アルフレッド・砕かれた思い
2018/11/17×2・18に投稿した3話『ヒトジャナクナッテモ』『ZAP 砕かれた想い』『一緒に帰る』を結合し、誤字表現を中心に改稿しました。
咆哮が空間を殴打する。
まるで塔全体が鳴動するみたいに震える。
遠くて近い、手の届かないどこかで、何かにヒビが入る音が聞こえた。
まだだ……
まだ、届かない。
こことは違うどこかに、良は捕らわれて居るはずなんだ。
早く……
早く助け出さないと。
それがどんな力で作られた牢獄に捕らわれているのかも分からない。
だけど、壊せる。
そんなモノは壊せるはずなんだ!
ボクなら良を助け出せるはずなんだ!!
「うぁあああぁあぁaaAAAAA」
力が足りないと言うなら、
思い出せ、エルヴァロンを討ち取った時の力を。
人の姿が足枷だと言うのなら……
過去の自分に戻れば良い、あの姿に!
全てを捨てるだけで良を助け出せるなら、
何も迷うことなどない。
アルフレッドなんて名前はいらない。
アルハンブラという名もいらない。
全てを忘却の彼方に捨て去り、化け物に成り果ててでも良を取り戻せるなら――
それで良い!!
リョウが居れば何もイラナイ。
タトエ、バケモノに、ナリハテても……
リョウダケイレバ……ソレ、デ……
「URURURURURYYYYYYYYYYY!!」
サケビとドウジだった。
ガラスがワレルミタイニ、コクウニキレツがハシル。
モット、モット、モットダ……
モット捨テサレバ、NIせモノノ世界クライ、イKUラデも破カイデキル。
キンッ!!
トツゼン、ガンゼンヲハシリヌケタセンコウ。
ナンダ、イマノ残光ハ?
ヤイ、バ……カ?
ヤ、いば……ま、マサか……セ、せんせ……
カシャン……
フラスコの中から見ル外の世界みたいに、空間ハひび割れ、崩壊スル。
「な、何だ! いま目の前を走り抜けた光は!」
「何やら上層より降り注いだようにも見えたが」
「まさか、ソウルドレイクみたいな階層無視の攻撃!?」
「そ、それよりもクソカマはどこ行ったのよ!? って、あの化け物じみた気を纏っているアルハンブラ様の変化は一体何なの!?」
「魔術士のアンタが分からんこと、ワシらに分かるはずがないやろ!!」
ゾル……ゾル……ゾゾゾゾ……
「何々やこの気色悪い音!? ま、まさか上層のマインドイーターやないやろな」
「次から次に……って、ちょっと! あそこにクソカマっぽいのが落ちてるわよ! って言うか、何、あの悪趣味なイカ頭の化け物どもは!?」
「マ、マインドイーターや……」
「それよりも! あそこにリョウちゃんが血塗れで……酷い……」
リョ、良……!!
「一体、何事か!!」
「な、なんや!? 一体何があったんや!!」
「ぐむぅ……此奴ら、見た目に反して強いぞ!」
「気を付けて下さい! ヤツらのゲソ足に触れられたら最後、記憶を破壊されます! 廃人にされたくなければ、近接戦は避けて下さい!!」
「だけど、此奴ら見た目に反して早いぞ!」
「どけっ!!」
手をコマネク者達を掻き分け、良に群がるバケモノを殴り飛ばす。
「う、腕の一払いであの化け物どもを。何という膂力……本当にヒトなのか……」
「あれ、原初の精霊力やないか……あんな力、ヒトの身で……ほんまにアルフレッドさんかいな!?」
ウルサイ、ウルサイ、うるさい、五月蠅い……
ソフィー……違う、それは俺の記憶じゃ無い!!
良、良!!
投げ飛ばし、引き千切り、虫ケラドモを消滅させ、やっと良の元へ辿り着いた……
「リョウ、リョウ!!」
「ア、ア……君だぁ……やっと――君に会えたよぉ」
アア、ああぁぁ……
コンナ、こンな目に、遭わセタカったんじゃ、ナイ……
そんな後悔に濡れるオレの頬を良の手が優しく撫でてくれる。
「――君、ごめんね、こんなボロボロにされちゃって……あ、でも処女はちゃんと守ったよ。ニシシ……ねぇ、嬉しい? 嬉しい? なんちって、さ……ねぇ、血だらけの痣だらけでブスになっても、まだ好きで居てくれる?」
「バカ……ソンナ、そんな冗談は、いらないから……」
キミが生きていてくれた。
それだけで、それだけで……
「ア 君……大好き……良かった、また……会えて……」
ごぷっ……
赤い、見たことも無く、見たくも無い真っ赤な花が咲いて、散った。
「リョウッ!! 良ッ!! 死ぬなっ!! 君が、君が居なくなったら……ボクはっ!!」
「ア……ア……君……」
「すぐに助けるから!! 絶対に助けるから!! だから、目なんて閉じるなっ!! 閉じるのなんて、絶対に許さないからなっ!!」
叫んだ、その時だった。
ボクたちの頭上に音も無く穴が空いたのは。
それはまるで湖の底にでも穴が空いたみたいに、全てを飲み込もうとする暗い穴。
ズルズルと身体が引きずり込まれるみたいに身体が浮き上がる。
グッタリとした良の身体は為す術無く浮き上がる。
キミだけを行かせるものか……
何とか掴んだ良の右手。
離してたまるか……
やっと、やっと届いたんだ。
やっと、満たされたんだ。
生まれてからずっと穴の空いた器みたいだったボクの心を、キミがやっと埋めてくれたんだ!
