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終わりゆく世界に紡がれる魔導と剣の物語  作者: 夏目 空桜
第三章 アルフレッドの世界
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アルフレッド・本音のありどころ

2018/10/29・30に投稿した『本音のありどころ』『リョウへの歪んだ愛情表現』の2話を結合、誤字を中心に改稿しました。

 …………そして、何故だ?

 気が付けば、ボクはベッドの上で寝ていた。


 あ、勘違いするなよ!

 その、えっと、事後とかそう言うんじゃ無いからな!


 リョウがもっと分かりやすく告白して欲しいって、いつになく全力で迫ってきて、気が付いたらボクはベッドで寝て居た。

 ……何を言っているのか分からないと思うが、ボクもどう説明したら良いのか分からない。

 ただ何度も言うけど、事後ではない。

 あ、でも、もしかしたらチョークスリーパーを決められて女に落とされるのを事後という世界があったり、そういう趣味趣向の人間からすればこれは事後というのかも知れない。

 だけど、ボクにはそんな屈折した性癖は無いので、これは事後では無い。

 むしろ、一歩間違えれば事(件)後に成りかねたのだけは確かだ。

 ボクがあの世に行きかけるという、意味でね。


「俺、アル君に迷惑しかかけてない……」


 さっきからブツブツと呪詛のように呟いている、ボクがすでに目を覚ましていることに気が付いていない実行犯。


「そうだ、もう消えよう……」


 このガキャア、好き放題やってどこかに行くつもりだ?

 や、落ち着けボク。

 色々と妨害され若干口調も荒くなってしまったが、リョウに消えて欲しい訳じゃ無い。


「じゃね、バイバイ……」


 その声音はいつも冗談みたいな掛け合いばかりだったリョウらしくも無い、寂しさと弱音を滲ませた音色。

 このままだったら、どこか手の届かない所に行ってしまうんじゃ無いのか?

 そんな感情に支配されたからだろう、


「いたたたたたたたっ!」


 気が付けば、とっさに彼女の髪を鷲掴み(・・・・・)にしていた。

 わざとじゃ無いんだ。

 わざとじゃ無いんだけど、ちょっとイラッとしたのも本音だ。


「……キミは師匠を絞め落としておいて、どこに行こうってんだい?」

「いや、俺、颯爽とここを立ち去ろうと……って言うか、こういう時は髪じゃなくて裾とか手を掴まない? って、痛い痛い痛い痛いッ!」

「仕方ないだろ。ボクはベッドに寝てて、君をすぐに掴めそうな場所は、その腰まである髪ぐらいだったんだから」


 リョウの奇行にはそれなりに耐性が出来た自信はある。

 だけどさ、照れてるボクに無理矢理告白させようとした挙げ句にチョークスリーパーで絞め落として、寝ている隙に逃走ぶちかまそうとかそんな残酷な話があるか?

 ここはガツンと一発キツいのお見舞いしてやらないと、ボクもいささか気持ちの収まりがつかないってもんだろ、こんちきしょう。

 ……すまない、またちょっと語彙が荒くなってしまった。


「分かった、分かったから! もう掴んだんだから離してよ!」

「離したらこのまま全力ダッシュで逃げる気だろ?」

「うぅ……」

「ほら見ろ。ま、全力で逃げたところで、たぶんボクは追い付くことが出来るけどね」


 あ、泣きそうな顔になってる。

 悪いけど、そんな顔したところで離す気は無いよ。


「キミがあれだけ答えを聞きたがったのに、何で突然逃げだそうとしたのか……理由は分からないけど」

「え? いつもみたいに色んな可能性を考えて退路を絶つ追い詰め方しないの?」

「このやろう、毎度毎度人をなんだと……」


 何故、絞め落とされたボクがこんな言われ方しなければならないのか。

 ま、まぁ、少しはそれっぽい所を見せた気もしない気もないと言うか……

 ただ、こんなボクでも、


「ボクだって、好意を寄せてくれている相手に、その感情を押しつぶすみたいな無粋な勘ぐりはしないよ」

「う、うん……そう、だよね……」

「ただ、君が寄せてくれる好意に素直にボクが答える前に、先に聞いて欲しい事があるんだ」


 ボクにはきっとリョウの好意に応える資格は無い。

 それでも好意を向けてもらえた以上、それには誠実に向きあわなければいけない。

 だから話そう、ボクの歪んだ過去を……


「え? え? 俺に聞きたい事があるんじゃなくて、アル君が俺に伝えたい事があるの?」

「うん、そう。まずはボクの話。キミが伝えたい事って、たぶん、試練をはじめる直前に言ってた、ボクに伝えたい事ってヤツだよね? さっきの告白の件じゃなく」

「告白の事は、いったん保留でお願いします! えっと、えっと……う、うん……その向こうに居た時の話とか、色々……」

「そうか……君が伝えたい事の前に、ボクは師匠として、いや、キミに好意を寄せられる一人の男として先に伝えなければいけない事があるんだ。お互いの話を聞いた上で……それでもキミが、改めて告白の返事を求める事が出来たなら、させて欲しい……」


 そう、この人間のふりをした化け物の正体を。

 何人という人間を殺めてきた、過去を……


 ……

 …………

 ………………


 リョウに伝えた、かつての自分。

 人に興味が無く、その結果数多の人を犠牲にしてきた人の面をかぶった化け物。


 リョウは拳を握りしめたままブルブルと震えて俯いていた。


 当たり前だ。

 自分が師と仰ぎ、そして一瞬でも好意を寄せた相手がこんな救いようのないバカな化け物だったんだ……


 愛想も――


「ふんがっ!!」


 ゴンッ!!


