、あろう事かマスクの男はダガーを突き立てられたまま手を無理矢理に引き抜いた。
多量の鮮血が宙を舞った。
「ああ!! 痛い……痛いったらありゃしない……何て酷い事をするのかしら……そうね、知るなんて意味が無い。意味なんて無いの!」
マスクの男はケタケタと笑いながら、武器を男の背後に立つ部下に向ける。
「Bang!」
ヘラヘラと笑いながら口ずさむ。
と、同時に鳴り響く、耳朶を襲う破裂音。
悲鳴一つ上げる間もなくはじけ飛んだ部下の頭。
「でもね、意味は無くても手を取り合う仲間なら、知っておかないとダメ。ダメなのよ……何でそれが分からないかなぁ!!」
「貴様のような狂人と手を組む気など無い。我らが胸襟を開いて語り合う未来など、永劫に来ぬと知れ!」
「あ、そう……残念ね。貴方たちぐらい裏社会に通じた連中が傘下に入ってくれたなら、面白い仕事が出来ると思ったのに」
ゆるりと銃口が浅黒い肌の男に向けられる。
引き金が絞られる瞬間、コーディは床を蹴った。
ビリヤード台に突き立てられたままのダガーを引き抜き、そのまま男に斬りかかる。
Bang! Bang!!
ギチギチと軋む金属音。
ダガーの斬撃は銃の黒金で受け止められていた。
放たれた弾丸がコーディの頬をかすめ背後の壁を穿つ。
「なるほど、飛び道具に頼るもその反射神経はなかなかのものだ」
「あなたこそ。この至近距離で二発も躱すとか、なかなかのもんじゃない」
「ふん、武器の先ががどこを向いているか分かれば躱すのなど容易い。それにしても惜しいな、狂ってさえいなければ、我がファミリーに迎え入れても良かったんだが」
「狂っている? アタシが? そう、残念ね。健常を自負する程度が、貴方たちの正義とは……全てに理由が無ければ我慢出来ないのかしら? 足りないわ。全く足りないのよ、それじゃ! 狂気こそが世界を完璧にするの」
「実に狂人らしい発想だ。貴様との噛み合わない会話などこれ以上は無駄だ」
キンッ!
乾いた音が鳴った。
黒鋼の銃は真っ二つに切り裂かれ、斬撃がそのまま男のマスクまで切り裂いた。
マスクの下の顔に、コーディの瞳が刹那に揺れた。
グシャリと歪んだ下顎、大きく引き裂けた口角から乱れ生えた乱杭歯を覗かせる。
「あらら、壊してくれちゃって。これ、この世界じゃ替えがきかないのよ」
「ふん、ありがたがる貴重品なら金庫にでも保管しておくんだったな。それにしても、なるほどその顔が我らを傘下に収めたい貴様の理由……復讐か」
コーディの発言に、男は引き裂けた口をさらに吊り上げる。
「違うわ、これは一つの結果。そして貴方、ダメね、まるでダメ。使い物になるかと思ったけど、私の見込み違いだったわ……」
男は窓枠に飛び移ると、歪な笑みを浮かべた。
「説明の必要な復讐は、復讐なんて言わないのよ。もし生き残れたなら、貴方にもそれが理解出来るようになるかしら」
「何を考えているかは知らんが、させんぞ!」
「爆音に踊らされると良いわ」
男はそのまま倒れるみたいに窓の外へと落ちた。
「馬鹿め、ここは地上40メートル。無事で済――」
だが、コーディの言葉は続かない。
突如床から吹き上げた爆風に呑み込まれたのだ。
暗闇に燃え盛るモランディー一家のカジノ。
不夜城と呼ばれし宴の砦は、この夜爆音と悲鳴に呑み込まれた。
「た~まや~ってね。綺麗な花火じゃない。さあ、せいぜい死を乗り越えなさい。乗り越えた先にこそ狂気が待っているんだから」
男は燃え盛る悲鳴の中で、楽しげに踊った。
「ああ、ああ! 生きているのよね!? 早く早く再会しようじゃない! アルキュンにリョウタン! 貴方たちが笑顔になれる世界でアタシは待ってるわ」
男の哄笑は何時までも何時までも、消える事無く爆音と悲鳴の中で踊り続けた……
お読みいただいている読者様、本当にありがとうございます!
暗めの話しが続きましたが、これにて三章終了です!
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