離して、たまるか……
吸い込みは、さらに強くなり身体はますます浮き上がる。
地面を掴んだ右手が、良を掴んだ左手が、まるでボクの意思をあざ笑うみたいにプチプチと音を立てて崩壊をはじめた。
「ぐあぁ……」
噴き出した血液まで吸い込まれ砕けて消える。
この塔の弱者に対する排除機構の念の入りようは本当に異常だ。
異常すぎて、頭が下がるよ……
それでも、この手は、
この手だけは……離さない。
離して、たまるか……
それが弱者として産まれたモノの、せめてものの意地だ。
だけど……
この塔は、いや、この世界は、どこまでも残酷だった。
「ねぇ……キミ、俺の手を離して良いから。そうじゃないと、キミも一緒に飲み込まれるよ……」
それは、何気ない言葉。
聞き流せば、それで終わるような、そんなどこにでもある『残酷』な言葉だった。
何よりも守りたくて、何を失っても守りたかった、大切な絆が――
今、壊されたんだと、
ボクは、思い知らされた……
嗚呼、目の前にあるのは何て果てしない闇だろう……
奪われた絆の痛みに停滞する思考。
願わくは、このまま二度と目覚めることの無い闇に身を委ねたかった。
だけど……
穴に呑み込まれようと、目の前に広がる絶望は何も好転しない。
むしろ、よくもここまで最悪を思い付くものだとヒステリックに叫んで髪を掻き毟りたくなるぐらいに最悪だった。
眼前には地平の彼方まで広がる魔物共の群れが居た。
あまりに絶望的な状況に対し、ボクの残された体力も魔素も残り僅か。
そして、ここに居るのはボクと良だけ。
その良も身動きをさせられるような状態じゃない。
この場で、一切動かずに良を守りながら、こいつらを駆逐すれってのかよ。
アハハ……
乾いた笑いしか出てこない。
何て極上の無茶を言ってくれるんだ。
それ、でも……
それでも……
大地よ大地 我が母よ 我は汝が子なり
たとえ血の一滴繋がらずとも 我が肉は貴女の賜なり
紡がれし時の恩恵の一欠け一紡ぎ 貴女の子に貸し与えたまえ
我は母なる大地の精クローディア 貴女に助けを請う者なり
ボクはなけなしの魔素で構築した高水晶結界で良を包み込む。
「生きて、一緒に生きて、降りよう」
うあぉぉぉぉおぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!!
吐き出す気炎とともに、眼前の敵を蹴り砕く。
一体、二体、三体……
打ち砕いた敵の数はあっという間に二桁に上る。
ドゴッ!!
「が……はぁ……」
いつの間にか背後を取っていた敵の一撃。
脇腹から聞こえた、鈍く、骨が砕ける音。
「ご、おぉぉぉ……はぁ……がハッ」
ダメだ、意識が……
良……
ソ……リョ……良……
諦めて、たまる、か……
ここで、ここで「終わるかぁぁあぁぁああぁぁぁッ!!!!」
帰るんだ、帰るんだ……良と帰るんだ!!
ゴギィィィィ……
「う、が……」
打ち砕いた敵数が三桁を超えた辺りで、ボクの右手はついに悲鳴を上げた。
参ったね……
心は折れてないってのに、身体が先に悲鳴をあげやがった。
「良……」
ボクが死ねば結界も消える。
良が助かる可能性を少しでも願うなら……
はぁ……良……
ボクは体内の魔素を手当たり次第にかき集め、胸の内に溜めていく。
その行為の意味に気が付いたのだろう、魔物達は顔色を変えて離れていく。
「ハハ、貴様らでもこの魔術の意味は分かるみたいだな」
そりゃそうだ。
臨界点寸前の魔素量が引き起こす結果なんてただ一つだ。
自爆――
言葉にすれば何とあっけなくて薄っぺらい二文字だろうか。
だが、この魔術はこいつらを絶対に駆逐してみせるというボクの覚悟だ。
「惑え、惑え、逃げ惑え! 永劫にこの場所に近づきたいと思えぬほど、貴様らの足りない脳裏に刻み付けてやる!!」
はああぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!!!
胸の中の魔素が限界間近に膨れ上がる。
良……
息をしているのか、本当に疑いたくなるほどのケガ。
でも、どうか……
どうか、生きて。
その隣に、ボクはもう……いないけど……
「これが、ボクの最後の力だああぁぁぁぁっ!!」
それは最後のワードを発動する直前だった。
ガクンと力が抜け落ちた膝。
「な、なんで!?」
ボクの中から急激に失われてく魔素。
そんな、こんな、こんな時にまで、ボクは何の役にも立たないのか?
何の役にも立たず、大切な人さえも守れずに、
ボクの身体は、ボクの意志を裏切るのか……
ふざ……けるな!!
もう一度だ、もう一度、頭が動く限り……
――よせ、そんなに、死に急ぐな――
それは、脳裏を駆け抜けた、意志ある声。
忘れるはずもない、忘れようはずも無い。
その声の主は、どこからともなくボクたちの前に駆けつけ、
そして、刃の閃きを持って魔物の群れを一掃した。
一閃、たった一度の閃きで全てが灰燼と帰す魔物達……
あ、あはは……
本当に、貴方という方は……
どこまでもとんでもない。
強いとか、次元が違うとか、そんな言葉さえまるで意味を成さない。
貴方の前だと、自分の矮小さを嫌と言うほど思い知らされる。
だから、せめて……
始めてあった時と同じように、敬意をこめて言わせていただくよ、
「化け物……め……」
感謝します、我が師カーズ。
偉大なる、英雄達の王よ……
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