 ゴッハアァァァアァアッ!


「い……ッだあぁぁあぁぁぁぁぁっ!! 割れる割れる! 頭が割れる!! 何するんだよっ!!」

「頭突きかました!!」

「ず、ずつきぃ!? この頭突きにどんな意味があるのさ!!」

「意味なんか無い!!」


 腕を組んで仁王立ちしての大絶叫。

 ボクの罪を責めているのか?

 いや、それならそれでかまわない。

 だけどだ!

 責めるにしてもやり方とタイミングってもんがあるだろ!!


「一度キミにはしっかりと言っておきたいことがある!!」

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさーい!!」

「うるさいって、金切り声を上げて叫ぶキミに言われたくない!」

「やかましゃあっ!!」


 どごっ!!


「ぐはっ!」


 お、ぉおおぉぉぉおぉ……

 な、何が、起きた?


 急にリョウの姿が視界から消えたと思うと、足の裏がボクの顔面にクリーンヒットしたぞ?

 歪む視界。ちょっとだけ血の味がする口の中。

 ああ、ボクはどうやら床に転がっていたらしい。

 起き上がると、やはり仁王立ちするリョウがそこに居た。

 だけど、何故だ?

 何で思い切り攻撃をぶちかましてきたリョウが泣いてるんだ?

 そんな困惑に揺れていると、リョウは突然ボクの胸ぐらを掴んだ。


「理屈なんぞ知らん、世間が何を言おうと知ったことか! アル君は反省している!! だから俺が許す!! それが分かったら、この日野良に黙って愛されろ!!」


 ?

 ??

 ????????


 何を言われたのかまるで分からなかった……

 分からなかったけど、ただ、盛大に啖呵を切ったリョウの頬が涙で濡れていた。

 その姿が、やけに印象的で……


「アルハンブラ! いや、アルフレッド!」


 メッチャ名指しされた。


「結局俺にとってはどっちもアル君で、師匠で、大好きになった男の子だ!! それ以上でもそれ以下でも無い! 分かったらシャキっとしやがれ!! シャキっと……お願いだから、もうそんな弱った顔見せないでよ……俺の大好きな強気なアル君に戻ってよ……」


 それは、予想したものとはまるで違う、


 熱烈な告白――


 頭の中は真っ白だった。

 ただ、そんなボクとは対照的にリョウの顔がみるみるうちに赤く染まったかと思うと、突然顔色が悪くなり青色に染まった。

 たぶん、勢いに任せて告白したのは良いけれど、暴力を振るってしまったことにパニックを起こしているんだろう。

 ……うん、この後のリョウの行動が透けて見えた。

 脳みそは沸騰寸前のくせに、決め顔でCOOL気取って逃走しようとするんだろうな。


 させるわけ無いだろ。


「たたたたたたたっ!! アル君! アル君!! また髪引っ張ってる!! 引っ張ってるってば!!」


 また、咄嗟に掴んでいた髪の毛。

 や、別に女性の髪を引っ張って引きずり回すような嗜虐性は無いよ。

 たまたま、手が届くのがここだっただけで。


「痛い痛い!! アル君、痛いってばッ!!」

「離したら逃げる気だろ?」

「えっと……逃げないから、離して?」


 いや、キミは逃げるね。

 絶対に逃げる。


「ボクの顔見て逃げないって誓える?」

「に、逃げ……ますん……」

「ますんって何さ? あと目を見てないよ」

「う~……逃げないから、逃げないから離して!!」 


 ほぅ、逃げないって言ったな。

 ホントだな? 絶対だな?

 でも……


「逃げないなら離さなくてもいいよね?」

「え゛?」


 ほら見ろ。

 酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせてるじゃないか。

 だけど、『離したくない』と言う気持ちは、どうしようもないほどにボクの本音だった。

 ボクとキミの関係は、薄氷のような脆い場所に築かれた関係かも知れない。

 それでも、刹那的と罵られたとしてもリョウを失いたく無い。


「えっと、だってだって髪引っ張られたら痛いもん」


 しどろもどろな答え方だ。

 まぁ、でも確かに髪の毛を鷲掴みというこの状況は良くないな。


「それもそうだね、絵面も良くないし。だったら……」


 するりと髪の毛から手を離す。

 でもリョウのことだ、ほっとけば目を離した隙にあり得ない行動力でどこかに逃走しようとするんだろうな。

 だけど何度だって言おう。

 ボクはリョウをどこか遠くに手放す気なんて欠片も無い。ボクの感情はそこまで来てしまっている。

 だけど、どうするかな?

 野放しも目離しも出来ないんじゃ……

 ああ、そうだ。仕方ない、あれをやるか。

 ただ、この術は嗜虐性をさらに疑われそうで使いたくはなかったんだが……

 逃げようとするんだから仕方がないよね。

 

 ――迷える翼、焼けたる剣にて引き裂き、永遠なる繋がり灼き刻め 隷鎖紋――


 呪禁自体がすでにアレな感じの魔術を紡ぎ終えるとリョウの首が首輪状に淡く光り出す。


「何これ、魔術?」

「これはリョウにはまだ教えていない魔術の鎖だよ。術者から離れれば離れるほど徐々に強くなる電流が全身を襲うから♪」


 リョウの顔が青ざめた。

 ほら見ろその反応、逃げる気満々だったんじゃないか。


「それってそんな楽しそうに話すことじゃないよ!!」

「だって、こうでもしないと何時居なくなるか分からないでしょ」

「それは、そうかもしれないけど……」

「ほら、いままだ逃げる気があるのを匂わせた」


 逃げる気が無ければ絶対に出てこない反応だ。

 そして、プクリと頬を膨らます。


「あー、酷い誘導尋問じゃん!!」

「引っかかる方が悪いんだよ」


 そんなリョウの反応が可愛くて思わずニヤリと笑ってしまう。

 ……優しく微笑んだはずなのに、何故かリョウが部屋の隅で逃げ場を失ったハムスターみたいに丸まって震えていた。

 そんな悪鬼羅刹にでも出会ったみたいな態度をされるとそれはそれで傷付くというか。

 ふふふ……

 これは少々お仕置きが必要だな。


「アハハ、どうして怯えてるんだい? やだなぁ……頭突きに跳び蹴りと散々好き放題してくれたのに、このまま何事もなかったみたいに逃げられるなんて思ってないよね?」


 さらに優しく微笑んで告げると、青ざめていたはずのリョウの顔が真っ赤に染まる。

 何を考えているのか手に取るように分かる。

 これってボクに嗜虐性があると言うより、リョウが嗜虐嗜好(ドM)なだけじゃないのか?

 ただ、まぁ、ちょっとどころじゃなく困らせてやりたいとか思ってしまったのも確かというか……


「にゃにゃにゃ、あ、ありゅくん!?」


 そんな反応の一つ一つが可愛くて、気が付けばリョウを背中から抱きしめていた。


「ア、ありゅくん!? い、息が、息が首にゅああぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁ……」


 トロンとした目で悶えるリョウ。

 と、そこで何かに気が付いたのか、突然頭を振る。


「って、だめだめ!! 俺高校生で、『学園』出身じゃないからっ!!」

「キミは一体何を言ってるの?」


 いや、本気で聞きたい。

 何の話だ?

 ボクにはリョウが何を言ってるのかまるで分からなかった。


「一年生って言っても、学園の一年生ならえっちぃことを許されるのが世の常識なの!!」

「よく分からないけど、よく分からないってだけは分かった」 


「ア、アル君! まだ十八歳じゃないよね!? 十八歳未満は、BANがあったりとか都条例とか、アグ〇スとかが五月蠅いから、ダメなんだよ!! 有害図書指定待ったなしなんだよ!! 東京国際展示場で並べられる偉大な書籍群以外じゃ、許されないゾーンなんだよ!!」


 ふむ、一生懸命説明してくれているが、ますます分からん。

 よく分からないけど、異界の常識なんだろう。

 うん、ボクには関係ないね。


「BANとか都条例とかア〇ネスとか東京なんとかってのはよく分からないけど、最初にその気になったのはリョウだよね?」


「そうだけど……そうだけどさ! そうじゃないねん……」

「あと、この国は十五歳で成人だから」

「十五歳……十五歳……十五歳!! 十五歳で成人だって!!」


 成人が十五歳って聞いた途端に激しく喜んでいらっしゃる。

 ボクの言葉一つでコロコロと180度表情を変えるリョウ。

 ダメだ、これはマズい。

 今、ボクの思考は限りなく嗜虐性に傾いている。

 リョウの困った顔とか泣き顔が見たくて仕方がない。


「あ、でもボクまだ十四だから、これ以上の行為は貴族の嗜みだね」

「え、え~……」


 素でイジメがいのある反応だと思ったボクは歪んでいるかもしれない。


「残念そうな声上げてるね」

「……っ!」


 顔を真っ赤にしてうつむくリョウ。

 ダメだ、リョウへの思いが止まらない。


「待って待ってアル君! 俺、んにゃあああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ……」


 待たないよ。


「あ、ありゅくん、俺、きみに言わないとだめにゃことがありゅのぉおおぉぉぉ……」

「あとから聞くよ……」


 リョウが居ればそれで良い。

 余計な言葉はいらない。


「あ、あるきゅん! あ、あとかりゃじゃらめぇぇ、あ、あのね、お、俺、俺……本当は男なの!!」


 余計な言葉は……あん?

 それは予想だにしなかった答がぶち込まれた瞬間だった。

お読みいただいている読者様、本当にありがとうございます!


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